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ウォーターウォールは1人1回にしたい

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 階段を降りて、普通の階段部屋でホッとする。感知系スキルで罠を調べ、慎重にドアを開けてもらい外を確認…敵影無し。

「ふぅ~…」

「お疲れ様です、ゲイン様」

 疲れてるけどやる事はやらないと。荷物を出して休憩の支度。トイレも作らなきゃ。

「トイレは私が作ったじゃない!」

「アリが戻って来てたら怖いじゃないか。1人で行けないし連れても行けないだろ?」

「せっかく作ったのに…」

 深夜になれば消えるのにそんなにしょげるなよ。仕方ないので2人でトイレを作った。

「タララ、腹減ったか?」

「ん?んー。緊張して考えてもなかったよ」

「私もです」「それがどうしたのよ?」

「タララの腹時計で朝昼晩を確認したかったんだが、腹時計がダメになったとなると今の時間が分からなくなる」

「それは困りましたねー」

「困ること?」

「食事の間隔が縮むと10日篭ったつもりでも9日8日で出て来てしまうかも知れない。間隔が伸びると食べても腹が減り、結果食べ過ぎて早く出て来なきゃならなくなる。ここはダンジョンだから修復するのを日が変わる目安にすればリセットは可能だが、天然洞窟じゃそうは行かないよな?」

「時刻盤が欲しいわね」

「なにそれ?ゲイン知ってる?」

「知らんなぁ」

 大きいヤツは当然として、メロロアも知っていた。時刻盤とは、現在の時間を知る道具に聞こえるがそうでは無い。起動してからの時間を知る魔道具だ。街の鐘の音に合わせて起動すれば結果的に現在の時間を知る事ができる。街によって鐘の鳴る時間は違うので、街に着く度起動し直さなければならないと小さいヤツは言う。

「まあ、貴族様御用達なので街に1つしかありませんけどね。タララさんなら買えますが、毎日魔力を補充しないといけないのでおすすめはできませんね」

「寝る前の日課になるな。遠征中だと危険だ」

 本日はこの階を探索して、階段があればそこで、無ければここに戻って一泊する事にした。干し肉とソーサーと水で腹を満たし、休憩したら再開しよう。


 この階は、かなり脇道が多い。まるで迷路、いや、完全に迷路だ。通路には間隔をあけて2~3体の敵がうろついているので、常に後ろを気にする戦いを強いられた。

「後ろは私が見ますから皆さんは前に集中してください」

 メロロアの提案はとても助かる。俺が感知系スキルでどんなに見ていても、動けないのでは話にならない。
 ブロックを射出して残弾を減らさぬように、回収の手間を少なくするように立ち回る。武器屋で売ってそうな、良い剣を振り回すコボルドが大きく振りかぶるのに合わせてタララの後ろから上下二射。上にも後ろにも跳べないし、左右に避ければ仲間とぶつかる。そして左右どちらかの奴隷のブロックがまとめて煙にしてくれる。武器は良くてもコボルドはコボルドだ。 数さえ居なけりゃ敵じゃない。
 何組目かのコボルドを倒すと、奴の持ってた良い剣がドロップされた。

「私じゃ持てないわ。剣なんてレイピアしか使った事ないもの。もちろん遊びでよ?」

「私もです。それに私には刺突剣これがありますから」

「あたいも金棒これあるし、ゲイン使ったら?」

「残念だが俺も木剣以外で長物は持った事ないんだ。憧れなんだけど慣れてない今は使うべきではないだろう」

「なら私が預かります。暗器でダンジョンとか、馬鹿のする事ですからね」

「…じゃあなんで長物持って来なかったんだ?」

「ダンジョンなんて入らないので持ってないんです」

「買えよ馬鹿め」

 メロロアに長剣を渡してついでに鑑定してもらうと、新品なら5万程はするだろうとの事。とは言え中古だから5000付けば良い方だとさ。ドロップしたては新品じゃないのか?

