処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第22章「王弟の失墜」

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式典が終わり、広間は混乱していた。
貴族たちは小声で話し合い、民衆代表たちは驚きを隠せない様子だった。
セリーヌは演壇を降り、父のもとへ向かった。
「父上」
「セリーヌ」
父は疲れた顔をしていた。
「よくやった。だが、これからが大変だ」
「わかっています」
二人は別室に移動した。
評議員たちも集まった。
「これから、どうするべきか」
グレン侯爵が口を開いた。
「ロベルト殿下を支持していた貴族たちは、黙っていないでしょう」
「買収されていた者たちですね」
セリーヌは言った。
「彼らは、どう動くと思いますか」
「二つの可能性があります」
ダミアン卿が答えた。
「一つは、すぐに寝返る。もう一つは、ロベルト殿下を救おうとする」
「後者の場合、反乱の可能性もあります」
法務官ダニエルが警告した。
「軍の一部が、ロベルト殿下に忠誠を誓っている可能性があります」
父王は頭を抱えた。
「内乱は避けたい」
「ならば、先手を打ちましょう」
セリーヌは提案した。
「ロベルト支持派の貴族たちに、恩赦を与えます。ただし、条件付きで」
「条件とは」
「今すぐに忠誠を誓うこと。そして、買収された金を返還すること」
「それで彼らは従うでしょうか」
「従わなければ、共犯者として裁きます」
セリーヌは真剣な顔をした。
「選択肢を与えます。許しか、罰か」
父王は頷いた。
「わかった。そうしよう」
グレン侯爵が立ち上がった。
「では、私が貴族たちに伝えます」
「お願いします」
数時間後、結果が出た。
ロベルト支持派の貴族二十人のうち、十八人が忠誠を誓った。
残りの二人は、王都から逃亡した。
「逃げた者たちは」
セリーヌが聞いた。
「追っています」
ダミアン卿が答えた。
「ですが、おそらく東国へ向かったでしょう」
東国。
セリーヌは緊張した。
「東国が動く可能性は」
「高いです」
ダミアン卿は地図を広げた。
「ロベルト殿下との密約が破綻した今、東国は別の手段を取るかもしれません」
「侵攻、ですか」
「可能性があります」
父王は深刻な顔をした。
「軍を国境に配置する必要がある」
「すぐに手配します」
ダミアン卿は去った。
セリーヌは窓の外を見た。
夕日が沈み始めている。
ロベルトは逮捕された。
だが、戦いはまだ終わっていない。
「父上、ロベルトに会ってきます」
「牢獄にか」
「はい。聞きたいことがあります」
父は迷った様子を見せたが、頷いた。
「気をつけなさい」
セリーヌはレオンを連れて、地下の牢獄へ向かった。
石の階段を降りる。
冷たく、湿った空気。
牢獄の扉の前で、警備兵が立っていた。
「中に入ります」
セリーヌが言った。
警備兵は扉を開けた。
中には、鉄格子で仕切られた独房。
その一つに、ロベルトが座っていた。
鎖で手足を繋がれている。
「やあ、姪御」
ロベルトは皮肉な笑みを浮かべた。
「見事だったよ。完璧な告発だった」
「皮肉ですか」
「いや、本心だ」
ロベルトは立ち上がった。
鎖が音を立てる。
「お前は成長した。もう、あの無邪気な少女ではない」
「あなたが私を変えたのです」
セリーヌは冷たく言った。
「私を殺そうとして」
「ああ、そうだな」
ロベルトは認めた。
「だが、後悔はしていない」
「なぜ」
セリーヌは問うた。
「なぜ、そこまでして王位が欲しかったのですか」
ロベルトは長い間、沈黙していた。
やがて、静かに答えた。
「力が欲しかったからだ」
「力?」
「ああ。この世は力が全てだ。力がなければ、何も守れない。何も変えられない」
ロベルトは鉄格子を掴んだ。
