305 / 385
毒を、喰らわば
しおりを挟む「食べる以外で使えるって事ね?」
ライラが手にしたハズレの草は、細長くて厚みのある物だ。馬の餌として有用って事ならハズレの烙印は拭えないが、どうやらそうでもないらしい。
「はい。紙の材料として使えるんでさ」
「へー、紙の材料ねぇ」
「コレで作るんですか?てっきり木を材料に作ると思ってました…」
ライラ曰く、木製の紙より安価で生産出来るそうな。
「ここ等の村落での農閑期はコレで生計を立てるんでさ」
刻んで煮込んですり潰し、型に流して押し固めて干す。乾いた気候に合った仕事だと言えよう。
「僕の所ではカゴとか編んでたな」
「あンたよく草丸めて遊んでるものね」
焚き火の燃料の事を言っているのだろうか?セーナも一緒になって丸めていたではないか。
「草縄やカバン、日笠なんてのもありやすね」
農閑期の手慰みはどこも似たようなモノなのだな。紙の材料となる雑草は別のカテゴリーに分けられて作業が進む。ライラは時折顔を見せ、地元知識を教えてくれた。
「それ食える。こっちは毒あるけど食える」
ライラに付いて来たハキは何でも食べちゃう子だ。そうしないと生きられなかったから仕方ない。僕だってセーナと出会わなければどうなっていたか分からないのだ。鼻の奥がツンとするのを我慢してハキを撫で回す。
「もう無理して食べなくて良いからな」
「この子、昔のあンたみたいね」
流石に毒があるのを食べたりしないと、言ってて途中で言い淀む。救荒植物って毒あるんだよな。村の大人が川で潰した何かを揉んでた気がする。浮いた魚は食うなって言われてたし、毒の物、食べた事あるかも。
植物の選別が終わったのは夕飯を終えて寝る間際。大当たりは無かったが、魔物を狩るのとトントンくらいの小当たりがいくつかあったのと、紙の材料が分かったので良しとする。僕とセーナは選別の片付けをしていたのでお風呂の順番が最後になってしまった。
「あンた先に入んなさいね」
遅くなればなる程セーナの番が遅くなる。お湯もぬるくなっちゃうし、僕は抵抗せず浴室に向かった。
「何となく分かってたけどさ…」
「良いじゃない。責任取るんでしょ?」
「そりゃあ、もちろんだけど」
まだドアの付けてない脱衣場に入って来たセーナを見て察してしまった。僕を先に裸にする事で逃げ場を無くす作戦だったようだ。
「なら良いでしょう?」
「だったら一緒に入ろうって言いなよ」
「気恥しいのっ」
裸でお湯被ってるのを見られるのは恥ずかしくないのか。でも着替えを見られるのは僕も恥ずかしいかも知れない。
翌日になり、今日から僕の仕事は草摘みがメインとなる。エリザベス様が同行し、護衛にエヴィナが付いた。3人衆とロシェルは壁作りとその周りの草刈り、セーナとアルアインさんは家財や売り物の制作をするそうで、ライラとハキは家事全般をする事となった。
「お昼には戻ってくださいやし」
今日の昼は肉を焼くと言うので早めに仕事を切り上げたい。拠点を出ると石の道を西へ、湿った草薮に向かった。
「貴方様、私は既知の薬草に注力致しますわ」
「オレは見てりゃ良いのか?」
「ゆっくりで良いから丁寧さを重視してね。エヴィナはベスの傍にいて、敵が来るなら合流しよう」
女性達と別れて1人になり、まだ足を踏み入れてない場所へ向かうと、四つん這いになって採集を始める。僕の仕事は自分がまだ採ってない草を摘む事で、詳しい植生を調べる事だ。その結果大して稼げないのであれば一部を開墾して野菜を育てるし、稼げる物があるならば植え替えて群生化させるかも知れない。今の所はジュンが紙を自前生産したら単価を抑えられると言うので紙の材料となる草を畑にしたいと言っているが、ぶっちゃけどこにでも生えてるから放置で十分とも思える。もちろん栽培化したら収量も品質も安定するけどね。
30
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる