7 / 31
第6章「魔法学院の天才少女──氷の瞳の魔女」
しおりを挟む
王都の北側、丘の上に建つ壮麗な建物──それが王立魔法学院だった。
「すごい……」
蓮は感嘆の声を上げた。
白い大理石で造られた建物は、まるで宮殿のように美しい。
中央には高い塔が聳え立ち、その周囲を四つの校舎が囲んでいる。
「魔法学院は、王国で最も優秀な魔術師を育成する場所です」
アリシアが説明した。
「入学するには、厳しい試験に合格しなければなりません」
「リリアは、何歳で入学したの?」
蓮が尋ねた。
「……12歳」
リリアは短く答えた。
「12歳!?」
「通常は15歳以上でないと受験資格がないのよ。でも、私は特別に飛び級を認められた」
リリアは感情を表に出さずに言った。
「それってすごいことじゃん!」
「別に」
リリアは素っ気なく答えた。
「行きましょう。時間がないわ」
三人は学院の門をくぐった。
学院の中庭には、多くの学生たちが集まっていた。
ローブを着た若者たち。
魔法の練習をしている者、書物を読んでいる者、談笑している者──
「あ、リリア先輩だ」
「本当だ……」
学生たちが蓮たちに気づき、ざわめき始めた。
「氷の魔女が戻ってきた」
「誰と一緒なの?」
「冒険者みたいだけど……」
ひそひそと囁く声。
「氷の魔女……?」
蓮は首を傾げた。
「気にしないで」
リリアは冷たく言った。
「ただのあだ名よ」
だが、その表情には少し寂しさが滲んでいた。
学院長室に到着すると、老齢の魔術師が待っていた。
「おお、リリア。よく来てくれた」
学院長のアルベルトは、長い白髭を蓄えた温厚そうな老人だった。
「学院長、こちらが私のパーティメンバーです」
リリアは蓮とアリシアを紹介した。
「初めまして。神谷蓮です」
「アリシアです」
「うむ。わざわざ来てくれて感謝する」
アルベルトは頷いた。
「早速だが、事件について説明しよう」
アルベルトは机の上の書類を広げた。
「三日前から、学院内で不審な現象が起きている」
「不審な現象?」
「深夜、図書館や実験棟に黒い影が現れるのだ」
「黒い影……」
蓮は眉をひそめた。
「魔物か何かですか?」
「わからん。だが、その影が現れると、学生たちが昏睡状態に陥る」
「昏睡状態……」
アリシアは深刻な表情を浮かべた。
「すでに5人の学生が被害に遭っている。幸い、命に別状はないが……」
アルベルトは険しい顔をした。
「このままでは、学院を閉鎖せざるを得ない」
「わかりました。すぐに調査します」
リリアが言った。
「頼む。君たちなら、きっと解決してくれると信じている」
学院長室を出ると、リリアは深いため息をついた。
「大丈夫?」
蓮が尋ねた。
「ええ」
リリアは答えたが、どこか元気がない。
「この学院、あまり好きじゃないの?」
「……」
リリアは答えなかった。
「まずは図書館に行きましょう」
アリシアが提案した。
「影が最初に現れた場所ですから」
「そうね」
三人は図書館へと向かった。
図書館は広大だった。
天井まで届く本棚が無数に並び、何万冊もの書物が収められている。
「すごい蔵書量だな……」
蓮は圧倒された。
「魔法学院の図書館は、王国最大の蔵書を誇るのよ」
リリアが説明した。
「古代の魔法書から、最新の研究論文まで、ありとあらゆる知識がここにある」
「リリアは、ここでよく勉強してたの?」
「……ええ」
リリアは本棚の間を歩いた。
「一人で」
その言葉には、寂しさが滲んでいた。
「一人で?」
「私には友達がいなかったから」
リリアは淡々と言った。
「12歳で入学した私は、周りの学生たちより5歳も年下だった」
「……」
「それに、私は彼らよりも魔法の才能があった。だから──」
リリアは立ち止まった。
「嫉妬されたのよ。疎まれたのよ」
「リリア……」
蓮は胸が痛んだ。
「『天才』って言われるのは、嬉しいことじゃないわ」
リリアは自嘲気味に笑った。
「孤独になるだけ」
「でも、今は違うでしょ?」
アリシアが優しく言った。
「今は、私たちがいます」
「……そうね」
リリアは小さく微笑んだ。
「ありがとう」
その時──
突然、図書館の灯りが消えた。
「え……?」
蓮は周囲を見回した。
真っ暗闇。
窓から差し込む月明かりだけが、わずかに視界を照らしている。
「何が……」
その時、リリアが叫んだ。
「来た……!」
黒い影が、図書館の奥から現れた。
人型だが、輪郭が曖昧。
まるで煙のように揺らめいている。
「あれが……」
「シャドウフィーンド……!」
リリアは杖を構えた。
「Bランクの魔物……影を操る悪霊よ!」
「悪霊……!?」
「物理攻撃は効かない。魔法で倒すしかないわ」
リリアは詠唱を始めた。
「光よ、闇を払え──ライトニングボルト!」
雷の魔法がシャドウフィーンドに直撃した。
ギャアアアッ!
シャドウフィーンドは悲鳴を上げた。
だが──倒れない。
「硬い……!」
「アリシア、神谷さん、下がってて!」
リリアは次の魔法を唱えた。
「炎よ、全てを焼き尽くせ──フレイムストーム!」
巨大な炎の竜巻がシャドウフィーンドを包み込む。
だが──
シャドウフィーンドは炎を突き抜けて、リリアに襲いかかった。
「くっ……!」
リリアは咄嗟にバリアを張ったが、衝撃で吹き飛ばされた。
「リリア!」
蓮は駆け寄った。
「大丈夫……?」
「ええ……でも、予想以上に強いわ……」
リリアは立ち上がった。
「一人じゃ無理ね……」
「じゃあ、俺たちも戦おう」
蓮は決意した。
「でも、物理攻撃は効かないんでしょ?」
「アリシアの剣に魔法を付与すればいいわ」
リリアは素早く魔法を唱えた。
「炎よ、剣に宿れ──エンチャント・フレイム!」
アリシアの剣が炎に包まれた。
「これなら戦えます!」
「神谷さん、支援を!」
「わかった!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
リリアとアリシアの体が光り輝いた。
「この力……!」
「行くわよ!」
リリアは最大火力の魔法を放った。
「フレイムエクスプロージョン!」
巨大な爆発がシャドウフィーンドを襲う。
同時に、アリシアが突撃した。
「はああっ!」
炎を纏った剣が、シャドウフィーンドを切り裂いた。
ギャアアアアッ!
シャドウフィーンドは悲鳴を上げて消滅した。
「やった……!」
だが、次の瞬間──
図書館の各所から、複数のシャドウフィーンドが現れた。
「嘘……まだいるの……!?」
リリアは驚愕した。
「5体……いえ、6体……!」
「これは……」
アリシアは身構えた。
「誰かが意図的に召喚している……」
「召喚……?」
蓮は周囲を見回した。
「どこかに、術者がいるはず……」
その時、図書館の上層から声が響いた。
「よく気づいたな」
冷たい声。
三人は上を見上げた。
二階のバルコニーに、黒いローブを纏った人影が立っていた。
「お前は……」
リリアは目を見開いた。
「まさか……ヴィクター……!?」
「久しぶりだな、リリア」
ヴィクターと呼ばれた男は、フードを下ろした。
20代半ばと思われる青年。
整った顔立ちだが、その目には狂気が宿っていた。
「お前……学院を追放されたはずじゃ……」
「ああ、追放されたよ。お前のせいでな」
ヴィクターは冷笑した。
「お前が告発したから、俺は禁術の研究を理由に追放された」
「当然よ。あなたは生徒を実験台にしていた……」
「実験? 違うね。あれは研究だ」
ヴィクターは狂った笑みを浮かべた。
「魔法の限界を超えるための、必要な犠牲だったんだ」
「狂ってる……」
「狂ってる? いいや、俺は正常だ」
ヴィクターは腕を広げた。
「そして今、俺は復讐に来た」
「復讐……」
「お前を苦しめるために。お前が大切にしているものを、全て奪うために」
ヴィクターはシャドウフィーンドたちに命じた。
「行け。あの女を殺せ」
6体のシャドウフィーンドが一斉に襲いかかった。
「くっ……!」
リリアは魔法を放つが、数が多すぎる。
「リリア、一人で抱え込むな!」
アリシアが叫んだ。
「私たちがいる!」
「そうだよ、リリア!」
蓮も叫んだ。
「俺たちは仲間だろ!」
「……二人とも……」
リリアの目に涙が滲んだ。
「ありがとう……」
リリアは決意した。
「やるわよ……全力で!」
「ああ!」
三人は連携して戦った。
蓮の支援を受けたアリシアとリリアは、次々とシャドウフィーンドを倒していく。
「くそっ……」
ヴィクターは焦った。
「こんなはずじゃ……」
「あなたの負けよ、ヴィクター」
リリアは杖を向けた。
「あなたは、仲間の力を知らない」
