追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第3章「辺境からの革命」

第24話「改革の狼煙」

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改革承認から一週間。
王宮の会議室には、巨大な王国地図が広げられていた。
「現状を報告します」
オスカーが、地図に印をつけていく。
「改革に賛同している領地――五つ」
赤い印。
「中立の領地――十」
黄色い印。
「反対している領地――二十五」
青い印。
「多いな……」
私は、ため息をついた。
「半数以上が、反対か」
「まあ、当然だろう」
ルシアンが言った。
「いきなり身分制度を変えると言われて、賛成する貴族は少ない」
「では、どうすれば――」
「直接、会いに行く」
私は、決断した。
「一つ一つの領地を回って、説得します」
「危険だぞ」
オスカーが、心配そうに言った。
「反対派の中には、過激な者もいます」
「わかっています」
私は、頷いた。
「でも、手紙や使者だけでは伝わらない」
「実際に会って、話をしないと」
「なら、私も行く」
ルシアンが、当然のように言った。
「一人では行かせない」
「ありがとう」
私は、彼の手を握った。
「では――」
カイル王子が、地図を見た。
「どこから回る?」
「まず、中立の領地から」
私は、地図を指差した。
「反対派を説得する前に、味方を増やします」
「賢明ですね」
カイル王子が、頷いた。
「では、私も同行します」
「殿下が?」
「ええ。次期国王として、この改革を支援する姿勢を示す必要があります」
「ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「では、明日出発しましょう」

翌日。
王都の門で、見送りの人々が集まっていた。
「エリシア様、気をつけて!」
「必ず、成功させてください!」
民衆の声援。
「行ってきます」
私は、馬車に乗り込んだ。
ルシアン、カイル王子、そしてオスカー、レオンも同行。
ミラとラウラは、王都に残って情報収集を担当する。
「では、出発だ」
御者が、手綱を引いた。
馬車が、動き出す。
最初の目的地は――。
東の領地、バルトリア。
中立を表明している領主、フェリックス男爵の領地。

三日後、バルトリアに到着した。
小さな城と、その周りに広がる農村。
「質素だな」
ルシアンが、呟いた。
「豊かではないようです」
オスカーが、報告した。
「人口三千人。主産業は農業ですが、収穫量は少ない」
「つまり――」
「改革の効果が、すぐに実感できる領地です」
私は、微笑んだ。
「好都合ね」
城に到着した。
フェリックス男爵が、出迎えてくれた。
「ようこそ、エリシア様」
五十代の、真面目そうな男性。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
男爵は、私たちを城に案内した。
「正直に申し上げますと――」
応接室で、男爵が口を開いた。
「改革には、懐疑的です」
「理由を、聞かせていただけますか?」
「身分制度を変えることが、本当に良いことなのか」
男爵の目が、真剣だった。
「伝統を壊すことで、かえって混乱が生じるのではないか」
「なるほど」
私は、頷いた。
「では、一つ質問させてください」
「どうぞ」
「男爵様の領地には、才能ある若者がいますか?」
「才能……?」
「はい。貧しくても、優秀な若者」
男爵は、少し考えた。
「……一人、います」
「詳しく聞かせてください」
「農民の息子で、トーマスという少年です」
男爵が、説明した。
「彼は、独学で文字を学び、計算も得意です」
「でも、貧しいので教育を受けられない」
「会えますか?」
「会う?」
「はい。彼に、会ってみたいんです」
男爵は、驚いた顔をしたが――。
「……わかりました」

一時間後。
城に、一人の少年が連れてこられた。
十五歳くらい。痩せているが、目が聡明だった。
「トーマスです」
少年は、緊張した顔で頭を下げた。
「こんにちは、トーマス」
私は、微笑んだ。
「緊張しなくていいわ」
「は、はい……」
「あなた、文字が読めるそうね」
「はい。村の古い本で、独学で……」
「素晴らしいわ」
私は、紙とペンを取り出した。
「では、これを読んでみて」
私が書いたのは、複雑な数式。
前世の高校レベルの数学。
トーマスは、じっと見つめた。
そして――。
「これは……二次方程式ですか?」
私は、驚いた。
「知っているの?」
「いえ、見たことはないですが――」
トーマスが、ペンを取った。
「こうやって解くんじゃないかと……」
彼は、紙に計算を書き始めた。
そして、五分後――。
「答えは、これで合っていますか?」
完璧な解答だった。
「すごい……」
私は、感動していた。
「独学で、ここまで……」
「男爵様」
私は、男爵を見た。
「この少年の才能、埋もれさせるのは惜しくありませんか?」
「確かに……」
「もし、彼が適切な教育を受けたら?」
私は、続けた。
「きっと、素晴らしい学者になります」
「そして、この領地にも貢献できます」
男爵は、トーマスを見た。
「トーマス、お前――学びたいか?」
「はい!」
少年の目が、輝いた。
「学びたいです! もっと、もっと!」
その姿を見て、男爵の表情が変わった。
「……エリシア様」
「はい」
「わかりました」
男爵が、頷いた。
「改革に、協力します」
「本当ですか!?」
「ええ。トーマスのような才能が、他にもいるかもしれない」
男爵は、決意を込めて言った。
「それを埋もれさせるのは、確かに惜しい」
「ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
「では、早速――」
私は、改革計画書を取り出した。
「まず、学校を作りましょう」

