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メロロアは酒を飲むとおっさんみたいになる。
しおりを挟む耳栓を外すと、鳥の鳴く声が聞こえる。なかなか高性能な耳栓だったな。多分メロロアの物だろう。
「ゲイン様、おはようございます」
「おはよう」
「昨夜はお恥ずかしい所をお見せしまして…」
「良いさ。それよりもだ」
俺を囲むようにベッドに座る4人に告げる。
「今お前等が見てるのは俺の恥ずかしい所なんだが」
「触れてないわよ?」
直接的な意味の触れるな、では無いのだよ。
「何も言わなかったら触るのか?」
「……指先で啄くくらいは、したかも?」
「アントルゼちゃん、意外と積極的だね。あたいなんて見てるのしか出来ないって」
「私など、隙間から覗くのが関の山でしょうか…」
「私なら寝てる内に…、いえ、やっぱりしませんね。同意の上でしたいですから」
「…みんな、よく聞いてくれ。これは性欲が溜まってるんじゃなくておしっこ溜まってるだけなんだ。だから気にしないでくれ。そしてじっくり凝視しないでくれ」
「性欲が溜まっても硬くなるのね。ゴブリンのも伸びてたけど、あれも性欲なのかしら?」
「そうですね。あれは性欲全開の姿です」
「あれは凄かったね~」
「で?その硬いの、どうすれば治るのよ」
「おしっこしたら収まるって言ったろ?」
「そっちじゃなくて、性欲の方の話よ。赤ちゃんはどうやって作るかって事。私末っ子だから知らないのよ」
聡い子だが、変な所で無知である。そんな無知な子に結婚を押し付けていたのか、この子の家は。
「ふぅ…。俺が居ない時にでも、耳年増のメロロア先輩に聞いてくれ」
「良いんですか?全部教えちゃいますよ?」
「トイレ行くから退いとくれ」
マントを羽織って部屋を出る。大きくて厚みのある熊皮のマントは、この時だけはとても役に立つ。
スッキリとして食堂に向かうが誰も降りて来てなかったので部屋に向かうと、女達はまだ寝てる時の姿で膝を付き合っていた。
「まだ着替えてなかったのかよ」
「あ、ゲイン。もうちょっとだから」
何がもうちょっとなのか分からないが、まだ時間がかかるようだし部屋の隅で着替えてしまおう。チラチラ見ながらヒソヒソやってら。
朝食を摂り終えメロロアは仕事へ。俺達は食休みで部屋に戻る。依頼を受ける訳では無いので早くから外出する必要がない。
「ゲイン、ごめんなさい。恥ずかしかったわよね」
アントルゼが頭を下げる。女同士の話し合いの末、どうやら分かってくれたようだ。
「私、あんな硬いの体に入らないわ」
「あたいも、怖くなっちゃった」
「ソレを受け入れられるようになって、初めて愛と言えるのでしょうね」
「一体メロロアに何を吹き込まれたんだ?」
「お尻に差し込むって…」
「血が出るとも聞いたわ…」
「何度も何度も、こちらの拒絶を無視して出入りする、と…」
間違ってはないがかなり誇張されてるな。まあ、これで少しは懲りただろう。
「じゃあ、今日はどうする?寝て過ごすか?」
3人に緊張の色が見える。昨日は訓練で疲れただろうし体を休めた方が良いと思ったのだが。
「ゲイン…、やっぱり、性欲、溜まってる?」
「それなりにはな」
「!?わ、私は出来ないわよ?」
「何をだ?」
「私は、昨夜に済ませてしまいましたが、ゲイン様の仰せのままに…」
「?じゃあ昼までゆっくり休むか。午後は昼飯食ったら外で体を動かそう」
「え!外!?」「恥ずかしいわよ!」「ゲイン様の仰せのままに…」
取り敢えずベッドで寝た。3人?知らん。久しぶりに1人で寝られて熟睡しちゃったよ。
昼になり、緊張を隠せぬ3人と昼飯を摂り東門を潜る。東門の門前は畑一面分程のちょっとした空き地があり、そこで体を動かす事にした。
「ゲイン、人がいるよぅ」
「そうだな。迷惑かけないようにしないとな」
