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これは戦争では無い。ただの暗殺だ。

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 奴隷の持ってる野営道具と箱類を全て出させ、大きいヤツにフェルトと毛布を敷きに向かわせる。箱に詰めた調理道具と食料品の入った箱、そして横倒しにしてテーブル代わりに使う4箱を残して全てマジックボックスに収納した。中身を念じると空箱6つがしっかり入っていた。
 調理道具の箱から簡易コンロを3つ出して石炭を入れ、その1つにランタンの火を移して火を熾し、他のコンロに移してく。

「ゲインさん、焼き鍋なんて持って来てるんですね。乾燥野菜も箱いっぱい」

「ソーサー焼くからなー」

「薄くてペロンペロンなのよ」

「は?はぁ、ペロン、ペロン?」

「鍋に野菜と干し肉切って入れてくれ。野菜たっぷり肉3枚な」

「分かりました。この中身の入った鍋はなんですか?」

「それは後だ。楽しみにしとけ」

 空鍋に水を入れて、メロロアの鍋にも水を注ぐ。スープの鍋を火にかけて、お世話はメロロアに一任しよう。俺はソーサー作りだ。

「ねえ、茹で肉食べたいわ」

 小さいヤツがそんな事を言う。俺もそっちが良いな。みんなに聞くと、タララ以外は茹で干し肉にしたいそう。切ってない干し肉8枚、スープの鍋に突き刺した。

「お前もソーサー焼くの手伝え」

 焼き鍋を熱して油を回す俺の後ろで小さいヤツが粉と水を混ぜる。塩も入れろよ?混ぜるたびに見せに来るが、とろっとしてて俺の失敗作より濃い感じがする。

「何枚焼けるかな…」

「5の倍々で作りたいわね」

「なるべく伸ばして薄めに焼こうか」

「了解よ」

「ゲイーン、な~んか、アンテルゼちゃんと仲良くなってな~い?」

「良い事です」

「私もイチャイチャしたいですねー」

「私は生きるための技術を学んでるの!」

「タララも学んどけ。飯の不味い嫁なんて欲しくないぞ?」

「あたいも焼く!」

「ゲインさん、私これでも料理は得意ですよ」

「はいはい。スープの世話は頼んだぞ」

 ダンジョンの中なのに、こんなに騒いで良い物か。小さいヤツのソーサーが焼き上がり、タララの焼いたちょっと厚いのも焼き終えた。スープはすっかり煮えているので皿など揃えていただこう。

「スープの味が濃いわね、良い意味で」

「苦労して野菜を切り刻んだからな」

「この時期によくもまあこれだけの乾燥野菜を揃えたもんだと思ったら、作ったのですか…。茹で肉も柔らかいですね」

「切って乾かしただけだもんね。切るのは大変だったけど」

「少ないけど干し肉も作ったんだ」

「ゲイン様が見事討伐なされた巨大魔獣熊の肉です」

「誇張すんな。みんなでやったんだ」

「冒険者の夕食としては上等ですね。ソーサーはペロンペロンですが」

「今日のはちょっと硬めよね。次はもっと柔らかく作るわ」

「え?」

 メロロアはペロンペロンの薄ソーサーに戸惑っていたが、それタララの焼いた厚い方だからな?夕飯を食べて片付けて、余ったやつは明日食べるとして収納した。トイレ行って寝よう。一応ダンジョンなので当番で見張りをする。タララと小さいヤツ、俺と大きいヤツ、メロロアは1人で朝までの順番で夜警と火の番をする事となった。もちろんタララはゴネたが、体力勝負の前衛と体力の無い奴を長く休ませるのは当たり前だろ?って事で黙らせた。マットがあって先日よりはいくぶんマシだが、マジ鎧脱いで寝たい。

「!ゲイン様!?」

 タララ達と交代し、2オコン程経っただろうか?明日の分のソーサーをせっせこ作り置きしていると、大きいヤツが驚きの声をあげた。一瞬にして壁にしたブロックが消え、切り取ってあった凹みが元に戻ったのだ。きっとトイレの穴も塞がっているに違いない。

「ダンジョンが元の姿に戻ったみたいだな」

「どこのダンジョンも修復される時間は同じとされていますね」

「起こしちゃったか」

「熟睡しちゃダメなんですよ?」

 メロロアが起きてしまった。異常を感じてすぐに目覚めるとは流石である。タララは見習え。俺も自信無いので声に出しては言えないが。

「タララのケージとトイレだけは作っておくよ」

 言ってるそばから何かもぞもぞ移動してるし。金属鎧が地面に擦れてガリガリ言っている。マットからは随分遠くに来たものだ。
 薄ソーサーを大きいヤツに頼み、マットと毛布を持ってタララの元へ。

「こっちこーい。マットもあるし添い寝してやるぞー」

マットを敷いて耳元で囁くと、ガリガリもぞもぞ寄って来た。マットに乗ったのを見計らい、ブロックでマットを囲む。2段も積んどきゃ大丈夫だろう。

「捕まった熊…」

 メロロアよ、それは言ってはならん。檻の上から毛布をかけて、ソーサー焼きの続きをしよう。朝昼の分のソーサーを焼いて、半分寝てるメロロアと交代した。


「ゲイーン…壁の中にいるんだけどぉ~」

 多分だが朝になり、タララが腹時計に起こされた。スープなど煮てるから匂いに釣られたか。

「朝かどうか分からないのがダンジョンの困った所だな」

「ゲインさん、練炭って知ってます?」

「知らないな」

 雑貨屋に売ってる練炭は炭を砕いて固めた物だそうで、大きさが揃っているため、1つ燃えきると何リット、何個で何オコンと言う感じで時間を計れて交代の時間を分かりやすくすると言う。もちろん料理にも使えるそうだ。

「ゲイン、添い寝は?」

「夢でも見たんじゃないのか?鎧着てそんな事したら怪我するだろ」

 ブロックを穴に押し込むタララを呼んで、みんな揃って朝食だ。

「お湯が欲しいわ。昨日より塩気が強いの」

「今日の干し肉は宿屋のだからだな。飲む用の水を温めよう」

 スープの味にはこだわらないと言っていたようだが、みんな同意見みたいだ。少し長めの朝食を摂って、片付けしたら一旦上の階へ向かう。トイレでひねり出すのと同時に箱を頂戴するのだ。ちょっと歩いてミミックを蹴り飛ばして箱8個、美味過ぎる。

「もうここで10日とか居たらどうですかね?」

「探索依頼だろうが」

「こんなの案内役とスキル持ちがいなけりゃ進めませんって」

 俺も部屋を箱だらけにしたい。けど中身はしょぼいのだ。奥にあるであろうきらめくお宝が欲しいのだ。金はあるんだけどな、やっぱり冒険者だし、心躍る体験したいじゃん?
 中身を検め詰め直し、マジックボックスに収納して下へ向かう。罠も敵の姿も無い一本道の先には、大きな扉があった。

「おっきいね」

「家のより大きいわ。侯爵家かしら?」

「ノックしたら出て来るかな?」

「私も何か上手い事言わないと…」

「現実逃避するなら戻りましょうよ。これボス部屋ですよ?」

「ありったけのブロックを収納しろ!」

「あいよ!」「「了解」よ」

「言っておきますけど、初見なんですからね?」

「単体なら半包囲、複数なら弱そうなのから各個撃破。多数来たなら角に寄って総力戦だ。間違っても死ぬなよ?怪我もするな」

「おう」「了解」「やってやるわ」

「実力を見るにはちょうど…良くないです。私も本気出しますので当てないでくださいね?」

 返事はせずに重いドアを開ける。ギギ~っと建付けの悪い音がするが、俺の力でもすんなり開いた。

ギギーガッ!

 扉が勝手に閉まるのを、置いといたブロックがブロックした。冒険譚は聞いていて損は無いな。

「ドア閉めさせないなんて聞いた事ないです」

「魔法陣だ、来るぞ!2人は斉射準備」

 タララの盾の後ろに隠れ、奴隷と俺は手をかざす。地面に描かれ光を放つ魔法陣からデカい牛の頭が現れて、マッチョな体が見えて来る。

「ブロック、ってー!」

 顔を目掛けて2人が斉射。タイミングをずらして俺も撃つ。2発のブロックが牛の顔を直撃して仰け反った所に俺の放ったブロックが顎を更にかち上げる。

「2発目、ってー!」

 今度の狙いは腹。大きいヤツが気を利かせ、1人ずつ間を開けて、マッチョな腹にバコバコブロックを当てて行く。ここから俺は弾の補充に当たる。マジックボックスから3個ずつ、2人の背後にブロックを置いて行く。しっかり当たったのを確認してから次の発射をするので命中度が高い。膝が出た途端、敵は後ろに倒れ込んだ。膝頭と、丸見えの股間を狙ってブロックを放つ。

「ヴェ…」

 足の先が出る頃には横に回り込んで顔を狙う。股間が見てられない状態だったのだ。顔も見てられない状態になりつつある。角は折れて目は潰れ、顔は当然ボッコボコ。メロロアの掛け声で斉射を止めると頸動脈を何かの刃物でぶった斬り、血を噴きながら煙となった。

「勝ったわ!」

「あたいなんもしてな~い」

「あんな馬鹿みたいな登場されたらタララの出番は無いよ」

「ああ言う時は全身出るまで待つものでは…」

 メロロアは真面目な暗殺者だな。

「暗殺者なら首が出た瞬間に頸動脈斬るだろ?」

「私、斬ってませんでしたよね?普通はしないんですよ?」

「俺思うんだが、敵にビビって立ち呆けてたのを、待っててやったーなんてヘラずってるんだと思うんだ」

「メロロアさん、ゲインは可愛い顔してやる事えげつないよ?」

「可愛いままでいてください」

 喋くりながらも警戒は怠らない。煙が消えて、箱があるのを見つけ罠を調べる。メロロアとのダブルチェックで無いと判断。開けるのは金目の物担当のタララに決めた。

「お金はあるんだよぅもぉ~」

「私はお金欲しいのよ」

「あ、私もです。売れる物でお願いします」

「あたいに言われても無理だよ~」

 箱を開けると掌大の魔石が詰まってた。メロロア鑑定よろしく。

「ラージミノタウロスの魔石ですね。さっき倒した奴のがアホみたいに詰まってます」

「数は?」

「数えたくありません…」

 1人にやらせるのは時間の無駄なのでみんなで数える。…981個。

「いくら?」

「ええ、1つ3万として…2943…万」

「借金返せたわ!」

「正式に騎士として雇ってもらえます!」

もうここに住もうか?普通の冒険者ならそう思うよな?俺もだ。

「買取りし切れるかは分かりませんよ?何度もこんな数取ってたら値崩れ待った無しです」

「隣街まで売りに行くしかないな」

「今回の分はそれで捌けるでしょうけど、次の機会はいつになるか…」

「今度こそ他の人が開けて!売りにくいお金はいやだよお!」

 タララが駄々をごねてしまった。同じのが一杯出るからいけないんだよな。箱ごとマジックボックスに収納して下に降りよう。

「朝一のボス戦の次はこれですか…」

 階段を降りた俺達の心は既に折れそうになっている。

「おっきいね」

 タララはまず大きいかどうかの判別から始まる。

「何よ?ただの大きいアリじゃない」

 アリの怖さを分かってないのか聡い子よ。1匹1匹は俺の膝丈程の大きさだが、予言しよう、いーーっぱいいると。
 で、そのアリ達だが、階段から2ハーン程敷かれた石畳の中には入って来ない。目?が合っても普通に働きアリしてる。多分だが、ここを越えたら大変な事になると思う。

「ちょっと石をぶつけてみる。みんなはすぐに逃げられるように階段に上がっててくれ」

 女達を階段まで下がらせて、小石中を最大出力で発射した。バキッと外部骨格が砕ける音と共に、アリは煙に変わる。しかしアリ達は死んだ仲間がいる事など気にも留めず、行ったり来たりと仕事に励む。続けていれば俺とタララの石で1000匹は殺れそうだ。

