処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太

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第20章「血塗られた晩餐」

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秋の始まり。
王宮で晩餐会が開かれた。
父王の誕生日を前に、貴族たちを招いての宴。
大広間には、長いテーブルが並び、豪華な料理が運ばれてくる。
セリーヌは父の隣に座っていた。
反対側には、ロベルトが座っている。
他の席には、グレン侯爵、マルコ、ダミアン卿、そして他の貴族たち。
楽団が穏やかな曲を奏でている。
「皆、今宵は集まってくれて感謝する」
父王が立ち上がり、杯を掲げた。
「私の誕生日を祝ってくれることに」
全員が杯を掲げた。
「乾杯」
全員が唱和した。
セリーヌも杯を口に運んだ。
ワインが喉を通る。
その瞬間、違和感。
味が、おかしい。
苦い。
いつものワインと違う。
セリーヌは杯を置いた。
周りを見る。
他の者は、普通に飲んでいる。
気づいていないのか。
それとも、セリーヌの杯だけが。
心臓が早鐘を打つ。
毒だ。
またか。
セリーヌは冷静さを保とうとした。
だが、体が熱くなってきた。
めまい。
吐き気。
まずい。
「殿下」
レオンが小声で言った。
彼は護衛として、壁際に立っている。
セリーヌの異変に気づいたようだ。
セリーヌは小さく頷いた。
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
「セリーヌ、どうした」
父が心配そうに見た。
「少し、気分が」
セリーヌは額を押さえた。
視界がぼやける。
「殿下!」
レオンが駆け寄ってきた。
セリーヌを支える。
「侍医を」
レオンが叫んだ。
広間がざわめく。
貴族たちが立ち上がる。
ロベルトも立ち上がったが、その顔には驚きはなかった。
ただ、冷たい観察の目。
セリーヌは意識が遠のくのを感じた。
だが、まだ諦めない。
「ワイン」
セリーヌは絞り出すように言った。
「ワインに、毒が」
父王は顔色を変えた。
「毒だと」
侍医ルイが駆けつけた。
「殿下、すぐに治療を」
ルイはセリーヌを横にした。
懐から薬を取り出す。
「これを飲んでください。解毒剤です」
セリーヌは薬を飲んだ。
苦い。
だが、すぐに体が楽になった。
吐き気が収まる。
めまいも少しずつ消えていく。
「殿下のワインを調べろ」
父王が命じた。
警備兵がセリーヌの杯を運ぶ。
ルイが匂いを嗅ぎ、少し指につけて舐めた。
顔色が変わる。
「毒です。ヒ素系の」
広間が騒然とした。
「誰が」
父王が怒りの声を上げた。
「誰がこんなことを」
「調べます」
バルドが言った。
「すぐに犯人を」
セリーヌは少し回復し、座り直した。
レオンが支えてくれている。
「父上」
セリーヌは言った。
「私は大丈夫です」
「セリーヌ」
父は涙を浮かべていた。
「お前を失うところだった」
「でも、助かりました」
セリーヌはロベルトを見た。
彼は無表情だった。
だが、その目の奥に、失望が見えた。
失敗したことへの失望。
「ロベルト」
父王がロベルトを見た。
「お前は何か知っているか」
「いえ、兄上」
ロベルトは首を振った。
「私も驚いています。誰がこんな卑劣なことを」
嘘だ。
セリーヌには分かる。
この男が命じたのだ。
だが、証拠がない。
今は、まだ。
「ワインは誰が注いだ」
父王が聞いた。
「給仕です」
バルドが答えた。
「すぐに呼びます」
給仕が連れてこられた。
若い男。震えている。
「お前が、セリーヌ殿下にワインを注いだのか」
「は、はい」
「どこから持ってきた」
「厨房です」
「厨房で誰かが触っていたか」
「わかりません。たくさんの杯がありましたので」
父王は苛立った様子を見せた。
「役に立たんな」
「すみません」
給仕は頭を下げた。
セリーヌは考えた。
犯人を特定するのは難しい。
厨房には多くの使用人がいる。
誰でも、ワインに毒を混ぜることができた。
そして、おそらく犯人はもう逃げている。
ロベルトが手配したのだろう。
「父上」
セリーヌは立ち上がった。
まだ少しふらつくが、歩ける。
「今夜は、これで失礼させてください」
「セリーヌ、無理をするな」
「大丈夫です。休めば回復します」
セリーヌはレオンに支えられながら、部屋を出た。
廊下を歩く。
足取りは重い。
「殿下、本当に大丈夫ですか」
レオンが心配そうに聞いた。
「ええ。ルイの解毒剤が効いたわ」
部屋に着き、ベッドに座った。
マリーが駆けつけてきた。
「お嬢様、聞きました。大丈夫ですか」
「大丈夫よ、マリー」
セリーヌは微笑んだ。
「少し休めば」
だが、内心は違った。
恐怖。
また、殺されかけた。
ロベルトは諦めていない。
契約書を奪われても、魔術師を無力化されても、まだ諦めていない。
別の方法で、セリーヌを殺そうとしている。
「レオン、今夜は部屋の外で見張ってください」
「承知しました」
レオンは部屋を出た。
マリーが水を持ってきた。
「お嬢様、これを」
セリーヌは水を飲んだ。
冷たくて、美味しい。
「マリー、ありがとう」
「いえ」
マリーは涙を浮かべていた。
「お嬢様を失うかと思って」
「大丈夫よ」
セリーヌはマリーの手を握った。
「私は、まだ死なない」
「はい」
マリーは涙を拭った。
「お休みください。私も外で見張っています」
「ありがとう」
一人になり、セリーヌは天井を見た。
死にかけた。
二度目だ。
いや、前の時間軸を含めれば、三度目。
もう、耐えられない。
秋の式典を待っている場合ではない。
もっと早く動くべきか。
だが、準備が整っていない。
証拠はある。
味方もいる。
だが、タイミングが重要だ。
早すぎれば、ロベルトに対策される。
遅すぎれば、また命を狙われる。
どうすればいい。
扉がノックされた。
「セリーヌ、私だ」
父の声。
「入ってください」
父王が入ってきた。
侍医ルイも一緒だ。
「体調はどうだ」
「大分、良くなりました」
ルイが診察をした。
脈を取り、目を見て、喉を確認する。
「解毒剤が効いています。明日には完全に回復するでしょう」
「よかった」
父は安堵した。
ルイは去り、父とセリーヌだけになった。
「セリーヌ」
父は重い口調で言った。
「今夜のことは、偶然ではない」
「父上」
「お前を狙った、計画的な暗殺だ」
父は拳を握った。
「許せん。誰がやったのか、必ず見つける」
セリーヌは迷った。
今、言うべきか。
ロベルトが犯人だと。
だが、証拠がまだ不十分だ。
父は信じるだろうか。
「父上」
セリーヌは慎重に言った。
「もしかしたら、宮廷内に敵がいるかもしれません」
「宮廷内、だと」
「はい。信頼していた者の中に」
父は深刻な顔をした。
「誰だ」
「まだわかりません」
セリーヌは嘘をついた。
「ですが、調べています」
父は長い間、セリーヌを見ていた。
「お前は、何か隠しているな」
セリーヌは驚いた。
「父上」
「わかる。お前は子どもの頃から、嘘をつくのが下手だった」
父は優しく微笑んだ。
「だが、今は聞かない。お前にも、考えがあるのだろう」
「父上」
「ただ、約束してくれ」
父はセリーヌの手を握った。
「危険なことはするな。もしお前を失えば、私は生きていけない」
セリーヌは涙が溢れた。
「父上、私も父上を失いたくありません」
「ならば、互いに気をつけよう」
父は立ち上がった。
「休みなさい。明日、また話そう」
父は去った。
セリーヌは一人、涙を流した。
父は優しい。
だからこそ、守らなければならない。
ロベルトから。
毒から。
陰謀から。
全てから。
窓の外、月が雲に隠れた。
暗い夜。
だが、夜明けは近い。
秋の式典。
その日、全てを終わらせる。
セリーヌは、そのために生き延びる。
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