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第7章「獣人の村の救出劇──咆哮の少女」
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魔法学院での事件から一週間が経った。
蓮たちトリニティは、再び獣人の村への依頼を受けていた。
「また獣人の村ですか?」
蓮が尋ねた。
「ええ。でも、前回とは別の村です」
アリシアは地図を広げた。
「ここ。森の奥深くにある、狼獣人の集落です」
「狼獣人……」
「ええ。普段は平和な種族ですが、最近、村が大型魔物に襲われているそうです」
「大型魔物って、どのくらい?」
リリアが尋ねた。
「報告によると、オーガやトロールクラスが複数……」
アリシアは深刻な表情を浮かべた。
「村だけでは対処できないようです」
「わかった。すぐに出発しよう」
蓮は立ち上がった。
馬車で半日。
三人は森の奥深くへと進んでいった。
木々が鬱蒼と茂り、日光がほとんど届かない。
野生動物の鳴き声と、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「不気味な森ね……」
リリアが呟いた。
「魔力が濃いわ。強力な魔物がいてもおかしくない」
「気をつけましょう」
アリシアは剣の柄に手をかけた。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこには──
木造の家々が立ち並ぶ、獣人の村があった。
だが──
「ひどい……」
アリシアは言葉を失った。
村のあちこちが破壊されている。
家は倒壊し、畑は荒らされ、柵は引き裂かれている。
「助けて──!」
子供の声が聞こえた。
「あっちだ!」
三人は声のする方へ走った。
村の中心部では──
巨大なトロールが、村人たちを襲っていた。
体長4メートル。
岩のように硬い皮膚。
巨大な棍棒を振り回している。
「トロール……Bランクの魔物……!」
リリアは杖を構えた。
村人たちは必死に逃げている。
狼の耳と尻尾を持った獣人たち。子供、老人、女性──
「行きます!」
アリシアが突撃した。
「待って、アリシア!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
アリシアの体が光り輝いた。
「はああっ!」
アリシアの剣がトロールの足に食い込む。
「ガアアッ!」
トロールは怒りの咆哮を上げた。
「フレイムランス!」
リリアが炎の槍を放つ。
トロールの胸に突き刺さるが──
「硬い……!」
トロールの皮膚は岩のように硬く、魔法のダメージが通りにくい。
「くっ……」
その時──
森の奥から、凄まじい速さで何かが飛び出してきた。
「はああああっ!」
若い女性の声。
銀色の髪を靡かせた、獣人の少女がトロールに飛びかかった。
「なっ……!?」
蓮は目を見張った。
少女は素手で──素手でトロールの顔面を殴り飛ばした。
ドゴォッ!
トロールが大きく仰け反った。
「え……今、素手で……?」
リリアも驚愕した。
「すっごい強い……」
少女は地面に着地した。
銀色の髪。
狼の耳と尻尾。
鋭い牙と爪。
そして、野性的な美しさを持つ顔立ち。
「みんな、逃げて! ここはあたしに任せて!」
少女は叫んだ。
「セラ、無茶するな!」
村人の一人が叫んだ。
「大丈夫だって! あたし、強いもん!」
セラと呼ばれた少女は、再びトロールに突撃した。
「はあっ!」
拳がトロールの腹に叩き込まれる。
「ガアッ!」
トロールは後退した。
「すごい……」
蓮は感嘆した。
「あの子、素手でBランク魔物と戦ってる……」
「獣人の身体能力は高いけど……あれは異常ね」
リリアも驚いていた。
「手伝いましょう!」
アリシアが再び斬りかかった。
「フレイムストーム!」
リリアも魔法を放つ。
三人とセラの連携攻撃に、トロールは防戦一方になった。
「とどめ!」
セラが大きく跳躍した。
そして──
上空から、渾身の一撃をトロールの頭部に叩き込んだ。
ドガァァァンッ!
