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過保護な乗馬訓練
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お馬さんの眼は可愛い。
お馬さんの毛はツヤツヤのすべすべ。
お馬さんは賢いし格好良いし、俺はお馬さんが大好きだ。
「こんなに好きなのに、どうして僕らは前に進めないのかな…」
お馬さんは俺を乗せても、何故か一歩たりとも進んでくれない。
合図をしても声をかけても、完璧にスルーされる。
どうして。子供用の木馬だってもうちょっと動いてくれるのに。
「シエル、誰のことを言っている。私に黙ってどこぞの馬の骨と付き合っているのか?」
馬の骨とか失礼な。この無駄のない筋肉に覆われたお馬さんの躰を見なさいよ。
俺は優雅に草を食むお馬さんを眺め、考える。
「上に乗るときの体位が問題かな…」
「えっ」
鞍によじ登っても、すぐに滑り落ちちゃうんだよね。
あとは…
「体がかたくて、足があまり開かないのもいけないかも」
「な、何を…っ」
「お腹に力を入れないと、激しい揺れに耐えられないし…
しっかりしがみついてないと、どこかに飛んでっちゃいそうになるし…」
本当はきちんと背筋をのばして、体幹をまっすぐにしないといけないらしいけど。
馬上で体が揺れると、どうしても怖くて丸まっちゃう。
筋力が足りないせいかなぁ。運動苦手だけど、訓練所で筋トレとかしたら違うかなぁ。
「サイラス兄様は、お上手ですか?」
お馬さんに乗るの。
馬場にまでついてきたサイラスお兄ちゃんに尋ねたら、何やら涙目になって震えている。
あと異様な発汗と顔面紅潮…
「顔が真っ赤ですよ!まさか流行り病では!?」
インフルエンザとかこの世界にあるの!?
「は、破廉恥な…」
ハレンチナ? 聞いたことない病名だ。
俺はあわててお医者様を呼びに行った。あわて過ぎてうっかり獣医さんを連れてきてしまったのは、ご愛嬌。
◇◇◇
お馬さんに乗れないことを渋々打ち明けたところ、サイラスお兄ちゃんが乗馬を教えてくれることになった。
俺の自立した人生計画には、乗馬スキルは欠かせない。
けど、俺の断罪回避計画においては、サイラスお兄ちゃんと馴れ合うのは本意でないというか…
「シエル、難しく考えなくても良い。要は慣れだ」
馴れちゃダメなんですけども。
どっちにしろサイラス君は俺が乗馬練習するのにも、「危ないから一人では駄目だ」と引っ付いてくるので、直接指導してもらったところで大差は無いか。
俺は諦めて過保護オカン…もといお兄ちゃんに従った。
「まずは、二人乗りで感覚をつかむところから始めるか」
サイラスお兄ちゃんは、俺の腰をひょいと持ち上げてお馬さんに座らせた。
気がついたら鞍に跨っていて、怖いとか落ちるとか思う暇もない。
目を丸くしていると、わずかに鞍が沈んだ感覚。
俺の後ろにいとも軽やかにサイラスお兄ちゃんが乗っていた。
「よし。では体の力を出来るだけ抜いて、馬の横腹に脚を沿わせてごらん」
体の両側からホールドするように伸びた腕が、俺のお腹の前で馬の手綱を引いている。すっぽり囲われて、横にずり落ちそうな不安感がない。
背中もぽかぽか温かくて、多少寄りかかってもびくともしない。この安心感。これはアレだ…
「チャイルドシートだ…」
「ん?」
チャイルドシートならぬサイラスシート。いつも鞍にセットして乗れたら快適なのになぁ。
