追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第3章「辺境からの革命」

第20話「拡大する影響力」

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結婚から三ヶ月。
執務室で、私は報告書を見ていた。
「温室からの収穫量、先月比一・五倍」
「学校の生徒数、二百人を突破」
「王都街道の利用者、月間三千人」
全ての数字が、右肩上がり。
「順調ね」
「ああ」
ルシアンが、隣で頷いた。
最近、私たちは執務室を共有している。
夫婦で、国を治める。
「でも、問題もある」
私は、別の書類を取り出した。
「他の辺境地域からの要請が、殺到しています」
「要請?」
「『ノルディアの成功を、我々にも』という内容です」
この三ヶ月で、五十通以上の手紙が届いていた。
「どう対応する?」
ルシアンが訊いた。
「全て、受け入れたいところですが――」
私は、頭を抱えた。
「人手が足りません」
「そうだな」
ルシアンも、考え込んだ。
「技術者も、教師も、全てが不足している」
「でも、断るわけにもいかない」
私は、地図を広げた。
「この要請を放置すれば、他の辺境は衰退し続ける」
「では、どうする?」
「システム化します」
私は、ペンを走らせた。
「マニュアルを作成し、各地に派遣する指導員を育成します」
「つまり、ノルディアモデルの輸出か」
「その通りです」
私は、計画書を書き始めた。
「まずは、近隣の三地域から始めましょう」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
ミラが、入ってきた。
「エリシア、来客です」
「誰?」
「東の辺境、ヴェルデン領主です」
「ヴェルデン……」
地図を確認する。
ノルディアから三日の距離にある、貧しい辺境。
「通してください」

謁見の間。
痩せた老人が、立っていた。
「ヴェルデン領主、アルトゥールです」
老人は、深く頭を下げた。
「どうぞ、お座りください」
私は、椅子を勧めた。
「ありがとうございます」
老人が座ると、すぐに本題に入った。
「エリシア様、ルシアン様。お願いがあります」
「聞かせてください」
「我がヴェルデンは、貧しい土地です」
老人の声が、震えていた。
「冬になれば、餓死者が出る。子供たちは、字も読めない」
「……」
「しかし、ノルディアの噂を聞きました」
老人の目が、希望に輝いた。
「温室で野菜が育つ。学校で子供が学ぶ。道路が整備され、商売が盛んになる」
「そうです」
私は、頷いた。
「それを――」
老人が、土下座した。
「どうか、我々にも教えてください!」
その姿に、胸が痛んだ。
「顔を上げてください」
私は、老人の肩に手を置いた。
「必ず、お力になります」
「本当ですか!?」
「ええ。ただし――」
私は、正直に言った。
「すぐには無理です。準備が必要です」
「構いません」
老人が、涙を流した。
「待ちます。どれだけでも」
「わかりました」
私は、ルシアンを見た。
彼も、頷いた。
「では、契約を結びましょう」

その夜、自室で。
「やっぱり、断れなかったな」
ルシアンが、苦笑した。
「だって、あんな顔で頼まれたら」
私も、苦笑した。
「放っておけないわ」
「お前らしい」
ルシアンが、私の髪を撫でた。
「でも、無理はするな」
「わかっています」
私は、彼の胸に顔を埋めた。
「でも、やりがいがあります」
「そうか」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「なら、私も全力で支える」
「ありがとう」
温かい沈黙。
「ルシアン」
「何だ」
「私、考えていることがあります」
「何を?」
私は、顔を上げた。
「身分制度について」
ルシアンの表情が、真剣になった。
「詳しく聞かせてくれ」
「この国には、貴族と平民という壁があります」
私は、説明を始めた。
「でも、それは本当に必要なのでしょうか?」
「……」
「才能は、血統とは関係ありません」
私は、自分の経験を語った。
「ミラを見てください。元は盗賊でしたが、今は優秀な秘書です」
「確かに」
「グレンさんも、エドワードも、皆――」
私は、力を込めて言った。
「生まれではなく、努力と才能で評価されるべきです」
「それは、革命だぞ」
ルシアンが、静かに言った。
「貴族制度を否定することは、この国の根幹を揺るがす」
「わかっています」
私は、頷いた。
「でも、いつかは――」
「いつかは?」
「真の平等を、実現したいんです」
その言葉に、ルシアンは長い沈黙の後――。
「……お前と一緒なら、できるかもしれないな」
彼が、微笑んだ。
「本気か?」
「本気だ」
ルシアンは、私の手を握った。
「お前の夢は、私の夢だ」
「ルシアン……」
涙が、溢れそうになった。
「ありがとう」
「ただし」
彼は、真剣な顔になった。
「慎重に進めろ。保守派の反発は、想像以上だ」
「わかっています」
私は、頷いた。
「まずは、ノルディアで成功例を作ります」
「そして、少しずつ広げていく」
「その通りです」
二人で、計画を練り始めた。
長い夜になりそうだった。

翌週。
「ノルディア改革指導員養成プログラム」が始まった。
「皆さん、ようこそ」
教室には、三十人の若者が集まっていた。
農民、元商人、元職人――。
様々な背景を持つ人々。
「これから三ヶ月、皆さんには改革の全てを学んでいただきます」
私は、カリキュラムを説明した。
「農業技術、教育方法、道路建設――」
「そして、最も重要なこと」
私は、全員を見渡した。
「人の心を動かす方法です」
一人の青年が、手を上げた。
「質問があります」
「どうぞ」
「なぜ、私たちが選ばれたんですか?」
良い質問だ。
「あなたたちには、共通点があります」
私は、微笑んだ。
「それは、変化を恐れないこと」
「皆さんは、新しいことに挑戦する勇気を持っています」
「だから、選ばれたのです」
青年たちの目が、輝き始めた。
「頑張ってください」
私は、拳を握った。
「あなたたちが、この国を変える力になるのです」
「「「はい!」」」
力強い返事。
授業が、始まった。

一ヶ月後。
城に、不穏な知らせが届いた。
「エリシア様、これを」
オスカーが、密書を持ってきた。
「何?」
開いて読むと――。
「王都で、『辺境抑制法』の制定が検討されている……?」
「辺境抑制法?」
ルシアンも、顔をしかめた。
「内容は?」
「『辺境の独自政策を制限し、中央の監督を強化する』」
私は、書類を読み進めた。
「つまり――」
「私たちの改革を、止めようとしている」
「誰が、主導しているんだ?」
ルシアンが訊いた。
「保守派貴族の筆頭、グレゴール公爵です」
オスカーが答えた。
「彼は、以前から辺境の自治を問題視していました」
「くそ……」
私は、拳を握った。
「せっかく、上手くいっているのに」
「落ち着け、エリシア」
ルシアンが、私の肩に手を置いた。
「まだ、検討段階だ」
「でも、放置すれば――」
「わかっている」
ルシアンの目が、鋭くなった。
「対策を立てる必要がある」
「どうしますか?」
オスカーが訊いた。
「王都に、使者を送ります」
私は、決断した。
「国王陛下に、直接訴える」
「危険だぞ」
ルシアンが、心配そうに言った。
「王都には、お前の敵も多い」
「わかっています」
私は、彼を見た。
「でも、黙っているわけにはいきません」
「なら、私も行く」
「でも、ノルディアを空けるわけには――」
「レオンに任せる」
ルシアンが、断言した。
「お前一人で行かせるわけにはいかない」
その言葉に、安心感を覚えた。
「ありがとう」

三日後。
王都への出発の日。
「気をつけてね、エリシア」
ミラが、涙目で言った。
「すぐ戻ってくるわ」
「お姉様」
ラウラも、見送りに来ていた。
「王都では、私が情報収集します」
「頼りにしてるわ」
グレンや、オスカー、改革指導員の若者たち――。
皆が、見送ってくれた。
「エリシア様、必ず成功させてください!」
「私たちの未来のために!」
その声に、力をもらった。
「必ず、成功させます」
私は、馬車に乗り込んだ。
ルシアンも、隣に座る。
「行くぞ」
御者が、手綱を引いた。
馬車が、動き出す。
ノルディアの城門を出て、王都への道を進む。
「大丈夫か?」
ルシアンが訊いた。
「ええ」
私は、窓の外を見た。
整備された道路。
私たちが作った、未来への道。
「これを、守らなければ」
「ああ」
ルシアンが、私の手を握った。
「二人で、戦おう」
「はい」
三日間の旅路。
その先には、新たな戦いが待っている。
政治の戦い。
言葉の戦い。
でも――。
「負けない」
小さく呟いた。
だって、私には――。
守りたいものがある。
信じてくれる人々がいる。
そして、隣に――。
最も信頼できる人がいる。
「ルシアン」
「何だ」
「愛しています」
突然の言葉に、ルシアンの顔が赤くなった。
「お、お前……突然何を」
「だって、本当だから」
私は、微笑んだ。
「あなたがいてくれて、本当に幸せです」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「……私も、だ」
彼は、私を抱き寄せた。
「愛している」
温かい抱擁。
馬車は、王都へと向かって走り続けた。
新しい戦いの場へ。
でも、二人なら――。
きっと、乗り越えられる。
夕日が、二人を照らしていた。
希望の光のように。
未来への光のように。

三日後、王都に到着した。
変わらぬ華やかさ。
でも、空気は――重かった。
「緊張しているな」
ルシアンが、街の様子を見ながら言った。
「ああ、何か起こりそうな気配だ」
城に向かう途中、民衆の声が聞こえた。
「辺境が、強くなりすぎているらしい」
「ノルディアが、王都を脅かすとか」
「そんなはずないだろう」
「でも、貴族たちは警戒している」
噂が、広がっている。
「情報操作されているな」
私は、呟いた。
「保守派が、世論を誘導している」
「厄介だな」
ルシアンも、苦い顔をした。
城に到着した。
「辺境王と、エリシア様ですね」
衛兵が、冷たく言った。
「国王陛下は、お待ちです」
案内された謁見の間――。
そこには、国王だけでなく――。
数十人の貴族たちが、立っていた。
「これは……」
「公開審議だ」
ルシアンが、低く言った。
「罠か……」
国王が、玉座から立ち上がった。
「ルシアン、エリシア。よく来た」
「陛下」
私たちは、深く頭を下げた。
「早速だが――」
国王の隣に立つ、恰幅のいい老貴族が前に出た。
グレゴール公爵。
「エリシア=ノルディア」
彼は、私を睨んだ。
「貴女の行いについて、問いたい」
「どうぞ」
私は、動じずに答えた。
「貴女は、辺境で独自の政策を行い、中央の権威を軽視している」
「軽視などしていません」
「では、なぜ許可なく教育制度を変更した?」
「教育は、地域の自治権の範囲内です」
「屁理屈を!」
グレゴール公爵が、叫んだ。
「貴女は、王国の秩序を乱している!」
場内が、ざわめいた。
「秩序を乱す……」
私は、冷静に言った。
「では、飢える民を救うことが、秩序を乱すことですか?」
「それは――」
「字が読めない子供たちに教育を与えることが、秩序を乱すことですか?」
私の声が、謁見の間に響く。
「貴族の皆様」
私は、全員を見渡した。
「私は、ただ――人々を幸せにしたかっただけです」
「それが、何か間違っていますか?」
静寂。
そして――。
「間違っていない」
意外な声が響いた。
振り向くと――。
第二王子カイルが、立っていた。
「エリシアの行いは、正しい」
彼は、前に出た。
「我々貴族こそ、反省すべきだ」
場内が、再びざわめいた。
戦いは、今始まったばかり。
でも――。
「勝つ」
私は、心の中で誓った。
必ず、勝ってみせる。
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