トロールは地面に倒れ込み、動かなくなった。
「やった!」
セラは着地して、ガッツポーズをした。
「あたし、やったよ!」
「すごい……」
蓮は呆然とした。
だが、次の瞬間──
森の各所から、複数のトロールとオーガが現れた。
「嘘……まだいるの……!?」
セラは驚いた。
「5体……いえ、6体……!」
アリシアは剣を構え直した。
「これは……厳しいわね……」
リリアも緊張した表情を浮かべた。
「みんな、逃げて!」
セラは村人たちに叫んだ。
「ここはあたしたちが食い止める!」
「でも、セラ……!」
「大丈夫! あたし、強いから!」
セラは拳を握りしめた。
「それに……」
セラは蓮たちを見た。
「あんたたち、冒険者だよね? 手伝ってくれる?」
「もちろん」
蓮は即答した。
「俺たち、村を救うために来たんだ」
「ありがと!」
セラは笑顔を見せた。
「じゃあ、やろっか!」
蓮は支援魔法を最大限に発動した。
「グランド・サポート!」
セラ、アリシア、リリアの三人の体が光り輝いた。
「この力……!」
セラは驚いた。
「すっごい! 体が軽い! 力が漲る!」
「あなた、支援術師なの!?」
「ああ」
蓮は頷いた。
「だから、思い切り戦って!」
「わかった! 任せて!」
セラは笑顔で突撃した。
支援強化を受けたセラは、まるで嵐のように戦った。
「はああっ!」
拳がオーガの顔面を砕く。
「はっ!」
蹴りがトロールの胴体を貫く。
「すごい……」
蓮は目を見張った。
セラの身体能力は、支援強化によってさらに倍増している。
素手なのに、巨大な魔物を次々と倒していく。
「私も行きます!」
アリシアも斬りかかった。
支援強化を受けた彼女の剣技は、鋭く、速い。
「フレイムエクスプロージョン!」
リリアの魔法が、複数の魔物を巻き込んだ。
四人の連携は完璧だった。
「やった!」
最後のトロールが倒れた。
戦いが終わり、村人たちが駆け寄ってきた。
「セラ! 無事か!」
「うん、大丈夫!」
セラは笑顔で答えた。
「この人たちが助けてくれたんだ!」
村人たちは蓮たちに深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
老齢の獣人──村長が言った。
「あなた方がいなければ、村は滅びていました」
「いえ、当然のことです」
アリシアは微笑んだ。
「それより、怪我人はいませんか?」
「幸い、重傷者はいません。セラが魔物を食い止めてくれたおかげです」
村長はセラを見た。
「この子は村の英雄です」
「えへへ」
セラは照れくさそうに頭をかいた。
その夜、村人たちは蓮たちを歓迎する宴を開いた。
焚き火を囲み、肉を焼き、酒を酌み交わす。
「美味しい!」
セラは肉を豪快に食べていた。
「お肉、最高!」
「よく食べるのね……」
リリアは呆れたように言った。
「だって、お腹空いたんだもん」
セラは無邪気に笑った。
「戦った後は、いっぱい食べないと!」
「元気だなあ」
蓮は微笑んだ。
「ねえねえ、あんた名前は?」
セラが尋ねた。
「神谷蓮。支援術師だよ」
「蓮かあ。いい名前! あたしはセラ! よろしくね!」
セラは無邪気に笑った。
「こっちこそ、よろしく」
「私はアリシア。騎士です」
「私はリリア。魔術師よ」
「へえ、みんな強いんだね!」
セラは目を輝かせた。
「あたし、冒険者に憧れてたんだ!」
「冒険者に?」
「うん! 世界中を旅して、いろんな場所を見てみたい!」
セラは空を見上げた。
「あたし、ずっとこの村にいて……外の世界を知らないから」
「……」
蓮はセラの横顔を見た。
無邪気で、明るくて、元気な少女。
だが、その瞳には憧れと寂しさが混じっていた。
「ねえ、蓮」
セラが突然言った。
「あたし、あんたたちのパーティに入れてくれない?」
「え……?」
蓮は驚いた。
「あたし、強いよ! 役に立つよ!」
セラは真剣な目で言った。
「それに……あんたの支援魔法、すごかった。あれがあれば、あたし、もっと強くなれる」
「でも……」
「お願い!」
セラは蓮の手を握った。
