夜更けにほどける想い

遊鷹太

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第7章「雪予報」

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土曜日、朝から部屋を片付けた。
洗濯物を干して、掃除機をかけて、キッチンを整理する。
映画は午後一時から。まだ時間はある。
でも、落ち着かなかった。
クローゼットを開けて、服を眺める。
何を着ていこう。
ジーンズにセーター。それとも、ワンピース。
いや、映画館は暗いから、何でもいいか。
結局、紺色のセーターに、ベージュのパンツを選んだ。
シンプルだけれど、清潔感がある。
鏡の前で合わせてみる。悪くない。
メイクをする。普段より少し丁寧に。
髪は下ろすか、結ぶか。
下ろすことにした。
時計を見ると、十一時半。
もう出た方がいい。
コートを着て、バッグを持つ。
玄関を出る前に、もう一度鏡を見た。
大丈夫。
深呼吸して、ドアを開けた。

映画館に着いたのは、十二時四十五分。
ロビーには、週末で多くの人が集まっていた。
カップル、家族連れ、友達同士。
みんな、楽しそうに話している。
入口の近くで待つことにした。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「今、駅に着いた。すぐ行く」
「待ってる」
五分ほどして、陸が入ってきた。
グレーのコートに、黒いマフラー。シンプルだけれど、よく似合っている。
「お待たせ」
「ううん。私も今来たところ」
陸は笑った。
「嘘。絶対前から待ってたでしょ」
「バレた?」
「篠原さん、いつも早いから」
二人で笑った。
「チケット、取ってあるよ」
陸がスマホの画面を見せた。
「ありがとう」
自動発券機でチケットを受け取って、中へ入る。
「何か飲む?」
「ホットコーヒーがいいな」
「じゃあ、俺も」
売店でコーヒーを買って、上映室へ向かう。
座席は、中央の少し後ろ。
「いい席だね」
「頑張って取った」
陸は笑った。
コーヒーを飲みながら、予告編を見る。
「最近、映画見に来た?」
陸が聞いた。
「久しぶり。たぶん、一年以上ぶり」
「そうなんだ」
「久我くんは?」
「俺も久しぶり。半年ぶりくらいかな」
「忙しいもんね」
「うん」
照明が落ちて、本編が始まった。
ミステリー映画。舞台はヨーロッパの古い街。
複雑な人間関係と、巧妙なトリック。
引き込まれる展開。
途中、陸の手が肘掛けに置かれた。
私の手の、すぐ隣。
触れるか触れないかの距離。
心臓が、少し早く打った。
画面を見ているけれど、意識は手に集中している。
陸も、同じことを考えているのだろうか。
映画は佳境に入る。
真犯人が明らかになる場面。
思わず、息を呑んだ。
そのとき、陸の小指が、私の小指に触れた。
一瞬、体が固まった。
でも、離れなかった。
陸も、手を動かさない。
そのまま、小指だけが触れ合っている。
暗闇の中で。
誰にも気づかれない、小さな接触。
でも、それが、こんなに心を揺らすなんて。
映画が終わった。
エンドロールが流れる。
陸が手を動かした。
私も、そっと手を引いた。
照明がついて、人々が立ち上がり始める。
「面白かったね」
陸が言った。
「うん」
声が、少し震えていた。
上映室を出て、ロビーへ向かう。
「お腹空いた?」
陸が聞いた。
「ちょっと」
「何か食べに行こう」
「いいね」
映画館を出ると、外は曇っていた。
「寒いね」
「うん。雪、降るかもって言ってたよ」
「本当?」
「天気予報で見た」
駅前のレストラン街へ向かう。
「何食べたい?」
「和食がいいかな」
「じゃあ、あそこ」
陸が指差した先に、小さな和食屋があった。
店に入ると、温かい空気が迎えてくれた。
窓際の席に案内される。
メニューを開く。
「定食にしようかな」
「俺も」
注文を済ませて、お茶を飲む。
「映画、どうだった?」
陸が聞いた。
「面白かった。トリックが巧妙だったね」
「うん。最後まで犯人がわからなかった」
「私も」
会話が続く。
映画の感想。好きなシーン。印象に残った台詞。
料理が運ばれてきた。
焼き魚定食。ご飯、味噌汁、小鉢、漬物。
「美味しそう」
箸を持って、食べ始める。
「美味しい」
「うん」
陸も食べている。
窓の外を見ると、小さな白いものが舞い始めていた。
「あ、雪」
「本当だ」
雪が、ゆっくりと降ってくる。
まだ積もるほどではない。
でも、確かに雪だった。
「今年初めての雪だね」
陸が言った。
「そうだね」
「綺麗」
「うん」
二人で、窓の外を見つめる。
雪が、街を白く染めていく。
食事を終えて、お茶を飲む。
「この後、どうする?」
陸が聞いた。
時計を見ると、三時半。
まだ早い。
「どこか行きたいところある?」
「雪の中、散歩してもいい?」
「寒くない?」
「大丈夫。歩けば暖かくなるよ」
「じゃあ、行こう」
会計を済ませて、店を出た。
雪は、さらに強くなっていた。
「本当に大丈夫?」
陸が心配そうに聞いた。
「大丈夫。ちょっとだけ」
手袋をして、マフラーを巻き直す。
陸と並んで、歩き出した。
駅前の通りを抜けて、住宅街へ入る。
雪が、静かに降り続けている。
音がない。
車の音も、人の声も、遠くなる。
雪が、全てを優しく包み込んでいる。
「篠原さん」
陸が言った。
「なに?」
「手、冷たくない?」
「ちょっと冷たいかも」
陸は立ち止まって、私の手を取った。
両手で、包み込むように。
「少し温まるかな」
温かかった。
陸の手。
大きくて、温かくて。
「ありがとう」
「こちらこそ」
陸は笑った。
「俺、ずっとこうしたかったんだ」
心臓が、大きく跳ねた。
「映画館でも?」
「うん。小指、触れたでしょ」
「気づいてたんだ」
「当たり前」
陸は優しく笑った。
「篠原さんの手、震えてたから」
顔が熱くなった。
「恥ずかしい」
「可愛かったよ」
そう言って、陸は私の手をもう一度握った。
今度は、指を絡めて。
「行こう」
手を繋いで、また歩き出す。
雪の中を。
二人で。