「箱の5倍じゃない!」

「剣を奪ってから殺しましょうか」

 ダメみたい。試しに1匹だけ手足を潰して剣を奪ってみたが、持ち主と一緒に煙になっちゃった。手足潰して持ち運びすれば使えるって事になるけど、それはそれで手間なのでボツにした。

「ゲイン、部屋っぽい」

「確かに部屋っぽいな」

 敵を蹴散らし進んでいると、丁字路の正面にドアがある。ドアがあるから部屋だと決めつけるのはあまり良くない。ボス部屋みたいに一方通行の罠とかあるからな。まあ、ブロックや小石を挟んでおけばダンジョンの修復までは何とかなりそうだがな。
 俺とメロロアの感知系スキルには罠は無いと出たが、もちろん信じない。2人揃って中まで見えてないからだ。盾を前にし慎重に開けると、広々とした空間のようだ。

「部屋だったね」

「ああ。だがなんか、変な部屋だ。警戒して待て」

 再びメロロアと感知系スキルで見ると、部屋は円形で扉がたくさんあり、箱と階段の部屋に似ているが階段は無い。だが、扉の向こうには通路と箱が見えた。ここはこの階の中間地点だと思う。

「この部屋を通らざるを得ないって訳か」

「何かしら仕掛けられてるとは思いますが、なんと私にも見えません」

「閉まったら困るし、切り取っておこう」

 ドアを一回り小さく切り取って退路を確保し、タララを先頭に中に入る。

バタンッ!

「閉まったな」

「ゲインさん、割とマジでうちに来てくれませんか?」

「冒険者で食えなくなったら…って、こう言う仕掛けかぁ」

「なんかぐるぐるしてる!」

「これじゃトイレを作っても落ち着かないわね」

 床全体がぐるぐると、右手回りに回りだし、方向感覚を惑わせる罠、と言うかギミックが起動した。トイレ云々は壁で覆えば問題無いが、ここで寝るならゴウンゴウン鳴り響く騒音で寝られやしないだろうな。壁は動いてないので部屋に入れば落ち着いて用も足せる事だろう。通路に行くのは多分正解だから、ここは箱を開ける事にした。
 ぐるぐる回る壁は、感知系スキルが使いにくい。扉を見たいのにすぐに壁になり、隣の扉になっちゃうからだ。

「みんな、盾の後ろに隠れて俺から少し離れてくれ」

「なにすんの?」

「扉をぶっ壊す。流れ矢とか気を付けろよ」

「あ~い」「任せたわ」「了解です」「私もお手伝いしますね」

 メロロアは壁に張り付いて感知するようだ。木登りスキルで壁…は無理だろうな。俺はぐるぐる回る壁を切り取る。が、扉の横のブロックが取れてしまった。以外と難しいなこれ。けどこの失敗が功を奏する事になる。
壁際の床を50ドン程の深さで切り取り、その横からできるだけ長く繋がるように壁からブロックを切り出した。

「みんな、真ん中に居ると良いぞ」

「な、何すんのよ!?」

「口も閉じてろ、舌噛むぞ」

 凹んだ床と壁が合わさる場所を確認し、集中!ブロックを射出する。

ドガッ!バキバキバキバキ!ウーーーン…

 1発で決まって気持ちがいい。床と壁に作られた凹みにブロックが挟まり、床を回すギミックが破壊されたようだ。ちなみに成功したのはたまたまなので、明日またやれと言われても1発では無理だろう。真ん中にいてもよろけてしまった3人と、壁にくっ付いてたメロロアが集まって来る。俺は当然、転げ回って壁に張り付いたよ。

「ゲイン!やったね!」

「お見事です」

「流石ゲインさんです。一気に全ての扉を止められましたね!」

「図に乗ってドヤ顔してるわよ?」

 ドヤ顔くらいしたって良いじゃないか!四角く切り取られた入口と、先に続く通路のある反対側の扉の間には、左右3つ扉があって、6つ全ての部屋に箱があるのがスキルで見える。入口の左から扉を破壊して入ってく。ブロックを切り出すと矢が飛んで来ないからだ。開閉によって起動するのだろう。6つの箱は全て収納できたのでミミックは入ってないようだ。

