27 / 35
第3章「辺境からの革命」
第27話「繋がる道、繋がる心」
しおりを挟む
改革開始から一年。
王宮の大会議室には、五十人以上の領主が集まっていた。
「王国街道網計画」
私は、巨大な地図を壁に掲げた。
「これが、完成予想図です」
赤い線が、王国中を網の目のように結んでいる。
「王都を中心に、東西南北に主要街道」
「そこから、各領地を繋ぐ支線」
「全長、三千キロメートル」
場内が、どよめいた。
「三千キロ!?」
「そんな距離、完成させられるのか?」
「できます」
私は、断言した。
「期間は二年。段階的に建設します」
「まず、主要街道から」
地図を指差していく。
「王都からノルディアへの北街道――すでに完成」
「次は、王都から東部商業都市エルデンへ」
「その次は、南部農業地帯、西部鉱山地帯へ」
「でも――」
一人の領主が、手を上げた。
「費用は、どうするんだ?」
「良い質問です」
私は、別の書類を配布した。
「建設費用は、国庫と各領地で折半」
「ただし――」
「街道が完成すれば、商業が活性化します」
「関税収入、通行料収入が増えます」
「それを、建設費用の返済に充てます」
データを示す。
「試算では、五年で投資回収が可能です」
「五年……」
領主たちが、計算を始めた。
「それなら、やる価値があるかもしれない」
「だが」
別の領主が言った。
「我が領地には、険しい山がある」
「そこを通すのは、不可能だ」
「不可能ではありません」
私は、別の図面を見せた。
「トンネルを掘ります」
「トンネル!?」
「はい。山を貫く、長大トンネル」
場内が、再び驚きに包まれた。
「そんなこと、できるのか?」
「できます」
私は、前世の土木工学の知識を総動員して説明した。
「魔法と技術の融合です」
「岩盤を魔法で削り、支柱で補強する」
「換気システムも、魔法陣で構築します」
詳細な設計図を見せる。
「これなら――」
領主たちが、納得し始めた。
「本当に、できるかもしれない」
「では」
カイル王子が、立ち上がった。
「賛成の方、挙手を」
ゆっくりと、手が上がっていく。
最終的に――。
「全員一致で、可決!」
カイルが、宣言した。
「王国街道網計画、正式に承認されました!」
拍手が、響いた。
一週間後。
最初の建設現場――東街道。
王都から、商業都市エルデンまで、二百キロメートル。
「では、着工式を行います」
私は、スコップを手に取った。
そして、地面に突き刺す。
「これより、東街道建設を――開始します!」
「「「おおおお!!」」」
数百人の作業員が、歓声を上げた。
工事が、始まった。
測量班が、正確なルートを決める。
整地班が、地面を平らにする。
石材班が、道路の基礎を作る。
「順調ですね」
オスカーが、工程表を確認している。
「ええ。このペースなら、予定通り――」
その時。
「エリシア様! 問題です!」
技術者が、駆けてきた。
「どうしたの?」
「前方二十キロ地点――大きな川があります」
「知っています。架橋の計画がありますよ」
「いえ、それが――」
技術者が、青い顔で言った。
「今年は雨が多くて、川が増水しています」
「計画していた場所では、橋脚が立てられません」
「そんな……」
現場に行くと――。
濁流が、轟々と流れていた。
「これは……」
普段なら幅五十メートルの川が、百メートル以上に広がっている。
「この状態では、橋を架けられません」
技術者が、頭を抱えた。
「増水が収まるまで、待つしか――」
「待てません」
私は、川を見つめた。
「工期が遅れれば、全体計画に影響します」
「でも――」
「別の方法を、考えましょう」
その夜、宿で。
私は、前世の橋梁工学の教科書を思い出していた。
「増水した川に橋を架ける方法……」
ルシアンが、横で地図を見ている。
「川の上流、十キロ地点に――」
彼が、ある場所を指差した。
「岩盤がある」
「岩盤……?」
「ああ。ここなら、川幅も狭い」
「そして、岩盤なら橋脚が安定する」
「でも、十キロも迂回すれば――」
「時間がかかる、か?」
ルシアンが、計算した。
「確かに距離は伸びる。だが――」
「安全で確実な橋が作れる」
「それに――」
彼は、地図の別の場所を指差した。
「この迂回ルートは、三つの村を通る」
「今は孤立している村だ」
「つまり……」
私の目が、輝いた。
「経済効果が、より大きくなる!」
「その通りだ」
ルシアンが、微笑んだ。
「デメリットを、メリットに変えるんだ」
「素晴らしい!」
私は、彼を抱きしめた。
「ありがとう、ルシアン!」
「お、おい……」
彼の顔が、赤くなった。
「急に抱きつくな」
「だって、嬉しくて」
私は、彼を見上げた。
「あなたがいてくれて、本当に良かった」
ルシアンは、少し照れながら――。
「……私も、だ」
そして、私の額にキスをした。
翌日。
ルートを変更し、上流に橋を架けることにした。
「岩盤を基礎にします」
新しい設計図を描く。
「長さ、百メートル。石造アーチ橋」
「アーチ橋?」
技術者が、訊いた。
「はい。アーチ構造なら、強度が増します」
私は、前世の知識を説明した。
「重量が、アーチ全体に分散されるんです」
「なるほど……」
建設が、始まった。
まず、両岸の岩盤に土台を作る。
次に、中央に足場を組む。
そして、石を一つ一つ積み上げていく。
「慎重に! 一つでもズレたら、崩壊します!」
作業員たちが、真剣な顔で作業している。
二ヶ月後――。
「最後の石を、置きます!」
要石――アーチの頂点の石が、はめ込まれた。
そして――。
足場を外す。
橋が、自立した。
「成功だ……!」
歓声が、上がった。
「本当に、立った!」
「すごい……石だけで、こんな長い橋が!」
試しに、馬車を通してみる。
揺れもなく、安定している。
「完璧です、エリシア様!」
「みんなのおかげです」
私は、作業員たちに頭を下げた。
「ありがとうございました」
橋の完成から三ヶ月。
東街道の第一区間が、開通した。
王都からエルデンまで、整備された道。
「開通式を行います!」
カイル王子、各領主、そして多くの民衆が集まった。
「では――」
私は、リボンを切った。
「東街道、開通です!」
拍手と歓声。
最初の馬車が、新しい道を走り出す。
「速い!」
「揺れない!」
「こんなに快適な道、初めてだ!」
人々の喜びの声。
「エリシア様」
孤立していた村の村長が、近づいてきた。
「本当に、ありがとうございます」
「我が村は、今まで陸の孤島でした」
村長の目に、涙が浮かんでいた。
「でも、この道のおかげで――」
「王都と繋がることができました」
「物を売ることができます」
「子供たちを、街の学校に通わせることができます」
「これからは――」
村長が、笑顔になった。
「希望を持って、生きられます」
その言葉が、胸に響いた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「道は、人を繋ぎます」
「そして、心も繋ぎます」
半年後。
東街道に続き、南街道も完成した。
そして――。
最大の難所、西街道の建設が始まった。
西部は、険しい山岳地帯。
「ここに、トンネルを掘ります」
私は、山を見上げた。
「全長、五キロメートル」
「五キロ……」
作業員たちが、不安そうな顔をした。
「本当に、掘れるんですか?」
「掘れます」
私は、断言した。
「魔法と技術を、組み合わせます」
まず、魔法で岩盤を削る。
「火の魔法で、岩を熱する」
「次に、水の魔法で急冷」
「岩にひびが入ります」
「そして、物理的に砕く」
実演してみせる。
ゴォォォ。
火の魔法が、岩を真っ赤に熱した。
次に、水をかける。
バキバキバキ。
岩にひびが入った。
「すげぇ……」
作業員たちが、感嘆の声を上げた。
「これなら、いけるかも!」
工事が、始まった。
両側から、同時に掘り進める。
毎日、数メートルずつ前進。
でも――。
「エリシア様、問題が!」
三ヶ月後、技術者が報告に来た。
「地下水脈に当たりました」
「水が、噴き出しています」
現場に行くと――。
トンネルの中が、水浸しになっていた。
