夜更けにほどける想い

遊鷹太

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第6章「母の通院日」

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十一月の終わり、母の定期通院の日がやってきた。
朝、目覚ましが鳴る。六時。
まだ外は暗い。
カーテンを開けると、空に星がまだ残っている。
今日は、午前中に母を病院へ連れて行く約束をしている。午後からは会社に行く予定だ。
コーヒーを淹れて、トーストを焼く。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。昨夜のもの。
「おやすみ。明日、お母さんの通院日だよね。気をつけて」
返信していなかった。
「おはよう。ありがとう。行ってくるね」
送信する。
朝のこの時間、陸はまだ寝ているだろう。
支度をして、家を出る。
車で母の家へ向かう。朝の道は空いていて、二十分ほどで着いた。
インターホンを鳴らすと、母が出てきた。
「おはよう。早いわね」
「おはよう。準備できてる?」
「できてる。すぐ行けるわ」
母はいつものように、きちんとした服装をしていた。ベージュのコートに、紺色のスカート。髪も整えている。
「今日は寒いわね」
「うん。お母さん、暖かくしてね」
「大丈夫よ」
母が車の助手席に座る。シートベルトを締めて、バッグを膝の上に置いた。
車を発進させる。
病院までは十五分ほど。
「最近、調子はどう?」
「いいわよ。薬もちゃんと飲んでるし」
「胸の苦しさは?」
「あれから一度もない」
「よかった」
信号待ちで車を停める。
「夕」
母が言った。
「なに?」
「あなた、最近忙しそうね」
「まあ、仕事がね」
「無理してない?」
「大丈夫」
母は私の顔を見た。
「顔色、悪いわよ」
「そんなことない」
「ある」
信号が青に変わる。アクセルを踏む。
「ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ」
「ちゃんと、って何? コンビニのお弁当じゃないでしょうね」
「……たまに」
「ダメよ。ちゃんと作りなさい」
「時間ないんだもん」
「時間は作るものよ」
母の声が、少し厳しくなった。
「体が資本なんだから。体壊したら、仕事もできないのよ」
「わかってる」
「わかってない」
母は腕を組んだ。
「あなた、昔からそう。自分のこと、後回しにする」
「そんなことない」
「ある」
病院の駐車場に車を入れた。
エンジンを切って、母と一緒に降りる。
病院の中は、すでに患者で混んでいた。
受付で手続きをして、待合室へ向かう。
番号札を取って、椅子に座る。
「何番?」
「十五番」
「じゃあ、まだかかるわね」
母はバッグから本を取り出した。
私もスマホを開いて、メールをチェックする。
仕事関係のメールが五件。
一つ一つ確認して、必要なものには返信する。
「仕事?」
母が聞いた。
「うん」
「休みの日くらい、仕事のこと忘れたら?」
「でも、返信しないと」
「待ってもらえばいいじゃない」
「そういうわけにもいかないよ」
母はため息をついた。
「あなた、本当に真面目ね」
「お母さんに似たんでしょ」
「私はあなたほどじゃないわ」
母は笑った。
待合室には、高齢の患者が多い。
車椅子の人もいる。杖をついている人もいる。
みんな、静かに順番を待っている。
「ねえ、夕」
母が言った。
「なに?」
「あの人と、うまくいってる?」
心臓が跳ねた。
「……うん」
「本当に?」
「本当」
「嘘ついてない?」
「ついてないよ」
母は私の顔を見た。
「でも、何か悩んでるでしょう」
「別に」
「嘘」
私は何も言えなかった。
母は本を閉じて、私の方を向いた。
「話してごらん」
「……仕事が忙しくて、なかなか会えないの」
「それで?」
「それで、ちゃんと向き合えてない気がして」
母は頷いた。
「そう」
「彼は、待ってくれるって言ってくれるんだけど。でも、申し訳なくて」
「どうして申し訳ないの?」
「だって、付き合ってるのに、全然会えないから」
母は少し笑った。
「夕、あなた、完璧主義すぎるのよ」
「え?」
「付き合ってるからって、毎日会わなきゃいけないわけじゃないでしょう」
「でも」
「でもじゃない。お互い忙しいんだから、会えるときに会えればいいの」
母の言葉が、心に響いた。
「それに、会えない時間があるから、会えたときが嬉しいのよ」
「そうかな」
「そうよ」
母は優しく笑った。
「あなたのお父さんとね、若い頃はなかなか会えなかったのよ」
「え?」
「お父さん、仕事で地方に行ってたから。月に一度しか帰ってこなかった」
「知らなかった」
「でもね、その月に一度がすごく楽しみで。会えたときは、すごく嬉しかった」
母は遠くを見るような目をした。
「だから、大丈夫よ。会えない時間も、二人の関係を深めるものになるから」
「ありがとう」
番号が呼ばれた。十五番。
母と一緒に診察室へ入る。
医師が血圧を測り、聴診器を当てる。
「血圧は安定していますね。前回の検査結果も問題ありません」
「よかった」
「このまま、薬を続けてください。次回は一ヶ月後で」
「わかりました」
診察室を出て、会計を済ませる。薬局で薬を受け取る。
「お昼、どうする?」
母が聞いた。
「何か食べて帰ろうか」
「そうね。うちでカレー作ってあるけど」
「じゃあ、お母さんの家で食べる」
車で母の家へ向かう。
リビングに通されて、テーブルに座る。
母がキッチンでカレーを温め始めた。
「手伝おうか?」
「いいわよ。座ってて」
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「通院、終わった?」
「今終わったよ。お母さん、問題なかった」
「よかった。お疲れ様」
「ありがとう」
「午後から仕事?」
「うん」
「無理しないでね」
「大丈夫。久我くんも」
メッセージを閉じると、母がカレーを持ってきた。
「いただきます」
スプーンを持って、ひと口食べる。
「美味しい」
「よかった」
母も座って、一緒に食べ始めた。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「お母さんは、どうやって仕事と家庭、両立してたの?」
母は少し驚いたような顔をした。
「急にどうしたの?」
「気になって」
母はカレーを一口食べてから、答えた。
「正直に言うと、うまく両立できてなかったわよ」
「え?」
「仕事してるときは、家のことがおろそかになったし。家のことしてるときは、仕事のことが気になったし」
母は笑った。
「いつも、どっちつかずだった」
「そうなんだ」
「でもね、それでよかったんだと思う」
「どういうこと?」
「完璧にやろうとしたら、潰れてたと思う。だから、六割くらいでいいやって思ってた」
母の言葉が、新鮮だった。
「六割?」
「そう。仕事も六割、家事も六割、子育ても六割。全部完璧にはできないから」
「でも、それでいいの?」
「いいのよ。人間、完璧じゃないんだから」
母はカレーを食べながら、続けた。
「それに、大事なのは結果じゃなくて、過程なのよ」
「過程?」
「うん。一生懸命やってるかどうか。それが大事」
私は何も言えなかった。
母は優しく笑った。
「夕、あなたは真面目すぎるの。もっと肩の力を抜いていいのよ」
「でも」
「でもじゃない。仕事も、恋愛も、完璧にやろうとしなくていい。できる範囲で、一生懸命やればいいの」
母の言葉が、心に染みた。
「ありがとう」
「それに、彼も理解してくれてるんでしょう」
「うん」
「なら、大丈夫よ。お互いに支え合っていけばいい」
カレーを食べ終わって、お茶を飲む。
「そういえば、娘ちゃんは元気?」
「うん。この前会ったけど、元気だった」
「よかったわね」
「お母さんにも会いたいって言ってたよ」
「そう。じゃあ、今度一緒に来なさいよ」
「うん。また連絡する」
時計を見ると、もう一時を過ぎていた。
「そろそろ会社行かなきゃ」
「そうね。気をつけてね」
玄関で靴を履いていると、母が声をかけた。
「夕」
「なに?」
「無理しないでね。あなたの体が一番大事なんだから」
「わかってる」
「わかってない」
母は笑った。
「ちゃんと食べて、ちゃんと寝なさい」
「はい」
「それから、あの人のこと、大事にしなさい」
「うん」
「でも、自分のことも大事にね」
「ありがとう」
母の家を出て、車に乗る。
バックミラーで母の姿を見る。
玄関で、手を振っている。
私も手を振り返して、車を発進させた。

会社に着いたのは、二時過ぎだった。
デスクに座ると、佐々木が声をかけてきた。
「お疲れ様です。お母様、大丈夫でしたか?」
「うん。問題なかった」
「よかったです」
パソコンを立ち上げて、メールをチェックする。
午前中に溜まったメールが十件以上。
一つ一つ処理していく。
スマホが震えた。陸からだった。
「会社着いた?」
「うん。今デスクに座ったところ」
「お疲れ様。夜は遅くなりそう?」
「たぶん。今週末までに仕上げなきゃいけない資料があって」
「大変だね。無理しないで」
「ありがとう。久我くんは今日どう?」
「今、移動中。これから打ち合わせ」
「頑張って」
「うん。また後で連絡するね」
「待ってる」
メッセージを閉じて、仕事に集中する。
資料作成、メール返信、会議。
気がつけば、もう七時を過ぎていた。
周りを見渡すと、まだ半分くらいの人が残っている。
でも、私もそろそろ帰らなければ。
明日も早い。
パソコンをシャットダウンして、バッグを持つ。
「お疲れ様です」
佐々木に声をかけて、会社を出た。
駅へ向かいながら、母の言葉を思い出していた。
「六割でいい」
完璧にやろうとしなくていい。
できる範囲で、一生懸命やればいい。
そうだ。
私は、いつも完璧を求めすぎている。
仕事も、家族も、恋愛も。
全部うまくやろうとして、自分を追い込んでいる。
でも、それは無理なんだ。
人間だもの。
できないこともある。
電車に乗って、窓際の席に座る。
スマホを開くと、陸からメッセージが来ていた。
「打ち合わせ終わった。今から帰る」
「お疲れ様」
「篠原さんは?」
「今電車」
「今日も遅くまでお疲れ様」
「ありがとう」
「週末、会えるかな」
心臓が跳ねた。
手帳アプリを確認する。土曜日は資料作成の予定。でも、午後なら時間が取れるかもしれない。
「土曜日の午後なら」
「本当? 嬉しい」
「どこで会う?」
「どこがいい?」
「映画、見に行かない? 前に言ってたやつ」
そういえば、映画の話をしていた。
「いいね。何見る?」
「ミステリー映画、新しいの出てるよ」
「見たい」
「じゃあ、土曜日の午後、映画館で」
「楽しみ」
「俺も」
「おやすみなさい」
「おやすみ。いい夢を」
スマホを閉じて、窓の外を見た。
暗闇の中を、電車が走っている。
土曜日。
陸と映画を見に行く。
それだけで、気持ちが明るくなった。