「ゲイン様、中身は確認しないのですか?」

「階段を降りて進むか留まるかを決めてからでも良いと思う。床からの音もうるさいし、ここに長居するのは嫌だからな」

「同感ね。耳鳴りにでもなった気分だわ」

 最後に残った扉を慎重に開けて通路に出る。

「タララ、階段の場所は分かるか?」

「左のあっち側になんか居るね、敵かも」

「そうですね。エリートコボルドより強いのがいますよね」

 あれエリートコボルドだったのか。優秀なのは持ち物だけだな。タララの言葉に従って左奥を目指して歩いて行くと、雑魚のたむろするその奥に、明らかに雑魚ではない気配を感じる事ができた。

「あれ、カラードウルフですね。色で強さに差がありますし、毛皮の色で買取り価格も変わります。ダンジョンではなかなかドロップしないですけどね」

「染める手間が無いってか?」

「色落ちしないって結構重要ですよ?例えば金属ですと黒鉄とか、鉄の倍で買取りしてるようです」

 確かに、今着てる金属鎧は鈍く輝く鉄の色。光ると敵に見つかりやすいか。毛皮の場合は実用性の他に装飾性もあるのかも。
 道の先に見えて来たカラードウルフは白い毛に覆われた大きい狼だった。体高だけでコボルドの肩くらいあり、並んでいると頭一つ大きい。体長も同じくらいあるので3~4倍はあるように見える。

「みんな、面で攻めるぞ。ブロック補充」

 返事はせず、タララは盾をメロロアは剣を構え、奴隷と俺はブロックを切り出す。相手もこちらに気付いているので声を出すのは敵を呼び込んでしまう危険があるのだ。

「縦2つ、横4つ。合図で撃つ。タララ、よろしく」

「おう。…ぐぉるるああああっ!!」

ガンガンガンガン!

 咆哮を上げ、盾を鳴らして敵の意識を惹き付ける。後ろに敵がいないのでちょっと派手にやってもらったが、タララの父親直伝のウォークライだそうだ。

「ガルルルルッ!」「グルルァッ!」

 カラードウルフを先頭にコボルド共が狭い通路に押し寄せる。吊り天井でもあれば一網打尽だな。できるだけ引き付けて合図を送る。
 タララの尻を軽く膝で押すと、タララの盾から大量の小石が射出される。それはコボルドの頭を掠める程度高さで、運悪く直撃を食らった何匹かがのたうち回り、後ろから来る雑魚と絡み合う。が、確認などしない。弾幕が放たれたと同時に4人でブロックを射出するからだ。
 1人2発のブロックが、退路を塞ぐように敵に浴びせられる。

「ウルフ4、コボルド2!」

 メロロアの発した数は生き残った敵の数だ。戦いは数だが、退路さえ塞げばこんな物である。ダンジョンに出る敵は、強くても馬鹿だ。そしてブロック射撃がダンジョンでは有効なのだ。外にいる敵では絶対にこうはならない。
 残党を、射撃とメロロアの接近戦で倒し切り、4人でせっせと回収する。索敵できる者を1人見張りに付けるので、今回はメロロアが見張り番。通路の奥へ先行し、状況確認してもらう。

「メロロアさんが言ったとーり、毛皮は無かったね~」

「魔石は大きいわね。冒険者ってこれが主収入なのでしょ?」

「沢山持てて需要があり、価値が一定。箱を捨てても魔石を拾うって馬鹿もいるみたいだぞ」

「短絡的ですね」

 魔石とチップ、そして弾幕にした小石をできるだけ回収し、先行するメロロアと合流する。

「おかえりなさい。食事にします?お休みします?それとも、ウ、ル、フ?」

「ウルフだね」

「殺らないと食事にされちまうな」

「一生お休みになるわね」

 可愛く言ったつもりだろうが、その格好じゃ食事に毒でも仕込まれてそうだよ。感知系スキルで先を見ると、階段の周りにカラードウルフらしき敵がたむろってるのが見えた。色までは分からないが、広めの空間なので多少不利だな。

