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第3章「辺境からの革命」
第21話「弁論の刃」
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第二王子カイルの発言に、場内がざわめいた。
「殿下、何を仰っているのですか!」
グレゴール公爵が、声を荒げた。
「エリシアは、王国の秩序を――」
「秩序?」
カイルが、冷たく言った。
「民が飢え、子供が学べない状態を『秩序』と呼ぶのか?」
「それは――」
「エリシアは、その状態を改善しただけだ」
カイルは、私を見た。
「彼女の行いに、何の非があるというのだ」
「殿下は、お若いゆえ――」
別の老貴族が、口を挟んだ。
「世の中の複雑さを、ご理解でないのです」
「複雑?」
私が、前に出た。
「では、説明していただけますか?」
「何を?」
「なぜ、民を救うことが複雑なのか」
私は、全員を見渡した。
「私には、とてもシンプルに見えます」
「貴女のような若造に――」
「若造?」
私は、微笑んだ。
「では、データで語りましょう」
懐から、書類を取り出した。
「これは、ノルディアの三ヶ月間の報告書です」
書類を、国王に渡した。
「食糧生産、三倍増。餓死者、ゼロ」
「教育を受けた子供、二百人。識字率、六十パーセント増」
「王都への物流量、五倍増。税収、四倍増」
数字を、一つ一つ読み上げる。
「これが、私の『秩序の乱し』の結果です」
場内が、静まった。
「そして――」
私は、別の書類を取り出した。
「こちらは、王都直轄領の同期間のデータです」
「食糧生産、前年比マイナス五パーセント。餓死者、十二名」
「教育を受けた子供――貴族の子弟のみ。平民は、ゼロ」
「税収、前年比マイナス三パーセント」
グレゴール公爵の顔が、青ざめた。
「つまり――」
私は、はっきりと言った。
「辺境の成功は、中央の失態を証明しているのです」
「なっ……!」
貴族たちが、騒ぎ始めた。
「侮辱だ!」
「無礼な!」
「静粛に」
国王の声が、響いた。
場が、静まる。
「エリシア、続けなさい」
「はい、陛下」
私は、深呼吸をした。
「私は、思うのです」
「この王国には、大きな問題がある、と」
「問題?」
「はい。それは――」
私は、全員を見渡した。
「身分制度です」
場内が、再び騒然となった。
「何を言うか!」
「身分制度は、この国の根幹だぞ!」
「聞きなさい」
私は、声を張り上げた。
「身分制度は、才能を殺しています」
「平民の中には、素晴らしい才能を持つ者がいます」
「でも、彼らは生まれによって、機会を奪われている」
「それは――」
私の声が、震えた。
「国家にとって、最大の損失です」
「エリシア様……」
傍聴席から、小さな声が聞こえた。
見ると――民衆が、涙を流していた。
「例を挙げましょう」
私は、続けた。
「ノルディアには、エドワードという少年がいます」
「彼は、元・貧しい農民の息子です」
「でも、教育を受けた今――彼は天才的な才能を開花させています」
「もし、彼が身分制度に縛られていたら?」
私は、問いかけた。
「その才能は、永遠に埋もれていたでしょう」
「それは、この国にとって――どれほどの損失か」
静寂。
「貴族の皆様」
私は、深く頭を下げた。
「私は、貴族制度を否定しているのではありません」
「ただ――」
顔を上げた。
「生まれではなく、才能と努力で評価される社会を作りたいのです」
「それが――」
私の目に、涙が浮かんだ。
「真に強い国を作る道だと、信じています」
長い沈黙。
そして――。
「よく言った」
意外な声が響いた。
振り向くと――。
白髪の老人が、立っていた。
「あなたは……」
「元帥、レオンハルトだ」
伝説の英雄。
引退した元帥が、なぜここに。
「私は、お前の言葉に感動した」
レオンハルトが、前に出た。
「実は、私も平民出身だ」
場内が、驚きに包まれた。
「元帥が、平民!?」
「そうだ」
レオンハルトは、頷いた。
「五十年前、私は戦場で功績を上げ、騎士に取り立てられた」
「そして、今は元帥にまでなった」
彼は、私を見た。
「お前の言う通り――才能は、血統ではない」
「元帥……」
「陛下」
レオンハルトは、国王に向かって言った。
「私は、エリシアの改革を支持します」
「レオンハルト……」
国王が、深く考え込んだ。
「他に、意見はあるか?」
「私も、支持します」
カイルが、前に出た。
「父上、この国は変わるべきです」
「殿下……」
「私は、次期国王として――」
カイルは、宣言した。
「エリシアの改革を、全面的に支援します」
場内が、再び騒然となった。
「待て、殿下!」
グレゴール公爵が、叫んだ。
「そのような改革は、貴族の権利を――」
「権利?」
カイルが、冷たく言った。
「民を苦しめる権利など、あってはならない」
「それは――」