小さな公園を見つけた。
ブランコと、滑り台と、砂場。
誰もいない。
「ちょっと休憩しない?」
陸が言った。
「うん」
ベンチに座る。
雪が、髪に、肩に、静かに降り積もる。
「寒くない?」
「大丈夫」
でも、本当は少し寒かった。
陸は私の肩を抱き寄せた。
「これで、少し暖かいかな」
体が、陸の温もりに包まれる。
「ありがとう」
「篠原さん」
「なに?」
「高校のとき、ずっと好きだったんだ」
陸の声が、優しい。
「でも、言えなかった」
「私も」
「なんで、あのとき言えなかったんだろうね」
「怖かったのかな」
「うん。断られるのが怖かった」
陸は少し笑った。
「でも、今度は逃げないって決めたんだ」
「私も」
陸は私の顔を見た。
近い。
すごく近い。
「篠原さん」
「なに?」
「キスしてもいい?」
時間が止まった。
心臓が、早鐘のように打っている。
「……うん」
陸の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
目を閉じた。
唇が、触れ合った。
柔らかい。
温かい。
優しい。
短いキス。
でも、その数秒が、永遠のように感じた。
唇が離れる。
目を開けると、陸が笑っていた。
「ありがとう」
顔が、熱い。
「こちらこそ」
そう答えるのが精一杯だった。
陸は、また私を抱き寄せた。
「もう、寒くないでしょ」
「うん」
嘘じゃなかった。
体中が、温かかった。
雪は、まだ降り続けている。
公園は、静かだった。
二人きりの世界。
「篠原さん」
「なに?」
「幸せ」
「私も」
そう答えて、陸の肩に頭を預けた。
このまま、時間が止まればいいのに。
そう思った。

しばらくして、立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか。風邪ひいちゃう」
陸が言った。
「そうだね」
手を繋いで、公園を出る。
駅へ向かう道。
雪は、まだ降っている。
でも、足元は、まだ積もっていない。
「今日、楽しかった」
陸が言った。
「私も」
「また会えるかな」
「もちろん」
「いつがいい?」
「来週末は?」
「大丈夫。どこ行く?」
「どこでもいいよ。久我くんと一緒なら」
陸は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また考えておくね」
「うん」
駅の改札前に着いた。
「じゃあ、ここで」
「うん」
陸は私の手を握った。
「ありがとう。今日、最高の日だった」
「私も」
「また連絡するね」
「待ってる」
陸は少し迷ってから、もう一度キスをした。
今度は、さっきより少し長く。
唇が離れたとき、二人とも笑っていた。
「じゃあ、気をつけて」
「久我くんも」
手を振って、改札へ向かう。
振り返ると、陸がまだこちらを見ていた。
手を振ると、陸も振り返してくれた。

電車の中で、窓際の席に座った。
外は、もう暗くなり始めている。
雪は、まだ降っている。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「今日は本当にありがとう。楽しかった」
「こちらこそ」
「雪の中のキス、忘れられないな」
顔が、また熱くなった。
「私も」
「おやすみ。いい夢を」
「おやすみなさい」
スマホを膝の上に置いて、窓の外を見た。
雪が、窓ガラスに当たって、溶けていく。
今日、陸とキスをした。
初めてのキス。
いや、元夫とのキスはあった。
でも、あれとは違う。
陸とのキスは、優しくて、温かくて。
心が震えた。
もう、後戻りはできない。
彼と、一緒に歩いていくと決めた。
怖いけれど。
でも、もう逃げない。

家に帰って、コートを脱ぐ。
髪に、まだ雪が残っていた。
手で払って、鏡を見る。
頬が、少し赤い。
笑顔になっている自分がいる。
シャワーを浴びて、パジャマに着替える。
ソファに座って、スマホを開く。
真紀からメッセージが来ていた。
「今日、デートだったよね? どうだった?」
「楽しかった」
すぐに返信が来た。
「詳しく!」
「映画見て、ご飯食べて、雪の中散歩した」
「ロマンチックじゃん。で?」
「で、って」
「何かあったでしょ」
顔が熱くなった。
「……キスした」
「やった!!! おめでとう!!」
スタンプが連続で送られてきた。
「恥ずかしい」
「恥ずかしがることないよ。よかったね」
「うん」
「で、どうだった?」
「どうって」
「キス」
「真紀!」
「いいじゃん。教えてよ」
「……優しかった」
「いいね。久我くん、紳士だもんね」
「うん」
「これから、楽しみだね」
「そうだね」
「幸せになってね」
「ありがとう」
メッセージを閉じて、天井を見上げた。
幸せ。
そう、私は今、幸せなんだ。
久しぶりに感じる、この感覚。
胸が温かい。
笑顔になる。
未来が、楽しみに思える。
スマホが震えた。
陸からだった。
「まだ起きてる?」
「起きてるよ」
「今日のこと、考えてたら眠れなくて」
「私も」
「電話してもいい?」
「いいよ」
すぐに電話がかかってきた。
「もしもし」
「篠原さん、起こしちゃった?」
「ううん。起きてたよ」
「よかった」
陸の声が、優しい。
「今日、本当に楽しかった」
「私も」
「雪の中のキス、夢みたいだった」
「私もそう思ってた」
「もう一度、会いたいな」
「また来週会えるよ」
「来週まで待てないかも」
陸は笑った。
「我慢して」
「はい」
少し沈黙。
でも、この沈黙は心地よかった。
「篠原さん」
「なに?」
「幸せ」
「私も」
「ありがとう」
「こちらこそ」
「じゃあ、もう寝るね。明日も仕事だから」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ。いい夢を」
電話が切れた。
私はスマホを持ったまま、ソファに深く座り込んだ。
幸せ。
この感覚を、忘れないでおこう。
どんなに忙しくても。
どんなに大変でも。
この気持ちを、大切にしよう。

翌朝、目が覚めると、雪は止んでいた。
窓の外を見ると、うっすらと雪が積もっている。
でも、もう溶け始めている。
キッチンへ行って、コーヒーを淹れる。
トーストを焼いて、バターを塗る。
テーブルに座って、朝食を取る。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「おはよう。昨日の雪、もう溶けちゃったね」
「おはよう。そうだね。でも、綺麗だったね」
「うん。忘れられない」
「私も」
「今日は何してる?」
「掃除とか洗濯とか。久我くんは?」
「同じ。あと、本読もうかな」
「いいね」
「また連絡するね」
「うん」
メッセージを閉じて、窓の外を見た。
雪は、ほとんど溶けている。
昨日の雪。
あの公園でのキス。
それは、もう思い出になった。
でも、この胸の温かさは、まだ残っている。
そして、これからも続いていく。
陸と一緒に。
コーヒーを一口飲む。
少し苦い。
でも、その苦味さえ、今日は美味しく感じた。

午後、母から電話があった。
「もしもし」
「夕、昨日どうだった?」
「楽しかったよ」
「そう。よかったわね」
母の声が、嬉しそうだった。
「雪、降ったでしょう」
「うん。綺麗だった」
「ロマンチックね」
「お母さん」
「なによ。娘の幸せは、母親の幸せなのよ」
母は笑った。
「ありがとう」
「これからも、大事にしなさいね」
「うん」
「でも、自分のことも大事にね」
「わかってる」
「わかってない」
母はいつものように言った。
「ちゃんと食べて、ちゃんと寝なさい」
「はい」
「じゃあ、また連絡するわね」
「うん。おやすみなさい」
電話を切って、ソファに座った。
母も、喜んでくれている。
真紀も、喜んでくれている。
娘も、応援してくれている。
みんなが、私の幸せを願ってくれている。
だから、私も。
もっと素直に、幸せを受け入れよう。
陸との関係を、大切にしよう。

夜、ベッドに入った。
目を閉じる。
陸の顔が浮かぶ。
優しい笑顔。
温かい手。
柔らかい唇。
全てが、愛おしい。
私は、彼を愛している。
そう、認めてもいい。
もう、逃げない。
もう、怖がらない。
一歩ずつ、前に進んでいこう。
陸と一緒に。
スマホが震えた。
陸からだった。
「おやすみ。また明日」
「おやすみなさい。また明日」
スマホを充電器に置いて、また目を閉じた。
心が、温かい。
幸せだ。
そう思いながら、眠りに落ちていった。
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