「…平民って人前でするのね」
「貴族の事は分からんが、みんなするだろ」
「…いつでもどうぞ」
「そうか。じゃあ素振りからな。牛はダメな所を注意してくれ」
「「「え?」」」
俺は普通の剣鉈を出して、両手持ちの素振りを始める。ヒソヒソやってた3人もおもむろに得物を取り出して振り回していた。
「タララ、顔が赤いが熱でもあるのか?」
「集中してんのっ!」
怒られた。振り下ろされた金棒が迫って来るのをギリギリで躱す。地面を叩いた金棒を踏み付けて、タララの手の甲に鉈を添えた。
「俺の勝ちだな」
「今日はおっぱい枕するから…」
それはご褒美なのか?柔らかくて良い匂いがするので楽しみだ。
「ゲイン様っ」
振り向くより先に飛び退いて間合いを取る。俺のいた場所には牛の刺突剣が放たれていた。声がけが無ければ刺さっていたな。恐ろしや。片足で跳んで間合いを詰める牛を、右に回り込んで攻め手を消して行く。間合いは遠いが刺さる距離を、半身になって躱しながら鉈を当てて隙を広げて行った。
「くそ、攻め手が無いな。リーチ差に負けてる」
「充分です。飛び道具があれば余裕と言う事ですからね」
刺突剣を一払いして下がる。牛との勝負はここまでのようだ。
「今夜は抱き着きます…」
寝返り打たせてくれないらしい。地味に嫌だ。
「わわっ!」
声も無く突いて来たアリの攻撃を避け切れず、肩当に掠ってしまった。突っ込んで来た反動で飛び込むアリを抱き締めた。
「流石にドキドキしたぞ…」
「私もドキドキしてるわっ」
「こらー!イチャイチャ禁止ー!」
振り抜かれる金棒に引き裂かれるように離れた俺達はタララの間合いから離れるように飛び退こうとして動けなくなった。
「牛ィ!」
「死ぬ時は私も一緒に」
「ずるいってのーっ!?」
金棒を腰溜めにして突いて来る。刺さりはしないが鎧が壊れるから止めれ!離せっ!
「んっぎぃいっ!」
タララの攻撃が横に逸れた。奇声を上げたアリがタララに体当たりして軌道を逸らしてくれたのだ。マジ助かった。
「不意打ちはずるいよぉ~」
「周りに目を向けていなかったタララ様がいけません。ゲイン様もですよ?」
「はーい」「う~い」
軽く?体を動かして、街に戻る。門番には痴話喧嘩してると思われたみたい。
「お前、ファルケの子だろ?浮気も程々にな?」
…なんて言われたが、俺はいつも本気で生きているんだぜ。一応誤解だとは言っておいたが。
「ゲーイーンさーん」
ギルドのスイングドアの前にメロロアが。その奥では女達がキャッキャしてる。どうしたのか?
「どうしたの?」
「通り過ぎるのを見かけたのでナニをしていたのかと」
「ああ、みんなと体を動かしてたんだ」
ざわ…ざわ…
「入れ代わり立ち代わりやったわね」
チッ キャー!
「もっと棒の使い方上手くなんなきゃね~」
キャー! チッ チッ! クソッ
「背後からは基本なので、次は正面から行きますね」
キキャーー!! 爆ぜろ チッ!
何を言ってるのか分からないが、ギルドの中が騒がしい。ドアの前で喋っているので中から視線が飛んで来る。往来の邪魔だったな。先に風呂に行く事を伝えてその場を後にした。
「いやぁ~、ゲインさん人気者ですね~」
夕飯を食べて、部屋に戻るとほろ酔いのメロロアが口を開く。午後のギルドで俺の話が女達に持ち切りだったそうだ。一体何を言われたのだろうか。
「私がゲインさんのモノになったからって、私も私もーって。勿論お断りしておきましたけどねっ」
「何か俺、とんでもない甲斐性無しに思われてないか?」
「かも知れないわね。けど事実よ。…ゲイン、こっち見て」
アントルゼも心無い言葉を言うようになったか…。振り向くと目の前にアントルゼ。
チュッ
顔を捕まれキスされた…。口と口だ。
「おまっ…」「寝るわ。お休みのキスよ」
そう言うのはおでことかにするんじゃないのか?
