夜更けにほどける想い

遊鷹太

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第4章「川沿いの風」

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月曜日の朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
窓の外は、まだ薄暗い。時計を見ると、五時半。いつもより一時間以上早い。
もう一度眠ろうとしたけれど、目が冴えてしまった。
仕方なく起き上がって、カーテンを開ける。空が、少しずつ白んでいく。
キッチンへ行って、コーヒーを淹れる。
ソファに座って、スマホを開く。
陸からのメッセージはない。当たり前だ。まだこんな時間だから。
金曜日に会う約束をしている。
あと四日。
そのとき、彼に何を伝えればいいのだろう。
もう一度やり直したい、という彼の言葉。
私の答えは、もう決まっている気がする。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
コーヒーを一口飲む。苦い。
窓の外が、だんだん明るくなっていく。

会社に着くと、デスクの上に資料が山積みになっていた。
新規プロジェクトの関連資料。クライアントからの追加要望。スケジュール表。
上司が近づいてきた。
「篠原さん、ちょっといい?」
「はい」
会議室へ呼ばれた。
「例のプロジェクトなんだけど、クライアントから追加要望が来てね」
「はい」
「イベントの規模を拡大したいらしい。それに伴って、企画も見直してほしいって」
「納期は?」
「変わらない」
ため息が出そうになった。
「わかりました。やります」
「助かる。チームにも伝えておいてくれ」
会議室を出て、デスクに戻る。
スケジュールを見直す。追加要望に対応するには、残業が増える。週末も出勤が必要かもしれない。
金曜日、陸と会う約束。
守れるだろうか。
不安がよぎる。
佐々木が声をかけてきた。
「篠原さん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「大丈夫。ちょっと疲れてるだけ」
「無理しないでくださいね」
「ありがとう」
午前中、クライアントとの電話会議。追加要望の詳細を確認する。
午後、チームミーティング。メンバーに状況を説明して、タスクを振り分ける。
気がつけば、もう七時を過ぎていた。
デスクに戻って、資料作成を続ける。
スマホが震えた。陸からだった。
「今日も遅くなりそう?」
「うん。ごめん、今忙しくて」
「無理しないで。体調崩さないようにね」
「ありがとう」
「金曜日、楽しみにしてる」
「私も」
メッセージを閉じて、また画面に向かう。
気がつけば、十時を過ぎていた。
周りを見渡すと、まだ数人残っている。
でも、私もそろそろ帰らなければ。
パソコンをシャットダウンして、バッグを持つ。
会社を出ると、冷たい風が吹いていた。
十一月も半ば。冬が近づいている。
駅へ向かいながら、スマホを見た。
母からメッセージが来ていた。
「明日、通院日じゃないけど、ちょっと具合悪いから病院行こうと思う。付き添ってもらえる?」
心配になった。
「どうしたの? 大丈夫?」
**「大丈夫。ちょっと胸が苦しいだけ」
胸が苦しい。
それは、大丈夫じゃない。
「明日、休み取るから一緒に行く」
「悪いわね」
「いいから。何時に迎えに行けばいい?」
「十時でいい?」
「わかった。それまで無理しないで」
「ありがとう」
電車に乗って、家に帰る。
部屋に入って、コートを脱ぐ。
ソファに座り込んで、ため息をついた。
明日、仕事を休まなければならない。
プロジェクトは待ってくれない。でも、母のことも心配だ。
スマホを開いて、上司にメールを送った。
「申し訳ありません。明日、母の体調不良のため休みをいただけますでしょうか」
すぐに返信が来た。
「大丈夫です。お母様、お大事に」
ありがたかった。
でも、罪悪感もある。
チームのみんなに迷惑をかけてしまう。
スマホを置いて、天井を見上げた。
仕事。母。娘。
そして、陸。
全部、大切なもの。
でも、全部を完璧にこなすなんて、無理だ。
どこかで、何かを犠牲にしなければならない。
それが、大人になるということなのだろうか。