家に帰って、シャワーを浴びた。
パジャマに着替えて、ソファに座る。
冷蔵庫を開けると、ほとんど何も入っていない。
豆腐と、納豆と、卵。
それだけ。
母の言葉を思い出した。
「ちゃんと食べなさい」
でも、今日はもう疲れていて、料理する気力がない。
結局、納豆ご飯だけ作って食べた。
ソファに座って、スマホを開く。
娘からメッセージが来ていた。
「お母さん、今度いつ会える?」
「いつがいい?」
「来月の初めとか」
「大丈夫。また連絡するね」
「うん。おばあちゃんも一緒にどう?」
「いいね。聞いてみる」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみ」
娘とも会える。母も一緒に。
それが楽しみだった。
テレビをつけて、ニュースを見る。
でも、内容が頭に入ってこない。
疲れているのか、ぼんやりとしている。
スマホを見ると、陸からもう一件メッセージが来ていた。
「今日、お母さんとどんな話したの?」
少し考えてから、返信した。
「いろいろ。仕事と家庭の両立のこととか」
「どんな話?」
「完璧にやろうとしなくていいって」
「いい話だね」
「うん。六割でいいって」
「六割?」
「全部完璧にはできないから、六割くらいの力で、一生懸命やればいいって」
「なるほど。いい考え方だね」
「私も、そう思った」
「篠原さん、頑張りすぎだもんね」
「そうかな」
「そうだよ。もっと肩の力抜いていいんだよ」
その言葉に、胸が温かくなった。
「ありがとう」
「こちらこそ。篠原さんが無理しないように、俺も気をつけるから」
「ありがとう」
「じゃあ、もう寝るね。明日も早いから」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
スマホを充電器に置いて、ベッドに入った。
目を閉じる。
今日は、母と過ごした時間が長かった。
母の言葉。
「完璧にやろうとしなくていい」
「六割でいい」
「一生懸命やればいい」
その言葉が、心に響いている。
私は、いつも自分を追い込んでいた。
仕事も、家族も、恋愛も。
全部うまくやろうとして。
でも、それは無理なんだ。
できる範囲で。
一生懸命やればいい。
それでいいんだ。
陸も、そう言ってくれた。
「もっと肩の力抜いていいんだよ」
みんな、私を心配してくれている。
母も、陸も、真紀も、娘も。
だから、私も。
もっと自分を大事にしよう。
無理をしないで。
できる範囲で。
一生懸命生きていこう。

翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
窓の外は、まだ薄暗い。
でも、気分は悪くなかった。
カーテンを開けると、空が少しずつ明るくなっていく。
キッチンへ行って、コーヒーを淹れる。
トーストを焼いて、バターを塗る。
昨日買った卵で、目玉焼きも作った。
テーブルに座って、朝食を取る。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「おはよう。今日もいい一日を」
笑顔になって、返信した。
「おはよう。久我くんも」
窓の外を見る。
太陽が、昇り始めている。
新しい一日が、始まる。
仕事も忙しい。母のこともある。娘のこともある。
でも、陸もいる。
大切な人たちに囲まれて、私は生きている。
完璧じゃないけれど。
それでいい。
六割の力で、一生懸命。
それが、私の生き方。
朝食を食べ終わって、準備を始めた。
今日も、頑張ろう。

金曜日の夜、仕事を終えて帰宅すると、母から電話があった。
「もしもし」
「夕、明日大丈夫?」
「え?」
「あなた、映画見に行くんでしょう」
「何で知ってるの?」
「お母さんには何でもわかるのよ」
母は笑った。
「楽しんできなさい」
「ありがとう」
「それでね、娘ちゃんから連絡あったわよ」
「そうなんだ」
「来月、三人で会いましょうって」
「うん。楽しみだね」
「ええ。じゃあ、また連絡するわね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
電話を切って、ソファに座った。
明日、陸と映画を見に行く。
来月、母と娘と三人で会う。
小さな幸せが、少しずつ積み重なっていく。
それが、人生なんだ。
大きなことじゃなくて。
小さな幸せを、大切にしていく。
それが、本当の豊かさなのかもしれない。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「明日、楽しみだね」
「うん。すごく楽しみ」
「十三時に映画館で」
「了解」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ベッドに入って、目を閉じた。
明日が、待ち遠しかった。
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