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村での生活は戦争だ。食える物は何でも食わねばならん。

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 水壁風呂は多少圧力が高いものの、冷た過ぎる事もなく、気持ち良く水浴びができた。とは言え俺の汗を吸った水壁を使わせたくないのでウォーターウォールはかけ直すべきだろう。

「ウォーターウォール」

「魔力が勿体ないですよー」

 メロロアがケチ臭い事を言うが、魔力の温存はした方が良いに決まってる。ここはダンジョンなのだから。

「試してみた結果、入浴に使える事が分かった。毎日は無理だができたら用意しよう」

「じゃあ次あたい~」

「まあ待て。体を先に洗い流してから入る方が水をキレイに使えると思う」

「ん?どゆこと?」

「タオルを濡らして汗や汚れを洗い清めてから入浴した方が良い。うんこした尻のまま水壁に入りたいなら止めないが」

「う、うん…。キレイに使わなきゃね」

 タオルを持ったタララはいそいそと浴場に向かって行った。

「ねーゲインー」

「なんだー?」

「タオルを水に入れるのも、なんかダメな気がするー」

「そこまで言ったら共同浴場なんて入れないだろ」

 意外と気を使うタララである。それともそんなに汚れているのか?

「防具屋の主人みたいに洗浄ができたら良いのにね」

「街で《洗浄》ができるのはニアさんだけですよ?詳しくは人のスキルなので話せませんが」

 中古防具屋の主人の使う《洗浄》は珍しいスキルみたいだ。ウォッシュとデリートウォーターを同時に使うのだから銀チップ以上はあると思ってたけど。
 タララの後は奴隷が2人で入浴し、最後はメロロアが入って、その最中で魔法が切れたようだ。

「ゲインさーん。魔法が切れましたー」

「あまり長くは持たないか」

「かけ直して下さいよー」

「自分でしてくれ」

「メロロアさんって、欲求不満なのかな?」

「きっと必死なのでしょう」

「男娼遊びとかしてるわね」

「してません!ウォーターウォール!」

 鎧を着直し横になる。うつ伏せ寝が一番楽だな。タララと小さいヤツに夜警を任せ交代まで寝る。大きいヤツとメロロアも、心做しか俺に近い場所で寝てた。

 夜警を交代して飯の作り置きをしていると、昨日と同じくブロックが消えた。マジックボックスに入れっぱなしだったのを思い出し、確認したが、こちらも消えてしまっていた。宵越しのブロックは持てないって事が判明したな。大きいヤツと一緒に、階段と出口に新たに切り出したブロックで蓋をして、作り置きの続きをした。

「ゲインさん」

 寝てるはずのメロロアが声をかけてきた。

「まだ寝てて良いぞ?」

「では寝たままで。外に何かいますね」

 ハッとして感知系スキルを発動すると、確かにいた。数えたくない程たくさんの何かが、壁に張り付いて歩いてる。トカゲかヤモリかと思われるが大きさは1ハーンはあるな。そんな奴等がドアに向かってにじりにじりと近寄って来てる。飯の匂いに釣られたか。
 飯作りを大きいヤツに任せ、俺はトカゲだかヤモリだかを殺す罠を作る。切り出したブロックを外向きの壁に置き、ブロックと壁を貫通させるように、少し上向きの穴を開ける。基本はそれだけだ。
 飯の匂いに釣られた獲物が狭い穴を通って首を出した所で上から剣鉈を振るう。煙は外に、魔石は部屋に転がって来る。チップも獲物に押し出されて来た。

 100匹くらいは殺っただろうか?夢中で首をはねてたら交代の時間になったようでメロロアが起きていた。

「魔石だけでもかなりの数ですね」

「首が出たら自動で切り落とす装置が欲しい」

「そんな事考えるのゲインさんだけですよ。高い所から毒を吐くドクハキヤモリじゃないですか」

「毒はやっかいだな」

「やっかいな毒を無力化してる事に気付いてくださいね」

「こんなのネズミ捕りの罠と一緒だろうに…」

 ネズミ捕りの罠は水を入れた瓶を下に置いて蓋をしておくのだが、毎朝2~3匹は入っていた。投げとくと鳥等の動物が食べに来る。それを射って俺達の食事にする訳だ。主に俺が水死体を投げる役で、兄が射る役だった。
 獲物が煙になったのを見計らい、ブロックの穴を横向きにして設置し直す。これで新たに入って来れなくなった。ドロップをかき集めて箱に仕舞い、朝飯の時間まで寝る。おやすみなさい。

 タララに起こされ目が覚める。お腹空いたんだな?感知系スキルで見回すと、ドクハキヤモリは居なくなってた。きっと夜行性なのだろう。テーブル代わりのブロックを置いて、明り取りの穴を開ける。既に結構明るいな。食事が終えたら早速行こう。

「今日は私がトイレを作ったわよ!さあなさい」

「…飯の後でな」

「ゲイン様、アンテルゼは褒めて欲しいのですよ」

「そうか。よくやったな」

 撫でてやるとくすぐったそうな仕草で顔を背けた。そのまま食卓まで押してって席に着いた。

「2日目だな」

「意外とキツいね」

 タララも俺も、1泊野宿しか経験した事ないからな。マットはあっても鎧で寝てるからな。見た目は爆睡かましていても、体に負担がかかっているのかも知れない。

「タララもか。メロロアは問題ないな?2人はどうだ?」

「問題ない訳じゃないですよー」

「私は大丈夫です」「あの時よりマシよ」

 こいつらは逆に街から街への野宿を経験し、今より辛い状況を体験済みだ。メロロアは問題ないな。

「今日か明日には敵が街に入る。そこから捜索を始めていつここに気付くか分からないが、ここからが本番だろう」

「世話をかけるわね」

「良いさ。これはこれでダンジョン泊の経験になるし、ぶっちゃけ金ががっぽがぽだからな。で、メロロアは敵がここまで来られると思うか?」

「条件次第ですね。街で良さげな冒険者を募って、東から入って、更に隠し扉から下に降りて…。マジックバッグで壁を切り出す、もしくは普通に破壊する事が出来ればここまでは来られるでしょう。ここまで来られる実力者なら、見えないドアにも気付くかも知れませんね」

「王様みたいな凄い人が雇われない事を祈る」

「王様?国王様はお城から出ないわよ?」

「破壊王、ディレッツ・フラウバーさんです。ゲインさんのカエルポンチョの製作者のお孫さんです。男爵家ですよ?知りませんか?」

「面識はありませんが家名は伺った事があります」

「私知らない」「あたいもー」

「曽祖父の頃に王家の鎧を仕立てた功績で…って感じの家ですね。貴族と言うより豪商に近いでしょうか」

 王様にしろ、他の冒険者にしろ、実力者ならここを抜ける可能性がある。もう少し先に進むべきだろう。食事を終えて、片付けて、トイレを済ませて移動する。足場を伸ばして重しを乗せて、腹這いで穴を開けに行く。一旦戻って足場を凹みに突っ込んだら、今度は穴を広げに行く。縦に2つブロックを切り出すと横穴とドアが見える。

「タララ、脱げよ」

「ゲインのエッチ」

「エッチな事してやるから脱げ。脱げぇ~」

「ゲインは絶対しないよね~」

「足場が折れたらあいつが悲しむわよ」

「タララ様が亡くなったら私が後釜となりますのでご安心ください」

「すぐ脱ぐから!」

 装備を仕舞って身軽になったタララがヒョイヒョイ跳んで渡り切る。奴隷の2人も手を取り合って渡ってた。

「ゲイン~、エッチな事、する?」

「そうだな。全裸で先行してもらおうか。嬉しかろう、尻尾振れよ」

「あは~ん、ゲインがいじめるぅ~」

「はいはいご馳走さまです。敵居るので準備してください」

「とっとと鎧を着直して行くぞ」

 鎧を着たタララを先頭に隊列を組んで進む…。ん?

「ゲインさん、気付きましたか?」

「敵が、逃げてる?」

「光が苦手なのかもねー。ヤモリなんでしょ?」

 タララはヤモリの習性を知ってるようだ。鉱山にはよくいるのかな?

「ヤモリだが、ダンジョンだぞ?人を見たら容赦なく襲い掛かって来るモンだろう」

「暗いとこから襲って来るのかもね」

「かも知れん。気を付けよう」

 通路にいる敵は全てヤモリみたい。とにかく逃げるの一点張りなので敢えて戦わず先を行く。すると普通の階段を発見した。

「階層内の階段ですね。珍しいですがこの階層の事を思えば納得できます」

「下の森に行く事になるのでしょうか?」

「かも知れませんね。勿論、行かないで本当の階段に当たる可能性もありますよ」

「行ってみなけりゃ分からない、か」

「初見ですからね」

 階段を降りながら、ふと思う。

「なあ、この階層の床なら、ぶち抜いて下に行けんじゃね?」

「下の階に危険なモンスターが居たら困りますけど、ここなら感知が通りますから何とか」

「階段作りながら行こーよ」

「そうだな。盾はタララに任せるので俺と奴隷2人で階段を作ろう。メロロアは明り取りな」

「あーい」「了解」「わかったわ」

「では一旦戻りましょう。面倒ですが入り口付近の方が森に行くなら便利かと」

 ある程度降りたら外に穴を開けて、場所や時間を確認すると言う事らしい。みんなで来た道を戻り、入口近くまでやって来た。

「ここから先は壁しか無いですね」

 床を切り出そうとする奴隷達を止め、俺は言った。

「なあ、ここって上には行けるのかな?」

「下への階段を探すのに上に行ってどうするのよ?」

 小さいヤツが呆れたような顔をする。俺も同意見だ。同意見なのだが気になってしまったのだ。

「お前が上に石を飛ばした時、結構高さがあったよな?」

「何かあるかもって考えた訳ね」

「敵がここまで入って来られるなら、ここで巻いて外に逃げるのも1つの手、だと思うんだ」

「ブロック切り出せなきゃ階段降りるしかないもんね。あたい等が下に行ったもんだと思わせるーってか」

「面白いですね。試しに感知してみましょうよ」

 感知系スキルで天井を見る。…真上は壁か。ならこっちはどうだ…?壁が厚いと奥まで見えないので、見える所を探そうとキョロキョロ見回しているとメロロアが見付けた。

「多分ですが落とし穴です。落とし穴の底が薄くなってたので何とか見えましたよ」

「落とし穴が何ハーンあるか分からんが、上があるのが確定したな」

「落とし穴の周りを螺旋階段にして登れば不要なブロックを捨てながら上がれますね」

 大きいヤツの提案を採用し、落とし穴の際に階段を作る。だが用心は怠らない。タララの盾に隠れながら、落とし穴の真下にも穴を開ける。そして、貫通する寸前で止めて薄くなった壁を泥に変えた。

「ボーグ」

 泥にしては流れる量が多い。どうやら液体が溜まっていたようだ。

「ゲインさん、ナイスです」

「毒とか酸ではなさそうだな」

「ゲイン、よくこんなの気付いたね」

「落とし穴作ったら小便するだろ?」

「しないよ?」「しません」「しないわね」

「ゲインさんは誰と戦争してるのですか?」

「匂いに敏感なオオカミとか、腹減ってると自分から飛び込んで来るんだよ。で、仕込んだトゲに刺さる」

「あいたたた…。坑道で落とし穴なんて作ったら死刑だよぉ」

 タララは想像の落とし穴にハマってしまったようだ。

「貴族ですので作った事もありません」

「同じく」

 まあ、貴族は落とし穴で遊んだりはしないか。怪我などしたら問題だろうしな。

「考え方は違いますが、行動は戦争での落とし穴と一緒ですよ…」

 戦争では足止めの他に、傷を化膿させて戦力を奪ったり、戦意を喪失させたりと言う目的でやるらしい。おお怖い怖い。

 水らしき液体が落ち切ったので、天井を切り出し階段を作って行く。ブロックを捨てながら上がれるので思いの外早く上の通路にたどり着けたよ。それでも体感で30リット以上はかかったと思う。落とし穴にしては長過ぎだな。
 通路に出たメロロアが辺りを感知して、こちら側もヤモリしかいないのを確認した。

「ねえゲイン」

「何だ?」

「あっちに何かありそう」

 壁の向こうを指差すタララの謎感知は金目の物がある事を予想させた。壁の奥を一直線には見れないので通路を確認するように辿って行くと、どうやら小部屋のようで箱がある。

「タララのそれはスキルなのか?」

「女の勘、かな?」

「私も女です」「奇遇ね、私もよ」

「スキルより有能な女の勘ってなんなんですか?そんなのあったらとっとと寿退社出来てますって!」

 女の勘で男を見つける…のか?だったら俺と出会ったのも女の勘なのだろうか?馬鹿な事考えてないで箱の中身を拝みに行こう。罠があるので慎重に、メロロアを先頭に進んでく。

「そこ、踏んだらきっと死にますよー」

「ここ、槍が出るので回収するとお金になります」

 ダンジョン探索には必ずと言って良い程、レンジャーや罠師等の罠係の存在が欠かせない。罠係が居ないパーティーはフルメイルを綱で縛って先行させるのだとか。矢ならともかく槍なんて飛んで来たら死んじゃうだろそれって思うが、意外とそう言うパーティーは多いのだそうな。

 金になるとは言われたが、槍はスルーで進む。そして小部屋の前に着いた。

「敵はいないようです」「俺も同意見だ」

 盾に隠れて慎重に開けてもらうが罠も無く、小部屋の中には箱が1つ、隅っこに置かれていた。

「ささ、タララ」

「今度は何が出るのかしらね」

「お願いします」

「あたい開けたくないよぉ~」

「仕方ない。ポーション係、頼んだぞ」

「ったく。タララのそう言う所、嫌われるわよ」

 小さいヤツが箱に手をかけフタを開けると、中身はやっぱり瓶だった。

「なかなか良い瓶ね。色が濃くて背の高い花を挿すのが良いかしら」

 白く光沢のある瓶が3本。素人目にも良い物だと分かる。メロロア先輩お願いします。

「アンチカースです。おめでとうございます」

「は?こんな所で出るの?」

 鑑定の結果を聞いて一番驚いたのは俺だ。悪の魔人に呪いをかけられた王女を救うため、勇者が取りに行ったのがこのアンチカースだ。この話はアロイさんの手持ちの本の一冊、勇者キーンとエンチゼーンの魔人に書かれている。辺境の山岳にある遺跡の奥に、ひっそりと安置されている物のハズだ。

「ダンジョンですからね。かなりレアですが無い事はないですよ」

「遺跡の奥にあるものとばかり…」

「ん?もしかして、勇者キーンの話ですか?」

「あ、ああ…」

「…あれ、大衆娯楽ですよ?」

「……まじで?」

 産まれて二番目のショックに膝から崩れ落ちた。一番はもちろん魔獣化した熊3頭に追いかけられた事だ。
 アンチカース、買取価格、1本50万ヤン…。王女なら買える値段じゃん…。

「ゲイン、可哀想に。よしよし」

「硬くて冷たいよう…」

 抱きしめて来るタララの鎧は、冷たくて硬い。女達の話し合いの結果、今日はもうここに泊まろうって事になった。ほとんど進んでないけれど、俺がこんななので仕方ない。

「皆さん、壁に穴など無いか確認してください」

「ドアはブロックで塞いでおきます」

「トイレはどこに作れば?」

「ゲイン、食料とマットちょうだい」

 テンションだだ下がりの俺の周りで女達が作業する。マットを敷かれ、寝かされた俺は、ミカさんやアロイさんの前で勇者キーンになると言った俺を殴りたくてしょうがなかった。

「ゲイン、スープ飲める?」

「ちょっと、無理かも」

「そか」

 鎧を脱いだタララが横になり、俺の顔を抱きしめる。

「汗臭くてごめんね」

「…こちらこそ、すまん」

 タララのおっぱいに顔をうずめ、俺は意識を手放した。


 目覚めるとおっぱい。タララにもみんなにも迷惑かけてしまったな。血湧き肉躍る勇者キーンの冒険は物語でしかなかったが、冒険者ゲインの冒険は、今まさに始まっているのだ。俺は気を引き締めて起き上がる。

「みんな、迷惑かけてごめん」

「ゲイン様、タララ様、お食事を温めますのでお上がりください」

「おなかすいたぁ~」

「タララもありがとうな。俺はどれだけ寝てた?」

「大体1オコン程ですよ」

 予想としては午後過ぎだろうか。そんなには寝てなかったようだ。メロロアは更に言葉を繋げる。

「ゲインさんがおねむの間にフロアを見ましたが、階段はありませんでした。ですが上のフロアはあるみたいです。1つ1つのフロアが隔離されているようですね」

「ブロックの切り出しありきな階層だな」

「ゲインさん達にしか今の所上がる術はありませんね」

「ならばできるだけ上がって忍んでみるか」

「それも良さそうです」

「ねえ、ちょっと気になったのだけど、良いかしら?」

 小さいヤツが温めたソーサーを持って聞く。

「下に…、森の部分ね?そっちに下へ向かう階段があれば隠れてやり過ごす手は使えると思うのだけど、もしこっちにそれがあったらどうするの?」

「それは困るな」

 受け取った薄ソーサーを齧りながら話を聞く。

「自分で言った言葉を考え直して見たのよ。このフロアには罠も箱も、襲っては来ないけど敵もいるわ」

「本物の階段があってもおかしくないと言う事ですね。ダンジョンですから、その可能性はあります」

「落とし穴の底、あの薄い部分を見つけて壊して上がって来い、そんな風に取れたわ」

「この更に上にあるフロアも、薄い場所を発見できた事で分かった事ですから」

「…成程な。もしこの上に階段があって、下になかったら、こっち側を捜索される可能性があるって事か」

「ここに来るって事は壁を壊せるって事だもんねー」

「落とし穴が道になる。壁を壊して階段に向かう。ゲイン様、ダンジョン入口の仕掛けは、まるでこの階層の説明をしているようですね」

「壊れないと言われているダンジョンの壁が切り出せてしまうのも、そのせいかも知れませんね」

「案の1つとして留めておこう。決め付けは良くないからな」

「どゆこと?」

「信じ過ぎると裏切られた時ショックがデカいって事」

「「「ああ…」」」

 可愛そうな者を見る目は止めろ。また不貞寝してしまうぞ?食事を済ませて片付けて、メロロアの言っていた薄くなった天井を見に行く。

「このヤモリ、夜になったら襲って来るのよね?」

「数が多いから戸締りはしっかりしないとな」

「毒を吐くので今も注意してください」

 壁や天井に張り付いて、俺達が来ると一目散に逃げまくってるヤモリだが、とにかく数が多い。それだけ居るのだから一斉に毒を吐けば俺達なんて直ぐに殺れるだろ?とは思う。やるなよ?俺とメロロアは前方を、奴隷2人は後方を照らしてヤモリの襲撃に備えているが、戦う事なく目的地に着いた。奴隷達に階段を作らせ、全員が階段上に昇った所で薄い天井を切り取る。

ザバーンッ!

 また水だ。水だと思う。多分ダンジョンが用意した水だ。そうでなければ深夜には消えてしまうから、こんなに溜まる訳がない。
 水が抜け、空になった落とし穴の周りに螺旋階段を作って上へと進む。普通の冒険者はここを壊しても水浸しになるだけで上がって来られないと思うがどうなんだろう?優秀なレンジャーに先行してもらう方法しか思い付かないが、多分それが正解なのだろう。

 上に着いて感知系スキルで通路の確認。部屋がなければ更に上へ進む予定だ。寝る場所を確保しないとこれだけのヤモリから身を守る術がないからな。

「ゲインさん、私の見た方向には部屋は無さそうです」

「そうか。引き続き上へ行けそうな場所を探してくれ」

 俺の見てる方向もだいぶ入り組んでいる。その全ては最終的に行き止まりになっていて、逃げたヤモリのたまり場になってそうだった。

「あった」

 かなり奥に、やっと小部屋を見つける事ができた。残念ながら箱は無さそうだ。

「どうやら1つのフロアに部屋は1つしか無さそうですね」

 メロロアの言は正しいと思う。だが過信はしない。罠に気を配り小部屋に向かう。なかなかに長い迷路を抜けた先に小部屋のドアはあった。罠をチェックし、盾に隠れてドアを開け、中に入って、更に罠チェック。

「「ん?」」

「ゲインさん、気付きました?」

 2人同時に違和感に気付いた。対面の壁が薄いのだ。

「ゲイーン、入っていい?」

「良いぞー。3人でこっち側の壁を切り出してくれ」

「「あーい」」「了解です」

 2泊もしたら、みんな勝手がわかって来る。壁を切り出し空間を広げ、ドアの前に蓋をする。トイレと水浴びの仕切りを作り、トイレには穴を、浴場には凹みと穴を開けて、タララのケージとテーブル用のブロックを並べたら寝る準備は完了だ。

「完璧だな」

「もっとほめていーのよ?」

「よしよし。さて、あの壁の先を見てみるか…」

 薄い壁なので大きく切ると戻せなそう。なので覗き穴程度の大きさで切り取った。

「グゲッ」

 穴から首を出したヤモリの頭を思わず手で押さえ付けてしまった。

「ゲインさん動かないで!」

 メロロアの剣がヤモリの首を撥ね、煙になって消える。ドロップは壁の向こうに落ちてしまったようだ。

「すまん、ブロック積んでくれ。メロロアも助かったよ」

「あーい」「褒め散らしてくれても構いませんよ?」

「はいはいよしよし。ヤモリのせいであまり見えなかったが外みたいだった」

「時間的には夕方ですので活発になったのかも知れません。ゲイン様、罠を作って稼ぎますか?」

「一応は作るが、夜警の暇つぶし程度に抑えよう。魔石を売り抜ける気がしない」

「確かに。街を回って行商するにもお金がかかりますからね」

「先にご飯にしよーよ」

 タララの言葉で冷静になる。飯だ飯飯。荷物を出して火の支度。鍋に乾燥野菜と刻んだ干し肉を入れて、水を注いで火にかける。

「ソーサーもそうだけど、食事は3食分作った方が早くなりそうね」

「その通りですね。夜警の時に3食分作るようにしましょう」

「だがなぁ、スープは鍋1つだとどうしても2食分が限界だ。2鍋使わんとならん」

 手持ちの鍋は水用、水飴用、スープ用の3つに焼鍋が2つ。焼鍋に並々作っても1人分足りないのだ。

「仕方ないわね。ならソーサーだけでも作り置きしましょ。私もやるわ」

「タララに食われると思って指示してなかったんだ。ゆっくり寝てて良いぞ?」

「まさか」

「ゲインはあたいが待てのできない犬かなんかだと思ってるの?」

「やった後でごめんなさい、みたいな顔しても俺は絶対許さんぞ?コミュニケーションが取れててそんなならそれこそ犬以下だ」

「タララ様、我々には前科があります。ここは引きましょう」

「間食が悪いって言ってるんじゃないと思うの。食べ過ぎて無くなっちゃう事を問題視してるのよね」

「そうだ。家ならまた買って来りゃ良いが、ここでは無理だよな?」

「わかってるよぉ」

「箱から食料が出るように祈っとけ」

「運次第でお肉とか出るみたいですよ?街に帰るまでに悪くなっちゃうので、その場で食べるか撒き餌にするのが一般的ですが」

 メロロア曰く、猪からレッサードラゴンまで色々な肉が入っているようだ。で、街に持ち帰ろうとして失敗したのがレッサードラゴンの肉だそうで、買取不可になった腐りかけの肉を無理矢理食べて腹を壊した冒険者の話をしてくれた。王都付近のダンジョンでの話なのだそうだ。

「笑い話だが、冒険譚になる冒険者には憧れるな」

「金儲けの得意な新米冒険者と美しいギルド職員との愛憎劇…良いと思います」

「それ誰に憎まれるのよ」

「夢を見るのは自由ですが、現実を見ましょう」

「冒険者が刺されるよね、それ」

「俺は刺されたくないなー。けど怪我とかしないと話として盛り上がらんか」

「いつぞやは刺してしまい申し訳ございませんでした」

「あれ、ゲインって、もう愛憎劇の中の人…なの?」

「冒険譚がいいー」

 夕飯を食べ終え片付けて、みんなが水浴びしたいと言うので浴場に水の壁を張る。女達が水浴びから上がって、俺も水浴びした。戦ってもないので大して汗もかいてないけど入れる時に入っておかないとな。
 タララと小さいヤツは薄ソーサーを焼き出してる。焼けたソーサーは小さいヤツが収納してるし、無くなりはしないだろう。交代の時間まで寝る。

 目覚めたらタララがソーサー食ってた。1枚だけだと小さいヤツが言うので気にしないでやろう。ケージに入ってもぐもぐしてたが、暫くして寝てしまった。ソーサーは3食分できたと言うので、大きいヤツがスープを作る。俺はやる事なくて眠くなるんだが…。

「ゲイン様は存分にヤモリをお殺りください」

「寝たら死ぬヤツだぞそれ…」

 薄い壁にブロックを付けて、斜め上に穴を開ける。ゴソゴソと音がして、穴の中からヤモリが顔を出すのを、剣鉈で首を叩き斬る。煙と共にコロコロと魔石が転がって来るので回収したら次を待つ。

魔石。魔石。チップ。魔石。チップ。魔石。卵。魔石。

 卵?ヤモリが来るから確認は後にして、この卵は、食用なのか?それとも薬品などの素材なのか?まさかテイムして仲魔になりますよ的な物なのか?メロロアが起き出すまでの間、ずっと悶々としてしまった。
 途中、大きいヤツと交代しての体感4オコン。ブロックを積み直して狩り続けたが、だいぶ魔石を拾う事ができてしまった。チップも沢山だ。卵は6つ採れた。食うにはちょうどいい数だな。

「おはようございます。交代しますよ」

「おはよう。起き抜けに悪いがちょっとコイツを見てくれ」

「はぁ…、卵ですね」

「食用か、素材か、ペットなのか。それが知りたい」

「テイマーじゃないなら食用ですね。かつては毒を採るために飼育したりしていたそうですが、今は平時ですし需要がありません。テイムしても、闇に紛れて家屋に忍ばせ毒殺する…なんて使い方しかできませんよ」

「朝飯に茹でといて」

「了解です」

 朝飯が楽しみだ。




現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 88%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
肉体強化 肉体強化
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆

鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ

魅了
威圧

水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ

土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン

火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー

所持品

鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
脛当E
鉄靴E
皮手袋E
混合皮のズボンE

草編みカバンE
草編みカバン2号E
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE

小石中491
小石大444
石大☆20

冒険者ギルド証 5952269→6297594ヤン

財布 銀貨12 銅貨11
首掛け皮袋 鉄貨31

マジックボックス
各種お宝
 
冊子
筆記用具と獣皮紙
奴隷取り扱い用冊子
寸胴鍋
お玉
コップ

カトラリー
木ベラ
石炭100ナリ
ランタン
油瓶0.5ナリ
着火セット
ロープ

中古タオル
パンツE

奴隷
エリモア
アンテルゼ

スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 4/1861
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 19/1070
ワニS 0/1
クマ 0/1
アリ 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 128/520
ナイフS 0/1
短剣 12/232
鎧S 0/1
袋S 0/1

水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 3/4

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1

未鑑定チップ 1000
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