翌朝、母の家へ向かった。
インターホンを鳴らすと、母が出てきた。
顔色は悪くない。でも、少し疲れているように見える。
「ごめんね、急に」
「大丈夫。どんな感じ?」
「昨日の夜から、ちょっと胸が重くて」
「痛みは?」
「痛いっていうより、圧迫される感じ」
「すぐ病院行こう」
車で病院へ向かう。
受付で症状を伝えると、すぐに診察室へ通された。
医師が心電図を取り、血圧を測る。
「血圧は少し高めですね。でも、心電図は異常ありません」
「じゃあ、大丈夫なんですか?」
「今のところは。ただ、念のため血液検査もしておきましょう」
採血をして、結果を待つ。
待合室で、母と並んで座る。
「心配かけてごめんね」
母が言った。
「何言ってるの。心配するのは当たり前でしょ」
「でも、仕事忙しいのに」
「仕事より、お母さんの方が大事」
母は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
三十分ほどして、名前を呼ばれた。
診察室に戻ると、医師が結果を説明してくれた。
「血液検査の結果は問題ありません。ただ、疲れとストレスで自律神経が乱れている可能性があります」
「何か治療は?」
「まずは休養をしっかり取ることです。それから、軽い運動も効果的です。薬は、今飲んでいるものを続けてください」
「わかりました」
薬局で薬を受け取って、母を家まで送った。
「お昼、食べていく?」
母が聞いた。
「いいの?」
「もちろん。作ってあるから」
キッチンに行くと、鍋に煮物が入っていた。
「いつ作ったの?」
「朝」
「具合悪いのに」
「これくらい平気よ」
母は強い人だ。
でも、もう七十一歳。無理はできない。
二人で食卓に座って、煮物を食べた。
「美味しい」
「よかった」
「お母さん、無理しないでね」
「わかってる」
「一人暮らし、大丈夫?」
「大丈夫よ。近所に友達もいるし」
「でも」
「心配しなくていいの。あなたの方こそ、無理してるんじゃない?」
母は私の顔を見た。
「仕事、忙しいんでしょう」
「まあ、ちょっと」
「ちょっとじゃないでしょう。顔色悪いわよ」
「大丈夫」
「嘘」
母は首を振った。
「あなた、いつも自分のこと後回しにする」
「そんなことない」
「ある。昔からそう」
母は箸を置いた。
「あのね、夕。人生は一度きりなのよ」
「わかってる」
「わかってない」
母の声が、少し厳しくなった。
「あなたは真面目すぎる。もっと、自分の幸せを考えなさい」
「考えてるよ」
「考えてない。仕事と、私のことと、娘のことばかり」
「それが私の幸せだから」
「本当に?」
母の言葉に、答えられなかった。
「同窓会で会った人、どうなったの?」
心臓が跳ねた。
「どうって」
「進展は?」
「……まだ」
「もったいない」
母は言った。
「せっかくいい人に会えたのに、また逃げるの?」
「逃げてない」
「逃げてる」
母は立ち上がって、お茶を淹れ始めた。
「夕、あなたはいつも、傷つくことを恐れてる」
湯呑みにお茶を注ぎながら、母は続けた。
「でもね、傷つくことを恐れていたら、何も得られないのよ」
「でも」
「でもじゃない。私はね、あなたに幸せになってほしいの。それだけ」
母は湯呑みをテーブルに置いた。
「だから、もっと素直になりなさい」
お茶を一口飲んで、私は黙った。
母の言葉は、いつも正しい。
でも、それを受け入れるのが怖い。
「金曜日、会う約束してる」
そう言うと、母は嬉しそうに笑った。
「そう。よかった」
「でも、何て言えばいいかわからない」
「素直に言えばいいのよ。あなたの気持ちを」
「怖い」
「怖くていいの。大切なのは、一歩踏み出すこと」
母の言葉が、胸に響いた。

午後、会社に戻った。
デスクに座ると、メールが溜まっていた。
一つ一つ処理していく。
佐々木が声をかけてきた。
「お母様、大丈夫でしたか?」
「うん。大したことなかった」
「よかったです」
「ありがとう。午前中、大丈夫だった?」
「はい。みんなでカバーしました」
「ごめんね」
「謝らないでください。お互い様ですから」
佐々木は笑った。
夕方、クライアントから電話があった。
また追加の要望。
スケジュールを見直す。
やはり、週末も出勤が必要だ。
金曜日の夜、陸と会う約束。
その時間だけは、絶対に守りたい。

水曜日の夜、元夫から連絡が来た。
「娘の進路のことで相談したい。時間ある?」
「今から?」
「電話でいい?」
「いいよ」
すぐに電話がかかってきた。
「もしもし」
「久しぶり」
元夫の声。三ヶ月ぶりくらいだろうか。
「娘のこと?」
「うん。進路で悩んでるみたいで」
「何を?」
「大学、どこにしようかって」
「まだ高一でしょ」
「でも、早めに考えておいた方がいいかなと思って」
「そうね」
会話が途切れた。
「あのさ」
元夫が言った。
「なに?」
「お前、最近元気そうだな」
「え?」
「娘が言ってた。お母さん、明るくなったって」
顔が熱くなった。
「そんなことない」
「嘘つけ」
元夫は笑った。
「誰かいるんだろ」
「別に」
「いいじゃん。お前も幸せになっていいんだから」
元夫の言葉が、意外だった。
「ありがとう」
「俺、お前には悪いことしたと思ってる」
「え?」
「結婚してたとき、ちゃんと向き合ってなかった。お前の話、ちゃんと聞いてなかった」
「……うん」
「だから、今度は幸せになってくれよ」
涙が出そうになった。
「ありがとう」
「娘のことは、俺がちゃんと見るから。お前は、自分のこと考えていいんだよ」
「わかった」
電話を切って、ソファに座り込んだ。
元夫の言葉。母の言葉。娘の言葉。真紀の言葉。
みんな、同じことを言う。
私に、幸せになってほしいと。
でも、私は、まだ自分の幸せを信じられていない。