「そだね。今日もいっぱい動いたし、寝よ寝よ」
タララが俺を引っ張って、当然のようにくっ付けられたベッドに寝かされる。
「灯りを消しますね」
カウモアが灯りを消して、当たり前のように俺の背中に抱き着いた。とても柔らかい。俺の目の前はタララのおっぱいがあると思われるが、暗くてよく分からない。ムニュッと顔に押し付けられた感触に、布の質感は無かった。
「吸って、良いからね…」
囁くようなタララの甘言に、俺はお休みのキスをして眠りに着いた。
目が覚めて、目の前にはタララの谷間。上着脱いでたのか…。起き上がりたいけど抱き着かれてて離れない。しかも後ろにはカウモアだろう柔らかい感触が押し付けられている。
「タララ、朝だよ。離してくれ」
「…ゲイン~…」
寝ぼけてるのか、脚まで絡ませて来た。脚を使って体を引き寄せると当たり前だが体が密着する。
「あん…」
テントを張った中身がタララの体に密着し、擦れた。これはダメだ。
「メロロア!助けてくれ!」
「はっ!はいいっ!?」
飛び起きたメロロアが俺達の寝てる布団を引っ剥がす。
「なんと…羨ましい」
「助けてくれ…。タララと、もっと冒険者していたいんだ」
「ふぅ、泣かないでください。タララさん、起きないと…」
「!?あきゃっ!」
メロロアの威圧でタララが飛び起き、ベッドから転げ落ちた。カウモアもびっくりして俺から離れたようだ。
「何事よ!?」
アントルゼも起きたようだ。
「メロ、ロアさん…、ひどいよぅ」
「ゲインさんを泣かせた人に、慈悲はありません」
「え?泣いて…?何で?え?」
「貴女が寝ぼけて子作りしようとしたからですよ。ゲインさんがその辺、我慢してるの知ってますよね?寝ぼけてたとは言えダメな物はダメでしょ?」
「……そか。ごめんね、ゲイン」
「うん。分かってる。わざとじゃないのは分かってる…。けどさ、何で服、着てないんだ?上着だけかと思ったら…、下まで履いてないじゃねーか」
「暑かったから、かな?」
「ゲイン様」
背後で俺を呼ぶカウモアの声に振り向くと、此方も全裸になっていた。
「お前もか…」
「暑かったのは本当です。ゲイン様、発熱しておりましたよ?」
「マジか…。子供じゃあるまいに…」
「タララ様は寝ながら服を脱いでましたけどね」
「分かった。熱を下げてくれて、2人共助かったよ、ありがとう。勘違いしてごめんな?」
「誤解が解けたならさっさと服を着なさいよ。いつまで裸で居るのかしら?」
そそくさと着替え出す2人。俺も着替えてからトイレに行こう…。
「所でゲイン、今硬くなってるのはおしっこ?それとも性欲?」
「両方だよ。俺だって男だもの。エッチな事だってしたいさ。けどそんな自分勝手な欲のためにパーティーに波風立てたくない。タララの事は好きだけど、今エッチしたら旅のどこかで無理をさせる事になる」
「そうですね。管理と配慮が出来るゲインさんは男性としてだけでなく、冒険者としても優秀です」
「良かったわね、褒められたわよ?」
「子供の頃に居たんだよ。村でつわりが出た女の冒険者がな。他の冒険者が村の女達にすげー詰め寄られててな。つわりの女以外、依頼しないで追い出されてた」
「色々参考にしてるのね」
「皆さん、ゲインさんがお堅い理由が知れて良かったですね。今夜は私と一緒に寝ましょう。ね?」
ね?と言われても…。いつもダメダメ言うタララはしんなりしてるし、カウモアは俺の意思次第だろう。良いのかなぁ。
「ベッドに空きがあったらな」
そんな返事でやり過ごし、着替えて食堂に降りて行った。俺とアントルゼは先にトイレを済ませてから食堂に向かうと、神妙な顔付きのタララに顔を寄せる牛とメロロアが円卓に座ってた。
