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箱の中身がヤバ過ぎて金にならん
しおりを挟む朝飯に、茹で卵が付いて、タララと小さいヤツが不思議がってた。糖の実程のまん丸の卵は、食べ応えがあり味は普通に卵味。だが、皮が柔らかくてプリッと割れるのが不思議な感覚。因みに、俺は野生の鳥の卵しか食った事がない。と言うか、基本卵は食卓に上らない。村では鳥を飼ってなかったからだ。もちろん街でも飼ってない。貴族の2人も初めて食べるのだと言う。初めての卵がヤモリかよ…。
「卵…」
「卵は親鳥にして食べる物です。上位の貴族でも食べはしませんよ」
「あたいも食べた事なーい」
「実は私もです…」
「ドロップした物だし、飼えないなら食べてやるしかない。もう茹でちゃったしな」
「はむ…、これが、卵…」
「美味しい、と、思う…」
「ぷりぷりして、中にパサパサがありますね」
「硫黄の香りが少ししますが、成程…」
恐る恐る食べて、初めての味に女達は戸惑っていた。あれだけ狩ってたったの6個なのだし、かなりレアな食材だと思うんだがなぁ。
「ゲインさんって、たまに王公より良い物食べてますよね」
「作ってたけど食べてはないよ。まあ、鮮度で言うなら王様より良いのかも知れないけどさ。虫食ってたり形が悪くても鮮度は抜群だったよ、採れる時はね。採れない時に食べられる。これが貴族の特権だろ?」
「私、卵は初めて見たわ」「私もです」「あたいもー」
「メロロアよ、ちなみにこれ、おいくら万ヤン?」
「テイム用、素材用として、過去の買取りがいくらだったか…。すみません、戻って調べないと何とも。卵自体滅多に買取りに回って来ないもので…」
「安くはなさそうね」
「そう言えばゲイン、ヤモリのチップは使わないの?」
「え?ああ、報酬出てからにしようかと思っててなー。メロロアはヤモリのチップ使った事あるだろ?」
「よく分かりましたね。内緒ですよ?」
「ぐるぐる回る部屋で壁にくっ付いてたろ」
「私とした事が…。壁歩きと言うスキルです。壁を移動する毎に魔力を消費します。くっ付いてるだけなら消費しないので意外と便利ですよ」
「便利なのか?」
「木の枝から枝へ飛び移る時とか、かけ直しながら移動すれば魔力の消費無しに木にくっ付けます」
「弓矢とか使う人は便利かもねー」
「今使っても練習しないと痛い目に遭いそうだ」
「ですね。朝から魔力は使いたくないので夜にでも教えてあげますよ」
食事が終わり、野営道具を片付けて、トイレを済ませて準備完了。薄い壁をドアくらいの大きさで切り取ると、昨日チラ見した通り外だった。
「フィールド、壁、フィールドって感じですかね」
分厚い壁の向こうはフィールド型のダンジョンが広がっていて、上は空、下は森が見えていた。どうせ嘘っぱちなので感知系スキルで細かく見て行く。俺の様子を見てメロロアも続いた。
「ルート的には正解…、なんですよねぇ」
「ここで敵を巻けない事が分かってしまったな」
「ねね、ゲインー。どゆことー?」
「この下に階段があるんだ。下に降りて壁を壊すか、この場所を見つけるかしないと発見出来ない」
「下に降りて、壁を壊してくれたら良いわね」
「壁でなく出入口があれば尚良しですね」
「壊してはくれないでしょうねー」
「だろうなぁ。1つの階に部屋1つ。これもここに来させるためのヒントだったか」
「ヒントをくれるなんて優しいねー」
「そうだな。天然の洞窟よりは優しいかもな」
「で、どうやって降りるのよ」
見た感じとても高さがあり、そして奥行もある。壁沿いに階段を作って行けば降りられると思うが、修復前に降りないと壁にめり込んでしまうかも知れない。