「タララ、弾くれ」

「やっぱりあたいの出番ないのねー」

「命中度を上げて欲しいな。石の金チップでも買うか?あるか分からんが」

「適材適所よ。私は休むわ。球拾いする時呼んでちょうだい」

「ゲイン様、お手伝いします」

「ここは確かにこの方法が効率的かも知れませんね」

 ブロックはここでは集められないので投石でチマチマ殺してく。メロロアも紐の付いた変な形のダガーを投げては引っ張りで屠ってる。殺し損ねてダメージを負ったアリが、元気なアリに噛み付かれてた。共食いするのか、どこかへ連れて行こうとしやがる。せっかくのドロップを無しにされては敵わんので泥棒アリごと撃ち殺す。
 魔石やチップは拾って行かないので辺りはキラキラ魔石だらけだ。そして俺達の撃った石だらけ。弾を撃ち尽くしたがまだ少しいるので特攻して弾を確保して来なければならなくなってしまった。

「ちょっと突っ込んで来る。援護頼んだ」

「危ないよゲイン~」

「走りながら足で回収するから何とかなるだろう。俺が死んだらこれでこいつらを1人前に育ててくれ」

 マジックボックスを渡しておく。少なくとも数年は遊んで暮らせるからな。

「結婚前に後家さんなんてヤダよぉ」

 それは後家とは言わないんじゃないか?とにかく取れるだけ取るため石畳を越えて、正面の壁に向かって走り出す。その途端、働いていたアリ達の動きが変わった。俺は必死で走って壁を蹴って階段へ戻ったので詳しく見る余裕など無かったが、タララ曰く、急にビシッとしてゲインにガーッてしてた、らしい。何のこっちゃ?

「あんた!もう少しで捕まる所だったのよ!?」

「メロロア嬢の攻撃が無ければ危ない所でした」

 どうやら俺を餌か敵だと認識して襲いかかって来たらしい。俺が石畳に戻ると何事も無かったかのように歩き出したそうだ。とにかく石と魔石とチップを取れるだけ取って来たので無くなるまで撃ちまくる。

「ゲインさん、今度は私が回収して来ますよ」

「大丈夫だとは思うけどこちらには援護できる弾が無い。気を付けてくれよ?」

「任せてください。ウォーターウォール!」

 メロロアの放つ水の壁が通路の片方を塞ぐ。アリ達は齧ってるのか飲んでるのか分からないが口を付けて何かしだした。まさか甘いのか?

「俺は反対側を塞ぐぞ」

 ウォーターウォールで通路を塞ぎ、3匹のアリが取り残された。それでも気にせずチューチュー吸っている。美味いのか?

「流石ですゲインさん。では行ってきます」

 ナイフを持って突っ込んで、ザクザク殺して戦利品をあらかた回収して戻って来た。

「お疲れ。魔法があったの忘れてたよ」

「温存して損は無いですよ。今回はジリ貧だったので使うタイミングだっただけです」

 大量の小石と、魔石にチップが手に入った。しかしよく入ったな。マジックボックス持ちなのか。

「私の秘密を知られたからには責任持って寿退「さあ1匹残らず撃ち殺すぞー」「おーう」「了解です」「私見てるだけなんだけど」酷い…」

 2回目の弾切れを起こして、アリはほとんど居なくなった。回収した魔石とチップが凄い事になってるよ。小石を分別してタララに返し、さてどっちに行こうかね?

「ゲイン、お腹空いたよう。なんもしてないけど」

「タララが言うなら今は昼少し前って事か。全然進めなかったけど飯にするか?」

「ゲインさん、一旦上の階に戻って食べましょう」

「あっちの方が広いしトイレも作れて良いかもな」

 満場一致で階段を上がるがエリアボスは出ないみたい。今日はもうお休みなのかな。階段のすぐ側で箱のテーブルと食器を並べ、薄ソーサーと塩っぱい干し肉で昼食だ。スープは無いので水で我慢してくれ。

