転生して断罪ルート絶対回避を目指したら、婚約者と何故か主人公に執着されるようになった話。

魚彦

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悪役令息に向いてる職業

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正確には、魔法を身につけたというより、素質があったので使えるように練習した。

この世界には、魔王はいないけど魔法はある。
魔法はガスとか電気とかに代わるエネルギーとしても使えるし、もちろん戦闘時にも使える。
炎氷風土聖闇の6種の属性があって、人によって備わる属性は違う。

俺が使えるのは、氷と闇の属性魔法。
風魔法が使えたら空を飛べて楽しそうだったんだけど、適性がなく残念。
暑い日に氷魔法を使ってフルーツ氷を作れるのは便利。シロクマの気持ちが味わえる。

闇魔法は、どんなものか想像がつきにくいと思うけど、言語化するなら属性無効化と、空間維持かなぁ。
闇魔法それ自体でダメージを与えることは出来ない。
けど、他の属性魔法すべてを闇に飲み込んで相殺することができる。
あと、少しの間だけ物質の動きを止めることができる。

動きというのか、過ぎていく時間というのか…
うまく表現できないけど、たとえば落下していく花瓶。一瞬だけなら空中で止めることができる。
ただ止めるだけで、風魔法のように浮かせて元の場所へ戻したりは出来ないんだけど。
顔面に飛んできたボールを一瞬止めて、その間に体をずらして避けるとかね。
他の属性魔法なら、ボールを燃やしちゃうとか石の障壁で跳ね返すとかするとこだけど。

闇魔法はね…全体的に、地味だ。
でも地味だからこそ、魔法の痕跡を残さずに隠密行動が出来るというんで、昔から闇魔法の使い手は、盗賊や暗殺者に向いているそうだ。
そう……俺の持つ能力を活かせる職業は、盗賊や暗殺者……。

断罪ルートを回避して、誰にも頼らず関わらず、自立した生活が送れるようになりたかったのに。
めざすジョブ、犯罪者って。
まぁ、氷魔法も使えるから、冷凍運送業者とかも良いんじゃないかと思ったけど。
この世界の交通手段は、基本馬。俺…お馬さん乗るの苦手なんだよねぇ。

「シエル、シエル…聞いているのか?」

物思いに耽っていたら、お兄ちゃんがうるさい。

「サイラス兄様。僕ももう13です。
兄様が13の時には、もう武術訓練所で武芸を磨いていたでしょう?

僕は兄様に比べたらひ弱に見えるかも知れませんが、魔法学舎の年少組では首席なんです。
兄様に守っていただかなくても、僕は十分強いんです」

ふんす、と鼻息荒くサイラスお兄ちゃんを睨むと、何故か頬を赤らめたお兄ちゃんが、

「シエルはこんなに可愛いんだぞ…一人で街に出すなんて、危険だろう…」

何かブツブツ言ってて気持ち悪い。

「サイラス兄様こそ、毎日いろんな殿方やお嬢様方から、たくさんお誘いを受けていらっしゃるでしょう。
年少の僕のことなど放っておいて、同世代の方と交流されたらよろしいのでは?」

心もち顎を上げ、何でもないふうに言ってみる。
俺なんかに構わず、存分に移り気目移りなさって下さい。
断罪する程ヘイトを溜め込む前に、青春と自由恋愛を満喫して下さいよ~

「シエル…それはまさか、やきもちか…?」

違います!うれしそうにすんな!

   ◇◇◇

そういえば、転生を悟ったばかりの俺は、うっすらと転生前の自分のことを憶えていた。

どこにでもいる平凡な学生で、町の本屋でアルバイトをしてた。
読書が好きで、ジャンルを問わず気になった本は手に取る派。
彼女はいなかったと思う。残念ながら。

だけど自分の顔や名前、家族構成は何故か思い出せない。
転生したからには前の世界で死を迎えたはずだけど、どんなタイミングでどんなふうに死んだのかも憶えていない。

どちらの世界のことも、あらすじは理解していても詳細はわからないんだ。

まるで夢で見た世界のようだ。
目が醒めれば、鮮明だった記憶はどんどん曖昧になっていく。
つかもうと握りしめても、指の間をこぼれていく砂みたいに。

どちらの世界が、俺にとっての夢なのだろう?

   ◇◇◇

「おかえり、シエル。今日はサイラス様と一緒じゃなかったのか」

帰宅すると珍しく母様がいた。時を止めたように変わらない、冴え冴えとした美貌の青年だ。
白皙を縁取るのはゆるく波打つ暗い銀髪。色素の薄い睫毛は長く、菫色の瞳に重たげにかぶさっている。
俺はそんな母様を縮小コピーしたような外見だ。

母様は、アインシュテルン家の後妻だ。
ぽやんとした白髪混じりのアインシュテルン当主…父様は、前妻である奥様と死別してから、長らく独り身だった。
ものすごい愛妻家だったので、前の奥様との間に子はなくとも、新しい妻を迎える気になれなかったという。
そんな折、若くして俺を産んだ?けど、父親の名を誰にも明かさず、実家から勘当された身で俺を育てていた母様と出会った。

貴方に妻としての役割は求めない。母子ともに生活は保障する。その代わり、子を当家の跡取りとして養子に貰い受けたい。
そんな提案を受け、母様はアインシュテルン家に嫁いだらしい。

俺が母様にしか似ていないのは、そんな理由。
血の繋がらない父様は、温和で愛情深い人だ。養子の俺のことも我が子というより、孫のように可愛がってくれている。
冷静沈着、言い換えればクールな性格の母様とは正反対な人だけど、相性は悪くないのか、家内は波風なく穏やかだ。
アインシュテルン家の使用人さんも、当主の人柄を慕う善良な人たちで、俺たち母子にも良くしてくれている。

母様は、世間が自分のことを何と言おうが全く動じない。
ただし俺のことを悪く言う者には、顔色一つ変えずに社会的制裁を加える。それはもう、完膚なきまでに。

「お前はアインシュテルン次期当主。お前を貶めるのはアインシュテルンを貶めることと同義だ。経緯はどうあれ私も当主の妻。そのようなことを許してはおけん」

母様は、本当にクールで格好いい。
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