俺は言われた通りに太腿から足先までを、温かいお馬さんの横腹にくっつけた。
2人もお邪魔してごめんなさいね、重たいよね。
「背筋を伸ばして、腰から重心をまっすぐに。肩の力は抜いて…力まなくていい。
馬のたてがみと自分の体の中心が重なるように…そうだ。そしたら前を向いて」
サイラスお兄ちゃんの声が、ぴったりくっついた背中にかすかな振動となって伝わる。
転生前も転生後も、こんな距離で誰かと密着することってなかったから、気恥ずかしいようなこそばゆいような、変な感じだ。
「シエル…あまりもぞもぞするな。落ちそうで不安なら、私にもたれても良いから」
15歳なのにお兄ちゃんのこのスパダリ感よ…
あと、お馬さんの横腹に並んだ2人の足の長さの違いに、地味に傷ついている。13歳の俺の成長はこれからなんだからねっ。
「シエルは細いし…軽すぎる…羽根でも生えているのかと思うくらいだ。馬に乗っても、感知されないのではないか?」
なんか血迷ったことを言い出した。せっかくスパダリの素地があるのに、残念な子。
「兄様、前に進みたい時にはどうすれば良いんですか」
さっさとコツを伝授してもらおうと、俺は後ろを振り仰いだ。
すると、ちょうど俺のつむじを見下ろしていたサイラスお兄ちゃんの顔が、至近距離に。
「わっ…」
どちらともなく小さな叫びとともに身を離し、
「!!!」
運動神経マイナス値の俺は、ぐらりと大きくバランスを崩した。
◇◇◇
「シエル!」
サイラスの焦った声が聞こえた。
こめかみと背中に一瞬で冷や汗が噴き出す。
体の反応とは逆に、すべての動きがスローモーションのように感じられる中、俺は以前落下する花瓶にかけた魔法を思い出した。
《──闇よ、束の間の刻を縫い留めよ》
馬上から落ちていく自分に向けて、そんな呪文を唱えたと思う。
焦ってたから、ちょっと噛んじゃったけど。
「やみおつかのまのつきにとどめよっ」
なんか違くね?
自分に突っ込んだ瞬間、俺の体は真っ暗な闇に包み込まれた。
お馬さんの毛はツヤツヤのすべすべ。
お馬さんは賢いし格好良いし、俺はお馬さんが大好きだ。
「こんなに好きなのに、どうして僕らは前に進めないのかな…」
お馬さんは俺を乗せても、何故か一歩たりとも進んでくれない。
合図をしても声をかけても、完璧にスルーされる。
どうして。子供用の木馬だってもうちょっと動いてくれるのに。
「シエル、誰のことを言っている。私に黙ってどこぞの馬の骨と付き合っているのか?」
馬の骨とか失礼な。この無駄のない筋肉に覆われたお馬さんの躰を見なさいよ。
俺は優雅に草を食むお馬さんを眺め、考える。
「上に乗るときの体位が問題かな…」
「えっ」
鞍によじ登っても、すぐに滑り落ちちゃうんだよね。
あとは…
「体がかたくて、足があまり開かないのもいけないかも」
「な、何を…っ」
「お腹に力を入れないと、激しい揺れに耐えられないし…
しっかりしがみついてないと、どこかに飛んでっちゃいそうになるし…」
本当はきちんと背筋をのばして、体幹をまっすぐにしないといけないらしいけど。
馬上で体が揺れると、どうしても怖くて丸まっちゃう。
筋力が足りないせいかなぁ。運動苦手だけど、訓練所で筋トレとかしたら違うかなぁ。
「サイラス兄様は、お上手ですか?」
お馬さんに乗るの。
馬場にまでついてきたサイラスお兄ちゃんに尋ねたら、何やら涙目になって震えている。
あと異様な発汗と顔面紅潮…
「顔が真っ赤ですよ!まさか流行り病では!?」
インフルエンザとかこの世界にあるの!?
