アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ

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幕間 一

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「陛下! 此度のこと、どうかご説明願いたい!」

 エーランド王国。第一王子ウィンスは、現れるやいなや玉座に向けて怒声を放った。
 広大な玉座の間を揺るがした声に、控える官僚や兵士らがにわかに緊迫する。実の息子といえど、一国の王に対し怒号を鳴らす行為はあまりにも不敬であった。

「ロードルシアごときに降伏するなど、我がエーランド始まって以来の恥辱ではありませんか!」

 齢十六にして将軍職に名を連ねるウィンスは、侵略者であるロードルシア帝国に対し徹底抗戦の構えであった。しかし王はそれをよしとせず、抗戦派を制して降服への道を選んだ。故郷を守ると息巻く血気盛んな若者達にとって、到底納得できる選択ではない。

「あなたには、祖国への愛も、民を守る君主としての自覚もないか!」

 激昂するウィンスの言葉は、玉座の間に堂々と響き渡る。王と王子の対峙は、老獪な宰相でさえも慄かせた。
 立派な髭を蓄えた老王がその深い瞳を開き、息子の鎧姿を捉える。

「戦ってどうする」

 玉座の間の隅々にまで強く届く、威厳を湛えた分厚い声。

「無念ではあるが、我がエーランドの力では帝国を退けることはできぬ」

 盟友アルシーラをはじめとする近隣諸国は侵略に対し抵抗を続けているが、戦況は悪化の一途を辿っている。王都陥落は時間の問題だ。
 そしてそれは、ここエーランドも同様だった。

「これ以上の抵抗は価値的ではない。いたずらに兵を殺すだけだ」

「帝国の武力に屈すると? 馬鹿な! そもそも我々エーランドの精兵が、帝国の有象無象に後れを取るはずはない! 王は我ら将兵を信用なされぬと仰るか」

「そうではない。無意味な流血は不要と言っているのだ」

「故郷を守るために流す血が、どうして無意味か!」

 ウィンスは背に多くの兵を従えていた。彼らは将軍ウィンスの同志、即ち、国の為に死を覚悟した男達である。

「ご存じか陛下。南方のアシュテネは、十万に迫る帝国軍を撃ち破ったそうです。ろくな歴史もない新興国のアシュテネがです! 彼らにできて、我らにできぬはずはない!」

 エーランド王は長く深い息を吐く。そうして、静かに立ち上がった。

「お前はまだ若い。帝国の底が見えておらぬ。たかが十万ごとき、彼奴らにとっては微塵に過ぎぬ。十万を退ければ次は二十万の兵が攻めてくる。それを退けてもまた次が。それが帝国ロードルシアなのだ」

「なれば、祖国が飲み込まれるのを指をくわえて見ていろと?」

「民を戦火に巻き込むことは許されぬ。民の平和が乱れぬのであれば、それでよいではないか。我らケイルレスの一族が、この地の統治者ではなくなるだけのこと」

 ウィンスは歯を軋ませた。我が父親ながら、憎らしいほどに情けない。
 帝国の連中が、侵略した土地の者達を慮るはずはない。属州となった故郷は蹂躙され搾取され、民は飢えと渇きに喘ぐだろう。過去に侵略された国々には、奴隷の身分に落ちた女子供も多いと聞く。守るべき自国の民がかような目に遭うのを、黙って見ていることなどできない。
 王家の血を引く男としての矜持、使命感が、ウィンスに腰の剣を抜かせた。

「父上。あなたは逃げているだけだ。臆病風に吹かれ、王の責務を放棄した軟弱者め!」

 絢爛たる剣の切っ先が、エーランド王に向けられる。

「貴様はもう王ではない! このウィンス・ケイルレスが、その玉座もらい受ける!」

 ウィンスの嘶きと共に、彼に追従する兵士らが揃って抜剣した。
 官僚達は恐れ慄き、王の親衛隊は動揺の中で主君を守るべく戦闘態勢を取った。
 厳たる表情を崩さないエーランド王は、蓄えた髭を弄り、ついた杖で床を叩く。

「愚か者めが。剣を抜く機すらわからぬか」

 杖が叩いた部分を中心に、茜色の光が膨れ上がる。靄のようにも見えるそれは、魔力の奔流だった。敵を殲滅する攻性魔法の発現である。

「各自奮闘せよ! アイギスは我らを見守っている! 王の仮面を被った売国奴より、祖国を取り戻すぞ!」

 ウィンスの叱咤が玉座の間に波及する。兵達の猛々しい応えが、彼らの士気の高さを如実に表していた。

 帝国歴四十五年。四月。
 帝国からの使者訪問を直前に控えて、エーランドの玉座に骨肉の争いが訪れたのである。
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