一週間後。
バルトリアに、簡易の学校が完成した。
ノルディアから派遣された教師が、授業を開始。
トーマスを含む、二十人の子供たちが通い始めた。
「本当に……学べるんですね」
トーマスが、涙を流していた。
「ええ」
私は、彼の肩に手を置いた。
「これから、たくさん学んで」
「そして、この領地を支える人材になってください」
「はい!」
トーマスの決意に満ちた顔。
「エリシア様」
男爵が、近づいてきた。
「村人たちも、喜んでいます」
「良かった」
「それに――」
男爵が、書類を見せた。
「隣の領地、マルケス伯爵も関心を示しています」
「本当ですか!?」
「はい。学校の噂を聞いて、視察に来たいと」
「素晴らしい」
私は、微笑んだ。
「では、次はマルケス領に行きましょう」

こうして、私たちの旅は続いた。
バルトリアから、マルケス領へ。
マルケス領から、カールトン領へ。
一つ一つの領地を回り、改革を説明する。
時には、歓迎された。
時には、拒絶された。
でも――。
「諦めない」
私は、何度も自分に言い聞かせた。

二ヶ月後。
南部の領地、リンデン公爵領。
ここは、保守派の牙城だった。
「危険だぞ」
ルシアンが、警告した。
「リンデン公は、グレゴール公の盟友だった」
「わかっています」
私は、城を見上げた。
「でも、説得しないと」
城門で、私たちは止められた。
「リンデン公は、お会いにならないとのことです」
衛兵が、冷たく言った。
「帰ってください」
「待ってください」
私は、前に出た。
「私は、国王陛下の勅命で来ています」
「それでも、ダメです」
「なら――」
私は、決断した。
「ここで待ちます」
「え?」
「リンデン公が会ってくれるまで、ここで待ちます」
「そんな……」
衛兵が、困惑した。
でも、私は本気だった。
城門の前に、座り込んだ。
「エリシア、無茶だ」
ルシアンが言ったが――。
「いいえ。これが、私の誠意です」

一時間、二時間、三時間――。
私は、ずっと座り続けた。
陽が傾き始めた。
寒くなってきた。
でも――。
「動かない」
ルシアンが、外套を掛けてくれた。
「お前は、本当に頑固だな」
「あなたに似たんです」
私は、笑った。
そして――。
夕暮れ時。
城門が、開いた。
「リンデン公が、お会いになるそうです」
衛兵の言葉に、私は立ち上がった。
「ありがとうございます」

謁見の間。
老人が、玉座に座っていた。
リンデン公――七十歳を超える、保守派の重鎮。
「よく来た、エリシア」
低い声。
「リンデン公」
私は、深く頭を下げた。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「三時間も門前に座るとは」
リンデン公が、苦笑した。
「根性があるな」
「改革について、お話しさせてください」
「いいだろう」
リンデン公は、手を振った。
「だが、私を説得できると思うな」
「わかっています」
私は、まっすぐ彼を見た。
「でも、話は聞いてください」
「聞こう」
私は、これまでの成果を説明した。
ノルディアの変化。
バルトリアの学校。
各地での成功例。
リンデン公は、黙って聞いていた。
「……なるほど」
話が終わると、彼は深くため息をついた。
「確かに、成果は出ているようだな」
「はい」
「だが」
リンデン公の目が、鋭くなった。
「この国には、伝統がある」
「数百年続いてきた、秩序がある」
「それを壊すことが――本当に正しいのか?」
その問いに、私は――。
「リンデン公」
私は、正直に答えた。
「私も、伝統は大切だと思います」
「でも――」
私は、目を見開いた。
「伝統は、人々を苦しめるためにあるのではありません」
「伝統は、人々を幸せにするためにあるべきです」
「もし、伝統が人を苦しめているなら――」
「それは、変えるべきではないでしょうか?」
リンデン公は、長い沈黙の後――。
「……お前は、若いな」
そして、微笑んだ。
「でも、その若さが――この国には必要なのかもしれない」
「リンデン公……」
「わかった」
彼は、立ち上がった。
「改革に、協力しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、条件がある」
「何でしょう?」
「急がないでくれ」
リンデン公が、真剣な顔で言った。
「段階的に、ゆっくりと変えてくれ」
「人々が慣れる時間を、与えてくれ」
「わかりました」
私は、深く頭を下げた。
「お約束します」

その夜、宿で。
「やったな、エリシア」
ルシアンが、微笑んだ。
「リンデン公まで味方につけた」
「ええ」
私は、疲れて椅子に座り込んだ。
「でも、まだまだです」
「二十以上の領地が、まだ反対しています」
「焦るな」
ルシアンが、私の肩を揉んでくれた。
「お前は、十分頑張っている」
「でも――」
「三年ある」
彼は、私の額にキスをした。
「一つずつ、確実に進めばいい」
「……そうですね」
私は、彼を見上げた。
「ありがとう」
「さあ、休め」
「はい」
ベッドに横になると――。
すぐに、深い眠りに落ちた。
長い一日だった。
でも、充実した一日。
夢の中では――。
子供たちが、学校で学んでいた。
農民たちが、豊かな収穫を喜んでいた。
人々が、笑顔で生きていた。
そんな未来を、見た。
「必ず、実現させる」
夢の中で、誓った。
長い旅は、まだ続く。
でも――。
確実に、変化は起きている。
改革の狼煙は、上がった。
そして、その炎は――。
少しずつ、王国全体に広がり始めていた。
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