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魔獣コヴァルド 1/3
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順調な行程で二日が過ぎ、オーブル領との境が近付いてきたあたり。車内からセスを呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様のご気分が優れないようです」
セスが車内に入ると、シルキィはティアの膝枕で座席に横たわっていた。
「なんだ、酔ったのか?」
シルキィは苦しそうに唸る。
「この辺は特に道が古いからな。無理もない」
森を切り開いて作られた石畳の道には、むらのある轍が続いていた。大型の車輪でも車両の揺れはかなりのものだ。道の両脇には鬱蒼とした森が広がっており、景色も悪い。
シルキィの傍らには学院の教科書が置かれていた。揺られながら読んでいたのだろう。
セスは御者席から馬を操り、路肩に馬車を停める。
「少し休もう。外の空気を吸うといい」
シルキィはティアに支えられ、覚束ない足取りで馬車を降りる。顔色はすこぶる悪かった。
「うぅ……」
「お嬢様。失礼いたします」
ティアに背中をさすられながら、シルキィは何度か深呼吸をする。しばらく木陰で幹に寄りかかったまま苦悶の声を漏らしていた。
「揺れが大きいところじゃ、読書は控えた方がいい」
「うるさいわね。ほっといてよ」
悪態にも覇気がない。
「楽になるまで休んでいこう。それくらいの余裕は――」
ある、と続けようとしたその時。森の中から甲高い咆哮が轟いた。
ティアがぽかんとして声の方を見る。
「なんですか。鳴き声?」
「ティア! お嬢を中へ!」
セスの表情が引き締まり、声は張り詰めた響きに変わっていた。
「お嬢様、こちらへ」
セスの叱咤で我に返ったティアは、シルキィを引っ張って馬車に駆け込む。
「え、ちょっと……! 何事?」
「出すぞ!」
セスは素早く御者席に飛び乗ると、魔導馬の手綱を握った。路肩から道路に戻り速力をつける。
「ねぇどういうことよ! 休んでいくんじゃなかったの! どうしていきなり」
「コヴァルドだ! のんびりしてたら喰われるぞ!」
目だけで驚いたのはティアだった。
「コヴァルド? あれは北方の山岳地帯に生息する魔獣です。オーブルの森の中にいるはずは」
彼女の言う通り、本来ならこの地方にいるはずのない魔獣だ。多くの場合、数匹の群で活動し、魔獣の中では比較的温厚な種であるのだが。
「あの鳴き方は、随分と腹を空かせてる」
ひとたび空腹に陥ったコヴァルドは、人間の運ぶ食料や家畜、また人そのものを腹に収めるために旅人を襲う害獣となる。俊敏かつ強靭。専門の訓練を積んだ兵士が数十人がかりでやっと討伐できるほどの脅威なのだ。
御者席から身を乗り出して後方を窺えば、コヴァルドが土煙を伴って森から路上へ躍り出ていた。くすんだ茶色の体毛に覆われた馬車三台分はあろう巨躯。盛り上がった四本の脚。顔面はオオカミのようにも山羊のようにも見える。涎を垂らす大きな口には歪んで並ぶ鋭い牙が覗いていた。
「お嬢様のご気分が優れないようです」
セスが車内に入ると、シルキィはティアの膝枕で座席に横たわっていた。
「なんだ、酔ったのか?」
シルキィは苦しそうに唸る。
「この辺は特に道が古いからな。無理もない」
森を切り開いて作られた石畳の道には、むらのある轍が続いていた。大型の車輪でも車両の揺れはかなりのものだ。道の両脇には鬱蒼とした森が広がっており、景色も悪い。
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セスは御者席から馬を操り、路肩に馬車を停める。
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「うぅ……」
「お嬢様。失礼いたします」
ティアに背中をさすられながら、シルキィは何度か深呼吸をする。しばらく木陰で幹に寄りかかったまま苦悶の声を漏らしていた。
「揺れが大きいところじゃ、読書は控えた方がいい」
「うるさいわね。ほっといてよ」
悪態にも覇気がない。
「楽になるまで休んでいこう。それくらいの余裕は――」
ある、と続けようとしたその時。森の中から甲高い咆哮が轟いた。
ティアがぽかんとして声の方を見る。
「なんですか。鳴き声?」
「ティア! お嬢を中へ!」
セスの表情が引き締まり、声は張り詰めた響きに変わっていた。
「お嬢様、こちらへ」
セスの叱咤で我に返ったティアは、シルキィを引っ張って馬車に駆け込む。
「え、ちょっと……! 何事?」
「出すぞ!」
セスは素早く御者席に飛び乗ると、魔導馬の手綱を握った。路肩から道路に戻り速力をつける。
「ねぇどういうことよ! 休んでいくんじゃなかったの! どうしていきなり」
「コヴァルドだ! のんびりしてたら喰われるぞ!」
目だけで驚いたのはティアだった。
「コヴァルド? あれは北方の山岳地帯に生息する魔獣です。オーブルの森の中にいるはずは」
彼女の言う通り、本来ならこの地方にいるはずのない魔獣だ。多くの場合、数匹の群で活動し、魔獣の中では比較的温厚な種であるのだが。
「あの鳴き方は、随分と腹を空かせてる」
ひとたび空腹に陥ったコヴァルドは、人間の運ぶ食料や家畜、また人そのものを腹に収めるために旅人を襲う害獣となる。俊敏かつ強靭。専門の訓練を積んだ兵士が数十人がかりでやっと討伐できるほどの脅威なのだ。
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