追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第3章「辺境からの革命」

第26話「農業革命の波」

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教師養成学校の成功から一ヶ月。
次は、農業改革に着手する時だった。
「全国温室プロジェクト」
私は、会議室で計画を発表した。
「ノルディアで成功した温室技術を、各地に展開します」
地図に、予定地が印されている。
「最初は、五つの領地から」
「バルトリア、マルケス、リンデン、カールトン、そしてフロスト」
「それぞれ、気候も土壌も違う場所です」
オスカーが、データを説明した。
「バルトリアは温暖、フロストは極寒」
「マルケスは乾燥、カールトンは湿潤」
「つまり――」
私は、頷いた。
「全ての気候パターンをカバーできます」
「ここで成功すれば、どこでも応用可能になります」
「なるほど」
ルシアンが、地図を見た。
「だが、それぞれに合わせた設計が必要だな」
「その通りです」
私は、設計図を広げた。
「基本構造は同じですが、細部を調整します」
「魔法陣の出力、断熱材の厚さ、換気システム――」
「全て、現地に合わせます」
「では――」
カイル王子が言った。
「実際に、現地に行くんですね」
「はい。まず、フロスト領から」
私は、決意を込めて言った。
「最も困難な場所から、始めます」

一週間後。
北の果て、フロスト領に到着した。
極寒の地。
一年の半分が雪に覆われる。
「寒い……」
ミラが、震えている。
「ノルディアより、ずっと寒いよ……」
「ここで農業をするのは、至難の業だ」
現地の領主、フロスト男爵が説明した。
「夏でも、作物がまともに育たない」
「だから、温室が必要なんです」
私は、予定地を見た。
城の近く、平らな土地。
「ここに、建設しましょう」

建設開始から二週間。
温室の骨組みが完成した。
ノルディアと同じ設計。
魔法陣も、同じパターン。
「では、起動します」
技術者が、魔法陣に魔力を注いだ。
魔法陣が、光り始めた。
「温度、上昇中……」
「現在、マイナス五度から――」
「プラス十度に!」
「成功だ!」
歓声が上がった。
「やりました、エリシア様!」
「これで、フロストでも野菜が――」
その時。
ピキピキ。
嫌な音がした。
「何だ?」
「温室の壁が……!」
ガラスの壁に、亀裂が入っていた。
「危ない、皆避難して!」
バリン!
ガラスが、砕け散った。
幸い、怪我人はいなかったが――。
温室は、使い物にならなくなった。
「どうして……」
私は、呆然としていた。
「ノルディアと同じ設計なのに……」
「エリシア様」
技術者が、破片を調べていた。
「原因がわかりました」
「何?」
「温度差です」
「温度差……?」
「はい。外気がマイナス二十度、内部がプラス十度――」
技術者が、説明した。
「急激な温度差で、ガラスが膨張収縮に耐えられなかった」
「そんな……」
私は、膝をついた。
「計算、間違えた……」

その夜、宿で。
私は、一人で設計図を見直していた。
「どこが間違っていたの……」
何度計算しても、理論上は問題ないはず。
でも、現実は――失敗だった。
「エリシア」
ルシアンが、入ってきた。
「まだ、起きていたのか」
「眠れません」
私は、設計図を握りしめた。
「農民たちの期待を、裏切ってしまった……」
「一度の失敗だ」
ルシアンが、私の肩に手を置いた。
「次は、成功させればいい」
「でも……」
「エリシア」
彼は、私の顔を上げさせた。
「お前は、完璧じゃない」
「失敗することもある」
「でも――」
彼の目が、優しかった。
「失敗から学べばいい」
その言葉に、少し心が軽くなった。
「……ありがとう」

翌朝。
現地の農民たちが、集まっていた。
「すみません」
私は、深く頭を下げた。
「温室建設、失敗しました」
「皆さんの期待を、裏切ってしまって……」
沈黙。
そして――。
「エリシア様」
一人の老農民が、前に出た。
「顔を上げてください」
「でも――」
「一度の失敗で、諦めるんですか?」
老農民の目が、真剣だった。
「私たちは、何十年も失敗してきました」
「作物が育たない、家族が飢える――」
「それでも、諦めなかった」
「だから――」
老農民が、微笑んだ。
「エリシア様も、諦めないでください」
その言葉に、涙が溢れた。
「皆さん……」
「それに」
別の農民が言った。
「私たち、思ったんです」
「もしかして、この土地のことを知れば――解決策が見つかるんじゃないかって」
「この土地のこと……?」
「はい」
老農民が、頷いた。
「私たち、この土地で何十年も暮らしてきました」
「温度の変化、風の吹き方、雪の降り方――」
「全部、知っています」
「それを、教えてください」
私は、立ち上がった。
「皆さんの知恵を、貸してください」

次の日から、私は農民たちと話し合った。
「冬の朝は、急激に冷え込む」
「でも、昼間は日差しが強い」
「だから、温度差が激しいんです」
「夜は、北風が吹く」
「この風が、一番厄介です」
農民たちの知識は、膨大だった。
データには現れない、生きた知識。
「なるほど……」
私は、メモを取り続けた。
「では、この温度差に耐えるには――」
「段階的に温めるんです」
老農民が、提案した。
「急に温めると、ガラスが割れる」
「なら、ゆっくり温めればいい」
「段階的……」
私の頭が、回転し始めた。
「魔法陣を、多層構造にすれば――」
「それぞれが少しずつ温度を上げる」
「そうすれば、急激な温度差が生じない!」
「それと」
若い農民が言った。
「北風を防ぐために、防風林を植えたらどうですか?」
「防風林……」
「はい。温室の北側に、木を植える」
「そうすれば、風が弱まります」
「素晴らしい!」
私は、新しい設計図を描き始めた。
農民たちの知恵と、私の技術の融合。
「これなら、いける……!」

