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洗って、食う
しおりを挟む「貴方様、索敵範囲から離れます」
まだ採集してない草を摘みながら端から端へとしていると、エリザベス様の風魔法が耳に届く。どうやら離れ過ぎてしまったようだ。立ち上がり、振り向いて手を振った。
トスッ!カツッ!
「うっ」
突然の痛みに体が固まる。何があった?考えてたらダメだ!動け!どこからの痛みかを確認する暇もなく草薮にしゃがみ込んで気合いを入れる。ゆっくりとエリザベス様達の所に向かいながらとにかく状況を確認。痛みの元は左上腕。矢が刺さり貫通していた。腕を上げていなかったら顔に食らってたのか。見なきゃ良かった。
「クソ、収納っ」
突き刺さった矢を収納し、盾を出す。アルアインさんにダメ出しされてしまいっ放しにしていた物だ。そして槍。低い姿勢で構えると、一目散に駆け出した。もちろん痛い。腕が痛い。我慢して走る。だが痛みで集中が増す。背後に矢が飛んで行くのが分かる。動いてる的に当てるのは下手なようだが罠の可能性もある。少しずつ右に寄って走る。
「伏せろ!」
エヴィナの合図で地面に飛び込む。その瞬間、僕の背中を風の塊が過ぎて行った。今の声はエリザベス様の風魔法だが、そんな矢継ぎ早にこんな大魔法が撃てるのか?僕の周りの草丈が短く刈られて隠れにくくなったが、敵はもっと酷い事になっていて、僕を狙う所ではなくなっているに違いない。
「貴方様っ」「旦那っ」
「警戒を絶やすな!状況は!?」
走り寄る2人に警戒を促す。
「敵は3、対象は人型で動きは止まりました」
「こっちは射撃されて左上腕を負傷。痛い」
這うようにして2人と合流し、楯を構え直す。
「貴方様、回復致しますっ」
エリザベス様の魔法が腕を包む。傷が塞がると同時にジクジクした痛みが引いていき、血が着いて穴の空いた袖が残った。
「トドメ刺しに行こーぜ」
エヴィナの言葉に目で合図すると、楯を構えてエリザベス様を背中に隠すようにして獲物に近付いて行った。
「魔物?」「獣人だな」
僕を殺そうとしていたのは多毛種の獣人であった。収納して、死んでいる事が分かる。一番遠くにいた3人目はまだ息があり、収納出来なかった。
「死ぬと困る事ある?」
「おっ…おげっ」
言う前に、喉へ剣を突き立てる。聞いてやる必要は無いからな。
「旦那、人が悪いぜ?」
「どうせ悪態吐かれるだけだもん」
「どこの手の者か、聞いてもよろしかったのでは?」
「言わなくてもまた来るんじゃない?」
エリザベス様はどこかの差し金と考えたようだ。弓を持っていたからだろう。転がってる得物を回収し拠点へ戻ると、居る者を集めて死体の検視をした。
「俺の知ってる奴じゃねえ」「オレも」
地元民の2人とは面識無いようだ。
「狩人みたいな格好ですが、締まった体ぁしてやすね」
「こっちの猟師も弓使うんだね」
「それにしちゃあそれ以外の持ち物がありやせんが」
地元民は死体の装備や体付きを見て猟師と予想するが、同時に疑問を残した。
「この矢は1人で作ってるね。矢羽根の切り方にクセがあるよ」
「同じ店で買ったのか、1人に作らせたのか。けどそれを知った所でって感じよね」
「そうよね。ユカタは後で服持って来てね」
作り手の2人は矢を見て感想を述べるが、問題はそこではない事に気付いてこの場から離れた。まだ作り物の途中だったそうだ。
「ただいま~…って、何それ。食べるの?」
「ロシェルちゃん、獣人差別だよそれ」
「食べないけど、ロシェルの所では食べてたの?」
「食べないよ!」
壁作りに出ていた3人衆と護衛が戻って来た。冗談にしては不謹慎極まりない事を言う馬鹿だがそう言う話も聞かない事はない。
「旦那様ぁ、俺、食われるの?」
「食ってやろう食ってやろう。肥えて大きくなったらな。味見をするから体を洗え」
「ユカタ君、ハキちゃんはまだ子供だよ?」
「子供じゃねーし!」
物語の一節だって言ったのに信じてもらえなかった。
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