「これは……」
「このままでは、作業ができません」
「排水を」
私は、指示を出した。
「魔法陣で、排水システムを構築します」
「それに――」
設計図を修正する。
「この水を、利用しましょう」
「利用?」
「はい。麓の村に、水を引きます」
「この山岳地帯は、水不足です」
「トンネルの水を、村に供給するんです」
技術者の目が、輝いた。
「それは……素晴らしいアイデアです!」
排水システムと水路を建設。
問題が、解決策に変わった。
一年後。
西街道のトンネルが――。
ついに、貫通した。
「繋がった!」
両側から掘り進めたトンネルが、中央で合流。
誤差は、わずか十センチ。
「すごい精度だ……」
技術者たちが、驚いている。
「測量が、完璧だったんです」
私は、微笑んだ。
「みんなの努力の結果です」
トンネルを、光が貫く。
美しい光景。
「やった……やったぞ!」
作業員たちが、抱き合って喜んでいる。
二年後。
全ての主要街道が、完成した。
王都を中心に、東西南北に伸びる道。
そして、各地を繋ぐ支線。
「王国街道網、完成です!」
国王陛下の前で、私は報告した。
「素晴らしい」
国王が、満足そうに頷いた。
「これで、王国は一つに繋がった」
「はい」
私は、深く頭を下げた。
「これも、陛下のご支援のおかげです」
「エリシア」
国王が、私を見た。
「お前は、本当にこの国を変えた」
「教育、農業、そしてインフラ」
「全てが、目に見えて良くなっている」
「ありがとうございます」
「だが――」
国王の表情が、真剣になった。
「最後の、そして最も困難な改革が残っている」
「身分制度改革、ですね」
「そうだ」
国王は、深くため息をついた。
「これが、一番難しい」
「わかっています」
私は、頷いた。
「でも――」
私は、窓の外を見た。
整備された街道を、人々が行き交っている。
貴族も、平民も、商人も、農民も――。
同じ道を、歩いている。
「準備は、整っています」
「教育で、平民も学んだ」
「農業で、平民も豊かになった」
「インフラで、平民も自由に移動できるようになった」
「あとは――」
私は、国王を見た。
「制度を、変えるだけです」
国王は、長い沈黙の後――。
「……わかった」
彼は、立ち上がった。
「三ヶ月後、身分制度改革について――」
「正式な議会を開く」
「ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
その夜、城のバルコニーで。
「ついに、ここまで来たな」
ルシアンが、私の隣に立った。
「ええ」
私は、星空を見上げた。
「二年――長かったようで、短かった」
「お前、本当によく頑張ったな」
ルシアンが、私の肩を抱いた。
「私一人じゃ、できませんでした」
私は、彼を見上げた。
「あなたがいてくれたから」
「カイル殿下が、支援してくれたから」
「仲間たちが、協力してくれたから」
「そして――」
私は、微笑んだ。
「民衆が、信じてくれたから」
「エリシア」
ルシアンが、私の顔を両手で包んだ。
「愛している」
「私も」
私は、目を閉じた。
彼の唇が、私の唇に触れた。
深く、優しいキス。
「これから――」
ルシアンが、囁いた。
「最後の戦いが始まる」
「ええ」
私は、頷いた。
「でも、勝ちます」
「必ず、勝ちます」
星が、輝いていた。
希望の星のように。
明日への星のように。
「さあ、休もう」
「はい」
二人で、部屋に戻った。
長い一日だった。
でも、充実した一日。
そして――。
明日からは、最後の戦いが始まる。
身分制度改革。
最大の、そして最も困難な挑戦。
「でも、大丈夫」
私は、ベッドに横になりながら呟いた。
「ここまで来たんだから」
「必ず、成し遂げる」
深い眠りに落ちていった。
夢の中では――。
貴族と平民が、対等に話している世界。
身分に関係なく、才能が評価される世界。
誰もが、自由に夢を追える世界。
そんな未来を、見た。
「必ず、実現させる」
夢の中で、誓った。
長い戦いは、まだ続く。