「グレゴール公」
カイルの目が、鋭くなった。
「貴方の領地では、去年百人以上の餓死者が出たと聞く」
グレゴール公爵の顔が、真っ青になった。
「それは、天候が――」
「ノルディアも、同じ天候だった」
私が、言った。
「でも、餓死者はゼロです」
「つまり――」
カイルが、続けた。
「問題は天候ではなく、統治の質だ」
グレゴール公爵は、言葉を失った。
「陛下」
私は、国王に向かった。
「お願いがあります」
「何だ」
「『全王国改革計画』を、実施させてください」
場内が、静まった。
「全王国……改革?」
「はい」
私は、書類を取り出した。
「三年計画です」
「第一段階:教育改革。全ての子供に、無償教育を」
「第二段階:農業改革。温室技術を、全国に普及」
「第三段階:インフラ整備。全ての主要都市を、街道で結ぶ」
「そして――」
私は、最も重要な部分を読み上げた。
「第四段階:身分制度改革。才能主義の導入」
場内が、爆発した。
「無茶だ!」
「そんなこと、不可能だ!」
「できる!」
私は、叫んだ。
「ノルディアで、証明しました!」
「三ヶ月で、一つの地域を変えました」
「なら、三年あれば――王国全体を変えられます!」
私の声が、響く。
「陛下、お願いします」
私は、深く頭を下げた。
「この国を、真に強い国にさせてください」
国王は、長い沈黙の後――。
「……エリシア」
「はい」
「顔を上げなさい」
国王は、微笑んでいた。
「お前の情熱、確かに受け取った」
「陛下……」
「しかし」
国王の表情が、真剣になった。
「これは、王国の根幹に関わる大改革だ」
「すぐには、決められない」
「では――」
「一ヶ月、時間をくれ」
国王が、宣言した。
「その間に、貴族たちと協議する」
「そして、一ヶ月後――」
国王は、玉座から立ち上がった。
「改めて、この件について判断を下す」
「ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
「本日の審議は、これまで」
国王の宣言で、審議が終了した。
控室に戻ると、私は椅子に座り込んだ。
「疲れた……」
「よく頑張ったな」
ルシアンが、私の肩を揉んでくれた。
「お前は、素晴らしかった」
「でも、まだ決まったわけじゃない」
「ああ。これからが、本当の勝負だ」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
扉が開き――カイルが入ってきた。
「殿下」
私たちは、立ち上がった。
「座ったままでいい」
カイルが、微笑んだ。
「礼を言いに来た」
「礼……?」
「お前の演説、素晴らしかった」
カイルは、椅子に座った。
「実は、私もずっと思っていたんだ」
「この国は、変わるべきだと」
「殿下……」
「でも、一人では何もできなかった」
カイルの目に、決意が宿った。
「だが、お前が現れた」
「お前は、実際に変革を成し遂げた」
「だから――」
カイルは、手を差し出した。
「協力させてくれ」
「殿下……!」
私は、その手を握った。
「ありがとうございます」
「これから、大変な戦いになる」
カイルが、真剣な顔で言った。
「保守派は、必死に抵抗するだろう」
「わかっています」
「でも――」
私は、微笑んだ。
「必ず、成功させます」
「ああ」
カイルも、微笑んだ。
「私も、全力で支援する」
その夜、王都の宿で。
「今日は、よく戦ったな」
ルシアンが、私の髪を撫でてくれた。
「ええ」
私は、彼の胸に顔を埋めた。
「でも、まだ始まったばかり」
「そうだな」
「ルシアン」
「何だ」
「怖いです」
私は、正直に言った。
「こんな大きなことを、本当にできるのか」
「できる」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「お前なら、できる」
「なぜ、そう思うんですか?」
「お前は、すでに証明したからだ」
ルシアンは、私の目を見た。
「ノルディアで、奇跡を起こした」
「それは、皆の力です」
「ああ。でも、その力を引き出したのは、お前だ」
彼は、私の額にキスをした。
「だから、信じろ。お前自身を」
「ルシアン……」
涙が、溢れた。
「ありがとう」
「泣くな」
ルシアンが、優しく涙を拭ってくれた。
「お前が泣くと、私も辛い」
「ごめんなさい」
「謝るな」
彼は、微笑んだ。
「お前は、いつも頑張りすぎる」
「たまには、弱音を吐いてもいいんだぞ」
その言葉が、嬉しかった。
「では――」
私は、彼を見上げた。
「今夜は、甘えてもいいですか?」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「あ、ああ……」
私は、彼の腕の中で笑った。
「ルシアン、可愛い」
「お、お前……」
二人で、笑い合った。
温かい夜。
明日からまた、戦いが始まる。
でも、今夜は――。
