【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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残されし、者

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 首から血を流し倒れ込む獣人の頭になった石は畑で取れた大きな奴だ。撃ち出さず、男の頭のある場所に出すと、石は頭を飲み込みながらその場に発生した。遊びの中で見付けた効果ではあるが、殺傷力が強過ぎて、セーナにもコレだけは教えられない。

「終わったみたい」

「生存者、御座いません」

「警戒して回収。ハキはみんなに知らせたら風呂入ってな」

 子供に死体はまだ早い。僕達だって見たくはないが、放っておけばデッドパーソンになって魔物も寄って来てしまう。ジュンの作った落とし罠や円筒を解除させて、死体を全て回収した。112人居た。血の匂いが満ちる戦場は、再び火炎旋風で焼き払ってもらった。

「旦那様っ」「皆さんお疲れ様!」「頑張ったねっ」

 片付けを終えて風呂へ向かうと、獣人女性達が労ってくれた。元は皆の家族や知り合いだろうに。けれど彼女達は僕に忠誠を示してくれた。忠誠には応えなきゃならない。僕は重い腰を上げた。



 朝になる。腰が重い。疲れてる僕の上には女性達。左右にも、周りにも。寝たいのに元気な僕は、つかれてる女性を疲れて寝るまで相手する。寝ていた女性が起き出して、朝風呂と食事の支度に出て行った。寝てないけど、僕も起きよう。朝風呂に付き合って、手の空いてる子とつきあった。

「ユカタァ、クマが凄いよ?」

「お風呂でも、してたもんね…」

「今寝たら、夜寝られない…かも」

 食事をしながら心配の声を掛けられる。眠さはピークを過ぎてるが、少しは寝た方が良いハズだ。しかし洗濯しないと寝られない程マットを汚してしまったし、洗って乾くまでは何とか我慢したい。

 腹を満たして日を浴びて、再び睡魔がやって来る。川畑の傍にあるアルアインさんの工房前には、鞣した皮を干すのに使うシラーの外皮が積まれてる。半分に縦割りされたシラーの外皮に横たわると、丸みのある硬い外皮が背中と腕を包み込み、すぐに意識を手放した。

 それから数日して、セーナ達が帰って来た。戦闘で被った疲労とストレスはすっかり抜けていたが、長旅で緊張状態だった彼女達には些細な違和感を感じたらしい。湯上りで酒を飲むエヴィナは留守番組の状況報告を強請った。

「女共がツヤツヤして、旦那がゲッソリしてやがんだ。何かあったんだろ?」

 僕、そんなに痩せたかな。ご飯はちゃんと食べてるのに。自分の体をぺたぺた触れていると、ハキが代わりに返事を返した。

「獣人達が攻めて来たぜ」

「殺ったか?」

「…殺った」

「そうか。頑張ったな」

「敵は総勢112名。生き残りはありませんでした」

「生き残り?居るハズよ?」

「え?敵は全部殺ったぜ?」

「村に居るじゃない。稼ぎ頭が居なくなって食うに困ってるハズよ?」

 マキの報告を聞いてセーナは反論を返す。ハキは思いも付かなかったようだが、セーナが上げた者の存在は僕達も気になっていた。気にはなっていたが、身重女性と子供達を置いては出掛けられなかったのだ。

「ええ。今は皆様お疲れでしょうから、明日にでもと思っておりました」

「問題もありますわ」

 エリザベス様が口を挟む。各集落を救うとして、村の食糧事情を賄えるか。各集落への道案内に身重女性を使わねばならない事。そもそも獣人達が救いを求めているかどうか。

「ンまあ、拒否られたら敵として相手しねーとならんよなぁ」

「そうならぬよう、努めたいモノですわね」

「お金はあるから買い付けさえ出来れば食糧は問題無いわ」

 そのお金はセーナとアルアインさんの取り分が大半だろうに。彼女達のお金を減らさないためには村内での食料供給を増やさなくてはならない。集落の獣人が村に来たら野菜の消費も増える。その内一度の遠征で買える量では足りなくなるだろう。セーナの発言はそれを見越しての言葉だ。

「量が買えなくなるなら、畑を増やさないといけないね」

「肉食に偏る気持ちも分かるわ」

「肉、美味ぇもんな」「食えりゃ何でも良い!」

 そう言う話でもないのだがね。











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