「あんた達、何ヒソヒソしてんのよ?」
「あ、おかえり~」「おかえりなさいませ」
「今後の予定を話していたんです。どうしてもパーティーに必要な事なので」
「揃ってから話せば良いのに」
「たまたま話題が出たので話になっただけですよ。詳しくは私が帰って来てからと言う事で。とにかく朝食を頂きましょう」
俺とアントルゼがトイレに行っている隙にみんなの分の朝食を頼んでしまったらしい。合理的だが前もって聞いてくれたら良かったな。
で、持って来たのは焼肉とマタルスープとソーサー、そして水。美味いから不問にした。
「ゲインさん、ギルドでより詳しく調べますので帰って来るまで良い子にしててくださいね」
メロロアが出社して、俺達は暇になる。いつまでも食堂に居ても煙たがられるし、今夜の分の宿代を払って部屋に戻ろう。
「今日は訓練するの?」
「そうだな。軽く動いて調子を整えようか。カウモアはどうすべきだと思う?」
「不足した食料があれば買い出しをするのも良いですね。洗濯をしても良いかも知れません」
洗濯はしなきゃな。食料の入った箱と衣類の箱を取り出して、中身をチェックする。乾燥野菜はまだまだ充分。マタル粉もある。調味料もあるかな。干し肉は30枚、匂いは…良し。油はほとんど使ってないから問題無し。
「干し肉は4~5回分って感じだな」
「塩は足りてますか?」
「干し肉を作るとなると、無いな」
「では塩を買い足しましょう」
「分かった。洗濯は俺の箱でやってしまおうか」
箱の中身を取り出すと、アントルゼが板を出してくれる。
「誰からやる?」
「ゲインからでいーよ?あたい今から出すから」
使用済みの衣類を箱に入れ、蓋をしたらウォッシュ。ガタガタ言いながら揺れる箱を放置してベッドに横になるが、大した量じゃないのですぐに静かになった。湿った衣類をアントルゼの板に伸して次の洗濯物を待つ。3人の洗濯が終わり、それぞれ服が伸されたら、デリートウォーターで一気に乾かした。パリパリになった服をカラカラになった箱に仕舞って収納。
「ありがとゲイン」「ありがとうございました」「ありがと」
「使った方が成長しそうだしな、良いって」
「成長、するのかしら?」
「どうだかな。新しい使い方を発見出来るかも知れないだろ?」
「血抜きみたいな?」
「血は抜かれませんでしたが喉が乾きましたね」
「そうね。お水飲んだら買い物に行きましょ」
ヤカンに魔法で水を注ぎ、コップに注いで飲んだ。今更だけど、この程度のウォーターなら魔力減らなくなったんだよな。アクセサリーに感謝だ。
宿を出て、食料品店で塩を買う。小瓶入りの焼き塩でなく、塊の岩塩を買った。普通はこれを店頭で砕いて量り売りするのだが、小さくなって重さが8ナリだったので全部買ってしまったのだ。小瓶代込みの焼き塩よりも安いし、砕く手間賃が無いと言う事で15000ヤンに負けてもらった。
「他に何か買いたい物はあるか?」
「串焼き!」
「昼飯に買って帰ろうな。他には?」
「お肉!」
「宿で干し肉作るのか?出来なくはないな。他にっ」
「これと言ってないわね」
「ゲイン様、鎧のチップを買いたいです」
チップか。そう言えばあったな。肉を塊で5ナリ5000ヤンで買って、ブラウンさんのチップ屋へと向かった。
「おお、友よ。それにお嬢様達もよくぞいらした。こちらの準備は万端ですぞ」
「こんにちは。今日は色々しに来たよ」
ドアを開けて即座に反応したブラウンさん。まさか感知系スキルを増やしたのか?