「行かないの?」

「少し不利だから考えてるんだ。部屋が広くて今までの戦術が使いにくい」

「女王アリの時のように、穴を掘って迂回しますか?」

「迂回するにしても、階段の周りって結界かなんかで守られてて切り出せないからなぁ」

 兵隊アリの時も難儀したが、階段降りてすぐ敵がいる場合、敵がこちらに気付かない代わりにブロックが切り出せないのだ。階段を壊したら修復されるまで往来が出来なくなるし、仕方ないのかも知れない。

「要するに、さっきみたいに敵の来る方向を限定させたい訳ね?」

「足止めでも良いな」

入口前の通路にブロックで壁を作る。
壁にウルフの頭が入る程度の穴を開ける。
飛び込んで来た所を攻撃する。

 シンプルで手間のかからなそうな案が出た。少し変更すれば使えるだろうし、早速行動に移る。ブロックは5つ並べると少し隙間ができる。なので1箇所斜めに置けば隙間は塞がる事になる。一段目は隙間を埋めて、二段目は隙間を開けて、その上は隙間を埋めてと積んで行く。もちろん敵も完成するまで待ってはくれない。ギャンギャン喚きながら寄って来るウルフはタララの弾幕に阻まれて近寄れなくなり、無事に壁を作り上げる事ができた。
 しかし20匹もいるカラードウルフの内、首を突っ込んで煙と消える馬鹿は5匹だけだった。次の手を考えなきゃならんな。一番上の5つを収納して様子を見るが、間合いを取って近付いては来ない。それならそれでやりようはあるな。
 俺とメロロアで持てるだけブロックを持ち、階段の左右からブロックを落として壁を作る。カラードウルフでもブロック5つ分は飛び乗れそうにないので、できるだけ壁を伸ばして入口に戻った。階段を回収し、延長された通路で戦うと言う訳だ。タララと奴隷は下から。俺とメロロアは再度ブロックを切り出して上から進む。しかしタララの弾幕に警戒してか、敵は攻めて来ない。上から壁を増築して結局階段までの道が出来てしまった。

「小石が回収できないねー」

「なかなかの痛手だ」

「これくらいの数なら囮になって引き付けてきましょうか?」

 左右、8匹と7匹に分断できたとは言え大丈夫なのか?いや、メロロアなら余裕か。こいつは俺達のレベルに合わせてくれてるだけだったな。

「みんなで拾いながら追い立てよう。石は入口側には落ちてないしな。用心のために2人は残っていつでも撃てるようにしとけ」

「了解です」「分かったわ」

 大きいヤツは左の区画を警戒し、小さいヤツは右を見る。俺とタララはメロロアの後ろで小石を回収しながら警戒を怠らない。カラードウルフは間合いを保ちながらジリジリ下がって行く。警戒度高過ぎだろ。

「ゲインさん、どうですか?」

「こっちはもう無いよー」「俺もだ」

「では下がります。背中は向けないで下さいね」

 俺達がジリジリ下がって行くと、敵が前に来る。俺とタララが石畳に入った所で、小さいヤツがブロックをカラードウルフに向けて発射する。ひらりと躱され離れた隙にメロロアも退避を完了した。

「当たらないのは仕方ないとして、あの警戒度は何なんだ?」

「そうですね。かなり深い階層の動きだと思います」

「普通ならどーやって倒すの?」

「普通…。範囲魔法でしょうかね」

 そんな事が出来るチップなんて見た事ないな。左側の区画も同様に回収して階段を降りた。

 降りた先の階段の部屋はドアのある小部屋で普通だったが、ドアの外は普通じゃなかった。

「ねえゲイン、これってさ、先に行ける?」

「パッと見無理だな。メロロア先輩的にはどうだ?」

「無茶言わないで下さい。先輩として言うならこの部屋でダンジョンはここまでです。ギルドにもそう報告します」

 3人が、腹這いになってドアから顔を出す。ドアの向こうは一面の空、そしてドアは切り立った崖にあり、一応底は見えている。底に生えている木が何ハーンあって、そこからここまで何ハーンあるか予想もできんが、とにかく高い所に居るのは間違いない。仰向けになって上を見ると、天を衝く程に崖が伸びていて、登った先に何があるかも分からない。フル装備のタララを保持できるロープの無い俺達にはお手上げとなった訳だ。