「仲間……? くだらない」
ヴィクターは嘲笑した。
「強さとは、個の力だ。他人に頼るなど、弱者のすることだ」
「違う」
リリアは首を振った。
「本当の強さは、仲間と共にあることよ」
「……」
「私も、昔はあなたと同じことを考えていた」
リリアは蓮とアリシアを見た。
「でも、この二人と出会って、わかったの」
「一人で戦うより、仲間と戦う方が、ずっと強いって」
「戯言を……!」
ヴィクターは最後の魔法を唱えた。
「闇よ、全てを飲み込め──ダークネスフィールド!」
図書館全体が、深い闇に包まれた。
「見えない……!」
アリシアが叫んだ。
「神谷さん、どこ!?」
「ここだ!」
蓮は二人に駆け寄った。
「リリア、この闇を消せる?」
「できるわ。でも……」
リリアは躊躇した。
「私の最大魔法を使えば、建物が崩れるかもしれない……」
「大丈夫」
蓮は笑顔で言った。
「俺の支援があれば、制御できるよ」
「……本当に?」
「ああ。リリアを信じてる」
「……わかったわ」
リリアは杖を高く掲げた。
「聞いて、神谷」
「うん」
「私ね……ずっと一人だった」
リリアは目を閉じた。
「誰も信じられなかった。誰にも頼れなかった」
「……」
「でも、あなたと出会って、変わった」
リリアは目を開けた。
「初めて、誰かを信じてもいいと思えた」
「リリア……」
「だから──信じるわ。あなたを」
リリアは詠唱を始めた。
「光よ、全ての闇を払い、世界に輝きを取り戻せ──」
蓮は支援魔法を最大限に発動した。
「グランド・サポート!」
「──ホーリーノヴァ!」
図書館全体が、眩い光に包まれた。
闇が消え去り、ヴィクターは光に飲み込まれた。
「ぐああああっ!」
ヴィクターは倒れた。
光が消えると、図書館は元の静けさを取り戻していた。
「終わった……」
リリアは膝をついた。
「お疲れ様」
蓮はリリアの肩を支えた。
「すごかったよ、リリア」
「……ありがとう」
リリアは小さく微笑んだ。
ヴィクターは騎士団に引き渡され、学院の事件は解決した。
昏睡状態だった学生たちも、全員目を覚ました。
「本当にありがとう」
学院長のアルベルトは深々と頭を下げた。
「君たちのおかげで、学院は救われた」
「いえ、当然のことです」
アリシアは微笑んだ。
「リリア」
アルベルトはリリアを見た。
「君は、素晴らしい仲間を得たな」
「……はい」
リリアは頷いた。
「本当に、素晴らしい仲間です」
その夜、三人は学院の中庭で休んでいた。
星空が美しい夜だった。
「リリア、今日は本当にすごかったね」
蓮が言った。
「あの最後の魔法、圧巻だったよ」
「あなたの支援があったからよ」
リリアは空を見上げた。
「一人じゃ、あんな魔法は使えなかった」
「私も、リリアさんの強さを改めて実感しました」
アリシアも言った。
「私たち、本当にいいチームですね」
「ええ」
リリアは微笑んだ。
「本当に……いいチーム」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、リリアが口を開いた。
「ねえ、二人とも」
「うん?」
「私、今まで誰にも言わなかったことがあるの」
リリアは膝を抱えた。
「実は……私、幼い頃に両親を魔物に殺されたの」
「……」
蓮とアリシアは黙って聞いた。
「それからは、親戚の家を転々として……誰も、私を本当の意味で愛してくれなかった」
リリアの声が震えた。
「私の魔法の才能だけを評価して、私という人間を見てくれなかった」
「リリア……」
「だから、私は人を信じられなくなった。心を閉ざして、一人で生きてきた」
リリアは涙を拭った。
「でも……あなたたちは違った」
「私の才能じゃなくて、私自身を見てくれた」
リリアは二人を見た。
