処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第29章「復讐か赦しか」

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戦争が終わって一週間。
王都は祝賀ムードに包まれていた。
だが、セリーヌの心は重かった。
まだ、決めなければならないことがある。
ロベルトの処分。
彼は今も、地下牢にいる。
評議会は、死刑を求めている。
反逆罪。毒殺未遂。国家を売る契約。
全てが死刑に値する罪だ。
だが、セリーヌは決断できずにいた。
復讐か、赦しか。
女神の問いが、頭から離れない。
その日の朝、セリーヌは父のもとを訪れた。
父は書斎で本を読んでいた。
「父上」
「セリーヌ、どうした」
「相談があります」
セリーヌは椅子に座った。
「ロベルトのことです」
父は本を閉じた。
「ああ。評議会は死刑を求めているな」
「はい」
「お前は、どう思う」
セリーヌは迷った。
「わかりません」
正直に答えた。
「ロベルトは、死ぬべき罪を犯しました。ですが」
「ですが?」
「彼を殺しても、何も解決しないのではないかと」
父は深く息をついた。
「セリーヌ、お前は優しいな」
「優しいのではありません。迷っているのです」
セリーヌは顔を上げた。
「父上なら、どうしますか」
父は長い間、沈黙していた。
やがて、静かに答えた。
「私なら、赦すだろう」
セリーヌは驚いた。
「赦す、ですか」
「ああ。ロベルトは私の弟だ。幼い頃は、よく遊んだものだ」
父は遠い目をした。
「彼は賢く、強く、魅力的だった。だが、どこかで道を誤った」
「父上は、彼を恨んでいないのですか」
「恨んでいる」
父は正直に答えた。
「彼は私を毒殺しようとした。お前を殺そうとした。許しがたい」
「でも、赦すのですか」
「赦すことと、許すことは違う」
父は真剣な顔をした。
「許すことは、罪を認めないこと。赦すことは、罪を認めた上で、罰を軽減すること」
セリーヌは考え込んだ。
「では、父上はロベルトの罪を認めるが、死刑にはしないということですか」
「そうだ」
父は頷いた。
「彼を殺しても、失われたものは戻らない。それよりも、生かして償わせる方が良い」
「どのように」
「終身刑だ。一生、牢で過ごさせる。そして、自分の罪を考えさせる」
セリーヌは頷いた。
「わかりました」
だが、まだ心は決まらなかった。
その日の午後、セリーヌは牢獄を訪れた。
ロベルトに会うために。
最後の対話。
牢獄の扉が開く。
ロベルトは壁に寄りかかって座っていた。
痩せている。
髭も伸びている。
かつての威厳は、どこにもない。
「やあ、姪御」
ロベルトは皮肉な笑みを浮かべた。
「わざわざ来てくれたのか」
「話があります」
セリーヌは鉄格子の前に立った。
「あなたの処分について」
「ああ、死刑だろう」
ロベルトは無関心に言った。
「覚悟はできている」
「もし、私が死刑にしなかったら」
「は?」
ロベルトは驚いた顔をした。
「何を言っている」
「もし、終身刑にしたら。あなたは、どうしますか」
ロベルトは長い間、セリーヌを見ていた。
「わからない」
彼は正直に答えた。
「牢で一生を過ごすなど、考えたこともない」
「償う気持ちは、ありますか」
「償う」
ロベルトは笑った。
「何を償えばいい。私がしたことは、取り返しがつかない」
「わかっています」
セリーヌは冷静に言った。
「ですが、生きている限り、償うことはできます」
「どうやって」
「反省することです。自分の罪を認め、二度と同じ過ちを犯さないと誓うことです」
ロベルトは黙った。
やがて、顔を伏せた。
「セリーヌ、お前は本当に成長したな」
「あなたのおかげです」
「皮肉か」
「いいえ、本心です」
セリーヌは真剣な顔をした。
「あなたが私を殺そうとしたから、私は強くなりました。あなたが陰謀を企てたから、私は賢くなりました」
「それは」
「ですから、感謝しています。そして、憎んでもいます」
セリーヌは複雑な表情をした。
「あなたは私の敵であり、教師でもあります」
ロベルトは驚いた顔をした。
「お前は、不思議な女だ」
「私は、ただの人間です」
セリーヌは牢獄を出ようとした。
「待て」
ロベルトが呼び止めた。
「もし、お前が私を生かすなら、一つだけ言いたいことがある」
「何ですか」
「後悔している」
ロベルトは静かに言った。
「全てを。お前を殺そうとしたことも、兄を裏切ったことも、国を売ろうとしたことも」
セリーヌは振り返った。
「本当に?」
「本当だ」
ロベルトは真剣な顔をした。
「牢で一ヶ月過ごして、考えた。私は何を求めていたのか。権力か。それとも、認められることか」
彼は自分の手を見た。
「答えは、わからない。ただ、全てを失って初めて、自分が何を失ったか理解した」
「何を失ったのですか」
「家族だ」
ロベルトは涙を浮かべた。
「兄の信頼。お前の尊敬。そして、自分自身の誇り」
セリーヌは胸が痛んだ。
この男は、本当に後悔しているのだろうか。
それとも、ただ死を恐れているだけなのだろうか。
わからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
この男も、人間だということ。
完全な悪ではない。
弱さと欲望に負けた、一人の人間。
「ロベルト」
セリーヌは言った。
「もし私が、あなたを生かしたら、償ってくれますか」
「どうやって」
「生きることです。そして、考え続けることです。自分の罪を。そして、もし生まれ変われるなら、何をすべきだったかを」
ロベルトは長い間、セリーヌを見ていた。
やがて、頷いた。
「わかった。約束する」
セリーヌは牢獄を出た。
決断した。
翌日、評議会が開かれた。
ロベルトの処分を決める、最終評議会。
セリーヌは演壇に立った。
「皆様」
全員が注目する。
「私は、ロベルトの処分について決断しました」
「死刑ですか」
グレン侯爵が聞いた。
「いいえ」
セリーヌは首を振った。
「終身刑です」
ざわめきが起こった。
「終身刑、ですか」
「はい」
セリーヌは真剣な顔をした。
「ロベルトの罪は重い。死刑に値します。ですが、私は彼を殺しません」
「なぜです」
「復讐は、新たな憎しみを生むからです」
セリーヌは全員を見回した。
「もし私がロベルトを殺せば、それは正義ではなく、復讐です。そして、復讐は連鎖します」
「ですが、罪は罰せられるべきでは」
「もちろんです」
セリーヌは頷いた。
「だから、終身刑です。彼は一生、牢で過ごします。自由を奪われ、自分の罪と向き合い続けます」
「それで、正義が果たされるのですか」
「完全には、果たされません」
セリーヌは正直に答えた。
「ですが、これが私の選択です。復讐でもなく、赦しでもなく。責任と希望の間の道です」
評議会は長い議論をした。
やがて、採決が取られた。
結果は、賛成多数。
セリーヌの提案が、承認された。
ロベルトは、終身刑に処せられることになった。
評議会が終わり、セリーヌは一人で庭園を歩いた。
母の薔薇の木の前で立ち止まる。
「母上、これで良かったのでしょうか」
答えはない。
だが、セリーヌは自分の心に問うた。
後悔しているか。
いいえ。
これが、正しいかどうかはわからない。
だが、これが自分の選択だ。
復讐の連鎖を断ち切る選択。
それが、新しい未来への第一歩だと信じる。
風が吹く。
薔薇の花びらが揺れる。
まるで、母が答えているかのように。
「ありがとう、母上」
セリーヌは微笑んだ。
そして、前を向いて歩き出した。
新しい未来へ。
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