「甘いの欲しいわ」

「何です?甘いのって」

「水飴だ」

「流石お金持ちですね。どこで買っ…てなさそうな気がしますね…」

「秘密だ。黙っててくれれば食わせてやっても良いぞ」

「私、口の堅い女です。報告もしません」

「嘘ついたら街を出て戻って来ないからな?」

「薬盛られるまでは喋りません!」

 そこまでされたら仕方ないな。水飴の鍋を出してやり、みんなで塗り塗りいただきます。

「んま~い」「甘さが染み渡るわ」「女殺しの食べ物ですね」

「売ったらいくらになるか、想像もつきません…」

「貴族が嗅ぎ付けて大変な事になるから売れないよ。人が食う分使ってまで作ろうとするだろうしな。餓死者を出したくなければ黙っとけ」

「作り方を聞き出して殺されるわね」

「確かに…」

 糖の実よりも安く大量に出来る水飴なんて、貴族に知れたら本当にソイツの言った通りになりかねん。

 甘塩っぱい昼食を食べて、トイレと穴を部屋の隅に作ったら少し休憩だ。みんながトイレを済ませる間にアリのチップを検める。
 アリからのドロップなので絵柄は当然アリだ。アリの能力って何だろう?

「白チップなんでしょ?大した物じゃないわよ」

 アリを知らないヤツが何か言っているが、アリは人も食うんだぞ?

「どうせ売っても買い叩かれるだけです。使ってみて確かめるのが早いでしょうね」

「それもそうか」

 1枚千切ってモクモクスーハー。そして確認しては?っとなった。

スキル : 肉体強化 肉体強化

肉体強化 : 肉体に関わる能力を強化するスキル。体力、腕力、脚力、が僅かに増し、体力、腕力、脚力、が僅かに増す。

「熊と一緒だったよ…。1枚1500ヤン」

「とんでもない額になりそうね。けど、売らないんでしょ?」

「収納して1123枚ある事がわかった。1000枚使えば体力、腕力、脚力が中程度増す事になる」

「ゲイン様、強いのかどうか分かりません」

「銀チップ3種類100枚分だ」

「けど…、1000枚で150万ヤンね。銀だと1枚1000ヤンとして300枚で30万。だいぶ損してるわ」

「そうだな。150万と銀チップ30万ヤンで、金チップ3枚の効果だ」

「180万で30万の効果…」

「白チップだけでその効果を付けようとすると大損だが、銀金と併せる事で安く抑えられる。金チップ100枚とかそうそう売ってないからな。他のチップと効果が重複するんだから、お前も熊とアリ使っとけ。この2枚は誤差じゃないぞ」

「3000ヤン…」

「全員が使えば差し引き0だぞー」

 メロロア以外の3人が、千切ってモクモクやりだした。

「ねえゲイン、僅かと僅かを足すと少しになるんだっけ?」

「そうだな」

「上がったのは分かるけど確認出来ないわね」

「石でも投げてみな」

「私は感じます。動きが変わりますね」

バシッと壁から良い音がする。貴重な残弾を砕きよった。

「何となくだけど、勢いが増した気がしなくもないわ」

「2枚で600枚分だからなー」

「ゲイン、熊のチップも集めとく?」

「追っ手が来る可能性がある以上、戻り過ぎるのは良くないな。いずれまた機会を見てやろう。熊相手にタイマン張れないと効率悪いしな」


 休憩終了。アリの巣の入口へと戻ると心なしかアリが増えてる気がする。

「ゲイン、これ、女王がいるね」

「場所は分かるか?」

「わかんない。けどあっちから来るアリが多い気がする」

「タララさんの言ってる通り、産まれて出て来る部屋が右にありそうですね」

「女王もその近くにいそうだな」

「ねえ、女王様ってえらいの?」

聡い子は時々子供らしい事を言う。

「ここにいるアリ全てを産んだお母さんアリだよ」

「フィールドボスですね。ボスと戦う必要はありませんがアリは根絶しないと、かなりやっかいな事になりますね。まあ、倒せるなら倒しておきたいですが…」

「解ってる。無理はしないさ」

「ブロックぶつけてやっつけたら良いじゃない」

「そうも行かないのですよ。この国の王様の所に殴り込みに行ったらどうなりますか?」

「あ…、そう言う事。何となく理解できたわ。アリでも女王なのね」

「我々は女王アリの治めるアリ王国に戦争を仕掛けている訳だ」

「由々しき事態ですね、相手にとっては。ゲイン様はどうお攻めなさるおつもりで?」

「アリのチップもたんまり取ったし、階段見つけてとっとと降りたいな」

「ゲインが泥棒みたいなコト言ってる」

「感知で階段を探して最短ルートで行くだけだよ。箱があってもこの階は諦めだ。メロロア、感知よろしく」

「はいー」

 俺とメロロアの感知系スキルで階段を探すと、あるにはあった。あったんだが…。

「運が良いのか悪いのか…」

「悪いかも知れませんね」

「2人共、どゆこと?」

「私は何となく分かったわ」「私もです」

「どゆことよー!?」

「タララ、俺達は今から女王を討伐に向かう」

「まじで?」

「階段がそこにあるみたいなんですよ」

「うへ~」

 タララが天を仰ぐ今この時でさえ、アリは数を増している。なるべく早くやるしかない。

「俺とメロロアがウォーターウォールで道を塞いだら大きいヤツはアリを殺せ。その後でタララと小さいヤツで正面に通路を作ってもらう。細くて良いから多少奥行を出してくれ。全員入ったら壁で塞ぐ」

「あいよ。盾は仕舞うからあんまり持てないよ?」

「じゃあ行くぞ!ウォーターウォール!」

「ウォーターウォール!」

 2枚の水壁が通路を塞ぎ、アリが4匹残された。大きいヤツがアリの頭を吹き飛ばし、煙に変わる。すぐさまタララと小さいヤツが進み出て、正面の壁からブロックを切り出し新たな通路を作ってく。持ちきれなくなって外に吐き出されるブロックは、マジックボックスに収納した。大体90個は入るから気兼ねなく入れられるな。
 みんなが通路に入り、俺は蓋をするようにブロックをはめ込んだ。空気穴は忘れてないぞ?

「ひとまずお疲れ。ここからは下に行くぞー」

 階段状に掘り進み、よき所まで下がったら再び水平に掘り進む。掘るのは女達3人で、俺は切り出されたブロックを回収して後ろに捨てる係だ。メロロアも回収しながら明り取りしてる。

「ゲイン~、時間かかるねー」

「そうだな。けどこれが一番安全だろ」

「疲れたら代わりなさいよね!」

 交代したり、休憩しながら掘り進み、やっとこさ女王の真下にたどり着く。戦闘前の、最後の休憩だ。スプーンに水飴を絡め取り、みんな黙って甘さを堪能する。みんな何も喋らない。水飴を舐めるのに必死になってる訳じゃなく、黙ってるよう指示したのだ。

 動けぬ女王の真下に穴を掘る。真っ直ぐ掘ると昇り降り出来ないので、つま先が乗る程度の段差を付けて20ハーンくらい掘った。ブロックは通路の奥の方から詰めて行ったので逃げ道は無い。絶対に殺りきらねばならないのだ。穴の底に、鋭く尖らせたブロックを敷き詰めて上に戻る。
 みんなに目で合図して、できるだけ通路の中に隠れてもらう。俺とメロロアは感知系スキルで女王の姿を捉え、タイミングを合わせる。

「「ボーグ!」」

「「ボーグ!」」
 
 2人で2回のボーグをかけて、女王を支える床は泥になり、女王を道ずれにして穴へと落ちて行った。

ドブッ!!