「ねえ、貴重な小石1つちょうだい」

 小さいヤツが小石を所望するのでくれてやると、タララを退かして俺の隣に仰向けになる。

「ここってダンジョンじゃない?空に見えて壁があるかも知れないわよね」

「あるとは思う。が、こんな普通じゃないダンジョンに、その常識が当てはまるかは分からんな。やりたい事は分かった。試してみ」

「お腹抑えてて。おっぱいでも良いわよ?」

「分かった」

 小さいヤツの腹を抑えて安全を確保すると、真上に向けて小石を射出した。

ヒュッ………………カツッ………………ヒュンッ!………………………………

「天井はあったわね」

「下の森は本物だろうな」

 壁があるかはわからんが、天井を確認できたのだからあるのだろう。さて、飯と寝る支度してトイレでも作ろうか…。

「ゲインさん、ちょっとお待ちください」

「どうした?」

「なーんかおかしいんですよねー。ちょっと上まで付いて来て下さい」

 3人を残して階段を上がると、階段の側で寛いでたカラードウルフがびっくりして逃げて行く。

「持てるだけブロックを持って行きましょう」

「何となくわかった」

 メロロアが警戒する中、壁からブロックを切り出して、2人で160個持って下に降りた。

「ゲインー、布団出してー眠いー」

「寝るなら箱作るからまだ寝るな」

 タララが落ちたらシャレにならんのでタララのケージを部屋の角に作り、中にマットと毛布を敷いてやる。調理道具や食料も出しておこう。

「待たせた」

「今来た所です」

「うそつけ。でどこを狙いたんだ?」

「上は音で確認取れたので、次は下と左右、更に奥行ですね」

 2人腹這いになると、メロロアが崖の際にブロックを落とす。何事もなく森の中に吸収されたな。次に左側これは俺が撃つ。まっすぐに撃ち出すと、下に下がりながら飛んで行き、そのまま森に落ちた。だいぶ遠い所に壁があると思われる。続いて右、メロロアを退けて射出すると、同じく森に落ちて行った。

「左右の壁は分からん、と」

「では、正面に撃ってみてください」

 言われた通りに射出すると、2ハーンほど先でドカンと空中にぶつかり砕け、森へと落ちて行った。

「び、びっくりした…」

「まさかあんな近くに壁があるとは…」

「正面は絵だったのか」

「絵と言うより幻影に近いですね。屋外風の階層ではよくある事です」

「向こうの壁も砕けたみたいだな」

 あそこに手が触れられれば先に進める可能性が出て来るが…。ああ、そうか。

「メロロア、もう一度上に行くぞ」

 上に行くと、さすがにウルフは遠くにいる。やはり警戒度が高いな。こちらも警戒しながら新たなブロックを切り出すが、今度は5ハーン程の長さで切り出した。

「強度とか、大丈夫ですかね?」

「厚みも20ドンくらいあるから何とかなるだろ。タララは鎧脱いで貰うだろうがな。それよりだ。行ったら帰って来られなそうだよな、ここ」

「危険ではありますね。奥に行くのは止めておいた方が良いでしょう」

 下に戻るとタララは夢の世界へ旅立っていた。夜警で役立ってもらおう。
 長いブロックをドアから外に出るように敷き、部屋側の端にブロックを乗せる。これで100ナリ乗っても大丈夫なはずだ。折れなきゃな。そして俺は鎧を脱ぐ。少しでも軽くしておきたいからな。荷造り用のロープでは心許ないが、無いよりはマシなので3本よりにして腹に縛り、反対側はひと結びにしてブロックで重石をした。