でも、ゴールは――。
もう、すぐそこに見えていた。
王宮の大会議室には、五十人以上の領主が集まっていた。
「王国街道網計画」
私は、巨大な地図を壁に掲げた。
「これが、完成予想図です」
赤い線が、王国中を網の目のように結んでいる。
「王都を中心に、東西南北に主要街道」
「そこから、各領地を繋ぐ支線」
「全長、三千キロメートル」
場内が、どよめいた。
「三千キロ!?」
「そんな距離、完成させられるのか?」
「できます」
私は、断言した。
「期間は二年。段階的に建設します」
「まず、主要街道から」
地図を指差していく。
「王都からノルディアへの北街道――すでに完成」
「次は、王都から東部商業都市エルデンへ」
「その次は、南部農業地帯、西部鉱山地帯へ」
「でも――」
一人の領主が、手を上げた。
「費用は、どうするんだ?」
「良い質問です」
私は、別の書類を配布した。
「建設費用は、国庫と各領地で折半」
「ただし――」
「街道が完成すれば、商業が活性化します」
「関税収入、通行料収入が増えます」
「それを、建設費用の返済に充てます」
データを示す。
「試算では、五年で投資回収が可能です」
「五年……」
領主たちが、計算を始めた。
「それなら、やる価値があるかもしれない」
「だが」
別の領主が言った。
「我が領地には、険しい山がある」
「そこを通すのは、不可能だ」
「不可能ではありません」
私は、別の図面を見せた。
「トンネルを掘ります」
「トンネル!?」
「はい。山を貫く、長大トンネル」
場内が、再び驚きに包まれた。
「そんなこと、できるのか?」
「できます」
私は、前世の土木工学の知識を総動員して説明した。
「魔法と技術の融合です」
「岩盤を魔法で削り、支柱で補強する」
「換気システムも、魔法陣で構築します」
詳細な設計図を見せる。
「これなら――」
領主たちが、納得し始めた。
「本当に、できるかもしれない」
「では」
カイル王子が、立ち上がった。
「賛成の方、挙手を」
ゆっくりと、手が上がっていく。
最終的に――。
「全員一致で、可決!」
カイルが、宣言した。
「王国街道網計画、正式に承認されました!」
拍手が、響いた。
一週間後。
最初の建設現場――東街道。
王都から、商業都市エルデンまで、二百キロメートル。
「では、着工式を行います」
私は、スコップを手に取った。
そして、地面に突き刺す。
「これより、東街道建設を――開始します!」
「「「おおおお!!」」」
数百人の作業員が、歓声を上げた。
工事が、始まった。
測量班が、正確なルートを決める。
整地班が、地面を平らにする。
石材班が、道路の基礎を作る。
「順調ですね」
オスカーが、工程表を確認している。
「ええ。このペースなら、予定通り――」
その時。
「エリシア様! 問題です!」
技術者が、駆けてきた。
「どうしたの?」
「前方二十キロ地点――大きな川があります」
「知っています。架橋の計画がありますよ」
「いえ、それが――」
技術者が、青い顔で言った。
「今年は雨が多くて、川が増水しています」
「計画していた場所では、橋脚が立てられません」
「そんな……」
現場に行くと――。
濁流が、轟々と流れていた。
「これは……」
普段なら幅五十メートルの川が、百メートル以上に広がっている。
「この状態では、橋を架けられません」
技術者が、頭を抱えた。
「増水が収まるまで、待つしか――」
「待てません」
私は、川を見つめた。
「工期が遅れれば、全体計画に影響します」
「でも――」
「別の方法を、考えましょう」
その夜、宿で。
私は、前世の橋梁工学の教科書を思い出していた。
「増水した川に橋を架ける方法……」
ルシアンが、横で地図を見ている。
「川の上流、十キロ地点に――」
彼が、ある場所を指差した。
「岩盤がある」
「岩盤……?」
「ああ。ここなら、川幅も狭い」
「そして、岩盤なら橋脚が安定する」
「でも、十キロも迂回すれば――」
「時間がかかる、か?」
ルシアンが、計算した。
「確かに距離は伸びる。だが――」
「安全で確実な橋が作れる」
「それに――」
彼は、地図の別の場所を指差した。
「この迂回ルートは、三つの村を通る」
「今は孤立している村だ」
「つまり……」
私の目が、輝いた。
「経済効果が、より大きくなる!」
「その通りだ」
ルシアンが、微笑んだ。
「デメリットを、メリットに変えるんだ」
「素晴らしい!」
私は、彼を抱きしめた。
「ありがとう、ルシアン!」
「お、おい……」
彼の顔が、赤くなった。
「急に抱きつくな」
「だって、嬉しくて」
私は、彼を見上げた。
「あなたがいてくれて、本当に良かった」
ルシアンは、少し照れながら――。
「……私も、だ」
そして、私の額にキスをした。
翌日。
ルートを変更し、上流に橋を架けることにした。
「岩盤を基礎にします」
新しい設計図を描く。
「長さ、百メートル。石造アーチ橋」
「アーチ橋?」
技術者が、訊いた。
「はい。アーチ構造なら、強度が増します」
私は、前世の知識を説明した。
「重量が、アーチ全体に分散されるんです」
「なるほど……」
建設が、始まった。
まず、両岸の岩盤に土台を作る。
次に、中央に足場を組む。
そして、石を一つ一つ積み上げていく。
「慎重に! 一つでもズレたら、崩壊します!」
作業員たちが、真剣な顔で作業している。
二ヶ月後――。
「最後の石を、置きます!」
要石――アーチの頂点の石が、はめ込まれた。
そして――。
足場を外す。
橋が、自立した。
「成功だ……!」
歓声が、上がった。
「本当に、立った!」
「すごい……石だけで、こんな長い橋が!」
試しに、馬車を通してみる。
揺れもなく、安定している。
「完璧です、エリシア様!」
「みんなのおかげです」
私は、作業員たちに頭を下げた。
「ありがとうございました」
橋の完成から三ヶ月。
東街道の第一区間が、開通した。
王都からエルデンまで、整備された道。
「開通式を行います!」
カイル王子、各領主、そして多くの民衆が集まった。
「では――」
私は、リボンを切った。
「東街道、開通です!」
拍手と歓声。
最初の馬車が、新しい道を走り出す。
「速い!」
「揺れない!」
「こんなに快適な道、初めてだ!」
人々の喜びの声。
「エリシア様」
孤立していた村の村長が、近づいてきた。
「本当に、ありがとうございます」
「我が村は、今まで陸の孤島でした」
村長の目に、涙が浮かんでいた。
「でも、この道のおかげで――」
「王都と繋がることができました」
「物を売ることができます」
「子供たちを、街の学校に通わせることができます」
「これからは――」
村長が、笑顔になった。
「希望を持って、生きられます」
その言葉が、胸に響いた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
「道は、人を繋ぎます」
「そして、心も繋ぎます」
半年後。
東街道に続き、南街道も完成した。
そして――。
最大の難所、西街道の建設が始まった。
西部は、険しい山岳地帯。
「ここに、トンネルを掘ります」
私は、山を見上げた。
「全長、五キロメートル」
「五キロ……」
作業員たちが、不安そうな顔をした。
「本当に、掘れるんですか?」
「掘れます」
私は、断言した。
「魔法と技術を、組み合わせます」
まず、魔法で岩盤を削る。
「火の魔法で、岩を熱する」
「次に、水の魔法で急冷」
「岩にひびが入ります」
「そして、物理的に砕く」
実演してみせる。
ゴォォォ。
火の魔法が、岩を真っ赤に熱した。
次に、水をかける。
バキバキバキ。
岩にひびが入った。
「すげぇ……」
作業員たちが、感嘆の声を上げた。
「これなら、いけるかも!」
工事が、始まった。
両側から、同時に掘り進める。
毎日、数メートルずつ前進。
でも――。
「エリシア様、問題が!」
三ヶ月後、技術者が報告に来た。
「地下水脈に当たりました」
「水が、噴き出しています」
現場に行くと――。
トンネルの中が、水浸しになっていた。
「これは……」
「このままでは、作業ができません」
「排水を」
私は、指示を出した。
「魔法陣で、排水システムを構築します」
「それに――」
設計図を修正する。
「この水を、利用しましょう」
「利用?」
「はい。麓の村に、水を引きます」
「この山岳地帯は、水不足です」
「トンネルの水を、村に供給するんです」
技術者の目が、輝いた。
「それは……素晴らしいアイデアです!」
排水システムと水路を建設。
問題が、解決策に変わった。
一年後。
西街道のトンネルが――。
ついに、貫通した。
「繋がった!」
両側から掘り進めたトンネルが、中央で合流。
誤差は、わずか十センチ。
「すごい精度だ……」
技術者たちが、驚いている。
「測量が、完璧だったんです」
私は、微笑んだ。
「みんなの努力の結果です」
トンネルを、光が貫く。
美しい光景。
「やった……やったぞ!」
作業員たちが、抱き合って喜んでいる。
二年後。
全ての主要街道が、完成した。
王都を中心に、東西南北に伸びる道。
そして、各地を繋ぐ支線。
「王国街道網、完成です!」
国王陛下の前で、私は報告した。
「素晴らしい」
国王が、満足そうに頷いた。
「これで、王国は一つに繋がった」
「はい」
私は、深く頭を下げた。
「これも、陛下のご支援のおかげです」
「エリシア」
国王が、私を見た。
「お前は、本当にこの国を変えた」
「教育、農業、そしてインフラ」
「全てが、目に見えて良くなっている」
「ありがとうございます」
「だが――」
国王の表情が、真剣になった。
「最後の、そして最も困難な改革が残っている」
「身分制度改革、ですね」
「そうだ」
国王は、深くため息をついた。
「これが、一番難しい」
「わかっています」
私は、頷いた。
「でも――」
私は、窓の外を見た。
整備された街道を、人々が行き交っている。
貴族も、平民も、商人も、農民も――。
同じ道を、歩いている。
「準備は、整っています」
「教育で、平民も学んだ」
「農業で、平民も豊かになった」
「インフラで、平民も自由に移動できるようになった」
「あとは――」
私は、国王を見た。
「制度を、変えるだけです」
国王は、長い沈黙の後――。
「……わかった」
彼は、立ち上がった。
「三ヶ月後、身分制度改革について――」
「正式な議会を開く」
「ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
その夜、城のバルコニーで。
「ついに、ここまで来たな」
ルシアンが、私の隣に立った。
「ええ」
私は、星空を見上げた。
「二年――長かったようで、短かった」
「お前、本当によく頑張ったな」
ルシアンが、私の肩を抱いた。
「私一人じゃ、できませんでした」
私は、彼を見上げた。
「あなたがいてくれたから」
「カイル殿下が、支援してくれたから」
「仲間たちが、協力してくれたから」
「そして――」
私は、微笑んだ。
「民衆が、信じてくれたから」
「エリシア」
ルシアンが、私の顔を両手で包んだ。
「愛している」
「私も」
私は、目を閉じた。
彼の唇が、私の唇に触れた。
深く、優しいキス。
「これから――」
ルシアンが、囁いた。
「最後の戦いが始まる」
「ええ」
私は、頷いた。
「でも、勝ちます」
「必ず、勝ちます」
星が、輝いていた。
希望の星のように。
明日への星のように。
「さあ、休もう」
「はい」
二人で、部屋に戻った。
長い一日だった。
でも、充実した一日。
そして――。
明日からは、最後の戦いが始まる。
身分制度改革。
最大の、そして最も困難な挑戦。
「でも、大丈夫」
私は、ベッドに横になりながら呟いた。
「ここまで来たんだから」
「必ず、成し遂げる」
深い眠りに落ちていった。
夢の中では――。
貴族と平民が、対等に話している世界。
身分に関係なく、才能が評価される世界。
誰もが、自由に夢を追える世界。
そんな未来を、見た。
「必ず、実現させる」
夢の中で、誓った。
長い戦いは、まだ続く。
でも、ゴールは――。
もう、すぐそこに見えていた。
43
