追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第3章「辺境からの革命」

第32話「束の間の平和」

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翌朝。
久しぶりに、ゆっくりと目が覚めた。
「おはよう」
ルシアンが、微笑んでいた。
「おはようございます」
私は、伸びをした。
「よく眠れました」
「良かった」
ルシアンが、私の髪を撫でた。
「では、準備しよう」
「準備……?」
「デートだろう?」
そうだった。
今日は、二人きりの時間。
「でも、このままでは目立ちますね」
私は、鏡を見た。
貴族の服装。
立派すぎる。
「だから――」
ルシアンが、質素な服を取り出した。
「変装だ」
「変装……」
「ああ。平民の服装だ」
「これなら、誰も気づかない」
私も、質素なワンピースに着替えた。
髪も、簡素に結んだ。
「どう?」
「完璧だ」
ルシアンが、微笑んだ。
「普通の町娘に見える」
「あなたも、普通の青年ですね」
二人で、笑い合った。
「では、行こう」

王都の街。
朝の市場は、活気に満ちていた。
「新鮮な野菜だよ!」
「今日の魚、安いよ!」
「焼きたてのパン、いかが?」
商人たちの声。
「賑やかですね」
「ああ」
ルシアンが、周囲を見た。
「以前より、明らかに活気がある」
「改革の、効果ですね」
私たちは、市場を歩いた。
「奥さん、リンゴいかが?」
一人の老婆が、声をかけてきた。
「これ、ノルディアの温室で育ったリンゴだよ」
「甘くて、美味しいよ」
「では、二つください」
ルシアンが、銅貨を払った。
リンゴを一口かじると――。
「美味しい……!」
甘くて、瑞々しい。
「だろう?」
老婆が、嬉しそうに笑った。
「温室のおかげで、冬でも新鮮な果物が食べられる」
「良い時代になったもんだ」
その言葉が、嬉しかった。
「本当ですね」
私も、微笑んだ。

市場を抜けて、住宅街へ。
そこには――。
「学校だ」
新しい校舎が、建っていた。
「王都第七小学校」
窓から、子供たちの声が聞こえる。
「いち、に、さん、し……」
「次は、足し算だよ」
「三足す二は?」
「五!」
元気な声。
「覗いてみますか?」
「いいのか?」
「大丈夫です」
私たちは、窓からそっと中を見た。
教室には、三十人ほどの子供たち。
様々な服装。
豊かな家の子も、貧しい家の子も――。
一緒に学んでいる。
「先生、質問!」
一人の少女が、手を上げた。
「はい、どうぞ」
「なんで、勉強するの?」
その質問に、先生――若い女性教師が微笑んだ。
「良い質問ですね」
「勉強すると、世界が広がります」
「字が読めれば、本が読めます」
「計算ができれば、商売ができます」
「知識があれば、夢が叶えられます」
「だから――」
先生の目が、輝いた。
「勉強は、未来への扉なんです」
子供たちが、目を輝かせている。
「わたし、たくさん勉強する!」
「ぼくも!」
その光景に、涙が出そうになった。
「これが、私の夢だった……」
小さく呟いた。
ルシアンが、私の手を握った。
「ああ。お前の夢は、叶っている」

学校を後にして、商業地区へ。
「職業訓練学校もありますね」
新しい建物。
「王立総合職業訓練学校・王都第二校」
入り口で、若者たちが談笑していた。
「今日の実習、難しかったな」
「でも、楽しかった」
「俺、絶対に一人前の職人になる」
「俺も!」
希望に満ちた顔。
「良かった……」
私は、微笑んだ。
「みんな、夢を持っている」
「お前のおかげだ」
ルシアンが言った。
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「みんなの努力のおかげです」
「私は、きっかけを作っただけ」

昼時、小さな食堂に入った。
「いらっしゃい!」
元気な女将さんが、出迎えた。
「何にする?」
「おすすめは?」
「今日の日替わり定食!」
「新鮮な野菜たっぷりだよ」
「では、それを二つ」
料理が運ばれてきた。
温かいスープ、焼き魚、野菜の煮物、パン――。
「美味しい……」
家庭的な味。
「この野菜、温室産だよ」
女将さんが、説明してくれた。
「新鮮で、安く仕入れられるようになった」
「だから、お客さんにも安く提供できる」
「良い時代になったもんだ」
その言葉を、何度も聞いた。
「本当に、良い時代になったんだな」
ルシアンが、呟いた。
「ええ」
私も、頷いた。
食事を終えて、会計をする時――。
「あら、あんたたち」
女将さんが、私たちを見た。
「新婚さん?」
「え……?」
「だって、ずっと手を繋いでるじゃない」
見ると、確かに手を繋いでいた。
「あ……」
私の顔が、赤くなった。
「可愛いねぇ」
女将さんが、笑った。
「幸せそうで、いいねぇ」
「お幸せに!」
「あ、ありがとうございます……」
店を出ると――。
「恥ずかしかったな」
ルシアンも、顔を赤くしていた。
「でも――」
彼は、私を見た。
「嬉しかったな」
「私も」
二人で、微笑み合った。

午後、公園を歩いた。
子供たちが、遊んでいる。
「鬼ごっこしよう!」
「いいよ!」
走り回る子供たち。
ベンチに座る老人たち。
「良い天気だな」
「ああ。平和だ」
穏やかな会話。
「ここに座りましょう」
私たちも、ベンチに座った。
「こういう時間、久しぶりですね」
「ああ」
ルシアンが、空を見上げた。
「いつも、忙しかったからな」
「でも――」
彼は、私を見た。
「こういう時間も、大切だな」
「はい」
私は、彼の肩に頭を預けた。
「とても、大切です」
しばらく、二人で黙っていた。
風が、優しく吹いている。
木々が、さらさらと音を立てる。
子供たちの、笑い声。
全てが――。
平和だった。
「エリシア」
「はい」
「幸せか?」
その質問に、私は――。
「はい」
心から、答えた。
「とても、幸せです」
「そうか」
ルシアンが、私の手を握った。
「なら、良かった」
「あなたは?」
「私も」
彼が、微笑んだ。
「お前と一緒にいられて、幸せだ」
その言葉が、嬉しかった。
「ずっと、一緒にいてくださいね」
「当たり前だ」
ルシアンが、私を抱き寄せた。
「一生、離さない」
温かい抱擁。
幸せな時間。

夕方、街の展望台に登った。
「綺麗……」
王都の街が、一望できる。
夕日に照らされた街。
「変わったな」
ルシアンが、呟いた。
「二年前とは、全然違う」
「そうですね」
私も、街を見渡した。
新しい学校。
整備された道路。
活気のある市場。
「この街が――」
私は、微笑んだ。
「私たちが作った街」
「いや、お前が作った街だ」
ルシアンが、私を見た。
「お前の夢が、形になった」
「みんなの協力があったからです」
「でも、始めたのはお前だ」
ルシアンが、私の肩を抱いた。
「誇りに思え」
「……はい」
私は、涙を拭った。
「誇りに、思います」
二人で、夕日を見た。
美しい夕日。
希望の光。
「さあ、帰ろう」
「はい」
城に向かって、歩き始めた。
手を繋いで。
普通の夫婦のように。

でも――。
その平和な時間は、長くは続かなかった。
城に戻ると――。
「エリシア様!」
オスカーが、慌てて駆け寄ってきた。
「大変です!」
「どうしたの?」
「北部で――」
オスカーの顔が、青ざめていた。
「反乱が起きました」
「反乱……!?」
「はい。保守派貴族が、武装蜂起しました」
「改革に反対して――」
「独立を宣言したそうです」
私の体から、血の気が引いた。
「そんな……」
「兵力は?」
ルシアンが、鋭く訊いた。
「約三千」
「三千……」
「しかも――」
オスカーが、さらに悪い知らせを告げた。
「傭兵も、雇っているそうです」
「くそ……」
ルシアンが、歯を食いしばった。
「誰が主導しているんだ?」
「バークレー伯です」
「あの男……!」
私は、拳を握った。
あの保守派の重鎮。
最後まで反対していた男。
「国王陛下は?」
「緊急会議を招集されました」
「すぐに向かいます」
私たちは、急いで会議室に向かった。
束の間の平和は――。
終わった。
新たな戦いが――。
始まろうとしていた。