「は、破廉恥な…」
ハレンチナ? 聞いたことない病名だ。
俺はあわててお医者様を呼びに行った。あわて過ぎてうっかり獣医さんを連れてきてしまったのは、ご愛嬌。
◇◇◇
お馬さんに乗れないことを渋々打ち明けたところ、サイラスお兄ちゃんが乗馬を教えてくれることになった。
俺の自立した人生計画には、乗馬スキルは欠かせない。
けど、俺の断罪回避計画においては、サイラスお兄ちゃんと馴れ合うのは本意でないというか…
「シエル、難しく考えなくても良い。要は慣れだ」
馴れちゃダメなんですけども。
どっちにしろサイラス君は俺が乗馬練習するのにも、「危ないから一人では駄目だ」と引っ付いてくるので、直接指導してもらったところで大差は無いか。
俺は諦めて過保護オカン…もといお兄ちゃんに従った。
「まずは、二人乗りで感覚をつかむところから始めるか」
サイラスお兄ちゃんは、俺の腰をひょいと持ち上げてお馬さんに座らせた。
気がついたら鞍に跨っていて、怖いとか落ちるとか思う暇もない。
目を丸くしていると、わずかに鞍が沈んだ感覚。
俺の後ろにいとも軽やかにサイラスお兄ちゃんが乗っていた。
「よし。では体の力を出来るだけ抜いて、馬の横腹に脚を沿わせてごらん」
体の両側からホールドするように伸びた腕が、俺のお腹の前で馬の手綱を引いている。すっぽり囲われて、横にずり落ちそうな不安感がない。
背中もぽかぽか温かくて、多少寄りかかってもびくともしない。この安心感。これはアレだ…
「チャイルドシートだ…」
「ん?」
チャイルドシートならぬサイラスシート。いつも鞍にセットして乗れたら快適なのになぁ。
俺は言われた通りに太腿から足先までを、温かいお馬さんの横腹にくっつけた。
2人もお邪魔してごめんなさいね、重たいよね。
「背筋を伸ばして、腰から重心をまっすぐに。肩の力は抜いて…力まなくていい。
馬のたてがみと自分の体の中心が重なるように…そうだ。そしたら前を向いて」
サイラスお兄ちゃんの声が、ぴったりくっついた背中にかすかな振動となって伝わる。
転生前も転生後も、こんな距離で誰かと密着することってなかったから、気恥ずかしいようなこそばゆいような、変な感じだ。
「シエル…あまりもぞもぞするな。落ちそうで不安なら、私にもたれても良いから」
15歳なのにお兄ちゃんのこのスパダリ感よ…
あと、お馬さんの横腹に並んだ2人の足の長さの違いに、地味に傷ついている。13歳の俺の成長はこれからなんだからねっ。
「シエルは細いし…軽すぎる…羽根でも生えているのかと思うくらいだ。馬に乗っても、感知されないのではないか?」
なんか血迷ったことを言い出した。せっかくスパダリの素地があるのに、残念な子。
「兄様、前に進みたい時にはどうすれば良いんですか」
さっさとコツを伝授してもらおうと、俺は後ろを振り仰いだ。
すると、ちょうど俺のつむじを見下ろしていたサイラスお兄ちゃんの顔が、至近距離に。
「わっ…」
どちらともなく小さな叫びとともに身を離し、
「!!!」
運動神経マイナス値の俺は、ぐらりと大きくバランスを崩した。
◇◇◇
「シエル!」
サイラスの焦った声が聞こえた。
こめかみと背中に一瞬で冷や汗が噴き出す。
体の反応とは逆に、すべての動きがスローモーションのように感じられる中、俺は以前落下する花瓶にかけた魔法を思い出した。
《──闇よ、束の間の刻を縫い留めよ》
馬上から落ちていく自分に向けて、そんな呪文を唱えたと思う。
焦ってたから、ちょっと噛んじゃったけど。
「やみおつかのまのつきにとどめよっ」
なんか違くね?
自分に突っ込んだ瞬間、俺の体は真っ暗な闇に包み込まれた。
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