「ほほう、とにかく中へ。どうぞこちらへ」
色々、と聞いて思案すると、すぐにカウンター横のテーブルへと誘われた。
「さて、今日は妻が外出しておりましてお茶も供せませぬがご容赦されたい」
「気にしないで。私は冷やかしよ」
「私は先日買いそびれた物を買いに参りました」
「俺はちょっとした物を売りたいのと、良いヤツを見せびらかそうかと思って」
「あたい着いて来ただけ~」
「では、そちらのお嬢様からご要件を伺いましょうぞ」
「鎧の金チップを私とアントルゼで1枚ずつ所望します」
「え?私もなの?」
「金属鎧を着ける以上、あって困る物ではないかと」
「重くて避けられませんじゃこないだみたいに痛い目に遭うしな。俺はおすすめするが」
「んん…、分かったわ。痛いのは嫌だしね」
渋々だが買うようだ。ゲル鎧の多いアントルゼには固くなる効果より、軽くなる方が役立つはずだ。
「毎度ありがとうございまする。すぐにお持ちしましょう」
バックヤードに消えるブラウンさんだが、本当にすぐに戻って来た。手に持つ2枚は擦り切れていて、店に飾れない物だとすぐに分かった。
「もしかして、抱き合わせで買わされたのかしら」
「ご名答。ですが使用には問題無く、お値打ち品となっております」
「なら気兼ねなく使えるわね。買うわ」
値段聞けよ。75000ヤンだって。抱き合わせで15万って、一体何を買ったんだ?金を払ってもくもくスーハー。その場で使っていた。
「何となくだけど、体が軽く感じるわ」
「外用に着替えるとより感じる事でしょうね」
「さて友よ。次はいかがなさいまするか」
「ああ、なら先に売り物から見てもらおうかな」
グラスベアとラージアントソルジャーのチップを1枚ずつ、カウンターに乗せた。
「グラスベアは数が狩れないので8枚しか持って来れなかったんだ。その代わり、アントソルジャーは128枚ある。以前あげたアントワーカーは655枚あるけど、買う?効果は以前説明した通りだけど、アントソルジャーも同じ効果だよ」
「1つのダンジョンで同じ効果のチップが3種も出るとは驚きですな。白チップで2000と付けましたが効果がしっかり開示出来るので売れ行きは好調ですぞ。しかし、ゲイン殿の分は残しておいでですかな?」
「あ、無いかも」
「なれば余剰分だけ買い取らせて頂きましょう」
グラスベアは8枚、アントソルジャーが29枚。アントワーカーは655枚全て買い取ってもらった。692枚で103万8000ヤン。デカい仕入れしたんだろうけど、買えるのか?
「はっはっ、心配召さるな。この程度で傾くブラウン商店ではございませんぞ」
「う、すみません。もしかして感知買ったの?」
「買っていたらゲイン殿に売り付けておりますよ。これは商いを通じて察知の効果が増したのでしょうな」
「なるほど。やはり使う程に使いやすくなるようだね」
「そのようですな。今代金を用意しますぞ」
再びバックヤードに消え、金を持って帰って来た。ミスリル貨5枚に金貨53枚、そして銀貨が8枚並ぶ。取引成立だ。
「良い買い物が出来ましたぞ。質も良く目新しいチップは大歓迎であります。いつでもお持ちくだされ」
「今回売るつもりはないのだけど、目新しいのを見てもらおうかと思って」
「ゲイン殿もコレクター精神に目覚めましたかな。誠良き事です」
「さすがに勿体無さ過ぎてね…」
カウンターに、2枚のチップをそっと乗せたその瞬間、ブラウンさんの目が見開いた。
「アリ!?それに、まさか、存在していたのですか!?」
「ラージアントクイーン。ダンジョンのフィールドボスです」
「ゲイン殿のランクは確かCであったハズ…。箱からのドロップも有り得ない…」
「倒したのよ。私見てただけだけど」
「単体でランクAですぞっ!?」
「大変だったよね~、穴掘るの」
「穴!?」
「倒し方は内緒って事で。一応飯の種だからね」
「何ともはや…。護衛依頼をこなせばすぐにでもBランクに上がれますな…。それにしても、こちらの袋も初めて見ますぞ」
「俺も初めて見たよ。マジックバッグの白は箱からだけど、相当レアっぽいよね、容量少ないくせに」
「容量が少ない、と?」
「これも秘密。けど10種50ナリだよ。美品で4000って感じかな」
「なんと…。今まで虹チップこそが至高と考えておりましたが、初心に戻った気分ですぞ…」
「ブラウンさんが使ってる保護用の板って、普通に売られてる物なの?良かったら2つ程買わせて欲しいのだけど」
「勿論、販売しておりますぞ。…ですが…、1つでは、なりませんか?」
うるうると子犬の目をして覗き込んで来た。可愛い女の子ならクラっとしてしまう所だが、残念ながら目の前にいるのはオッサンだ。
「…ど、どちらが?」
「袋で…」
「分かりましたよ」
「っしゃぁあああああっ!!」
うるせえ。ゲル版の保護ケース10個と交換した。1つ400ヤンなのかと思ったが、2000ヤンらしい。4000ヤンの価値のチップに2万払うのか。これがコレクターなんだな。大事そうにケースに仕舞うのを見ながら俺も女王のチップをケースに仕舞った。
「こう見るとまた見栄えがするな…」
「そうなのです!価値が一段上がりますぞ」
2000ヤン分な。ブラウンさんは手にしたばかりのお宝をバックヤードに隠しに行くので俺達も店を出る事にした。
「男って、集めるの好きよね」
半ば呆れたような声でアントルゼが口を開く。
「女もじゃないか?村の女達ですらアクセサリーとか自作して溜め込んでたりしたし」
「人は何かを集めたがる生き物なのでしょう」
「ドラゴンとかも財宝集めてたりするよね~」
「そう聞くとコレクションが高尚な趣味に聞こえるわね」
「物語の中だけらしいですが」
「見た事ないもんね~」「そうね~」
「見たら生きてられないな」
「怖くて行けませんね」
だべりながら串焼き買って宿に戻った。
夜になり、定時で上がったメロロアが帰って来た。
「ただいま戻りましたー。お風呂にします?ご飯にします?それとも…」
「それ、帰って来た人が言うのか?」
「ならゲインさん言ってくださいよ」
「はいはいおかえり。先に風呂入りたいやーつ」
「入りたいわ」「では私も」
挙手して聞くと俺を含めて3本上がった。タララはお腹空いてるので先に食べたいみたいだな。
「私はどちらでも」
「ゲイ~ン。ゲイ~~ン」
「分かったよ、みんなも良いか?」
「仕方ないわね」「ゲイン様の優しさに溺れてしまいそうです」
「飲んでからだとお風呂入れないんですよね…
。ゲインさん、お風呂の後付き合ってくださいね」
そう言うのもあるのか。今回は付き合ってやるかな。萎びたタララを担いで食堂へ向かうと、匂いに反応して元気になって来た。そこそこ混んでて円卓が埋まってるので今夜はカウンター。
「焼肉2つと豆スープとソーサー!お水もっ」
「鳥焼きと豆スープとソーサー、あと水で」
「焼き魚とキノコスープとソーサーと水を」
「私もそれで良いわ」
「焼肉とマタルスープと水をお願いします」
各々好きな物を頼んで待つ。暫くかかって料理が揃い、金を払っていただきます。ガリガリと鳥の骨を齧る俺の横で焼肉を食い千切るタララ、反対側には対象的な作法で食べるアリと牛。その奥に後の飲酒の為に少食なメロロアと並ぶ。正面を見て食べてるのでみんな無言だ。
「味気ないわね。何か話さない?」
耐え切れず、アントルゼが口を開いた。
「お肉、あぐ…おいひぃよ?」
「ガリッ、ボリボリゴリ、ボリ…」
「ゲインさん、人の解る言語でお願いします」
「んぐ…、食ってただけだよ。メロロアはそんなんで足りるのか?」
「後で飲みますから。絶対付き合ってくださいよ?」
「はいはい。カリッゴリッ…」
その後は再び黙々と食べて、お風呂セットを持って公共浴場へ。キャッキャしてる女達の声をよそに、俺は無言でゆっくり風呂を楽しんだ。小さくても良いから、家に風呂が欲しい…。
「これから私はゲインさんと大人の時間です。皆さんは寝てて良いですからね」
宿に戻るとメロロアが何事かのたまい出したが、お前が酔い潰れたら誰がドアを開けるんだ?みんなが寝てしまう前に切り上げなければならない。
タララ達三人が部屋に戻って行き、俺とメロロアは酒場と化した食堂へ。たまたま空いてた2人席に陣取ると、メロロアはすかさず2人分のエールを注文していた。俺が焼き魚を頼むと鳥焼きを注文してた。
「2人きりですよ、ぐふふ」
「他にも客は居るだろう」
「んも~、折角なんですから合わせてくださいよ~。とにかく、かんぱーい」
料理と酒が並ぶと、ジョッキを持ったメロロアが乾杯の音頭を取る。仕方ない、合わせるか…。
エールをチビチビ、魚をツマツマ。そんな俺の対面ではエールを煽ってガリガリと鳥の骨を噛み砕く、ゴロツキみたいな女がいる。メロロアだ。
「おねーさーんエールおっかわり~」
既に3杯目を飲み干している。小鳥1羽で何杯飲むのだろう。
「よくもまあ、そんなにたくさん飲めるな」
「うぇへへ~、ゲインさんと一緒だかられすっ」
「その理屈はどうなんだ?」
新たに運ばれて来たエールを流し込み、鳥の足をボリボリ。
「確か朝、今後の予定がなんだとか言ってたよな?」
「はい~。調べて来まひたよ~。ほめてくらさ~い」
「褒められる事ならな。で、何だったんだ?」
「あとれみらさんにもお伝えひますら…」
呂律が回ってない言葉を要約すると、グェッテルラントに行く前に、シュートリンガンの街に寄りたいらしい。グェッテルラントは西門からで、シュートリンガンは南門からの出発なので遠回りなのだが、どうしても行かねばならないと言う。行って帰ってするのが無駄足に感じたが、シュートリンガンからでも国境を超えてグェッテルラントに行けるそうだ。途中で道が繋がるんだとさ。
「移動はどうすんだ?」
「ごえ~いらいするにゃあ、ランクが足りまはんね~」
「俺とタララが受けて、3人はオマケにしても良いんだろ?」
「おすすめれきまへんれ~」
「どうしてだ?」
