アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ

文字の大きさ
20 / 74

オーブル領エルンダ 2/2

しおりを挟む
「それにしても、今日のエルンダは様子がおかしいな」

 オーブル領の主都エルンダは商人と旅人の街。南北を深い森に挟まれた広大な平原のちょうど真ん中に位置している。いくつかの街道が交差する商業都市であり、多くの人や物、情報の中継地点でもあった。都市の中央広場に設けられた市場は活気に溢れており、老若男女で賑わっている。

 街に入って気付いたのは、衛兵の数が異様に多いということだ。何度も訪れた街だが、ここまでの厳重な警備体制は記憶にない。都市公認の警備章をつけた同業者の姿も少なからずある。警備の数はいつもの三倍か、それ以上。治安が悪化していることを考慮しても尋常ではなかった。

「確かに、衛兵が目につきますね。催し物でもあるのでしょうか」

 部屋の窓から通りを見下ろすティアが、独り言のようにそんなことを言った。

「どうかな。めでたい理由なら、あんなピリピリしてないだろうし」

 一見明るく賑やかな街並み。だが、よくよく観察してみれば露店の商人達がそれぞれ警戒の念を抱いているように見えた。不穏な影を感じるのは気のせいではないだろう。

 シルキィはいつの間にか寝息を立てていた。普段の刺々しい表情からは考えられないくらいあどけない寝顔だ。

「セス様は」

 呼ばれて、ティアに視線を戻す。

「なぜお嬢様の依頼を受けて下さったのです? 私が申し上げるのもおかしな話ではありますが、労功の釣り合いが取れていないのでは」

「そうは言っても、アルゴノートってやつは掃いて捨てるほどいるからね。しがないC級じゃ、その日の依頼にありつけるのも珍しい。お嬢には感謝してるくらいさ」

 需要と供給を鑑みるに、アルゴノート市場においては雇用者の立場が一方的に強い。階級の低いアルゴノートにとってはそれが特に顕著であり、たとえ相手が貴族でなくとも媚び諂いへりくだることがしばしばある。要するに、仕事を選べる立場ではないのだ。
 ティアの黒い瞳がセスを見つめていた。凛とした美貌にわかりやすい表情はない。なんとなく後ろめたくなって、セスは壁の燭台に目を移した。

「苦労をされているのですね。アルゴノートの方々は」

 背負うものがなく、自由気ままに生きられるアルゴノート。反面、社会の庇護を享けられず、その身に起こるすべてが自己責任だとみなされる。
 それを苦労ととるかどうかは、個人の主観によるだろう。
 少なくともセスは、今の暮らしを苦痛だと思ったことはない。

「気楽なもんだよ」

 沈黙の訪れた部屋には、シルキィの小さな寝息だけが聞こえていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...