「あたし、冒険がしたいの。この村を出て、世界を見てみたいの」
「セラ……」
「村長にも、もう話したんだ。許可はもらってる」
セラは懇願するように言った。
「だから、お願い。連れてって」
蓮はアリシアとリリアを見た。
「二人はどう思う?」
「私は賛成です」
アリシアは微笑んだ。
「セラさんは強いですし、明るい性格で場を和ませてくれそうです」
「私も反対しないわ」
リリアも頷いた。
「むしろ、前衛が増えるのは心強いわ」
「……わかった」
蓮はセラを見た。
「じゃあ、一緒に行こう」
「本当!?」
セラは目を輝かせた。
「やった! ありがとう、蓮!」
セラは蓮に抱きついた。
「うわっ……」
蓮は顔を赤らめた。
セラの体は温かく、柔らかい。
「えへへ、これからよろしくね!」
「あ、ああ……よろしく……」
蓮は戸惑いながら答えた。
翌朝、セラは村人たちに別れを告げた。
「みんな、行ってくるね」
「セラ、気をつけるんだぞ」
村長が言った。
「無茶はするなよ」
「わかってるって!」
セラは笑顔で答えた。
「それに、蓮たちがいるから大丈夫!」
「……そうか。ならいいが」
村長は蓮たちに頭を下げた。
「この子を、よろしくお願いします」
「はい。責任を持ってお預かりします」
アリシアが答えた。
四人は村を出発した。
「やった! 冒険の始まりだ!」
セラは元気よく歩いた。
「ねえねえ、王都ってどんなところ?」
「大きな街だよ。いろんなお店があって、人がたくさんいて……」
蓮が説明すると、セラは目を輝かせた。
「すごい! 早く見てみたい!」
「楽しみだね」
「うん!」
セラは無邪気に笑った。
だが、歩きながら、セラは少し寂しそうな表情を見せた。
「どうしたの?」
蓮が尋ねた。
「ううん、何でもない」
セラは首を振った。
「ただ……村のみんな、元気でいてくれるかなって」
「大丈夫だよ。みんな、セラのことを応援してる」
「……うん」
セラは小さく笑った。
「ありがと、蓮」
「どういたしまして」
二人は笑い合った。
その時、リリアが口を開いた。
「ねえ、神谷」
「うん?」
「パーティが四人になったわ」
「そうだね」
「バランスはいいわね。前衛二人、後衛二人」
リリアは分析した。
「アリシアとセラが前衛で戦い、私が後方から魔法支援。あなたが全員に支援魔法をかける」
「完璧な編成ね」
アリシアも頷いた。
「これなら、どんな強敵にも勝てそうです」
「みんな、頼もしいなあ」
蓮は笑顔で言った。
「俺も、もっと強くならないと」
「あんたは十分強いよ」
セラが言った。
「あんたの支援があったから、あたし、あんなに強く戦えたんだもん」
「ありがとう、セラ」
「えへへ」
セラは無邪気に笑った。
四人は森を抜け、街道を進んでいった。
「ねえねえ、あれ見て!」
セラが指差した。
遠くに、王都の城壁が見えてきた。
「あれが王都か……すごい!」
セラは興奮していた。
「早く行こう!」
「待って、セラ!」
蓮は慌ててセラを追いかけた。
「あはは、遅いよー!」
セラは笑いながら走っていった。
「もう……元気すぎるわ……」
リリアは呆れたように言った。
「でも、賑やかになりましたね」
アリシアは微笑んだ。
「ええ。悪くないわね」
リリアも小さく微笑んだ。
王都に到着すると、セラは目を輝かせた。
「すごい! こんなに大きな街、初めて見た!」
「ようこそ、王都へ」
蓮は笑顔で言った。
「まずはギルドに行って、セラをパーティに正式登録しよう」
「うん!」
四人はギルドへと向かった。
ギルドでは、バルトが待っていた。
「おお、帰ったか。任務は成功したようだな」
「はい。村は無事です」
アリシアが報告した。
「それと……新しい仲間が増えました」
「ほう?」
バルトはセラを見た。
「こいつは……獣人か」
「あたし、セラって言います!」
セラは元気よく挨拶した。
「これから、蓮たちと一緒に冒険します! よろしくお願いします!」
「……元気な子だな」
バルトは笑った。
「いいだろう。パーティ『トリニティ』に、セラを追加する」
「ありがとうございます!」