「敵ら来ても逃げられまへんでひょ」
確かに。狭くてブロック使い放題なダンジョンなら多少の無理は出来るかも知れないが、野外で囲まれたら逃げられない可能性が高い。ましてやアントルゼはまだ野盗を殺ってないのだ。カウモアは多分出来るだろうし、メロロアは言わずもがなだが、不安要素があっては依頼を受けたくないな。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/E
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス
鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き
水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ
土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン
火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー
所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
水のリングE
水のネックレスE
革製リュック
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 9ハーン
└布カバン
├冊子
├筆記用具と獣皮紙
├奴隷取り扱い用冊子
└木のナイフ
革製ベルトE
├ナイフE
├剣鉈E
├剣鉈[硬化(大)]E
├解体ナイフE
└ダガーE
小石中☆500
小石大☆450
石大☆20
冒険者ギルド証 0ヤン
財布 ミスリル貨238 金貨15 銀貨16 銅貨14
首掛け皮袋 鉄貨74
箱中 666,435→1,648,935ヤン
ミスリル貨7 金貨82 銀貨118 銅貨109 鉄貨35 砂金1250粒
マジックボックス
├箱
|└シルクワームの反物×33
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱
├ランタン箱
|└油瓶×10 9.4/10ナリ
├竈、五徳
├蓋付きバケツ大
├テントセット
├マット×4
├毛布×4
├洗濯籠
|├耐水ブーツ
|└耐水ポンチョ
└宝石
鉄兜
肩当
胸当
腰当
上腕当
ゲル手甲
ゲル股当
帆布のズボン
脛当
鉄靴
熊皮のマント
籠入り石炭0
石炭86ナリ
ランタン
油瓶0.3/0.8ナリ
着火セット
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツE
├パンツ
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セット
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服BセットE
スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 0/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 0/2859
ハチS 0/1
カメ 0/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1861
石S 0/1
スライム 0/2024
オオスズメ 0/1573
トンビS 0/4
フォレストモンキー 0/972
ウルフ 0/1070
カラードウルフ 0/1
ワニS 0/1
グラスベア 0/1
ラージアントワーカー 0/100
ラージアントソルジャー 99/100
蝶 0/204
花 0/161
腕 0/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 0/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 0/576
体 0/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 0/627
ナイフ 0/640
ナイフS 0/1
短剣 0/352
短剣S 0/100
鎧S 0/1
袋S 0/1
箱G 0/1
水滴 0/446
水滴S 0/1
立方体 0/525
火 0/4
魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
ドクハキヤモリ 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
眼鏡S 0/100
眼鏡G 0/1
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