「お気を付けて」

「怖くて泣きそうだぜ…」

 腹這いで板の上に乗り、ほふく前進で外に出る。膝まで外に出ると、ようやく伸ばした手が壁に当たる。なるべく角度が付かないように、ブロックを切り出すと、切り取った場所だけ岩肌が見えるようになった。一旦戻り、ブロックと板を回収。壁の凹みを狙って板を射出して橋がかかった。
 再び腹這いで橋を渡り、凹みを縦に拡張する。ブロックを2つ切り出した所で扉と通路が見えた。

「あったぞー」

「ゲイン様、早くお戻りください。スープが煮えました」

「トイレ作るから手伝いなさいよ」

 足元が安定したので帰りはジャンプでひとっ飛び。だいぶ肝が縮んだな。板など片付けドアを閉めた。

「ドア閉めると暗いわね」

「上の方に穴空けとくか」

 窓ができた。ダンジョンで明るいのはとてもありがたい。時間までは分からないが、夕方になって夜になるのが分かるだけでも大助かりだ。タララの寝てる反対側にトイレも作り、多分昼飯を食べる。今日はこのままゆっくり休んで、朝になるのを待つつもりだ。

「あー、あたいが寝てる隙にご飯食べてるー」

「タララもお食べ」

 ケージの上にスープなどを置いてやると大人しく食べ始めた。

「給仕でなく給餌ね」

「こら。前衛には優しくしなさい」

「私達も前で撃ってるじゃない。優しくしなさいよ」

「俺達は中衛だ。それにしてもこの階層、隠し扉を見つけるまでは普通の冒険者でもできる事はできそうだが、そこからどうやって奥に行くんだろ?」

「そうですね。見た所隠し扉は木製見たいでしたし、ナイフに紐を括って、投げて刺して開ける。ここまでは頭の回る冒険者なら出来るでしょう。そこからですね問題は」

「ロープなり、縄ばしごで登るにしても、最初の1人が肝心となりますね」

「2ハーンも離れてたらチムニーもできやしないだろーしねー」

「何もない所に向かって手を伸ばせって、根性試しにしては怖すぎるわね」

「ゲインさんだったらどう解決しましたか?」

「俺?マジックバッグが無きゃ諦めてるよ。メロロアが違和感あるってから詳しく調べたんだしな」


 食事を終えて、夕飯の支度。余裕のある時にやっておけば後でゆっくりできるからな。2つの簡易コンロで薄ソーサーを焼き、残る1つでスープを作る。

「並々入れて焼いたら分厚いのできるかな?」

「ひっくり返せないし下だけ焦げそうだな」

 ケージに顎を乗せたタララは提案を却下され、夢の世界へ旅立った。

「焼き竈のように全体から熱を加えれば、とは思いますが設備がありませんね」

 隣でペランペランをひっくり返す大きいヤツは焼き竈を使った事があると言う。お菓子を焼いたんだと。

「そう言えば家にも焼き竈は無かったな。俺の実家にも無いんだが」

「あれは宿屋だとかそれなりの貴族家とか、大勢で食べる家にあるものですよ」

 なるほど。確かに村の寄り合い所には焼き竈があったな。俺ん家程度の人数ではお鍋に貼り付けて焼くので充分と言う事か。できあがった料理を収納し、昼寝してたタララと小さいヤツを起こす。

「2人とも、ゲインに変な事したら…、盾、乗せるからね?」

 死ねと言う事だな?