あなたにおすすめの小説
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
『偽聖女』として追放された薬草師、辺境の森で神薬を作ります ~魔力過多で苦しむ氷の辺境伯様を癒していたら、なぜか溺愛されています~
とびぃ
ファンタジー
『偽聖女』として追放された薬草師、辺境の森で神薬を作ります
~魔力過多で苦しむ氷の辺境伯様を癒していたら、なぜか溺愛されています~
⚜️ 概要:地味な「真の聖女」の無自覚ざまぁスローライフ!
王家直属の薬草師ルシルは、国家の生命線である超高純度の『神聖原液』を精製できる唯一の存在。しかし、地味で目立たない彼女は、派手な「光の癒やし」を見せる異母妹アデリーナの嫉妬と、元婚約者である王太子ジェラルドの愚かな盲信により、『偽聖女』の濡れ衣を着せられ、魔物が跋扈する**「嘆きの森」**へ永久追放されてしまう。
すべてを失った絶望の淵。だが、ルシルにとってその森は、なんと伝説のSランク薬草が自生する**「宝の山」だった! 知識とナイフ一本で自由なスローライフの基盤を確立した彼女の前に、ある夜、不治の病『魔力過多症』に苦しむ王国最強の男、"氷の辺境伯"カイラス**が倒れ込む。
市販の薬を毒と拒絶する彼を、ルシルは森で手に入れた最高の素材で作った『神薬』で救済。長年の苦痛から解放されたカイラスは、ルシルこそが己の命を握る唯一の存在だと認識し、彼女を徹底的に**「論理的」に庇護し始める**――それは、やがて極度の溺愛へと変わっていく。
一方、ルシルを失った王都では、ポーションが枯渇し医療体制が崩壊。自らの過ちに気づき恐慌に陥った王太子は、ルシルを連れ戻そうと騎士団を派遣するが、ルシルを守る**完治したカイラスの圧倒的な力(コキュートス)**が立ちはだかる!
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
会社をクビになった私、花魔法Lv.MAXの聖女になりました。旅先で出会うイケメンたちが過保護すぎて困ります
☆ほしい
ファンタジー
理不尽な理由で会社をクビになったアラサーOLの佐藤明里。ある日、唯一の癒やしだったベランダの家庭菜園がきっかけで、異世界に転移してしまう。そこで彼女が手にしたのは、どんな植物も一瞬で育て、枯れた大地すら癒やす『花魔法 Lv.MAX』というチートスキルだった。
「リナ」と名乗り、自由なセカンドライフに胸を躍らせていた矢先、森で魔法の毒に侵され死にかけていた『氷の騎士』カインと出会う。諦めきった様子の彼を、リナはスキルで咲かせた幻の薬草であっさりと救ってみせる。
その奇跡と人柄に心打たれたカインは、生涯をかけた恩返しを誓い、彼女の過保護すぎる守護騎士となることを決意。
不遇だった元OLが、チートな花魔法で人々を癒やし、最強騎士をはじめとする様々なイケメンたちにひたすら愛される、ほのぼの異世界やり直しファンタジー。
『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します
☆ほしい
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。
しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。
ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。
死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。
「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」
化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。
これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる