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第10章「ことばの練習」
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クリスマスイブの朝、目が覚めると雪が降っていた。
窓の外を見ると、街が白く染まっている。
今日は、陸と過ごす約束をしている。
彼の部屋で、二人きりのクリスマス。
転勤まで、あと三週間。
その事実が、胸に重くのしかかる。
でも、今日は楽しもう。
二人の時間を、大切にしよう。
クローゼットを開けて、服を選ぶ。
赤いニットに、黒いスカート。
クリスマスらしく。
鏡の前で合わせてみる。悪くない。
バッグに、プレゼントを入れた。
陸へのプレゼント。
本屋で見つけた、海外ミステリーの新刊。
彼が好きそうな作家のもの。
それと、手紙。
便箋三枚に、私の気持ちを綴った。
恥ずかしいけれど、言葉にしたかった。
ありがとう、と。
愛してる、と。
午後二時、陸のマンションに着いた。
インターホンを押す。
「はい」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。今、開けるね」
エレベーターで三階へ上がる。
ドアが開くと、陸が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
中に入ると、部屋にはクリスマスツリーが飾ってあった。
小さなツリーだけれど、電飾が綺麗に光っている。
「わあ、綺麗」
「昨日、買ってきたんだ」
「ありがとう」
「座って。コーヒー淹れるね」
「ありがとう」
ソファに座る。
テーブルの上には、プレゼントの包みが置いてあった。
「これ、私の?」
「うん。後で開けて」
陸がコーヒーを持ってきた。
「はい」
「ありがとう」
一口飲む。温かい。
「外、寒かったでしょ」
「うん。でも、雪が綺麗だった」
「そうだね」
陸も隣に座った。
「今日は、ゆっくりしよう」
「うん」
「夜、ご馳走作るから」
「楽しみ」
コーヒーを飲みながら、窓の外を見る。
雪は、まだ降り続けている。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「プレゼント、交換しない?」
「いいよ」
私はバッグからプレゼントを取り出した。
「はい」
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
陸が包みを開ける。
「本だ。この作家、好きなんだ」
「知ってる」
「ありがとう。嬉しい」
陸は嬉しそうに笑った。
「それと、これ」
手紙を渡す。
「手紙?」
「うん。恥ずかしいけど」
陸は封筒を開けて、便箋を取り出した。
ゆっくりと読み始める。
その表情が、だんだん優しくなっていく。
読み終わったとき、陸の目が潤んでいた。
「ありがとう」
「こちらこそ」
陸は手紙を胸に抱いた。
「大切にする」
「恥ずかしいこと書いたから、誰にも見せないでね」
「もちろん」
陸は笑った。
「じゃあ、俺のプレゼント」
テーブルの上の包みを手渡してくれた。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
包みを開ける。
中から、小さな箱が出てきた。
蓋を開けると、ネックレスが入っていた。
シンプルなチェーンに、小さな一粒のダイヤモンド。
「綺麗」
「気に入ってくれた?」
「すごく」
「つけてあげる」
陸が後ろに回って、ネックレスをつけてくれた。
鎖骨のあたりに、ダイヤが光る。
「似合ってる」
「ありがとう」
「これ、俺がいない間もつけててほしい」
その言葉に、胸が締め付けられた。
「つける。ずっと」
「ありがとう」
陸は私を抱きしめた。
「愛してる」
「私も」
午後、二人でキッチンに立った。
今夜の夕食の準備。
「何作るの?」
「ローストチキンと、サラダと、スープ」
「豪華だね」
「クリスマスだから」
陸がチキンを準備している間、私はサラダを作った。
レタス、トマト、きゅうり、アボカド。
ドレッシングも手作りで。
「篠原さん、料理上手だね」
「そんなことないよ。最近、全然作ってないし」