「添い寝出来るだけで今は満足します」

「少しずつ慣らして行きますよ、ええ」

 俺の寝てるマットに左右から無理矢理押し入ろうとする大きいヤツとメロロアのせいで暑苦しくて寝られない。自分達のマットで寝ろよ…。

「お前らの汗の匂い…甘酸っぱいのな」

「「!?」」

 効果はバツグンのようで、無事離れて行った。夕飯までおやすみなさい…zzz

「ゲイン、おきれー。ご飯出して~」

 食って寝て、起きたら飯。外にいるよりのんびりしてる気がするが、これも明日のため。初見のダンジョンで生き急いでたら帰れなくなるだけだ。
 タララに急かされ作り置きしていた鍋などを出すと、まだ温かかった。温め直さずそのままいただこう。

「あ、暗いな」

「外がね、暗くなったの」

「フィールド型の階層では昼夜の再現もありますよ。ずっと夜とか、ずっと昼間の階層もありますが」

「初めて聞いた」

「この近くにはありませんからね。多分ですが、熊のいた階層も今頃は夜でしょう」

 ランタンに火を灯し、窓にしていた穴を塞ぐ。そしてドアの前と階段にブロックを積んで密室にした。上からは来ないと思うがドアや窓穴からは何が来てもおかしくないからな。

「垂直の崖を昇り降りできる敵なんているのかしら」

「居たらやだから用心するのさ」

 夕飯を食べ終えて、明日のスープを作らせてる合間に、俺は鎧を装備する。

「ゲイン、なんで鎧着けてんの?」

「忘れたか?このブロックが消えたら積み直すまで危険だろ?」

「交代する時着ればいーじゃん」

「もう着ちゃったし、脱いでまた着るの面倒。タララもトイレ行ったらちゃんと着て寝ろよ?」

「あ~い。お風呂入りたいね~」

「魔力を使うが水浴びくらいならできるぞ?ウォーターウォールでな」

「ゲインさんは普通の冒険者とはちょっと違った眼をお持ちですね」

「そもそもさ、ウォーターウォールって何を防ぐ壁なんだ?火の玉か?人は濡れてもすり抜けられるし、アリなんて飲んでただろ」

「飛び道具全般ですね。後は、ウォーターウォールの後ろで槍を構えて…とか。アリが突入して来ない事については、実は私も初めて知りました」

「顔だけ出して体を洗えばいーかなーって。体洗いたいやーつ」

「「はーい」」「私も」「あんたも洗いなさいよ?」

「何リット持つかわかんないから途切れたらメロロアにもかけてもらってくれ」

 外側の壁沿いにブロックを積んで部屋にすると、部屋の床面を薄く削ぐように切り取った。そして外に排水出来るように斜めに穴をあけて水浴び部屋の完成だ。

「ウォーターウォール」

 部屋の奥に水の壁を作る。今まで使ってきて、途中で消した事はあったがどれだけ持つのかは確認した事なかったな。みんなが洗い終えるまで持つと良いが…。

「ねえ、脱衣場作ってよ」

小さいヤツはよく気の付くヤツだ。

「気付かなかったよ。すまんな」

「ああん、言わなくて良い事を!」

「メロロアさん。そんな事言うとゲインが箱に入っちゃうよ?」

「放っときなさいよ。敵を増やす必要ないじゃない。あんた先に入って確かめたらどうなの?」

「んー、それもそうか」

 脱衣場の分のブロックを積み上げ、視界が入らない事を確認すると、鎧と服を収納し、タオルを持って水壁に入って行った。




現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 54%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
肉体強化 肉体強化
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆

鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ

魅了
威圧

水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ

土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン

火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー

所持品

鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
脛当E
鉄靴E
皮手袋E
混合皮のズボンE

草編みカバンE
草編みカバン2号E
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE

小石中492
小石大444
石大☆20

冒険者ギルド証 5952269→6297594ヤン

財布 銀貨12 銅貨11
首掛け皮袋 鉄貨31

マジックボックス
各種お宝
 
冊子
筆記用具と獣皮紙
奴隷取り扱い用冊子
寸胴鍋
お玉
コップ

カトラリー
木ベラ
石炭100ナリ
ランタン
油瓶0.5ナリ
着火セット
ロープ

中古タオル
パンツE

奴隷
エリモア
アンテルゼ

スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 4/1861
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 19/1070
ワニS 0/1
クマ 0/1
アリ 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 128/520
ナイフS 0/1
短剣 12/232
鎧S 0/1
袋S 0/1

水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 3/4

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1

未鑑定チップ 1000
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