登録が終わると、四人は宿へと向かった。
「今日は、セラの歓迎会をしましょう」
アリシアが提案した。
「歓迎会!?」
セラは目を輝かせた。
「やった! お肉、いっぱい食べたい!」
「もう……食いしん坊ね……」
リリアは呆れたが、その表情は優しかった。
「いいじゃないか。今日は特別な日だし」
蓮は笑った。
「じゃあ、行こう」
四人は酒場へと向かった。
酒場では、四人で乾杯した。
「乾杯!」
「新しい仲間、セラの加入を祝して!」
「えへへ、ありがと!」
セラは嬉しそうに笑った。
「これから、よろしくね!」
「こちらこそ」
蓮は笑顔で答えた。
四人の新しい冒険が、ここから始まる。
パーティ『トリニティ』は、四人となった。
そして、彼らの前には、まだ多くの試練が待ち受けている。
魔王軍との戦い。
揺れ動く想い。
そして──運命の出会い。
物語は、新しい章へと進んでいく。
その夜、セラは宿の部屋で一人、窓の外を見ていた。
「村のみんな、元気かな……」
少し寂しそうに呟く。
だが、すぐに笑顔を取り戻した。
「大丈夫。あたし、強くなって、いつか帰るんだ」
「そして、みんなに自慢するんだ。あたし、すごい冒険者になったって」
セラは拳を握りしめた。
「蓮、アリシア、リリア……よろしくね」
窓の外には、満月が輝いていた。
新しい仲間との冒険が、今始まったばかりだった。
蓮たちトリニティは、再び獣人の村への依頼を受けていた。
「また獣人の村ですか?」
蓮が尋ねた。
「ええ。でも、前回とは別の村です」
アリシアは地図を広げた。
「ここ。森の奥深くにある、狼獣人の集落です」
「狼獣人……」
「ええ。普段は平和な種族ですが、最近、村が大型魔物に襲われているそうです」
「大型魔物って、どのくらい?」
リリアが尋ねた。
「報告によると、オーガやトロールクラスが複数……」
アリシアは深刻な表情を浮かべた。
「村だけでは対処できないようです」
「わかった。すぐに出発しよう」
蓮は立ち上がった。
馬車で半日。
三人は森の奥深くへと進んでいった。
木々が鬱蒼と茂り、日光がほとんど届かない。
野生動物の鳴き声と、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「不気味な森ね……」
リリアが呟いた。
「魔力が濃いわ。強力な魔物がいてもおかしくない」
「気をつけましょう」
アリシアは剣の柄に手をかけた。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこには──
木造の家々が立ち並ぶ、獣人の村があった。
だが──
「ひどい……」
アリシアは言葉を失った。
村のあちこちが破壊されている。
家は倒壊し、畑は荒らされ、柵は引き裂かれている。
「助けて──!」
子供の声が聞こえた。
「あっちだ!」
三人は声のする方へ走った。
村の中心部では──
巨大なトロールが、村人たちを襲っていた。
体長4メートル。
岩のように硬い皮膚。
巨大な棍棒を振り回している。
「トロール……Bランクの魔物……!」
リリアは杖を構えた。
村人たちは必死に逃げている。
狼の耳と尻尾を持った獣人たち。子供、老人、女性──
「行きます!」
アリシアが突撃した。
「待って、アリシア!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
アリシアの体が光り輝いた。
「はああっ!」
アリシアの剣がトロールの足に食い込む。
「ガアアッ!」
トロールは怒りの咆哮を上げた。
「フレイムランス!」
リリアが炎の槍を放つ。
トロールの胸に突き刺さるが──
「硬い……!」
トロールの皮膚は岩のように硬く、魔法のダメージが通りにくい。
「くっ……」
その時──
森の奥から、凄まじい速さで何かが飛び出してきた。
「はああああっ!」
若い女性の声。
銀色の髪を靡かせた、獣人の少女がトロールに飛びかかった。
「なっ……!?」
蓮は目を見張った。
少女は素手で──素手でトロールの顔面を殴り飛ばした。
ドゴォッ!