「私は子どもの頃から、兄の影だった。常に二番目。常に後継者ではない者」
彼の声に、初めて感情が混じった。
「だが、私の方が優秀だった。賢く、強く、決断力があった。それなのに、生まれた順番だけで全てが決まる」
「だから、奪おうとした」
「そうだ」
ロベルトは頷いた。
「私は王になるべきだった。そのためなら、何でもする」
「国を売ってでも」
「国など」
ロベルトは吐き捨てた。
「王になれば、いくらでも取り戻せる」
セリーヌは頭を振った。
「あなたは間違っています。国は、王のものではありません。民のものです」
「綺麗事だ」
「いいえ、真実です」
セリーヌは真剣な顔をした。
「王は、民に仕える者です。支配者ではありません」
ロベルトは笑った。
「お前は理想主義者だな。現実を知らない」
「私は現実を知っています」
セリーヌは一歩近づいた。
「あなたに殺されかけたこと。民に石を投げられたこと。全てを失ったこと」
ロベルトは驚いた顔をした。
「何を言っている」
セリーヌは口を閉じた。
言い過ぎた。
時間遡行のことは、言えない。
「何でもありません」
セリーヌは話題を変えた。
「東国のことを聞きたい。彼らは、これから何をするつもりですか」
ロベルトは考え込んだ。
「なぜ、それを教える必要がある」
「国を守るためです」
「私を裁いておいて、今更国を守るだと」
「あなたがどう思おうと、私は国を守ります」
セリーヌは強く言った。
「東国の計画を教えてください」
ロベルトは長い間、セリーヌを見ていた。
やがて、ため息をついた。
「東国は、一ヶ月以内に侵攻する」
セリーヌは息を呑んだ。
「一ヶ月」
「ああ。密約が破綻したことを知れば、すぐに動く。彼らは準備を整えている」
「兵力は」
「一万。騎兵と歩兵」
一万。
リオネール軍は、常備軍が五千。
動員すれば八千。
数で劣る。
「どこから攻めてくるのですか」
「東の国境。三箇所同時に」
ロベルトは詳細を語った。
攻撃予定地。戦術。指揮官の名前。
全てを。
「なぜ、教えるのですか」
セリーヌは不思議に思った。
「あなたは東国と組んでいたのに」
「組んでいたのは、王位を得るためだ」
ロベルトは冷たく言った。
「だが、もう王位は手に入らない。ならば、東国に恩を売る理由もない」
彼は鉄格子から手を離した。
「それに」
ロベルトは小声で言った。
「私は売国奴ではない。ただの野心家だ」
セリーヌは複雑な気持ちだった。
この男は、悪人だ。
毒を盛り、暗殺を命じ、陰謀を企てた。
だが、最後に国を守る情報を与えた。
それは、わずかな良心か。
それとも、ただのプライドか。
「ありがとう」
セリーヌは言った。
「情報は役立てます」
「どういたしまして」
ロベルトは皮肉な笑みを浮かべた。
「では、私の処刑はいつだ」
「まだ決まっていません」
「死刑だろう」
「わかりません」
セリーヌは正直に答えた。
「それは、評議会と父上が決めます」
「お前の意見は」
セリーヌは迷った。
復讐か、赦しか。
女神の問いが、頭に浮かぶ。
「わかりません」
セリーヌは答えた。
「あなたは罪を犯しました。罰せられるべきです。でも、死刑が正しいのか、私にはわかりません」
ロベルトは意外そうな顔をした。
「優しいな、お前は」
「優しいのではありません。迷っているのです」
セリーヌは牢獄を出た。
レオンが待っていた。
「殿下、どうでしたか」
「東国の情報を得ました」
セリーヌは急いだ。
「すぐに評議会を開きます。戦争の準備をしなければなりません」
二人は階段を駆け上がった。
戦いは、まだ終わっていない。
ロベルトは倒れた。
だが、新しい敵が現れる。
東国。
一ヶ月後に侵攻。
準備する時間は、わずかだ。
セリーヌは走り続けた。
国を守るために。
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