二週間後。
新しい温室が完成した。
多層魔法陣システム。
防風林。
そして、二重ガラス構造。
「では、起動します」
今度は、慎重に。
第一層の魔法陣を起動。
温度が、マイナス二十度からマイナス十度に。
十分後、第二層を起動。
マイナス十度から、ゼロ度に。
さらに十分後、第三層を起動。
ゼロ度から、プラス十度に。
「ガラスの状態は?」
「異常なし!」
「亀裂も、ありません!」
「成功だ……!」
歓声が、上がった。
「やった!」
「本当に、温かい!」
農民たちが、温室に入ってくる。
「すごい……極寒のフロストで、こんなに暖かい場所が……」
老農民が、涙を流していた。
「夢みたいだ……」
「ありがとうございます」
私は、農民たちに頭を下げた。
「皆さんの知恵のおかげです」
「いいえ、エリシア様の技術があってこそです」
老農民が、笑った。
「二つが合わさって、奇跡が生まれたんです」

一ヶ月後。
フロストの温室で、最初の収穫があった。
「レタスが、こんなに!」
「トマトも、実ってる!」
「信じられない……極寒のフロストで、野菜が!」
農民たちの喜びの声。
「これで、冬も食べ物に困らない」
「子供たちに、新鮮な野菜を食べさせられる」
老農民が、私の手を握った。
「エリシア様、本当にありがとうございます」
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「失敗から、学ばせていただきました」

フロストの成功は、すぐに広まった。
「極寒のフロストで、温室が成功したらしい」
「なら、他の場所でもできるはずだ」
次々と、要請が来た。
「バルトリアにも、作ってください」
「マルケスにも」
「カールトンにも」
私たちは、各地を回った。
それぞれの土地で――。
現地の農民たちと協力し、その土地に合った温室を作った。
乾燥地では、貯水システムを追加。
湿潤地では、排水システムを強化。
温暖地では、冷却機能も組み込んだ。
一つとして、同じ温室はなかった。
でも、全てが――成功した。

半年後。
王都に戻った私たちは、報告会を開いた。
「各地の温室、全て稼働中です」
オスカーが、報告した。
「フロスト、バルトリア、マルケス、カールトン――」
「全てで、収穫が始まっています」
地図に、緑の印がついていく。
「素晴らしい」
国王陛下が、満足そうに頷いた。
「エリシア、よくやった」
「ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「でも、これは始まりに過ぎません」
「まだまだ、広げていきます」
「期待している」
国王が、微笑んだ。

その夜、自室で。
「疲れたな」
ルシアンが、私の肩を揉んでくれた。
「ええ。でも、充実しています」
私は、窓の外を見た。
王都の夜景。
「ルシアン」
「何だ」
「フロストでの失敗――」
私は、振り返った。
「あれは、良い経験でした」
「そうか」
「はい。失敗して、学びました」
私は、微笑んだ。
「私一人の知識じゃ、足りないって」
「現地の人々の知恵が、必要だって」
「それに気づけて――」
「良かったです」
ルシアンが、私を抱きしめた。
「お前は、成長したな」
「あなたのおかげです」
私も、彼を抱きしめた。
「いつも、支えてくれて」
「当然だ」
ルシアンが、私の髪に顔を埋めた。
「お前は、私の妻だ」
「一生、支え続ける」
その言葉が、嬉しかった。
「私も、あなたを支えます」
「一生」
二人で、しばらく抱き合っていた。
温かい沈黙。
「さあ、休もう」
「はい」
ベッドに横になると――。
今日は、すぐに眠りに落ちた。
幸せな、充実した疲労。
夢の中では――。
緑の畑が、王国中に広がっていた。
人々が、笑顔で収穫していた。
子供たちが、新鮮な野菜を食べていた。
そんな未来を、見た。
「必ず、実現させる」
夢の中で、誓った。
農業革命の波は――。
今、王国全体に広がり始めていた。
教育と農業。
二つの改革が、着実に進んでいる。
次は――。
インフラ整備。
そして、身分制度改革。
まだまだ、やることはある。
でも――。
「大丈夫」
私は、眠りながら微笑んだ。
「仲間がいる」
「愛する人がいる」
「だから、できる」
長い夜が、静かに更けていった。
でも、エリシアの心には――。
希望の炎が、燃え続けていた。
明日への炎。
未来への炎。
そして――。
革命の炎。
それは、決して消えることはなかった。

翌朝。
「エリシア様、大変です!」
ミラが、慌てて飛び込んできた。
「どうしたの?」
「西部の領主たちが、共同で温室建設を要請してきました!」
「共同で?」
「はい。十の領地が、まとめて!」
「それは……」
私は、驚いた。
「すごいことね」
「噂が広まってるんだよ」
ミラが、興奮して言った。
「『エリシアの温室は、奇跡を起こす』って」
「奇跡じゃないわ」
私は、笑った。
「科学と、人々の知恵の結晶よ」
「でも、十の領地を同時に――」
「やりましょう」
私は、立ち上がった。
「人手を増やして、効率化して」
「必ず、成功させます」
窓の外、朝日が昇っていた。
新しい一日。
新しい挑戦。
「さあ、始めましょう」
私は、微笑んだ。
革命は、まだ続く。
でも、その先には――。
希望に満ちた未来が、待っている。
必ず、そこに辿り着く。
「行きましょう、ミラ」
「うん!」
二人で、執務室に向かった。
新しい一日が、始まった。
希望の一日が。
革命の一日が。
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