「初めて……本当の仲間ができた気がする」
「リリア……」
蓮は優しく微笑んだ。
「俺たちは、ずっと仲間だよ」
「そうです。これからも、ずっと一緒です」
アリシアも頷いた。
「……ありがとう」
リリアは泣きながら笑った。
「本当に、ありがとう」
三人は静かに夜空を見上げた。
星が、美しく輝いていた。
新しい絆が、また一つ深まった夜だった。
翌朝、三人は王都へと戻った。
「今日は、ゆっくり休みましょう」
アリシアが提案した。
「昨日は激戦だったし」
「そうね」
リリアも頷いた。
「たまには休息も必要よ」
「じゃあ、三人でどこか行く?」
蓮が尋ねた。
「いいわね」
「賛成です」
三人は街を散策することにした。
市場で買い物をしたり、美味しい食事を楽しんだり、笑い合ったり──
「楽しいな」
蓮は笑顔で言った。
「こういう時間、大切だね」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「戦いだけが全てじゃないですからね」
「そうね」
リリアも頷いた。
「たまには、こういう日常も必要よ」
三人は幸せな時間を過ごした。
だが、彼らが知らないうちに──
新たな運命の出会いが、すぐそこまで迫っていた。
獣人の少女・セラとの出会いが、間もなく訪れる。
そして、蓮の心に新たな感情が芽生え始める。
物語は、新しい局面を迎えようとしていた。
「すごい……」
蓮は感嘆の声を上げた。
白い大理石で造られた建物は、まるで宮殿のように美しい。
中央には高い塔が聳え立ち、その周囲を四つの校舎が囲んでいる。
「魔法学院は、王国で最も優秀な魔術師を育成する場所です」
アリシアが説明した。
「入学するには、厳しい試験に合格しなければなりません」
「リリアは、何歳で入学したの?」
蓮が尋ねた。
「……12歳」
リリアは短く答えた。
「12歳!?」
「通常は15歳以上でないと受験資格がないのよ。でも、私は特別に飛び級を認められた」
リリアは感情を表に出さずに言った。
「それってすごいことじゃん!」
「別に」
リリアは素っ気なく答えた。
「行きましょう。時間がないわ」
三人は学院の門をくぐった。
学院の中庭には、多くの学生たちが集まっていた。
ローブを着た若者たち。
魔法の練習をしている者、書物を読んでいる者、談笑している者──
「あ、リリア先輩だ」
「本当だ……」
学生たちが蓮たちに気づき、ざわめき始めた。
「氷の魔女が戻ってきた」
「誰と一緒なの?」
「冒険者みたいだけど……」
ひそひそと囁く声。
「氷の魔女……?」
蓮は首を傾げた。
「気にしないで」
リリアは冷たく言った。
「ただのあだ名よ」
だが、その表情には少し寂しさが滲んでいた。
学院長室に到着すると、老齢の魔術師が待っていた。
「おお、リリア。よく来てくれた」
学院長のアルベルトは、長い白髭を蓄えた温厚そうな老人だった。
「学院長、こちらが私のパーティメンバーです」
リリアは蓮とアリシアを紹介した。
「初めまして。神谷蓮です」
「アリシアです」
「うむ。わざわざ来てくれて感謝する」
アルベルトは頷いた。
「早速だが、事件について説明しよう」
アルベルトは机の上の書類を広げた。
「三日前から、学院内で不審な現象が起きている」
「不審な現象?」
「深夜、図書館や実験棟に黒い影が現れるのだ」
「黒い影……」
蓮は眉をひそめた。
「魔物か何かですか?」
「わからん。だが、その影が現れると、学生たちが昏睡状態に陥る」
「昏睡状態……」
アリシアは深刻な表情を浮かべた。
「すでに5人の学生が被害に遭っている。幸い、命に別状はないが……」
アルベルトは険しい顔をした。
「このままでは、学院を閉鎖せざるを得ない」
「わかりました。すぐに調査します」
リリアが言った。
「頼む。君たちなら、きっと解決してくれると信じている」
学院長室を出ると、リリアは深いため息をついた。
「大丈夫?」
蓮が尋ねた。
「ええ」
リリアは答えたが、どこか元気がない。
「この学院、あまり好きじゃないの?」
「……」
リリアは答えなかった。
「まずは図書館に行きましょう」
アリシアが提案した。
「影が最初に現れた場所ですから」
「そうね」
三人は図書館へと向かった。
図書館は広大だった。
天井まで届く本棚が無数に並び、何万冊もの書物が収められている。
「すごい蔵書量だな……」
蓮は圧倒された。
「魔法学院の図書館は、王国最大の蔵書を誇るのよ」
リリアが説明した。
「古代の魔法書から、最新の研究論文まで、ありとあらゆる知識がここにある」
「リリアは、ここでよく勉強してたの?」
「……ええ」
リリアは本棚の間を歩いた。
「一人で」
その言葉には、寂しさが滲んでいた。
「一人で?」
「私には友達がいなかったから」
リリアは淡々と言った。
「12歳で入学した私は、周りの学生たちより5歳も年下だった」
「……」
「それに、私は彼らよりも魔法の才能があった。だから──」
リリアは立ち止まった。
「嫉妬されたのよ。疎まれたのよ」
「リリア……」
蓮は胸が痛んだ。
「『天才』って言われるのは、嬉しいことじゃないわ」
リリアは自嘲気味に笑った。
「孤独になるだけ」
「でも、今は違うでしょ?」
アリシアが優しく言った。
「今は、私たちがいます」
「……そうね」
リリアは小さく微笑んだ。
「ありがとう」
その時──
突然、図書館の灯りが消えた。
「え……?」
蓮は周囲を見回した。
真っ暗闇。
窓から差し込む月明かりだけが、わずかに視界を照らしている。
「何が……」
その時、リリアが叫んだ。
「来た……!」
黒い影が、図書館の奥から現れた。
人型だが、輪郭が曖昧。
まるで煙のように揺らめいている。
「あれが……」
「シャドウフィーンド……!」
リリアは杖を構えた。
「Bランクの魔物……影を操る悪霊よ!」
「悪霊……!?」
「物理攻撃は効かない。魔法で倒すしかないわ」
リリアは詠唱を始めた。
「光よ、闇を払え──ライトニングボルト!」
雷の魔法がシャドウフィーンドに直撃した。
ギャアアアッ!
シャドウフィーンドは悲鳴を上げた。
だが──倒れない。
「硬い……!」
「アリシア、神谷さん、下がってて!」
リリアは次の魔法を唱えた。
「炎よ、全てを焼き尽くせ──フレイムストーム!」
巨大な炎の竜巻がシャドウフィーンドを包み込む。
だが──
シャドウフィーンドは炎を突き抜けて、リリアに襲いかかった。
「くっ……!」
リリアは咄嗟にバリアを張ったが、衝撃で吹き飛ばされた。
「リリア!」
蓮は駆け寄った。
「大丈夫……?」
「ええ……でも、予想以上に強いわ……」
リリアは立ち上がった。
「一人じゃ無理ね……」
「じゃあ、俺たちも戦おう」
蓮は決意した。
「でも、物理攻撃は効かないんでしょ?」
「アリシアの剣に魔法を付与すればいいわ」
リリアは素早く魔法を唱えた。
「炎よ、剣に宿れ──エンチャント・フレイム!」
アリシアの剣が炎に包まれた。
「これなら戦えます!」
「神谷さん、支援を!」
「わかった!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
リリアとアリシアの体が光り輝いた。
「この力……!」
「行くわよ!」
リリアは最大火力の魔法を放った。
「フレイムエクスプロージョン!」
巨大な爆発がシャドウフィーンドを襲う。
同時に、アリシアが突撃した。
「はああっ!」
炎を纏った剣が、シャドウフィーンドを切り裂いた。
ギャアアアアッ!
