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変化する、村
しおりを挟む草畑を増やし、畑に水や肥料を撒き、アルアインさんの工房を建てたりして20日経った。
「また留守番か…」
僕も町に行きたいのに、領主がホイホイ外に出ちゃダメだと言われて留守番組筆頭となってしまった。
「売り買いに行くだけだもの、良い子にしてたらお土産買って来るわね?」
アルアインさんにハグされては良い子にせざるを得ない。今回の遠征組もセーナ、アルアインさん、ライラ、エヴィナの4人で前回と同じメンバーだ。ポーチを売り、革と食材と種を仕入れに行くそうだ。ポーチ以外にも外貨を得たいが、薬草は貴重な食材でもあるので売る訳に行かない状況だ。
「薬草畑を作りたいんだけど、どう思う?」
「残ってる草薮を使うの?」
ジュンは草薮全部を草畑に使いたいみたい。紙は野菜やこの辺りの薬草に比べて高く売れるから、作付けを減らしたくないのだろう。
「新たに土地を確保したいと思ってるんだ」
「使えるのは南か南西ですね」
「南はぬかるみよ?その先の事を言っているのよね?」
「もちろんです。ただ、ぬかるんだ地面に生える薬草もあるかも知れません」
「無い事は無いけど、土台と通路を作る手間が惜しいかな」
南の壁はぬかるみの先にあり少し遠いのもあって、なるべく近場である川の際、畑の南の場所から始める事にした。しかし計画は早々に頓挫する。外壁に穴を開けるのは防衛の面から見て良くないとの意見が出たのだ。
「先に壁を作るべきだったね」
「薄くて良いならそんなに時間は掛からないかな」
「壁の建造を終えるまでの移動は大回りになります。門の近くに場所を変えるのも一つの手かと」
「なら水場の北はどうかしら?敷地の中だし近いわよ?」
「そこだと肥料が使えないから難しいね」
防衛面の不安を挙げた4人だが、代替案はバラバラであった。今回は僕の案に乗ってもらい、先に壁作りをしてもらう事にして、それを終えるまで薬草畑の造営は棚上げしようと言う事になった。
壁作りはジュンを筆頭に、レイナとマキが護衛に就いた。僕とハキは壁予定地の内側で不要な草を排除する。土台が出来、積み重ねられて行く石材に帰りが不安になるが、壁の施行を終えたら内側に出入口を設けてくれると言うので信じて作業する他ない。
新たな壁は今ある外壁に沿って作られて、細長く曲がって土地を囲った。高さはまだ3m程で内壁より低くなっているが居住区ではないので問題無い。ただし出入口は新たな壁側に作られた。結局大回りでの移動になってしまったが、安全性には替えられない。同じような囲いを幾つか作ったら新たに外壁を建てるそうだ。古代都市の作り方なんだって。
薬草畑は移動に問題を抱えながらもそれ以外は順調に進んだ。元々この地に自生する草なので、水を撒けば勝手に育つ。ジャリソウに花が咲いて、皆の目を和ませた。
野菜畑にも変化があった。葉物野菜が収穫に足る程に育った。根物や実物の収穫はまだまだ先だが買い置きの野菜が尽きかけていたので凄く助かる。クタクタに煮てやれば子供達でも美味しく食べてくれた。
「大人だ!」「兄貴っ、大人達が来たぜ!?」
好ましくない変化もある。男の子達が壁の巡回中に獣人達の群れが近付いているのを発見し、獣人女性達の鼻は各集落の男共が集まっている事を嗅ぎ取った。
「馬鹿な男共だね」「あたい等は旦那様のために戦うよっ」
弓を取ってやる気に満ちた8人だが、身重だし、子供達もいるので防衛に徹してもらう。
「貴方様、どうなさいます?」
「相手がやる気なら、戦うしか無いだろうね」
エリザベス様の言葉に返すが、エリザベス様の索敵で敵が100人を超えると言われ途方に暮れる。
「遣り様はあります。レイナ嬢、ジュン、戦術を立てます」
「旦那様、私達は戦闘の支度を」
前衛3人、後衛3人でどこまでやれるのか。領土を守る貴族達の気持ちが、少しだけ分かったような気がした。
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