女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

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 夫人とメイドに連れられて、門を潜ると正に城。直線と曲線が素晴らしい対比で構築された灰色の壁が、経年変化で色付いて、時間と言う名の重厚感を醸し出している。

「数える程しか拝見の栄誉を賜れない城なので、こんな事を言うのはお気を悪くされるかも知れませんが…」

「あ、始まった」「旦那様?」

「カケル様、でしたね。如何しまして?」

「視界全面を覆う程の巨大な建造物にして、これ程洗練された城を目にする事は私の短い人生に於いて初めての事です。平面は一枚の板の如く、そして曲面はまるで一本の柱の如く磨かれて微塵の段差も無い。シンプルにして精緻。漆喰を使わず、石の色を合わせてこの壁面を作り上げた技術と根気は、造り手が命懸けで施行したであろう事に賞賛の拍手を贈りたい」

「イゼッタ?貴方の旦那様はお城が好きなのかしら?」

「家見ると、いつもこうなります」

「いや、失敬。この城を建造された時間と労力、そして当時の歴史に思いを馳せると思わず感動してしまうだけです。お気を悪くされたらご容赦下さい」

「そこの男、止まるが良い」

庭の造りを称えながら玄関へと歩みを進めていると、重々しくも精緻な意匠の施された金属を纏った黒光りする木の門扉から、俺の足を止める声がする。男は俺の後ろにも一人居るが、自らの私兵を男とは呼ぶまい。立ち止まり、此方へと歩み寄る老紳士に一礼する。

「自分の妻と余所の男を並び立たせて喜ぶ夫は多くあるまい。儂はこの屋敷の主にしてカゲンノウが領主、伯爵のツガイナー・トールアンス・アンデリー・カゲンノウである。貴殿の名は?」

「お初にお目に掛かります。私はイゼッタの夫で冒険者、ドラゴンキラーのカケルと申します」

「ほう…、大きく出たな。その成りでか」

「コートは直し中の借り物でございます。勿論一人で屠れるような相手ではありませんでした」

「だろうの。では着いて参れ」

「御館様!」

俺の後ろに居た護衛が声を上げるが、伯爵は手を上げて制す。

「仮にもドラゴンキラーと名乗る者。やる気になれば街毎更地にされるわ。それに、唯顔見せに来た訳でも無いのだろう?話し合いは分かる者同士でさせるが良い」

やれるけどやらないよ?また勇者呼ばれちまう。伯爵に拉致されスタスタ中へ。そしてエントランスで立ち止まり振り返る伯爵。俺は辺りを見渡して、ため息を漏らした。

「ふっ、言葉も出んか」

「私の言葉では軽過ぎます。この城が建てられた時代を、歴史を、技術がどうだのと宣うのは不敬でしか無いと実感致します。唯、職人達の血の滲むような研鑽の果てに、このような偉大な建築があると思うと胸が一杯になりますね」

「そうじゃろう。この屋敷は我が曽祖父が八回目の改修を行い今の姿となった。我は出来上がった姿でしかこの屋敷を知らん。だがな、曽祖父と職人達の偉業は語り継がねばならぬと思うておる」

「旦那様、こんな所で立ち話をしていてはいけませんわよ?」

夫人達が追い付いて、伯爵を窘める。此処も尻に敷かれているようだな。

「んっ、ゴホン。無粋な真似をしたな。さあ行くぞ」

その後、階段、廊下と立ち止まり交流を深めて行った。そして辿り着いた先は執務室だろうか?超品の良いギルマス室を大きくした感じの部屋だ。
女達は別の部屋に連れて行かれたっぽい。

「掛けて楽にするが良い」

ソファーセットのお誕生日席に腰を下ろした伯爵に促され、俺も席に着く。座ると同時にノックがあり、メイドが飲み物持って来た。酒か?

「冒険者であるならイけるのであろうな?」

「粗相をする訳には参りません故、少しだけ頂戴します」

社会人たる者、勧められた酒は飲まなければならない。そしてどんなに大酒飲みでも遠慮しなければならない。注がれた酒は、多分凄く良い酒だ。正直飲みたくないのだが、銀杯を掲げて口を付ける伯爵に続いて口に含んだ。
何かの果実のワインだろう、果物臭が物凄い。根掘り葉掘りと冒険譚をせがまれて、ジョンの話術が羨ましくなった。
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