ただ、愛する人と一緒にいたい。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
でも、その夜も――。
私たちはほとんど眠らなかった。
語り合い、笑い合い、愛し合った。
長い、幸せな夜。
窓の外には、満月。
明日への希望を照らすように。
新しい時代の、始まりを告げるように。
翌朝。
「エリシア様!」
ラウラが、駆け込んできた。
「大変です!」
「どうしたの?」
「街中が、大騒ぎです!」
「騒ぎ?」
窓を開けると――。
街には、大勢の民衆が集まっていた。
「エリシア様を、支持する!」
「改革を、実現させろ!」
「民衆の声を、聞け!」
プラカードを掲げ、行進している。
「これは……」
「昨日の審議、民衆に広まったんです」
ラウラが説明した。
「エリシア様の演説に、皆が感動して」
「そして、今朝から――」
「デモが、始まったんですね」
ルシアンが、呟いた。
「ああ。これは、予想外だ」
「でも――」
私は、民衆を見た。
「悪いことじゃない」
「え?」
「民衆の声は、最大の武器です」
私は、微笑んだ。
「これで、保守派も無視できなくなる」
「なるほど……」
ルシアンも、微笑んだ。
「お前は、本当に――」
「本当に?」
「策士だな」
「まあ」
私は、笑った。
「前世で、学びましたから」
外では、民衆の声が響き続けていた。
「改革を!」
「エリシアを!」
「新しい時代を!」
その声が、王国を揺るがし始めていた。
変革の風が――。
今、吹き始めた。
「殿下、何を仰っているのですか!」
グレゴール公爵が、声を荒げた。
「エリシアは、王国の秩序を――」
「秩序?」
カイルが、冷たく言った。
「民が飢え、子供が学べない状態を『秩序』と呼ぶのか?」
「それは――」
「エリシアは、その状態を改善しただけだ」
カイルは、私を見た。
「彼女の行いに、何の非があるというのだ」
「殿下は、お若いゆえ――」
別の老貴族が、口を挟んだ。
「世の中の複雑さを、ご理解でないのです」
「複雑?」
私が、前に出た。
「では、説明していただけますか?」
「何を?」
「なぜ、民を救うことが複雑なのか」
私は、全員を見渡した。
「私には、とてもシンプルに見えます」
「貴女のような若造に――」
「若造?」
私は、微笑んだ。
「では、データで語りましょう」
懐から、書類を取り出した。
「これは、ノルディアの三ヶ月間の報告書です」
書類を、国王に渡した。
「食糧生産、三倍増。餓死者、ゼロ」
「教育を受けた子供、二百人。識字率、六十パーセント増」
「王都への物流量、五倍増。税収、四倍増」
数字を、一つ一つ読み上げる。
「これが、私の『秩序の乱し』の結果です」
場内が、静まった。
「そして――」
私は、別の書類を取り出した。
「こちらは、王都直轄領の同期間のデータです」
「食糧生産、前年比マイナス五パーセント。餓死者、十二名」
「教育を受けた子供――貴族の子弟のみ。平民は、ゼロ」
「税収、前年比マイナス三パーセント」
グレゴール公爵の顔が、青ざめた。
「つまり――」
私は、はっきりと言った。
「辺境の成功は、中央の失態を証明しているのです」
「なっ……!」
貴族たちが、騒ぎ始めた。
「侮辱だ!」
「無礼な!」
「静粛に」
国王の声が、響いた。
場が、静まる。
「エリシア、続けなさい」
「はい、陛下」
私は、深呼吸をした。
「私は、思うのです」
「この王国には、大きな問題がある、と」
「問題?」
「はい。それは――」
私は、全員を見渡した。
「身分制度です」
場内が、再び騒然となった。
「何を言うか!」
「身分制度は、この国の根幹だぞ!」
「聞きなさい」
私は、声を張り上げた。
「身分制度は、才能を殺しています」
「平民の中には、素晴らしい才能を持つ者がいます」
「でも、彼らは生まれによって、機会を奪われている」
「それは――」
私の声が、震えた。
「国家にとって、最大の損失です」
「エリシア様……」
傍聴席から、小さな声が聞こえた。
見ると――民衆が、涙を流していた。
「例を挙げましょう」
私は、続けた。
「ノルディアには、エドワードという少年がいます」
「彼は、元・貧しい農民の息子です」
「でも、教育を受けた今――彼は天才的な才能を開花させています」
「もし、彼が身分制度に縛られていたら?」
私は、問いかけた。
「その才能は、永遠に埋もれていたでしょう」
「それは、この国にとって――どれほどの損失か」
静寂。
「貴族の皆様」
私は、深く頭を下げた。
「私は、貴族制度を否定しているのではありません」
「ただ――」
顔を上げた。
「生まれではなく、才能と努力で評価される社会を作りたいのです」
「それが――」
私の目に、涙が浮かんだ。
「真に強い国を作る道だと、信じています」
長い沈黙。
そして――。
「よく言った」
意外な声が響いた。
振り向くと――。