木曜日の夜、仕事を終えて会社を出た。
時計を見ると、八時半。
駅へ向かいながら、ふと隅田川沿いの道を歩きたくなった。
少し遠回りになるけれど、今日は時間がある。
川沿いの遊歩道に出る。
欄干に寄りかかって、川を見下ろす。
水面が、街の明かりを映している。
風が、冷たい。
でも、心地よかった。
スマホを取り出して、陸にメッセージを送った。
「今、川沿いにいる」
すぐに返信が来た。
「隅田川?」
「うん」
「寒くない?」
「ちょっと寒い。でも、気持ちいい」
「無理しないで。風邪ひくよ」
「大丈夫」
「明日、会えるの楽しみにしてる」
「私も」
スマホをポケットにしまって、また川を見た。
水が、ゆっくりと流れている。
止まることなく、ただ流れていく。
私の人生も、そうだ。
止まることなく、ただ流れていく。
でも、流されるだけじゃなくて、自分で選んで進むこともできる。
陸との関係。
それは、私が自分で選べることだ。
仕事も大事。母も大事。娘も大事。
でも、私自身の幸せも大事。
もう、逃げるのはやめよう。
明日、陸に会ったら、ちゃんと伝えよう。
私の気持ちを。
風が、また吹いた。
髪が、顔にかかる。手で押さえて、また川を見る。
対岸に、明かりが並んでいる。
それぞれの窓の向こうに、それぞれの人生がある。
みんな、何かを抱えて生きている。
私だけじゃない。
それでも、みんな、幸せを探している。
私も、探していいんだ。
欄干から離れて、歩き出した。
駅へ向かう。
明日。
陸に会う。
そして、答えを伝える。

金曜日。
朝から、落ち着かなかった。
仕事に集中しようとするけれど、時計ばかり見てしまう。
昼休み、真紀から電話があった。
「もしもし」
「夕ちゃん、今日だよね」
「何が?」
「久我くんと会う日でしょ」
「何で知ってるの?」
「女の勘」
真紀は笑った。
「緊張してる?」
「……うん」
「大丈夫。素直になればいいだけだから」
「簡単に言うね」
「簡単だよ。好きなら好きって言えばいいじゃん」
「でも」
「でもじゃない。夕ちゃん、もう答え出てるでしょ」
「……うん」
「じゃあ、後は伝えるだけ。頑張って」
「ありがとう」
電話を切って、ため息をついた。
みんな、背中を押してくれる。
後は、私が一歩踏み出すだけ。

六時、定時で会社を出た。
駅前のトイレで、化粧を直す。
鏡を見る。緊張している顔。
深呼吸する。
大丈夫。
ビストロへ向かう。
六時五十分に到着。
店の前で、陸が待っていた。
「お待たせ」
「ううん。俺も今来たところ」
店に入る。
いつもの席に案内される。
メニューを開くけれど、文字が頭に入ってこない。
「篠原さん、大丈夫?」
陸が心配そうに聞いた。
「うん。大丈夫」
「顔色悪いけど」
「ちょっと疲れてるだけ」
「無理してない?」
「大丈夫」
ウェイターが来て、注文を取る。
いつものワイン。いつもの料理。
でも、今日は何もかもが違う気がする。
「あのね」
私は口を開いた。
「なに?」
「この前の話」
陸の表情が、少し緊張した。
「うん」
「もう一度やり直したい、って言ってくれたこと」
「うん」
「私も、そうしたい」
陸の目が、大きく開いた。
「本当?」
「うん」
陸は嬉しそうに笑った。
「よかった」
ワインが運ばれてきた。
グラスを合わせる。
「乾杯」
「乾杯」
一口飲む。
いつもより、甘く感じた。
「篠原さん」
「なに?」
「ありがとう」
陸の声が、優しい。
「こちらこそ」
料理が運ばれてくる。
会話が弾む。
これから、どうしようか。
いつ会えるか。
どんなふうに過ごしたいか。
未来の話をする。
それが、こんなに幸せだなんて。
時計を見ると、もう九時を過ぎていた。
「そろそろ帰ろうか」
陸が言った。
「うん」
会計を済ませて、店を出る。
外は、冷え込んでいた。
「寒いね」
「うん」
陸は私の手を取った。
「行こう」
手を繋いで、駅へ向かう。
温かい手。
改札前で立ち止まった。
「また連絡するね」
陸が言った。
「待ってる」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
陸は私を抱きしめた。
一瞬、驚いた。
でも、すぐに体の力を抜いた。
温かかった。
「ありがとう」
陸の声が、耳元で聞こえた。
「こちらこそ」
抱擁を解いて、お互いに改札へ向かった。
電車に乗って、窓際の席に座る。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「今日は本当にありがとう。嬉しかった」
「私も」
「おやすみ。いい夢を」
「おやすみなさい」
私は笑顔になっていた。
久我陸。
これから、彼と一緒に歩いていく。
どんな未来が待っているかわからない。
でも、もう怖くない。
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