トロールが大きく仰け反った。
「え……今、素手で……?」
リリアも驚愕した。
「すっごい強い……」
少女は地面に着地した。
銀色の髪。
狼の耳と尻尾。
鋭い牙と爪。
そして、野性的な美しさを持つ顔立ち。
「みんな、逃げて! ここはあたしに任せて!」
少女は叫んだ。
「セラ、無茶するな!」
村人の一人が叫んだ。
「大丈夫だって! あたし、強いもん!」
セラと呼ばれた少女は、再びトロールに突撃した。
「はあっ!」
拳がトロールの腹に叩き込まれる。
「ガアッ!」
トロールは後退した。
「すごい……」
蓮は感嘆した。
「あの子、素手でBランク魔物と戦ってる……」
「獣人の身体能力は高いけど……あれは異常ね」
リリアも驚いていた。
「手伝いましょう!」
アリシアが再び斬りかかった。
「フレイムストーム!」
リリアも魔法を放つ。
三人とセラの連携攻撃に、トロールは防戦一方になった。
「とどめ!」
セラが大きく跳躍した。
そして──
上空から、渾身の一撃をトロールの頭部に叩き込んだ。
ドガァァァンッ!
トロールは地面に倒れ込み、動かなくなった。
「やった!」
セラは着地して、ガッツポーズをした。
「あたし、やったよ!」
「すごい……」
蓮は呆然とした。
だが、次の瞬間──
森の各所から、複数のトロールとオーガが現れた。
「嘘……まだいるの……!?」
セラは驚いた。
「5体……いえ、6体……!」
アリシアは剣を構え直した。
「これは……厳しいわね……」
リリアも緊張した表情を浮かべた。
「みんな、逃げて!」
セラは村人たちに叫んだ。
「ここはあたしたちが食い止める!」
「でも、セラ……!」
「大丈夫! あたし、強いから!」
セラは拳を握りしめた。
「それに……」
セラは蓮たちを見た。
「あんたたち、冒険者だよね? 手伝ってくれる?」
「もちろん」
蓮は即答した。
「俺たち、村を救うために来たんだ」
「ありがと!」
セラは笑顔を見せた。
「じゃあ、やろっか!」
蓮は支援魔法を最大限に発動した。
「グランド・サポート!」
セラ、アリシア、リリアの三人の体が光り輝いた。
「この力……!」
セラは驚いた。
「すっごい! 体が軽い! 力が漲る!」
「あなた、支援術師なの!?」
「ああ」
蓮は頷いた。
「だから、思い切り戦って!」
「わかった! 任せて!」
セラは笑顔で突撃した。
支援強化を受けたセラは、まるで嵐のように戦った。
「はああっ!」
拳がオーガの顔面を砕く。
「はっ!」
蹴りがトロールの胴体を貫く。
「すごい……」
蓮は目を見張った。
セラの身体能力は、支援強化によってさらに倍増している。
素手なのに、巨大な魔物を次々と倒していく。
「私も行きます!」
アリシアも斬りかかった。
支援強化を受けた彼女の剣技は、鋭く、速い。
「フレイムエクスプロージョン!」
リリアの魔法が、複数の魔物を巻き込んだ。
四人の連携は完璧だった。
「やった!」
最後のトロールが倒れた。
戦いが終わり、村人たちが駆け寄ってきた。
「セラ! 無事か!」
「うん、大丈夫!」
セラは笑顔で答えた。
「この人たちが助けてくれたんだ!」
村人たちは蓮たちに深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
老齢の獣人──村長が言った。
「あなた方がいなければ、村は滅びていました」
「いえ、当然のことです」
アリシアは微笑んだ。
「それより、怪我人はいませんか?」
「幸い、重傷者はいません。セラが魔物を食い止めてくれたおかげです」
村長はセラを見た。
「この子は村の英雄です」
「えへへ」
セラは照れくさそうに頭をかいた。
その夜、村人たちは蓮たちを歓迎する宴を開いた。
焚き火を囲み、肉を焼き、酒を酌み交わす。
「美味しい!」
セラは肉を豪快に食べていた。
「お肉、最高!」
「よく食べるのね……」
リリアは呆れたように言った。
「だって、お腹空いたんだもん」
セラは無邪気に笑った。
「戦った後は、いっぱい食べないと!」
「元気だなあ」
蓮は微笑んだ。
「ねえねえ、あんた名前は?」
セラが尋ねた。
「神谷蓮。支援術師だよ」
「蓮かあ。いい名前! あたしはセラ! よろしくね!」
セラは無邪気に笑った。
「こっちこそ、よろしく」
「私はアリシア。騎士です」
「私はリリア。魔術師よ」
「へえ、みんな強いんだね!」
セラは目を輝かせた。
「あたし、冒険者に憧れてたんだ!」
「冒険者に?」
「うん! 世界中を旅して、いろんな場所を見てみたい!」
セラは空を見上げた。
「あたし、ずっとこの村にいて……外の世界を知らないから」
「……」
蓮はセラの横顔を見た。
無邪気で、明るくて、元気な少女。
だが、その瞳には憧れと寂しさが混じっていた。
「ねえ、蓮」
セラが突然言った。
「あたし、あんたたちのパーティに入れてくれない?」
「え……?」
蓮は驚いた。
「あたし、強いよ! 役に立つよ!」
セラは真剣な目で言った。
「それに……あんたの支援魔法、すごかった。あれがあれば、あたし、もっと強くなれる」
「でも……」
「お願い!」
セラは蓮の手を握った。
「あたし、冒険がしたいの。この村を出て、世界を見てみたいの」
「セラ……」
「村長にも、もう話したんだ。許可はもらってる」
セラは懇願するように言った。
「だから、お願い。連れてって」
蓮はアリシアとリリアを見た。
「二人はどう思う?」
「私は賛成です」
アリシアは微笑んだ。
「セラさんは強いですし、明るい性格で場を和ませてくれそうです」
「私も反対しないわ」
リリアも頷いた。
「むしろ、前衛が増えるのは心強いわ」
「……わかった」
蓮はセラを見た。
「じゃあ、一緒に行こう」
「本当!?」
セラは目を輝かせた。
「やった! ありがとう、蓮!」
セラは蓮に抱きついた。
「うわっ……」
蓮は顔を赤らめた。
セラの体は温かく、柔らかい。
「えへへ、これからよろしくね!」
「あ、ああ……よろしく……」
蓮は戸惑いながら答えた。
翌朝、セラは村人たちに別れを告げた。
「みんな、行ってくるね」
「セラ、気をつけるんだぞ」
村長が言った。
「無茶はするなよ」
「わかってるって!」
セラは笑顔で答えた。
「それに、蓮たちがいるから大丈夫!」
「……そうか。ならいいが」
村長は蓮たちに頭を下げた。
「この子を、よろしくお願いします」
「はい。責任を持ってお預かりします」
アリシアが答えた。
四人は村を出発した。
「やった! 冒険の始まりだ!」
セラは元気よく歩いた。
「ねえねえ、王都ってどんなところ?」
「大きな街だよ。いろんなお店があって、人がたくさんいて……」
蓮が説明すると、セラは目を輝かせた。
「すごい! 早く見てみたい!」
「楽しみだね」
「うん!」
セラは無邪気に笑った。
だが、歩きながら、セラは少し寂しそうな表情を見せた。
「どうしたの?」
蓮が尋ねた。
「ううん、何でもない」
セラは首を振った。
「ただ……村のみんな、元気でいてくれるかなって」
「大丈夫だよ。みんな、セラのことを応援してる」
「……うん」
セラは小さく笑った。
「ありがと、蓮」
「どういたしまして」
二人は笑い合った。
その時、リリアが口を開いた。
「ねえ、神谷」
「うん?」
「パーティが四人になったわ」
「そうだね」
「バランスはいいわね。前衛二人、後衛二人」
リリアは分析した。
「アリシアとセラが前衛で戦い、私が後方から魔法支援。あなたが全員に支援魔法をかける」
「完璧な編成ね」
アリシアも頷いた。
「これなら、どんな強敵にも勝てそうです」
「みんな、頼もしいなあ」
蓮は笑顔で言った。
「俺も、もっと強くならないと」
「あんたは十分強いよ」
セラが言った。
「あんたの支援があったから、あたし、あんなに強く戦えたんだもん」
「ありがとう、セラ」
「えへへ」
セラは無邪気に笑った。
四人は森を抜け、街道を進んでいった。
「ねえねえ、あれ見て!」
セラが指差した。
遠くに、王都の城壁が見えてきた。
「あれが王都か……すごい!」
セラは興奮していた。
「早く行こう!」
「待って、セラ!」
蓮は慌ててセラを追いかけた。
「あはは、遅いよー!」
セラは笑いながら走っていった。
「もう……元気すぎるわ……」
リリアは呆れたように言った。
「でも、賑やかになりましたね」
アリシアは微笑んだ。
「ええ。悪くないわね」
リリアも小さく微笑んだ。
王都に到着すると、セラは目を輝かせた。
「すごい! こんなに大きな街、初めて見た!」
「ようこそ、王都へ」
蓮は笑顔で言った。
「まずはギルドに行って、セラをパーティに正式登録しよう」
「うん!」
四人はギルドへと向かった。
ギルドでは、バルトが待っていた。
「おお、帰ったか。任務は成功したようだな」
「はい。村は無事です」
アリシアが報告した。
「それと……新しい仲間が増えました」
「ほう?」
バルトはセラを見た。
「こいつは……獣人か」
「あたし、セラって言います!」
セラは元気よく挨拶した。
「これから、蓮たちと一緒に冒険します! よろしくお願いします!」
「……元気な子だな」
バルトは笑った。
「いいだろう。パーティ『トリニティ』に、セラを追加する」
「ありがとうございます!」
登録が終わると、四人は宿へと向かった。
「今日は、セラの歓迎会をしましょう」
アリシアが提案した。
「歓迎会!?」
セラは目を輝かせた。
「やった! お肉、いっぱい食べたい!」
「もう……食いしん坊ね……」
リリアは呆れたが、その表情は優しかった。
「いいじゃないか。今日は特別な日だし」
蓮は笑った。
「じゃあ、行こう」
四人は酒場へと向かった。
酒場では、四人で乾杯した。
「乾杯!」
「新しい仲間、セラの加入を祝して!」
「えへへ、ありがと!」
セラは嬉しそうに笑った。
「これから、よろしくね!」
「こちらこそ」
蓮は笑顔で答えた。
四人の新しい冒険が、ここから始まる。
パーティ『トリニティ』は、四人となった。
そして、彼らの前には、まだ多くの試練が待ち受けている。
魔王軍との戦い。
揺れ動く想い。
そして──運命の出会い。
物語は、新しい章へと進んでいく。
その夜、セラは宿の部屋で一人、窓の外を見ていた。
「村のみんな、元気かな……」
少し寂しそうに呟く。
だが、すぐに笑顔を取り戻した。
「大丈夫。あたし、強くなって、いつか帰るんだ」
「そして、みんなに自慢するんだ。あたし、すごい冒険者になったって」
セラは拳を握りしめた。
「蓮、アリシア、リリア……よろしくね」
窓の外には、満月が輝いていた。
新しい仲間との冒険が、今始まったばかりだった。
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おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
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こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
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「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
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前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
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