「でも、手際がいい」
「久我くんもね」
二人で笑った。
チキンをオーブンに入れて、スープを煮込む。
キッチンに、いい匂いが広がる。
「あと一時間くらいかな」
「じゃあ、それまで何しよう」
「映画でも見る?」
「いいね」
ソファに座って、テレビをつける。
クリスマス映画を流す。
陸が私の肩を抱き寄せた。
「暖かい?」
「うん」
画面を見ているけれど、内容はあまり頭に入ってこない。
陸の温もり。
彼の呼吸。
それだけを感じている。
「ねえ」
私が言った。
「なに?」
「転勤まで、あと三週間だね」
「うん」
「寂しい」
「俺も」
陸は私をもっと強く抱きしめた。
「でも、大丈夫」
「本当に?」
「うん。週末は帰ってくるから」
「毎週?」
「できる限り」
「無理しないでね」
「大丈夫。篠原さんに会いたいから」
その言葉に、涙が出そうになった。
「ありがとう」
「こちらこそ」
少し沈黙。
「ねえ、久我くん」
「なに?」
「不安なこと、ある?」
陸は少し考えてから、答えた。
「ある」
「どんなこと?」
「離れてる間に、篠原さんの気持ちが変わっちゃうんじゃないかって」
その言葉に、驚いた。
「変わらないよ」
「本当?」
「本当」
私は陸の顔を見た。
「私も不安だった。久我くんが、大阪で誰か他の人を好きになっちゃうんじゃないかって」
「そんなことない」
陸は首を振った。
「俺、篠原さんしか見えないから」
「私も」
二人で笑った。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「これから、ちゃんと言葉にしよう」
「言葉?」
「うん。不安なこと、寂しいこと、嬉しいこと。全部、ちゃんと言葉にして伝えよう」
陸の目が、真剣だった。
「遠距離になったら、会えない時間が長くなる。だから、言葉が大事になる」
「そうだね」
「篠原さんは、いつも我慢しちゃうから」
「え?」
「自分の気持ちを後回しにする。でも、それはダメ」
陸は私の手を握った。
「寂しかったら、寂しいって言ってほしい。会いたかったら、会いたいって言ってほしい」
「でも」
「でもじゃない。俺も、ちゃんと言うから」
その言葉に、胸が温かくなった。
「わかった」
「約束?」
「約束」
陸は笑った。
「じゃあ、練習しよう」
「練習?」
「うん。言葉にする練習」
陸は私の顔を見た。
「今、何を感じてる?」
「え?」
「今の気持ち。言葉にして」
少し考えた。
「嬉しい」
「どうして?」
「久我くんと一緒にいられるから」
「他には?」
「寂しい」
「どうして?」
「もうすぐ、離れ離れになるから」
「他には?」
「怖い」
「何が?」
「うまくいかなくなるのが」
陸は私を抱きしめた。
「ありがとう。ちゃんと言ってくれて」
「久我くんは?」
「俺も同じ。嬉しくて、寂しくて、怖い」
陸は私の髪を撫でた。
「でも、一緒に乗り越えられると思う」
「どうして?」
「だって、お互いの気持ちを知ってるから」
その言葉に、涙が溢れた。
「ありがとう」
「泣かないで」
陸は私の涙を、親指で拭った。
「大丈夫。俺たちなら、大丈夫」
「うん」
タイマーが鳴った。
「チキン、できたみたい」
「見てくる」
陸がキッチンへ行った。
私は涙を拭いて、深呼吸した。
言葉にする。
気持ちを、ちゃんと伝える。
それが、これからの私たちに必要なこと。
夕食は、テーブルに並べた。
ローストチキン、サラダ、スープ、パン。
ワインも開けた。
「綺麗」
「うん」
二人で座って、グラスを合わせる。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
一口飲む。
ワインが、喉を通る。
「美味しい」
「よかった」
チキンを切り分けて、皿に盛る。
「いただきます」
「いただきます」
フォークとナイフを持って、食べ始める。
「美味しい」
「本当?」
「うん。すごく」
陸は嬉しそうに笑った。
「頑張って作った甲斐があった」
「ありがとう」
食事をしながら、会話が続く。
仕事のこと。家族のこと。未来のこと。
「大阪に行ったら、何したい?」
私が聞いた。
「観光かな。大阪城とか、道頓堀とか」
「いいね」
「篠原さんも、来てよ」
「行く」
「本当?」
「もちろん。案内してね」
「任せて」
陸は笑った。
「あ、たこ焼きも食べに行こう」
「美味しそう」
「うん。楽しみにしててね」
未来の話をする。
それが、こんなに幸せだなんて。
食事を終えて、デザートを食べた。
陸が買ってきたケーキ。
イチゴのショートケーキ。
「美味しい」
「甘いね」
「うん」
コーヒーを飲みながら、ケーキを食べる。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「今日、すごく幸せ」
「私も」
「こんな日が、ずっと続けばいいのに」
「うん」
でも、それは叶わない。
三週間後、陸は大阪へ行く。
そして、会えない日々が始まる。
「篠原さん」
「なに?」
「大阪に行っても、変わらないから」
「わかってる」
「毎日、連絡する」
「無理しないで」
「無理じゃない。篠原さんと繋がっていたいから」
その言葉に、また涙が出そうになった。
「ありがとう」
「こちらこそ」
片付けを手伝って、また二人でソファに座った。
窓の外は、もう真っ暗だった。
雪は、まだ降っている。
「今夜、泊まっていく?」
陸が聞いた。
「いいの?」
「もちろん。一緒にいたい」
「私も」
陸は立ち上がって、手を差し伸べた。
「行こう」
手を取って、立ち上がる。
ベッドルームへ向かう。
ベッドに横たわって、二人で向かい合う。
「今日、楽しかった」
陸が言った。
「私も」
「来年も、一緒に過ごせるといいな」
「必ず、一緒に過ごそう」
「約束?」
「約束」
陸は私の頬に触れた。
「愛してる」
「私も愛してる」
キスをした。
優しく。
ゆっくりと。
陸の手が、私の背中を撫でる。
上から下へ。
また上へ。
体が、熱くなる。
「篠原さん」
「なに?」
「今夜も、一緒にいてもいい?」
「……うん」
陸は優しく、私を抱きしめた。
「ありがとう」
服を、ゆっくりと脱がせてくれる。
私も、陸の服に手をかける。
二人で、肌を重ねる。
「寒くない?」
「大丈夫」
でも、少し震えていた。
緊張で。
期待で。
陸は毛布を引き寄せて、二人を包んだ。
「これで、暖かいでしょ」
「うん」
陸の手が、私の体を優しく撫でる。
肩。
腕。
腰。
ゆっくりと。
確かめるように。
「篠原さん」
「なに?」
「今、何を感じてる?」
「幸せ」
「他には?」
「愛されてるって、感じる」
「本当に?」
「本当」
陸は笑った。
「よかった」
「久我くんは?」
「俺も。幸せで、愛してるって気持ちでいっぱい」
その言葉が、嬉しかった。
言葉にする。
気持ちを伝え合う。
それが、こんなに大切だなんて。
陸の体温が、私を包む。
心臓の音が、重なる。
呼吸が、重なる。
「いい?」
陸が聞いた。
「……うん」
ゆっくりと。
優しく。
二人は、また一つになった。
時間が、ゆっくりと流れた。
窓の外では、雪が降り続けている。
でも、この部屋の中は、温かかった。
二人の体温で。
二人の気持ちで。
「愛してる」
「私も」
何度も、そう言葉を交わした。
確かめ合うように。
全てが終わったとき、陸は私を抱きしめたまま言った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
「今夜のこと、忘れない」
「私も」
陸は私の髪を撫でた。
「大阪に行っても、この気持ち、忘れないから」
「わかってる」
「信じてくれる?」
「信じる」
陸は安心したように笑った。
「じゃあ、大丈夫」
少し間があってから、陸が言った。
「ねえ」
「なに?」
「遠距離になったら、どれくらいの頻度で連絡取りたい?」
「え?」
「朝と夜? それとも、気が向いたときだけ?」
真剣に聞いてくる。
「毎日、連絡取りたい」
「俺も」
「でも、無理しないでね」
「大丈夫。篠原さんと話すの、楽しいから」
「ありがとう」
「それと、週末」
「うん」
「月に二回くらいは、帰ってこれると思う」
「本当?」
「うん。篠原さんも、たまには大阪に来てよ」
「行く」
「約束?」
「約束」
陸は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、頑張れる」
「私も頑張る」
「ありがとう」
陸は私を抱きしめた。
「寝よう。疲れたでしょ」