会議室には、すでに多くの人が集まっていた。
国王陛下、カイル王子、軍の幹部たち。
「エリシア、来たか」
国王が、重い表情で言った。
「状況を説明する」
地図が広げられた。
「北部、フロスト領を中心に――」
「三つの領地が、反乱に加わっている」
赤い印が、つけられている。
「総兵力、約五千」
「武器も、十分に揃えている」
「要求は?」
カイル王子が訊いた。
「改革の撤回」
国王が、苦い顔をした。
「教育改革、職業改革、政治改革――」
「全ての撤回を要求している」
「それは――」
私の声が、震えた。
「できません」
「わかっている」
国王が、頷いた。
「だが、彼らは本気だ」
「従わなければ、戦争も辞さないと」
「戦争……」
場が、重苦しくなった。
「陛下」
レオンが、前に出た。
「王国軍を、出動させます」
「反乱軍を、鎮圧します」
「待て」
国王が、手を上げた。
「まだ、交渉の余地があるかもしれない」
「使者を送る」
「陛下」
私が、言った。
「使者は、私が行きます」
「エリシア!?」
ルシアンが、驚いた顔をした。
「危険だぞ!」
「わかっています」
私は、ルシアンを見た。
「でも、私が行かなければ」
「彼らは、私の改革に反対しているんです」
「なら――」
「私が、説得しなければ」
「だが……」
「お願いします、陛下」
私は、国王に頭を下げた。
「私に、行かせてください」
国王は、長く考えた後――。
「……わかった」
「ただし、条件がある」
「何でしょう?」
「護衛をつける」
「そして――」
国王は、ルシアンを見た。
「ルシアン、お前も同行しろ」
「当然です」
ルシアンが、即答した。
「妻を、一人で行かせるわけがない」

翌朝、出発の準備が整った。
「エリシア様、気をつけて」
ミラが、涙目で言った。
「必ず、帰ってくるわ」
「無茶はしないでね」
「わかっています」
オスカー、レオン、そして多くの仲間たちが見送ってくれた。
「行ってきます」
馬車が、動き出した。
北へ。
反乱軍のいる、フロスト領へ。
車内で、ルシアンが言った。
「覚悟は、できているか?」
「はい」
私は、頷いた。
「でも――」
私は、窓の外を見た。
今日、歩いた街。
子供たちの笑顔。
人々の幸せそうな顔。
「あれを、守りたい」
「だから――」
私は、ルシアンを見た。
「必ず、説得します」
「戦争を、回避します」
ルシアンが、私の手を握った。
「わかった」
「一緒に、戦おう」
「はい」
馬車は、北へと進んでいった。
平和な一日は、終わった。
でも、その思い出は――。
私の心に、深く刻まれた。
守るべきもの。
取り戻すべき平和。
「必ず、成し遂げる」
私は、誓った。
長い旅が、始まった。
困難な交渉が、待っている。
でも――。
「大丈夫」
私は、自分に言い聞かせた。
「今まで、乗り越えてきたんだから」
「今回も、乗り越えられる」
ルシアンが、私の肩を抱いた。
「ああ。二人なら、できる」
窓の外、夕日が沈んでいった。
平和な一日の、終わり。
そして――。
新たな戦いの、始まり。
星が、一つ一つ現れ始めた。
暗闇の中の、希望の光のように。
「頑張りましょう」
「ああ」
馬車は、夜の闇の中を――。
北へ、北へと進んでいった。
運命の地へ。
決戦の地へ。
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