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「あなたは……」
「元帥、レオンハルトだ」
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「私は、お前の言葉に感動した」
レオンハルトが、前に出た。
「実は、私も平民出身だ」
場内が、驚きに包まれた。
「元帥が、平民!?」
「そうだ」
レオンハルトは、頷いた。
「五十年前、私は戦場で功績を上げ、騎士に取り立てられた」
「そして、今は元帥にまでなった」
彼は、私を見た。
「お前の言う通り――才能は、血統ではない」
「元帥……」
「陛下」
レオンハルトは、国王に向かって言った。
「私は、エリシアの改革を支持します」
「レオンハルト……」
国王が、深く考え込んだ。
「他に、意見はあるか?」
「私も、支持します」
カイルが、前に出た。
「父上、この国は変わるべきです」
「殿下……」
「私は、次期国王として――」
カイルは、宣言した。
「エリシアの改革を、全面的に支援します」
場内が、再び騒然となった。
「待て、殿下!」
グレゴール公爵が、叫んだ。
「そのような改革は、貴族の権利を――」
「権利?」
カイルが、冷たく言った。
「民を苦しめる権利など、あってはならない」
「それは――」
「グレゴール公」
カイルの目が、鋭くなった。
「貴方の領地では、去年百人以上の餓死者が出たと聞く」
グレゴール公爵の顔が、真っ青になった。
「それは、天候が――」
「ノルディアも、同じ天候だった」
私が、言った。
「でも、餓死者はゼロです」
「つまり――」
カイルが、続けた。
「問題は天候ではなく、統治の質だ」
グレゴール公爵は、言葉を失った。
「陛下」
私は、国王に向かった。
「お願いがあります」
「何だ」
「『全王国改革計画』を、実施させてください」
場内が、静まった。
「全王国……改革?」
「はい」
私は、書類を取り出した。
「三年計画です」
「第一段階:教育改革。全ての子供に、無償教育を」
「第二段階:農業改革。温室技術を、全国に普及」
「第三段階:インフラ整備。全ての主要都市を、街道で結ぶ」
「そして――」
私は、最も重要な部分を読み上げた。
「第四段階:身分制度改革。才能主義の導入」
場内が、爆発した。
「無茶だ!」
「そんなこと、不可能だ!」
「できる!」
私は、叫んだ。
「ノルディアで、証明しました!」
「三ヶ月で、一つの地域を変えました」
「なら、三年あれば――王国全体を変えられます!」
私の声が、響く。
「陛下、お願いします」
私は、深く頭を下げた。
「この国を、真に強い国にさせてください」
国王は、長い沈黙の後――。
「……エリシア」
「はい」
「顔を上げなさい」
国王は、微笑んでいた。
「お前の情熱、確かに受け取った」
「陛下……」
「しかし」
国王の表情が、真剣になった。
「これは、王国の根幹に関わる大改革だ」
「すぐには、決められない」
「では――」
「一ヶ月、時間をくれ」
国王が、宣言した。
「その間に、貴族たちと協議する」
「そして、一ヶ月後――」
国王は、玉座から立ち上がった。
「改めて、この件について判断を下す」
「ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
「本日の審議は、これまで」
国王の宣言で、審議が終了した。
控室に戻ると、私は椅子に座り込んだ。
「疲れた……」
「よく頑張ったな」
ルシアンが、私の肩を揉んでくれた。
「お前は、素晴らしかった」
「でも、まだ決まったわけじゃない」
「ああ。これからが、本当の勝負だ」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
扉が開き――カイルが入ってきた。
「殿下」
私たちは、立ち上がった。
「座ったままでいい」
カイルが、微笑んだ。
「礼を言いに来た」
「礼……?」
「お前の演説、素晴らしかった」
カイルは、椅子に座った。
「実は、私もずっと思っていたんだ」
「この国は、変わるべきだと」
「殿下……」
「でも、一人では何もできなかった」
カイルの目に、決意が宿った。
「だが、お前が現れた」
「お前は、実際に変革を成し遂げた」
「だから――」
カイルは、手を差し出した。
「協力させてくれ」
「殿下……!」
私は、その手を握った。
「ありがとうございます」
「これから、大変な戦いになる」
カイルが、真剣な顔で言った。
「保守派は、必死に抵抗するだろう」
「わかっています」
「でも――」
私は、微笑んだ。
「必ず、成功させます」
「ああ」
カイルも、微笑んだ。
「私も、全力で支援する」
その夜、王都の宿で。
「今日は、よく戦ったな」
ルシアンが、私の髪を撫でてくれた。
「ええ」
私は、彼の胸に顔を埋めた。
「でも、まだ始まったばかり」
「そうだな」
「ルシアン」
「何だ」
「怖いです」
私は、正直に言った。
「こんな大きなことを、本当にできるのか」
「できる」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「お前なら、できる」
「なぜ、そう思うんですか?」
「お前は、すでに証明したからだ」
ルシアンは、私の目を見た。
「ノルディアで、奇跡を起こした」
「それは、皆の力です」
「ああ。でも、その力を引き出したのは、お前だ」
彼は、私の額にキスをした。
「だから、信じろ。お前自身を」
「ルシアン……」
涙が、溢れた。
「ありがとう」
「泣くな」
ルシアンが、優しく涙を拭ってくれた。
「お前が泣くと、私も辛い」
「ごめんなさい」
「謝るな」
彼は、微笑んだ。
「お前は、いつも頑張りすぎる」
「たまには、弱音を吐いてもいいんだぞ」
その言葉が、嬉しかった。
「では――」
私は、彼を見上げた。
「今夜は、甘えてもいいですか?」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「あ、ああ……」
私は、彼の腕の中で笑った。
「ルシアン、可愛い」
「お、お前……」
二人で、笑い合った。
温かい夜。
明日からまた、戦いが始まる。
でも、今夜は――。
ただ、愛する人と一緒にいたい。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
でも、その夜も――。
私たちはほとんど眠らなかった。
語り合い、笑い合い、愛し合った。
長い、幸せな夜。
窓の外には、満月。
明日への希望を照らすように。
新しい時代の、始まりを告げるように。
翌朝。
「エリシア様!」
ラウラが、駆け込んできた。
「大変です!」
「どうしたの?」
「街中が、大騒ぎです!」
「騒ぎ?」
窓を開けると――。
街には、大勢の民衆が集まっていた。
「エリシア様を、支持する!」
「改革を、実現させろ!」
「民衆の声を、聞け!」
プラカードを掲げ、行進している。
「これは……」
「昨日の審議、民衆に広まったんです」
ラウラが説明した。
「エリシア様の演説に、皆が感動して」
「そして、今朝から――」
「デモが、始まったんですね」
ルシアンが、呟いた。
「ああ。これは、予想外だ」
「でも――」
私は、民衆を見た。
「悪いことじゃない」
「え?」
「民衆の声は、最大の武器です」
私は、微笑んだ。
「これで、保守派も無視できなくなる」
「なるほど……」
ルシアンも、微笑んだ。
「お前は、本当に――」
「本当に?」
「策士だな」
「まあ」
私は、笑った。
「前世で、学びましたから」
外では、民衆の声が響き続けていた。
「改革を!」
「エリシアを!」
「新しい時代を!」
その声が、王国を揺るがし始めていた。
変革の風が――。
今、吹き始めた。
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【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
会社をクビになった私、花魔法Lv.MAXの聖女になりました。旅先で出会うイケメンたちが過保護すぎて困ります
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理不尽な理由で会社をクビになったアラサーOLの佐藤明里。ある日、唯一の癒やしだったベランダの家庭菜園がきっかけで、異世界に転移してしまう。そこで彼女が手にしたのは、どんな植物も一瞬で育て、枯れた大地すら癒やす『花魔法 Lv.MAX』というチートスキルだった。
「リナ」と名乗り、自由なセカンドライフに胸を躍らせていた矢先、森で魔法の毒に侵され死にかけていた『氷の騎士』カインと出会う。諦めきった様子の彼を、リナはスキルで咲かせた幻の薬草であっさりと救ってみせる。
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不遇だった元OLが、チートな花魔法で人々を癒やし、最強騎士をはじめとする様々なイケメンたちにひたすら愛される、ほのぼの異世界やり直しファンタジー。
『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します
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呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。
しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。
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