「うん」
毛布を引き上げて、二人で横たわる。
陸の腕の中で、目を閉じる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
陸の心臓の音を聞きながら、眠りに落ちていった。
翌朝、目が覚めると、陸はまだ寝ていた。
穏やかな寝顔。
そっと、ベッドから出る。
窓の外を見ると、雪は止んでいた。
街が、真っ白に染まっている。
美しかった。
キッチンへ行って、コーヒーを淹れる。
その香りで、陸が目を覚ました。
「おはよう」
「おはよう。起こしちゃった?」
「ううん。いい匂いで目が覚めた」
陸は起き上がって、キッチンへ来た。
「メリークリスマス」
「もう終わっちゃったけどね」
「でも、俺たちにとっては、まだクリスマスだよ」
陸は笑った。
二人でテーブルに座って、コーヒーを飲む。
「昨日、楽しかった」
「私も」
「来年も、一緒に過ごそうね」
「うん」
トーストを焼いて、簡単な朝食を作った。
「今日、予定ある?」
陸が聞いた。
「特にないよ」
「じゃあ、もう少しゆっくりしていく?」
「いいの?」
「もちろん」
朝食を食べ終わって、また二人でソファに座った。
外は晴れてきていた。
雪が、太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「綺麗だね」
「うん」
陸は私の手を握った。
「ねえ」
「なに?」
「これから、大変なこともあると思う」
「うん」
「でも、一緒に乗り越えよう」
「うん」
「言葉にしよう。気持ちを、ちゃんと伝え合おう」
「わかった」
陸は笑った。
「じゃあ、大丈夫」
午後、陸のマンションを出た。
玄関で、靴を履く。
「気をつけてね」
「うん」
「また連絡するね」
「待ってる」
陸は私を抱きしめた。
「愛してる」
「私も」
「次、いつ会える?」
「今週末は?」
「大丈夫。じゃあ、また連絡するね」
「うん」
陸は、もう一度キスをした。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ドアを開けて、廊下に出る。
振り返ると、陸がまだドアの前に立っていた。
手を振ると、陸も振り返してくれた。
エレベーターに乗って、一階へ降りる。
マンションを出て、駅へ向かう。
雪道を歩く。
足跡が、白い雪に残る。
胸に、ネックレスが光っている。
陸からのプレゼント。
ずっと、つけていよう。
彼がいない間も。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「さっそく寂しい」
笑顔になって、返信した。
「私も。でも、また週末会えるよ」
「うん。楽しみにしてる」
「私も」
「愛してる」
「私も愛してる」
スマホをポケットにしまって、駅へ向かった。
空が、青く晴れている。
雪が、少しずつ溶けている。
陸との時間。
それは、私の宝物。
そして、これから。
離れても。
言葉で繋がっていこう。
気持ちを、ちゃんと伝え合おう。
それが、私たちの約束。
夜、家に帰って、母に電話をした。
「もしもし」
「お母さん、メリークリスマス」
「メリークリスマス。昨日、どうだった?」
「楽しかったよ」
「そう。よかったわね」
「うん」
少し間があってから、私は言った。
「あのね、お母さん」
「なに?」
「陸くんが、来月大阪に転勤するの」
「そうなの」
「うん。二年間」
「遠距離ね」
「うん」
母は少し黙ってから、言った。
「大丈夫よ」
「本当?」
「本当。お互いの気持ちがあれば、距離なんて関係ないわ」
母の言葉が、心に染みた。
「ありがとう」
「それに、今は便利よね。メールもあるし、ビデオ通話もできるし」
「そうだね」
「頑張りなさい」
「うん」
「応援してるから」
「ありがとう」
電話を切って、ベッドに入った。
目を閉じる。
陸の顔が浮かぶ。
優しい笑顔。
温かい手。
「言葉にしよう」
そう言ってくれた彼。
これから、たくさん言葉を交わそう。
気持ちを伝え合おう。
それが、私たちの絆を強くする。
スマホが震えた。
陸からだった。
「おやすみ。今日は本当にありがとう」
「こちらこそ。おやすみなさい」
「愛してる」
「私も愛してる。ずっと」
スマホを充電器に置いて、また目を閉じた。
これから、どんな困難が待っているかわからない。
でも、一緒に乗り越えていける。
言葉で。
気持ちで。
二人で。
窓の外を見ると、街が白く染まっている。
今日は、陸と過ごす約束をしている。
彼の部屋で、二人きりのクリスマス。
転勤まで、あと三週間。
その事実が、胸に重くのしかかる。
でも、今日は楽しもう。
二人の時間を、大切にしよう。
クローゼットを開けて、服を選ぶ。
赤いニットに、黒いスカート。
クリスマスらしく。
鏡の前で合わせてみる。悪くない。
バッグに、プレゼントを入れた。
陸へのプレゼント。
本屋で見つけた、海外ミステリーの新刊。
彼が好きそうな作家のもの。
それと、手紙。
便箋三枚に、私の気持ちを綴った。
恥ずかしいけれど、言葉にしたかった。
ありがとう、と。
愛してる、と。
午後二時、陸のマンションに着いた。
インターホンを押す。
「はい」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。今、開けるね」
エレベーターで三階へ上がる。
ドアが開くと、陸が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
中に入ると、部屋にはクリスマスツリーが飾ってあった。
小さなツリーだけれど、電飾が綺麗に光っている。
「わあ、綺麗」
「昨日、買ってきたんだ」
「ありがとう」
「座って。コーヒー淹れるね」
「ありがとう」
ソファに座る。
テーブルの上には、プレゼントの包みが置いてあった。
「これ、私の?」
「うん。後で開けて」
陸がコーヒーを持ってきた。
「はい」
「ありがとう」
一口飲む。温かい。
「外、寒かったでしょ」
「うん。でも、雪が綺麗だった」
「そうだね」
陸も隣に座った。
「今日は、ゆっくりしよう」
「うん」
「夜、ご馳走作るから」
「楽しみ」
コーヒーを飲みながら、窓の外を見る。
雪は、まだ降り続けている。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「プレゼント、交換しない?」
「いいよ」
私はバッグからプレゼントを取り出した。
「はい」
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
陸が包みを開ける。
「本だ。この作家、好きなんだ」
「知ってる」
「ありがとう。嬉しい」
陸は嬉しそうに笑った。
「それと、これ」
手紙を渡す。
「手紙?」
「うん。恥ずかしいけど」
陸は封筒を開けて、便箋を取り出した。
ゆっくりと読み始める。
その表情が、だんだん優しくなっていく。
読み終わったとき、陸の目が潤んでいた。
「ありがとう」
「こちらこそ」
陸は手紙を胸に抱いた。
「大切にする」
「恥ずかしいこと書いたから、誰にも見せないでね」
「もちろん」
陸は笑った。
「じゃあ、俺のプレゼント」
テーブルの上の包みを手渡してくれた。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
包みを開ける。
中から、小さな箱が出てきた。
蓋を開けると、ネックレスが入っていた。
シンプルなチェーンに、小さな一粒のダイヤモンド。
「綺麗」
「気に入ってくれた?」
「すごく」
「つけてあげる」
陸が後ろに回って、ネックレスをつけてくれた。
鎖骨のあたりに、ダイヤが光る。
「似合ってる」
「ありがとう」
「これ、俺がいない間もつけててほしい」
その言葉に、胸が締め付けられた。
「つける。ずっと」
「ありがとう」
陸は私を抱きしめた。
「愛してる」
「私も」
午後、二人でキッチンに立った。
今夜の夕食の準備。
「何作るの?」
「ローストチキンと、サラダと、スープ」
「豪華だね」
「クリスマスだから」
陸がチキンを準備している間、私はサラダを作った。
レタス、トマト、きゅうり、アボカド。
ドレッシングも手作りで。
「篠原さん、料理上手だね」
「そんなことないよ。最近、全然作ってないし」
「でも、手際がいい」
「久我くんもね」
二人で笑った。
チキンをオーブンに入れて、スープを煮込む。
キッチンに、いい匂いが広がる。
「あと一時間くらいかな」
「じゃあ、それまで何しよう」
「映画でも見る?」
「いいね」
ソファに座って、テレビをつける。
クリスマス映画を流す。
陸が私の肩を抱き寄せた。
「暖かい?」
「うん」
画面を見ているけれど、内容はあまり頭に入ってこない。
陸の温もり。
彼の呼吸。
それだけを感じている。
「ねえ」
私が言った。
「なに?」
「転勤まで、あと三週間だね」
「うん」
「寂しい」
「俺も」
陸は私をもっと強く抱きしめた。
「でも、大丈夫」
「本当に?」
「うん。週末は帰ってくるから」
「毎週?」
「できる限り」
「無理しないでね」
「大丈夫。篠原さんに会いたいから」
その言葉に、涙が出そうになった。
「ありがとう」
「こちらこそ」
少し沈黙。
「ねえ、久我くん」
「なに?」
「不安なこと、ある?」
陸は少し考えてから、答えた。
「ある」
「どんなこと?」
「離れてる間に、篠原さんの気持ちが変わっちゃうんじゃないかって」
その言葉に、驚いた。
「変わらないよ」
「本当?」
「本当」
私は陸の顔を見た。
「私も不安だった。久我くんが、大阪で誰か他の人を好きになっちゃうんじゃないかって」
「そんなことない」
陸は首を振った。
「俺、篠原さんしか見えないから」
「私も」
二人で笑った。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「これから、ちゃんと言葉にしよう」
「言葉?」
「うん。不安なこと、寂しいこと、嬉しいこと。全部、ちゃんと言葉にして伝えよう」
陸の目が、真剣だった。
「遠距離になったら、会えない時間が長くなる。だから、言葉が大事になる」
「そうだね」
「篠原さんは、いつも我慢しちゃうから」
「え?」
「自分の気持ちを後回しにする。でも、それはダメ」
陸は私の手を握った。
「寂しかったら、寂しいって言ってほしい。会いたかったら、会いたいって言ってほしい」
「でも」
「でもじゃない。俺も、ちゃんと言うから」
その言葉に、胸が温かくなった。
「わかった」
「約束?」
「約束」
陸は笑った。
「じゃあ、練習しよう」
「練習?」
「うん。言葉にする練習」
陸は私の顔を見た。
「今、何を感じてる?」
「え?」
「今の気持ち。言葉にして」
少し考えた。
「嬉しい」
「どうして?」
「久我くんと一緒にいられるから」
「他には?」
「寂しい」
「どうして?」
「もうすぐ、離れ離れになるから」
「他には?」
「怖い」
「何が?」
「うまくいかなくなるのが」
陸は私を抱きしめた。
「ありがとう。ちゃんと言ってくれて」
「久我くんは?」
「俺も同じ。嬉しくて、寂しくて、怖い」
陸は私の髪を撫でた。
「でも、一緒に乗り越えられると思う」
「どうして?」
「だって、お互いの気持ちを知ってるから」
その言葉に、涙が溢れた。
「ありがとう」
「泣かないで」
陸は私の涙を、親指で拭った。
「大丈夫。俺たちなら、大丈夫」
「うん」
タイマーが鳴った。
「チキン、できたみたい」
「見てくる」
陸がキッチンへ行った。
私は涙を拭いて、深呼吸した。
言葉にする。
気持ちを、ちゃんと伝える。
それが、これからの私たちに必要なこと。
夕食は、テーブルに並べた。
ローストチキン、サラダ、スープ、パン。
ワインも開けた。
「綺麗」
「うん」
二人で座って、グラスを合わせる。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
一口飲む。
ワインが、喉を通る。
「美味しい」
「よかった」
チキンを切り分けて、皿に盛る。
「いただきます」
「いただきます」
フォークとナイフを持って、食べ始める。
「美味しい」
「本当?」
「うん。すごく」
陸は嬉しそうに笑った。
「頑張って作った甲斐があった」
「ありがとう」
食事をしながら、会話が続く。
仕事のこと。家族のこと。未来のこと。
「大阪に行ったら、何したい?」
私が聞いた。
「観光かな。大阪城とか、道頓堀とか」
「いいね」
「篠原さんも、来てよ」
「行く」
「本当?」
「もちろん。案内してね」
「任せて」
陸は笑った。
「あ、たこ焼きも食べに行こう」
「美味しそう」
「うん。楽しみにしててね」
未来の話をする。
それが、こんなに幸せだなんて。
食事を終えて、デザートを食べた。
陸が買ってきたケーキ。
イチゴのショートケーキ。
「美味しい」
「甘いね」
「うん」
コーヒーを飲みながら、ケーキを食べる。
「ねえ」
陸が言った。
「なに?」
「今日、すごく幸せ」
「私も」
「こんな日が、ずっと続けばいいのに」
「うん」
でも、それは叶わない。
三週間後、陸は大阪へ行く。
そして、会えない日々が始まる。
「篠原さん」
「なに?」
「大阪に行っても、変わらないから」
「わかってる」
「毎日、連絡する」
「無理しないで」
「無理じゃない。篠原さんと繋がっていたいから」
その言葉に、また涙が出そうになった。
「ありがとう」
「こちらこそ」
片付けを手伝って、また二人でソファに座った。
窓の外は、もう真っ暗だった。
雪は、まだ降っている。
「今夜、泊まっていく?」
陸が聞いた。
「いいの?」
「もちろん。一緒にいたい」
「私も」
陸は立ち上がって、手を差し伸べた。
「行こう」
手を取って、立ち上がる。
ベッドルームへ向かう。
ベッドに横たわって、二人で向かい合う。
「今日、楽しかった」
陸が言った。
「私も」
「来年も、一緒に過ごせるといいな」
「必ず、一緒に過ごそう」
「約束?」
「約束」
陸は私の頬に触れた。
「愛してる」
「私も愛してる」
キスをした。
優しく。
ゆっくりと。
陸の手が、私の背中を撫でる。
上から下へ。
また上へ。
体が、熱くなる。
「篠原さん」
「なに?」
「今夜も、一緒にいてもいい?」
「……うん」
陸は優しく、私を抱きしめた。
「ありがとう」
服を、ゆっくりと脱がせてくれる。
私も、陸の服に手をかける。
二人で、肌を重ねる。
「寒くない?」
「大丈夫」
でも、少し震えていた。
緊張で。
期待で。
陸は毛布を引き寄せて、二人を包んだ。
「これで、暖かいでしょ」
「うん」
陸の手が、私の体を優しく撫でる。
肩。
腕。
腰。
ゆっくりと。
確かめるように。
「篠原さん」
「なに?」
「今、何を感じてる?」
「幸せ」
「他には?」
「愛されてるって、感じる」
「本当に?」
「本当」
陸は笑った。
「よかった」
「久我くんは?」
「俺も。幸せで、愛してるって気持ちでいっぱい」
その言葉が、嬉しかった。
言葉にする。
気持ちを伝え合う。
それが、こんなに大切だなんて。
陸の体温が、私を包む。
心臓の音が、重なる。
呼吸が、重なる。
「いい?」
陸が聞いた。
「……うん」
ゆっくりと。
優しく。
二人は、また一つになった。
時間が、ゆっくりと流れた。
窓の外では、雪が降り続けている。
でも、この部屋の中は、温かかった。
二人の体温で。
二人の気持ちで。
「愛してる」
「私も」
何度も、そう言葉を交わした。
確かめ合うように。
全てが終わったとき、陸は私を抱きしめたまま言った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
「今夜のこと、忘れない」
「私も」
陸は私の髪を撫でた。
「大阪に行っても、この気持ち、忘れないから」
「わかってる」
「信じてくれる?」
「信じる」
陸は安心したように笑った。
「じゃあ、大丈夫」
少し間があってから、陸が言った。
「ねえ」
「なに?」
「遠距離になったら、どれくらいの頻度で連絡取りたい?」
「え?」
「朝と夜? それとも、気が向いたときだけ?」
真剣に聞いてくる。
「毎日、連絡取りたい」
「俺も」
「でも、無理しないでね」
「大丈夫。篠原さんと話すの、楽しいから」
「ありがとう」
「それと、週末」
「うん」
「月に二回くらいは、帰ってこれると思う」
「本当?」
「うん。篠原さんも、たまには大阪に来てよ」
「行く」
「約束?」
「約束」
陸は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、頑張れる」
「私も頑張る」
「ありがとう」
陸は私を抱きしめた。
「寝よう。疲れたでしょ」
「うん」
毛布を引き上げて、二人で横たわる。
陸の腕の中で、目を閉じる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
陸の心臓の音を聞きながら、眠りに落ちていった。
翌朝、目が覚めると、陸はまだ寝ていた。
穏やかな寝顔。
そっと、ベッドから出る。
窓の外を見ると、雪は止んでいた。
街が、真っ白に染まっている。
美しかった。
キッチンへ行って、コーヒーを淹れる。
その香りで、陸が目を覚ました。
「おはよう」
「おはよう。起こしちゃった?」
「ううん。いい匂いで目が覚めた」
陸は起き上がって、キッチンへ来た。
「メリークリスマス」
「もう終わっちゃったけどね」
「でも、俺たちにとっては、まだクリスマスだよ」
陸は笑った。
二人でテーブルに座って、コーヒーを飲む。
「昨日、楽しかった」
「私も」
「来年も、一緒に過ごそうね」
「うん」
トーストを焼いて、簡単な朝食を作った。
「今日、予定ある?」
陸が聞いた。
「特にないよ」
「じゃあ、もう少しゆっくりしていく?」
「いいの?」
「もちろん」
朝食を食べ終わって、また二人でソファに座った。
外は晴れてきていた。
雪が、太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「綺麗だね」
「うん」
陸は私の手を握った。
「ねえ」
「なに?」
「これから、大変なこともあると思う」
「うん」
「でも、一緒に乗り越えよう」
「うん」
「言葉にしよう。気持ちを、ちゃんと伝え合おう」
「わかった」
陸は笑った。
「じゃあ、大丈夫」
午後、陸のマンションを出た。
玄関で、靴を履く。
「気をつけてね」
「うん」
「また連絡するね」
「待ってる」
陸は私を抱きしめた。
「愛してる」
「私も」
「次、いつ会える?」
「今週末は?」
「大丈夫。じゃあ、また連絡するね」
「うん」
陸は、もう一度キスをした。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ドアを開けて、廊下に出る。
振り返ると、陸がまだドアの前に立っていた。
手を振ると、陸も振り返してくれた。
エレベーターに乗って、一階へ降りる。
マンションを出て、駅へ向かう。
雪道を歩く。
足跡が、白い雪に残る。
胸に、ネックレスが光っている。
陸からのプレゼント。
ずっと、つけていよう。
彼がいない間も。
スマホを見ると、陸からメッセージが来ていた。
「さっそく寂しい」
笑顔になって、返信した。
「私も。でも、また週末会えるよ」
「うん。楽しみにしてる」
「私も」
「愛してる」
「私も愛してる」
スマホをポケットにしまって、駅へ向かった。
空が、青く晴れている。
雪が、少しずつ溶けている。
陸との時間。
それは、私の宝物。
そして、これから。
離れても。
言葉で繋がっていこう。
気持ちを、ちゃんと伝え合おう。
それが、私たちの約束。
夜、家に帰って、母に電話をした。
「もしもし」
「お母さん、メリークリスマス」
「メリークリスマス。昨日、どうだった?」
「楽しかったよ」
「そう。よかったわね」
「うん」
少し間があってから、私は言った。
「あのね、お母さん」
「なに?」
「陸くんが、来月大阪に転勤するの」
「そうなの」
「うん。二年間」
「遠距離ね」
「うん」
母は少し黙ってから、言った。
「大丈夫よ」
「本当?」
「本当。お互いの気持ちがあれば、距離なんて関係ないわ」
母の言葉が、心に染みた。
「ありがとう」
「それに、今は便利よね。メールもあるし、ビデオ通話もできるし」
「そうだね」
「頑張りなさい」
「うん」
「応援してるから」
「ありがとう」
電話を切って、ベッドに入った。
目を閉じる。
陸の顔が浮かぶ。
優しい笑顔。
温かい手。
「言葉にしよう」
そう言ってくれた彼。
これから、たくさん言葉を交わそう。
気持ちを伝え合おう。
それが、私たちの絆を強くする。
スマホが震えた。
陸からだった。
「おやすみ。今日は本当にありがとう」
「こちらこそ。おやすみなさい」
「愛してる」
「私も愛してる。ずっと」
スマホを充電器に置いて、また目を閉じた。
これから、どんな困難が待っているかわからない。
でも、一緒に乗り越えていける。
言葉で。
気持ちで。
二人で。
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