「みんな、ヤモリのチップを使おうか。落ちたら洒落にならん」
「了解です」「仕方ないわね」「そだねー」「便利ですよ?」
千切ってもくもく。4つの煙が吸い込まれ、スキルが発生した。
スキル : 壁歩き
壁歩き : 壁を歩く為のスキル。壁に張り付いた後、魔力を消費し壁を移動する事ができる。
使い方はメロロアに聞いたので取り敢えず壁に張り付いてみる。
「着けたい所を一度に押し付けるのがコツです」
メロロアは飛び上がると両足と左手をタイミングよく壁に押し付けた。
「おお、すごーい」
「片手だけとか、腕が抜けますからね?特にタララさんは鎧があるのでもげるかもです」
「えぇ~」
「解除する時は念じれば解けます」
シュタッと着地を決めてドヤ顔のメロロアを華麗にスルーし、みんなでくっ付く練習をした。移動すると魔力を使ってしまうから何がなんでも動くわけに行かず、何度かマットに叩き付けられたが何とかタララ以外は壁に着く事ができた。タララは盾と鎧が重過ぎて、肌着状態でやっと壁に張り付けていた。
「ゲイン~、恥ずかしいよぉ」
「本当に危ない時はそんな事言うなよ?何があっても俺はお前を絶対に助けない。助けられない。みんなも覚悟しておけ?自分の身を守れるのは最終的に自分しかいないんだ」
「あ~い…」「わかった」「了解です」
「タララは分かってなさそうだな」
「わかってるよぅ」
「タララさん、真面目な話、ここから落ちたら誰も助けにいけません。壁の上からあなたが落ちて来ても、誰も抱き止められません。Sランクの速度でも、Sランクの筋肉でも無理なんです。ゲインさんを悲しませないためにも、心に刻んでください」
「わかってるったら!」
「…今日の移動は中止だ」
「なんでよ!?勇者なんとかに憧れてんのになんで冒険しないのさ!」
「勇者キーンの面白い所はな、勇者のくせにしっかり下準備して安全マージンを確保してから事に当たるって所なんだ。大衆娯楽を冒険譚と勘違いしてしまう程にな」
部屋の片隅に俺1人寝られる部屋を、他所から切り出したブロックで作ってく。マットを持って来れば良かったな。硬い床に寝転がり、外野を無視してふて寝した。
「ゲインーお前ーっ!」
「止めなさいよ、崩れたら死ぬわよ!?」
「タララ様、いけません」
「止めんなごらあ「黙れ」ぐぎ……」
静かになった。まあ良いや、寝よ寝よ。
腹が減って目が覚めて、ブロック1列収納しながら外に出ると、みんな静かに座ってた。
「ゲインさん…」
開きっぱなしになってる壁の外は、少し赤みを帯びていた。昼飯を食いそびれてしまったようだ。
「飯食って、朝になったらダンジョンを出る」
膝を抱えて俯いてるタララがピクリと動く。が、俺は気にせず荷物を降ろし食事の支度を始める。
「あの、ゲイン様」
「なんだ?動くのは口だけか?」
「いえ、お手伝いさせていただきます…」
「戸締りしろ。ヤモリが入って来るぞ」
「はい…」
大きいヤツが空いた壁を塞ぎに行くと、今度は小さいヤツが皿を並べながら口を開く。
「あんた、私の話、聞く気ある?」
「どうしたね」
「まだ、怒ってるの?」
「そうだな。俺は勇者でもなければ奇跡も起こせん。それでも怪我なく街に戻れるよう、考えて行動してるつもりだ。ダンジョン舐めてる奴とは潜れない」
「…めて、な…もん…」
「ゲインさん、お水ここに置きますね。私も同じ意見です。ヒーラーとレンジャー、新しい盾を加えるのをおすすめします」
「…だよ…。いやだよ…」
「戸締りと部屋全体の確認が終わりました。配膳しますのでお席へどうぞ。街に戻って、どうなさいますか?」
「北の山に穴を掘って暮らそうか」
「森と高山に隔たれていますが国境ですよ?」
「食料問題さえ解決できれば何とかなると思うがね」
「今日で4日。敵は街に入っているわ。数日は街を虱潰しにして、そこから外に出るのだと思う」
「なら早い方が良いな。東の出口から北上して、山の麓に移動する。メロロアはここでギルドに帰ってくれ」
「いやだよ!ゲイン!あたい!あんたと一緒にいたい!」
「…だったら配膳でも手伝えよ。パーティーの和を乱す奴は害悪でしかねぇんだよ」
「タララ様、これを」
「うん…」
泣き腫らした目でお椀を置いて行く。
「あたい、頑張るから…」
「考え方が違うのは生きて来た環境の差に、男女の差だと思う。けどな「ゲインさん、冷めないうちにいただきましょう」…」
一番言いたい事を遮られ、飯を食う。
冒険者は、仕事なんだよ。
恋愛感情を仕事に持ち込むなよ。
淡い期待で人に命を預けるなよ。
イライラが募り、悔しくて、気付けば涙が流れてた。食事を終えて、すぐに寝る。夜警?知った事か。
「…インさ…、ゲインさん」
「ん…。メロ、ロアか…」
「仕事ですよ?」
「……そうだな」
「ゲインさんの言いたかった事、わかります」
「……」
「私達は仕事をしています。けどいつ死ぬかも分からない仕事なんです。ある程度の自由は大目に見てあげましょ?」
「ふぅ…。先輩の言葉は聞かなくちゃな…」
「傍若無人になって欲しくはありませんが、自由を謳歌できるのも冒険者の醍醐味ですよ。ね?」
「善処するよ」
メロロアが俺のマットを横取りし、居場所を奪われた俺は、簡易コンロの火をいじるタララの正面に座った。
「飲む?」
「もらおうか」
コップに注いだお湯の中に、何やら入れてかき混ぜたのを、両手でそっと渡して来た。
「ズズ…。甘いお湯、か」
「疲れた時は甘い物って、アンテルゼちゃんが」
「腹減ってる時も飲んでるよな」
「ん、そだね」
「美味い」
「ん」
静かな時間が過ぎて行く。ポコポコと湯の湧く音と、カサカサと外でヤモリの歩く音。ゆっくりとした時間の中で再びタララが声を発した。
「あたいじゃ、ダメ?」
「どっちの意味だ?」
「…両方」
「ダメじゃないよ」
「どっちの意味で?」
「…両方」
「けど、あたい、ゲインを怒らせてばっかり」
「俺にも反省するトコあるけどさ、命に関わる時は妥協できんよ」
「そうだね、ごめん」
「明日から少し危険になる。夜警は良いから少し寝とけ」
「街に戻るの?それとも山?」
「街に行って食料とマジックボックスのチップを買う」
「10枠じゃ足りないもんね。けど2人はどうすんの?」
「秘密基地を作って、避難してもらおうと思ってる。まあ、ダンジョンの出口で待たれてたら元も子も無いんだが」
「長居してたらご飯無くなっちゃうね」
「ああ。籠城では勝てないな。そろそろ寝ろ」
「はーい」
タララがケージに入り、俺は無い知恵を絞る。相手の力量が分からないのでどの対応が正解かは分からない。ダンジョンに入って来るのか、入口で待つのか、それとも街で網を張るのか。タララも気付いていたが、食料の問題さえなければダンジョンに篭っても良いんだ。もちろんそれは悪手だが、ダンジョンに入って来る奴なら問題無い。穴を掘って巻けるからだ。だが探索依頼だからとダンジョンに入ってしまった俺達は迂闊だったな。
入口で待たれているなら、きっと殺し合いになるだろう。時間をかけると東西の入口から挟み撃ちにされる。その前にどちらかを突破しないとならんが、初手を打つに西は無い。無限射撃の罠は、射程外、ないし、俺達の正面にいれば食らわない訳で、こちらの有利にはならないのだ。東の出口にいる敵を皆殺しにして、素早く街に駆け込むのが手っ取り早いだろう。殺れたら良いがな。
街に網を張っている可能性もある。そうなると2人を街に入れる訳には行かないので、どこかに隠れてもらわなきゃならん。そこで秘密基地の登場だが、問題はどこに作るかだな。
考えをまとめていると、小さいヤツが起きて来た。トイレか。
「おはよう。あんた、知ってる?」
「何をだ?おはよう」
「女の子ってね、トイレに行ったら手を洗いたいものなの」
「…お湯しかないけどそれでも良いか?」
「火傷するわよ!」
浴室は昨日消えてしまったままのようだし、仕方ないので部屋の隅で水を出す。
「ありがと」
手を洗ってスッキリしたのか、食事の支度を始めた。俺達の声を聞いてメロロアと大きいヤツも起きて来た。
「おはようございます」
「おはようございます。予定は決まりましたか?」
「おはよう。タララを起こして飯食いながら話そう」
ケージを仕舞い、鼻先に干し肉をチラつかせるとモゾモゾ動き出すのでテーブル代わりのブロックまで誘導した。
「それ、起きてるのかしら」
「食いだす頃には目覚めるだろ」
料理が温まり配膳が終わる頃には目覚めたようだ。遊んでられないのでさっさといただいてしまおう。
「食べながら聞いてくれ。今日からの予定を説明する」
ダンジョン東側出口より、なるべく早く脱出し、南街道まで移動する。
橋の外側、川近くの森に仮設基地を作る。
奴隷2人は仮設基地泊。俺とタララとメロロアは街へ。
俺達は家の様子を見て買い物。メロロアは魔石の買取り査定と情報収集で一旦離脱。
荷物を持って南門から街道を行き、奴隷達と合流する。
ここまで説明して一度止め、みんなの意見を聞く。
「ここまでで質問は?」
「仮設基地って事は移動するのね?」
「ああ。お前等を街に入れると敵が街にいた場合危険だからな。1日2日は居てもらう事になる」
「敵に見つかったらどうするのよ」
「切った丸太を抱いて川に飛び込め。冷たいけど下流までは逃げられるぞ」
「本気?」
「そうならない事を祈る」
「川の近くと言う事は、その可能性もあると言う考えなのですね。その時は躊躇わず放り込みます」
「あの、買取りは魔石だけと言いましたが、あれだけ大量の魔石ですと査定に数日かかりますが…」
「すぐに受け取る訳じゃないからそこは気にするな。他の職員に任せて情報収集などしてくれ」
「私、恨まれます…」
「2割はメロロアの取り分なんだ。飯で釣れよ」
「え、本当にくれるんですか?」
「当たり前だろう。メロロア無しじゃここまで来れてないんだから」
「一生付きまといます!」
それ凄く迷惑なやつ。朝食を終えて片付けて、準備を整えドアを開けた。
「落とし穴、水溜まってるね」
下のフロアに降りるための落とし穴には、やはり水か何かが溜まっていた。が、気にしない。落とし穴使わないもん。
落とし穴のほど近くに階段状にブロックを切り出して行く。上からヤモリが入って来ないように、1人がランタンで後ろを照らし、下の階が開いた時にヤモリが来ないように前にも1人ランタン係を置いて掘り進める。
「そろそろ抜けるぞ、ランタン頼む」
「あいよ」
穴が開くと同時に、タララがランタンを穴に突っ込む。驚いたヤモリに毒を吐きかけられたり、敵がいたなら襲われかねない危険な仕事だ。
「大丈夫みたい」
「よし。ブロックを落とすぞ」
下のフロアにブロックを落とし、先に降りて階段を作ってく。合図を出すとタララ、大きいヤツ、小さいヤツ、メロロアと降りて来た。
「箱あるのよねここ」
「遠回りでもないし、取りに行くか」
「ゲインー」
「安心しろ、今度は俺が開ける。石の虹チップが出たら使ってもらうからな」
「価値がありそうで無さそうですね」
「命中精度が上がれば石でなくても良いんだがな」
期待したけど結果はハズレ。四角いブロック並の厚さの本が1冊入ってた。
「え!?マジですか!?」
「どうした?」
本を鑑定したのだろう。メロロアが驚いてる。
「ゲインさん、これはヤバイです」
「何だ?金塊100ナリよりもか?」
「スキル目録、らしいです。スキルの種類、効果が全部載ってるって…」
「情報料でガッポガポだな」
「転写しちゃ…ダメェ?」
「ギルドに流すと全世界に広まっちゃうからなぁ。いくら貰えば良いんだか」
中を開くとスキル名や効果にレアリティ。そしてどのモンスターが落とすのかが細かく書いてある。
「こりゃあ国宝レベルだな」
「良い物なのね、良かったじゃない」
「今拾うにはかさばって邪魔なんだけどな」
「ギルドに是非」
「6000兆ヤン」
「お金で塔が出来ますよ…。諦めます」
「ゲイン、それ持ってると命狙われない?」
「ギルドにな」
「黙ってますから!」
思わぬお宝を拾ってしまったが、箱の方が売れるしありがたい。更に一段フロアを降りて、ドアのあるフロアに着いた。ドアまで移動し慎重に開ける…。斜め下にあるドアは壊れてない。敵がダンジョンに入っていても、まだここまで来れてないようだ。感知系スキルで小部屋を見るが、誰も居ないとの意見で一致した。
「降りにくいですね」
「問題ないさ」
行きとさほど変わらない。5ハーン程の長さで1枚切り出し、崖に付くくらいに敷いたらブロックで重石をして、腹這いになって壁面へ。壁面のブロックを切り出し一旦戻ったら石版を凹みに押し込み凹みに突入。ブロックを切り出して凹みを広げ、奥に下り階段を作って行くと、すぐに小部屋の天井と繋がった。
「良いぞー。タララは脱いどけよ?」
「あいよ」
小部屋のドアを開けてみんなを迎え入れる。下着姿で降りて来たタララは天然さんかな?
「ズボンは履いてても大丈夫じゃないか?」
「早く言ってよー!」
「狙ってやってるのかと思ってたわ」
「私も金属鎧が欲しいです」
タララが着替え終わるのを待って階段を上がる。逃げるカラードウルフと迎え撃つ気満々のカラードウルフがいるみたいで血気盛んな5匹が石畳の向こうからギャンギャン言っている。至近距離から鼻っ面に小石大を思いっきり射撃してやったら顔が潰れて煙になった。隣で仲間が死んだ事に気付かないのか、ギャン鳴きが止まらない。残りの4匹もきっちり撃ち殺した。
「警戒するウルフと襲いかかって来るウルフの2種類いるみたいですね」
「役割分担にしては何か引っかかるよな。時間稼ぎくらいしか思い付かないが…」
「はい、チップが出たわよ」
「ありがとう。だが迂闊に出ない方が良いぞ」
「わ、わかったわ」
カラードウルフのチップは普通のウルフの白チップだ。あと9000枚はないと使う気になれない。あったらあったで使う気にならないかも知れないが。
「ブロックを集めながら端を進もう。襲いかかって来るようなら壁で左右を塞いで迎え撃つ。ゆっくり相手してられないから、2人は走るタララの影に入れ。俺とメロロアはその外で警戒する」
作戦がまとまり隊列を組んで、走るタララを中心に移動する。こちらも警戒しているが、相手は更に警戒していて、空間の入口に着くまでずっとこちらを警戒してた。入口を塞いで小休止。
「この先は敵がうじゃうじゃ居るんだったな」
鍋のぬるま湯をみんなに振る舞い口を開く。誰に言った言葉でもないが、メロロアが答えを返して来た。
「たっぷり居ますが回る部屋への道中ですとさほどぶつかりませんね」
「このくらいの壁なら切り出しながら進んだ方が早いな」
下の階層に比べたらここの壁を切り崩すのは簡単だ。何より回る部屋に入る必要も無い。上への階段に向けて直進しながら目の前に立ち塞がる壁を切り抜いて行く。タララの盾のサイズに切り、殿をタララにする事で後ろの安全を確保した。
ガキンッ!ガッ!
「なんか後ろから来てるんだけど」
「もう少しで抜けるから待ってて」
みんなが壁を抜け、盾で塞いだ状態になったら、盾越しにブロックを射出する。盾に殴りかかって来なくなるまで射出したら、全滅したか道を塞がれて動けなくなったかのどちらかになる訳だ。
「拾わないの?」
「時間は敵から買えないからな」
小さいヤツはドロップを捨て置く事に否定的だが、投げ込んだブロックを回収してドロップを拾うのは時間がかかり過ぎるのだ。ここは折れてもらう。
「護衛の依頼で冒険者が獲物を剥ぎ取りしてるじゃない?あれは良いのかしら」
「敢えて言うならそんな事してる暇があるならとっとと移動しろ、だな」
「ゲインさんみたいな考えの人はあまり居ませんねー。敵の姿を追っかけてって、道に迷ったり返り討ちに遭ったり。慣れるまではそんなもんですよ」
「ポカした人が居なくなって、今の護衛の形になってんだね」
なるべく敵に当たらぬように壁を掘り、通路を進み、壁を掘り、ようやく階段が現れた。敵を倒しながら行くよりはだいぶ早く到着できたハズだ。ここを上がると女王アリのフロアだ。居ないことを願うが小休止して戦いに備えよう。
「あ、ゲインさん達はまだ護衛依頼を受けてないんですよね」
思い出したように口を開くのはメロロア。護衛依頼は冒険者にとって義務に近い。移動するついでにやって小銭稼ぎ。荷物持ってくれるならありがたい。ランク上げるために仕方なくやる、その程度の認識だ。
「冒険者登録はしてるが、奴隷だからなぁ。実力はともかくランクはFだし。パーティーランクもFなんだが受けられるのか?」
「普通のは無理ですね。指定依頼かギルドからの依頼なら受けられますが」
「今の問題が解決してから考えるさ」
さあ、上に向かおう。ありったけのブロックを収納して階段を昇る。
「あれ?」
「居ないわね」「そのようですね」
居ると思って身構えていただけに、居ないのは拍子抜けだ。メロロアと2人で感知系スキルを発動し、階層をくまなく見回すが、居るのは普通のアリだけみたい。
「女王アリの発生には時間がかかるのかも知れませんね」
「階層に居るアリのどれかが女王になるのかもな」
「共食いでもするのでしょうか」
「まだ幼虫だとかねー」
「ありえる」「アリだけに」
ドヤ顔のメロロアはスルーだ。そしてうろついてるアリ達もできるだけスルーしたい。なのでこの階も壁を壊しながら進む事にした。
下の階から持って来たブロックを捨てるついでに通路を塞ぎながら階段へ向けて掘り進む。アリは遠くにいても走って来るし、壁を掘って来るので厄介なのだ。通路を塞ぎ、切り出した道も塞いで進んで行くと、階層の真ん中辺りで箱のある小部屋があるとメロロアから報告があった。
「箱かー。迂回してもしなくても距離的に変わらんみたいだし、取りに行くか?」
「いーんじゃない?」「家具が増えるわね」「ゲイン様のご意思に従います」
「売れる物が出ると良いですね」
「そんな事言うとまた売れないお宝が出ちまうぞ?」
「アンテルゼ嬢、ポーション引いてください」
「ソーマかエリクサーね、わかったわ」
「わかってませんね」
「たまにはお前開けてみれ」
「え、私ですか?」
1度も箱を開けてない大きいヤツに箱開けを命じ、ドアもない小部屋に入ると、部屋の隅に箱が置かれていた。
「ねえゲイン、なんかちょっと小さくない?」
「ポーション入れるには充分だろ」
「開けてもよろしいでしょうか?」
俺とメロロアのダブルチェックで罠は無いと判断。大きいヤツが慎重に箱を開けた。
「アリの頭ですね」
ずいっとこちらに向けて来たそれは、真っ黒で触覚があり、確かにアリの頭に見える。が、そうではなさそうだ。
「防具か?」
「ちょっと待ってくださいね…。はい。これ兜みたいです。アントマスク、だそうです」
「被るタイプのマスクなのか。呪いとかはかかってないよな?」
「はい多分」
多分って…。呪われてて外れなくなったら飯食えなくなるぞ?期待の眼差しを向けるメロロアを睨めつけて、アントマスクを被ってみる…。
「入らない」
何となくはわかってたけど鉢が入らなかった。アリの顔だしな…。
「ゲインって、顔が「マスクが小さいんだ」う、うん…」
「私なら入るわね、顔小さいし」
俺の手からするりと奪った小さいヤツがカポッとマスクを被ってしまった。
「喋るくらいの余裕もあるわよ」
アリの顔した奴隷が多分ドヤってる。腰に手を添えてるからきっとドヤってるハズだ。そんなの被ってたら街に入れないぞ?ああ、悪目立ちするが敵にバレにくくはなったのか。
「外せるか?」
「外せるわよ?」
カポッと外してまた着けた。気に入ったのか?
「これ、口の所が開くわね。このまま食事もできそうよ?」
「そ、そうか。気に入ったなら持ってけ。ちなみにメロロアさんや」
「魔装ではないと思いますが、かなり良い物ですね。ライオンマスクなら実物着けてる人見た事ありますよ。それが200万ヤンだそうですので、150万で、どうでしょう?」
「ありがたくもらっておくわ」
「…んー、まあ、良いか」
コイツの目利きは商人向きだよなホント。それから階段までは一気に移動した。感知系スキルで見ていたのだが、近付いて来るのがいなかったので素早く到着できたのだ。もしかして、アリの警戒を解くような効果でも付いてるのか?
休憩がてらに軽食を摂り、再びブロックをめいっぱい集める。さすがにエリアボスはお休みなんて事は無いだろうしな。
階段を上り、広い空間へ出る。
「首が出たら頸動脈。良いな?」
「分かりました。しっかり暗殺します」
魔法陣が光りマヌケな牛が後頭部を晒して湧いて出る。三方から放たれるありったけのブロックで後頭部はぐっちゃぐちゃ。そしてメロロアの首狩りにて肩まで出た状態で煙となった。
「ゲインさん」
「どうした?」
「真っ当な人生送ってる冒険者はこんな倒し方しませんよ」
「それは冒険者がマヌケなだけだろ。殺り方を広めたらみんなやるぞ」
「そうですね…。ギルドって、戦い方は教えても殺し方は教えてませんでしたね」
「ゲイーン、箱だよー」
「金目の物より実用品が良いな。大きいヤツ、また開けてくれ」
「え?はい」
「今度は普通の大きさだけど、また変な物出るのかな~?」
「良い物だったじゃない」
「魔石たっぷりよりは良いかもな」
「魔石が一番の収入源なんですけどね…」
「ゲイン様、今度は牛です」
大きいヤツが取り出したのは、牛の頭だった。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 99%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
肉体強化 肉体強化
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
魅了
威圧
壁歩き
水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ
土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン
火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー
所持品
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
脛当E
鉄靴E
皮手袋E
混合皮のズボンE
草編みカバンE
草編みカバン2号E
布カバンE
革製リュックE
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中491
小石大444
石大☆20
冒険者ギルド証 5952269→6297594ヤン
財布 銀貨12 銅貨11
首掛け皮袋 鉄貨31
マジックボックス
各種お宝
冊子
筆記用具と獣皮紙
奴隷取り扱い用冊子
寸胴鍋
お玉
コップ
皿
カトラリー
木ベラ
石炭100ナリ
ランタン
油瓶0.5ナリ
着火セット
ロープ
中古タオル
パンツE
奴隷
エリモア
アンテルゼ
スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 4/1861
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 19/1070
ワニS 0/1
クマ 0/1
アリ 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 128/520
ナイフS 0/1
短剣 12/232
鎧S 0/1
袋S 0/1
水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 3/4
魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
ヤモリ 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
未鑑定チップ 1000
応援ありがとうございます!
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