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竜の牙
しおりを挟むそして数日後、到頭その日がやって来た。開店は三の鐘だと言うのに、二の鐘が鳴る前からまだかまだかと催促があり、その大体が冒険者だ。仕事して来いと言いたいが、毎日来られるのは冒険者か、ある程度金に余裕のある者だけだろう。なので無碍にも出来ん。閉ざされた玄関の前に群がる女達の中に一際輝く鎧を着けた一団が俺に文句を垂れる。
「何で男が居るんだよ!?」
両腕に丸盾と言う変わった装備の軽戦士が上目遣いでメンチ切る。凶暴な小動物みたいだ。
「店主だからな」
「私達『竜の牙』がわざわざ王都から来てやったんだ。忖度くらいしても良いんじゃないの?」
今度は高そうな鎧の軽剣士。リュネ達が居なくて良かったな。居たら歯と歯の隙間に挟まれちゃってたぞ?文句垂れる二人の後ろに魔法職二人の四人パーティーは、誰が前歯で誰が奥歯か分からないが、きっとこの子は犬歯だな。
「お前等の事はよく知らんが随分遠い所からよく来たモンだ。宣伝がそんな遠く迄届いてるなんて思わなかったぞ。だがな、売店も飲食店もまだ準備中なんだよ」
「風呂だけ入れりゃ良いんだよ!こちとら急いでんだ!」
「風呂はゆっくり入れよ。しかし…なら、そうだな。俺を倒してみろ。待ってる人への余興になるならそのくらいの忖度してやるよ」
「へっ!その長いのが斬り落とされても知らねーからな」
そんな事言うとアイツに視線が刺さるじゃねーか。癖になっちまうぞ?
「カケル様、場所を考えて下さい。天下の往来ですよ?」
正確には我が家の敷地内なのだが、シャリーの忠言に耳を貸し、場所を作る事にする。スルスル進んで道の反対側、低木の生えた茂みを《収納》し、草原に変えた。
「良し。やんぞ」
「「「なんじゃそりゃ~!」」」
まあ、驚くか。
「飛び道具は他に飛んでくと危ないから前衛職だけな?補助や妨害魔法は好きなだけ掛けて良いぞー。さあさあ、名乗りを上げろー」
久しぶりのバットを握り、軽く素振りする。唯の木の棒だ。こんなモンにビビる程『竜の牙』は塩っぱく無いだろ?
「…くっ、やってやろうじゃない!」
「おい、アスフィー。アイツヤバいって」
やる気の犬歯、アスフィーちゃんを諌める魔法職。奥歯かな?
「安心しろ。大事なお客様に本気なんて出さんよ」
「この…。私は『竜の牙』のリーダーアスフィー!ぶちのめしてやるわっ!」
フッ!と姿がブレたと思うと背後に殺気。空かさず前に飛びながら体を向けると間合いから外れた剣が空を斬り、コートが斬られた。
「これ、借り物だったんだがなぁ…。エメラルダスに詫びねばならん」
「そこそこ動けるみたいね」
「お前こそ、Aランクくらいありそうじゃないか」
「残念ね。その通りよっ」
再び《瞬歩》。だがもう掠りもさせない。背後からの突きを前身しながらバットで受け流す。
「上手いなー。何か俺も上達しそうだぜ」
「授業料は高いわよっ」
まるで瞬間移動のように、執拗に背後を取り斬撃や突きを仕掛けて来るアスフィーちゃんに、俺はバントで当て躱す。玄関前で様子を伺っていた女達も、道に出て来て歓声を上げだした。暇潰しにはなってくれているようだな。
「名乗りが遅れたが俺はカケルだ。もう疲れたか?」
「あンたこそ、手が出て無いじゃない!」
「女の子を傷付ける趣味は無いからな。それに俺の条件は倒されない事だ。倒せないなら負けにしちゃうぞ~?」
「生意気っ!」
アスフィーちゃんが《瞬歩》から、心臓を狙って突きを放つ。来る場所が分かれば躱すのも簡単だし、リーチ差もある。半身になり、突進するアスフィーの横を通り抜け、剣道で言う所の胴を放った。…ペニスケが。衝撃で倒れ掛けた体を無理矢理に立ち直らせるが息が荒い。此処迄だろうな。
「はぁっ、はあっ、え、何で…」
「どうしたアスフィーちゃん」
「何で、斬った筈なのに…」
「何処をさ」
「……それよ」
「コレか?コレは海竜の皮だから。ソレじゃ斬れ無いよ」
「何て物、装備してんのよ…」
ペタンと座って脱力してしまった。
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