 泥をはね上げ、女王は穴の底に叩き付けられた。ここからはスピード勝負。俺とメロロアの持つブロックで女王を撃ち殺す。メロロアはブロックを作る事も射出する事もできないので弾持ちだ。大きいヤツがこちらに来て並ぶ。メロロアの出したブロックを撃つ役目だ。タララと小さいヤツは少し離れて、上から来るであろう兵隊アリに目を光らせる。

ズン…

 俺とメロロアの持っていたブロックを撃ち切って、地鳴りと共に穴から煙が噴き出した。

「やった…の?」

 小さいヤツが小さく漏らす。タララと小さいヤツに、上への階段を作ってもらう。多分、一番危険な役目だ。上にはまだ兵隊アリがいる。女王を亡くしたアリ達は指示系統を失ったタダのアリになる。職を失い、仕事の見つからぬ兵隊がどうなるか。落ちぶれ兵の行く先は犯罪者への一本道。敵を殺し、仲間を殺して糧を得る野盗に落ちるのだ。
 小さいヤツが合図をする。階段が出来たみたいだ。ブロックを回収する手を止めてタララの後に続いた。

 女王の間にいた兵隊アリはどうやら自由を満喫しに行ったらしい。部屋の中には気配なく、面倒な戦闘にならずに済んだようだ。急いで出入口を塞ぎに行く。

「ふぅー。他に出入口になりそうな穴は無いか?」

「たぶん」

「緊張したわ…トイレ行きたい」

「1人でトイレ作れるか?」

「何とかするわ…」

 大量のブロックを置いて、トイレの材料にしてもらい、俺とタララは再び下に向かう。

「ゲインさーん、女王の消滅を確認しましたー」

 穴の底ではメロロアが、ブロックを回収しながら女王の安否確認をしていた。俺も底に向かう。タララはお留守番で見張りだ。底に着いてブロックを回収する。メロロアは持ちきれなくなったのでするする上に戻って行った。ランタン1つで独りは怖いぞ…。それでも何とか体を動かし、ブロックをマジックボックスに入れて行く。底が見え始めたのでデリートウォーター…は泥がカチカチになるだけなのでウォッシュしてみる。泥汚れと水分がかき混ぜられて消えて、底まで見える澄んだ水に変わった。

「デリートウォーター」

 不純物の少ない水はすぐに消滅した。何となく靴の中も乾いた気がする。ここからは床面に落ちてるだろうドロップアイテムを探しつつ、壁面にブロックを敷き詰めて行く。ぶっちゃけ持ちきれないし、持って上に行っても捨てるのでここで処分しておきたいのだ。
 穴の周りをぐるりと敷き詰め、女王のドロップを見つけた。タララの金塊に近いくらいの大きさがある魔石に、アリの虹チップ。初めての虹チップがレアチップとは…。ブラウンさんに見せたら喉から手が出て首を絞められかねんな。お宝もゲットしたのでさっさと上に行こう。

「ゲイン、おかえりー」

「凄いのが取れたよ。階段を降りたら休憩だな」

 タララと2人で階段を上がると、ブロックを捨てて身軽になったメロロアが休憩してたよ。

「ゲインさん、タララさん、おかえりなさい。良いのが拾えたみたいですね」

「そうだな。単発の魔石なら買取りできるよな?」

「女王の魔石ですかー。ホント凄いですね」

「あんた、トイレ作ったわよ」

「そうかそうか。俺はまだ出ないから使ってやれなくてすまんな。ここだと壁からアリが出て来るかも知れん。一先ず下に行こうか」

 フィールドボスを倒した所で敵はわんさかいるからな。




現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 66%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
肉体強化 肉体強化
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆

鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ

魅了
威圧

水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ

土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン

火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー

所持品

鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
脛当E
鉄靴E
皮手袋E
混合皮のズボンE

草編みカバンE
草編みカバン2号E
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE

小石中492
小石大444
石大☆20

冒険者ギルド証 5952269→6297594ヤン

財布 銀貨12 銅貨11
首掛け皮袋 鉄貨31

マジックボックス
各種お宝
 
冊子
筆記用具と獣皮紙
奴隷取り扱い用冊子
寸胴鍋
お玉
コップ

カトラリー
木ベラ
石炭100ナリ
ランタン
油瓶0.5ナリ
着火セット
ロープ

中古タオル
パンツE

奴隷
エリモア
アンテルゼ

スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 4/1861
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 19/1070
ワニS 0/1
クマ 0/1
アリ 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 128/520
ナイフS 0/1
短剣 12/232
鎧S 0/1
袋S 0/1

水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 3/4

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1

未鑑定チップ 1000
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