シャドウフィーンドは悲鳴を上げて消滅した。
「やった……!」
だが、次の瞬間──
図書館の各所から、複数のシャドウフィーンドが現れた。
「嘘……まだいるの……!?」
リリアは驚愕した。
「5体……いえ、6体……!」
「これは……」
アリシアは身構えた。
「誰かが意図的に召喚している……」
「召喚……?」
蓮は周囲を見回した。
「どこかに、術者がいるはず……」
その時、図書館の上層から声が響いた。
「よく気づいたな」
冷たい声。
三人は上を見上げた。
二階のバルコニーに、黒いローブを纏った人影が立っていた。
「お前は……」
リリアは目を見開いた。
「まさか……ヴィクター……!?」
「久しぶりだな、リリア」
ヴィクターと呼ばれた男は、フードを下ろした。
20代半ばと思われる青年。
整った顔立ちだが、その目には狂気が宿っていた。
「お前……学院を追放されたはずじゃ……」
「ああ、追放されたよ。お前のせいでな」
ヴィクターは冷笑した。
「お前が告発したから、俺は禁術の研究を理由に追放された」
「当然よ。あなたは生徒を実験台にしていた……」
「実験? 違うね。あれは研究だ」
ヴィクターは狂った笑みを浮かべた。
「魔法の限界を超えるための、必要な犠牲だったんだ」
「狂ってる……」
「狂ってる? いいや、俺は正常だ」
ヴィクターは腕を広げた。
「そして今、俺は復讐に来た」
「復讐……」
「お前を苦しめるために。お前が大切にしているものを、全て奪うために」
ヴィクターはシャドウフィーンドたちに命じた。
「行け。あの女を殺せ」
6体のシャドウフィーンドが一斉に襲いかかった。
「くっ……!」
リリアは魔法を放つが、数が多すぎる。
「リリア、一人で抱え込むな!」
アリシアが叫んだ。
「私たちがいる!」
「そうだよ、リリア!」
蓮も叫んだ。
「俺たちは仲間だろ!」
「……二人とも……」
リリアの目に涙が滲んだ。
「ありがとう……」
リリアは決意した。
「やるわよ……全力で!」
「ああ!」
三人は連携して戦った。
蓮の支援を受けたアリシアとリリアは、次々とシャドウフィーンドを倒していく。
「くそっ……」
ヴィクターは焦った。
「こんなはずじゃ……」
「あなたの負けよ、ヴィクター」
リリアは杖を向けた。
「あなたは、仲間の力を知らない」
「仲間……? くだらない」
ヴィクターは嘲笑した。
「強さとは、個の力だ。他人に頼るなど、弱者のすることだ」
「違う」
リリアは首を振った。
「本当の強さは、仲間と共にあることよ」
「……」
「私も、昔はあなたと同じことを考えていた」
リリアは蓮とアリシアを見た。
「でも、この二人と出会って、わかったの」
「一人で戦うより、仲間と戦う方が、ずっと強いって」
「戯言を……!」
ヴィクターは最後の魔法を唱えた。
「闇よ、全てを飲み込め──ダークネスフィールド!」
図書館全体が、深い闇に包まれた。
「見えない……!」
アリシアが叫んだ。
「神谷さん、どこ!?」
「ここだ!」
蓮は二人に駆け寄った。
「リリア、この闇を消せる?」
「できるわ。でも……」
リリアは躊躇した。
「私の最大魔法を使えば、建物が崩れるかもしれない……」
「大丈夫」
蓮は笑顔で言った。
「俺の支援があれば、制御できるよ」
「……本当に?」
「ああ。リリアを信じてる」
「……わかったわ」
リリアは杖を高く掲げた。
「聞いて、神谷」
「うん」
「私ね……ずっと一人だった」
リリアは目を閉じた。
「誰も信じられなかった。誰にも頼れなかった」
「……」
「でも、あなたと出会って、変わった」
リリアは目を開けた。
「初めて、誰かを信じてもいいと思えた」
「リリア……」
「だから──信じるわ。あなたを」
リリアは詠唱を始めた。
「光よ、全ての闇を払い、世界に輝きを取り戻せ──」
蓮は支援魔法を最大限に発動した。
「グランド・サポート!」
「──ホーリーノヴァ!」
図書館全体が、眩い光に包まれた。
闇が消え去り、ヴィクターは光に飲み込まれた。
「ぐああああっ!」
ヴィクターは倒れた。
光が消えると、図書館は元の静けさを取り戻していた。
「終わった……」
リリアは膝をついた。
「お疲れ様」
蓮はリリアの肩を支えた。
「すごかったよ、リリア」
「……ありがとう」
リリアは小さく微笑んだ。
ヴィクターは騎士団に引き渡され、学院の事件は解決した。
昏睡状態だった学生たちも、全員目を覚ました。
「本当にありがとう」
学院長のアルベルトは深々と頭を下げた。
「君たちのおかげで、学院は救われた」
「いえ、当然のことです」
アリシアは微笑んだ。
「リリア」
アルベルトはリリアを見た。
「君は、素晴らしい仲間を得たな」
「……はい」
リリアは頷いた。
「本当に、素晴らしい仲間です」
その夜、三人は学院の中庭で休んでいた。
星空が美しい夜だった。
「リリア、今日は本当にすごかったね」
蓮が言った。
「あの最後の魔法、圧巻だったよ」
「あなたの支援があったからよ」
リリアは空を見上げた。
「一人じゃ、あんな魔法は使えなかった」
「私も、リリアさんの強さを改めて実感しました」
アリシアも言った。
「私たち、本当にいいチームですね」
「ええ」
リリアは微笑んだ。
「本当に……いいチーム」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、リリアが口を開いた。
「ねえ、二人とも」
「うん?」
「私、今まで誰にも言わなかったことがあるの」
リリアは膝を抱えた。
「実は……私、幼い頃に両親を魔物に殺されたの」
「……」
蓮とアリシアは黙って聞いた。
「それからは、親戚の家を転々として……誰も、私を本当の意味で愛してくれなかった」
リリアの声が震えた。
「私の魔法の才能だけを評価して、私という人間を見てくれなかった」
「リリア……」
「だから、私は人を信じられなくなった。心を閉ざして、一人で生きてきた」
リリアは涙を拭った。
「でも……あなたたちは違った」
「私の才能じゃなくて、私自身を見てくれた」
リリアは二人を見た。
「初めて……本当の仲間ができた気がする」
「リリア……」
蓮は優しく微笑んだ。
「俺たちは、ずっと仲間だよ」
「そうです。これからも、ずっと一緒です」
アリシアも頷いた。
「……ありがとう」
リリアは泣きながら笑った。
「本当に、ありがとう」
三人は静かに夜空を見上げた。
星が、美しく輝いていた。
新しい絆が、また一つ深まった夜だった。
翌朝、三人は王都へと戻った。
「今日は、ゆっくり休みましょう」
アリシアが提案した。
「昨日は激戦だったし」
「そうね」
リリアも頷いた。
「たまには休息も必要よ」
「じゃあ、三人でどこか行く?」
蓮が尋ねた。
「いいわね」
「賛成です」
三人は街を散策することにした。
市場で買い物をしたり、美味しい食事を楽しんだり、笑い合ったり──
「楽しいな」
蓮は笑顔で言った。
「こういう時間、大切だね」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「戦いだけが全てじゃないですからね」
「そうね」
リリアも頷いた。
「たまには、こういう日常も必要よ」
三人は幸せな時間を過ごした。
だが、彼らが知らないうちに──
新たな運命の出会いが、すぐそこまで迫っていた。
獣人の少女・セラとの出会いが、間もなく訪れる。
そして、蓮の心に新たな感情が芽生え始める。
物語は、新しい局面を迎えようとしていた。
10
あなたにおすすめの小説
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる
邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。
オッサンにだって、未来がある。
底辺から這い上がる冒険譚?!
辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。
しかし現実は厳しかった。
十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。
そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる