33 / 74
浴場と剣闘の都市ダプア 2/3
しおりを挟む
「久しいですねアーリマン。音沙汰がないもので、旦那様もお気にしておられました」
責めるような口調のティアに、アーリマンは愛想笑いで応える。
「いや、申し訳ない。ここ数年は多忙だったもので。つい連絡を怠ってしまった。トゥジクス様には多大なご恩があるというのに」
「そう思うならば、私用を排してでも顔を出すべきでは?」
「仕事が一段落したらそうするよ。しかしティア。キミは相変わらずだな」
平時はあまり無表情を崩さないティアが、静かな怒りを露わにしていた。それだけでもセスにとっては珍しいのに、アーリマンはそれを指して相変わらずだと言う。
「暇を出されたといっても、あなたはラ・シエラに仕えた使用人です。少しは自覚を持って下さい」
「はは、これは手厳しい」
「まあいいじゃない。ここで会ったのも何かの縁なんだし、せっかくの再会を喜びましょう」
シルキィの声は弾んでいた。彼女の記憶にあるアーリマンは、優しく穏やかな兄のような存在であった。
「それにしても雰囲気が変わったわね。言われるまで全然わからなかったわ。背も髪も伸びて、なんだか大人みたい」
「私も二十四になりましたから、もう大の大人ですよ。そう仰るシルキィ様こそ、ご立派に成長されているではありませんか。見違えるほど美しくなられましたな」
「そうかしら?」
澄ましてはいるものの、シルキィは満更でもなさそうだ。セスにはちょっとおもしろくない。
「仕事が忙しいって。あなた、今は何をしているの?」
「ここ一年はダプアに留まっています。剣闘というものに関わっておりまして」
「剣闘?」
その単語を聞いて、シルキィは目を輝かせた。レイヴンズストーリー愛読者のご多分に漏れず、彼女もその手の話に興味津々であった。
「剣闘士レイヴンの名にあやかってこの街を発展させようと、無い知恵を絞っているのです。この大通りをご覧になるだけでも、我々の努力が見て取れるでしょう?」
剣闘士レイヴン誕生の地。演劇レイヴンズストーリー。レイヴンまんじゅう。レイヴン人形。そこかしこにレイヴンの文字が綴られたのぼりや看板が挙げられている。右も左もレイヴン一色。そこかしこに商店ばかりが並び、活気に満ちていた。
「すごいじゃない。ね、ティア」
「はい。陽気で華やかだと思います。サンルーシャとはまた違った趣がありますね」
ティアはアーリマンの功績を賛美することに些か抵抗があるようだったが、そんなことはどこ吹く風、アーリマンは自信ありげに頷く。
「十日後には盛大な祭りが開催されますよ。是非シルキィ様にご覧頂きたいものですが」
「十日かぁ。さすがにそんなに長くは滞在できないわ。新学期が始まっちゃう」
「おや、それは残念。では、もし剣闘に興味がおありなら、いかがでしょう? 私が経営する闘技場にご招待差し上げます。もちろんお連れの方もご一緒に」
アーリマンは人受けのよさそうな笑顔をセスに向けた。
それに対しセスは、胡乱なものを見る眼差しで応える。
「あんた、お嬢に剣闘を見せるつもりか。感心しないな」
「ふむ。いや、これは失礼。確かにシルキィ様には少し刺激が強すぎるかもしれませんね」
「なに? どういうこと?」
小鳥のように首を傾げるシルキィに対して、セスは通りに並ぶ店舗群を指した。
責めるような口調のティアに、アーリマンは愛想笑いで応える。
「いや、申し訳ない。ここ数年は多忙だったもので。つい連絡を怠ってしまった。トゥジクス様には多大なご恩があるというのに」
「そう思うならば、私用を排してでも顔を出すべきでは?」
「仕事が一段落したらそうするよ。しかしティア。キミは相変わらずだな」
平時はあまり無表情を崩さないティアが、静かな怒りを露わにしていた。それだけでもセスにとっては珍しいのに、アーリマンはそれを指して相変わらずだと言う。
「暇を出されたといっても、あなたはラ・シエラに仕えた使用人です。少しは自覚を持って下さい」
「はは、これは手厳しい」
「まあいいじゃない。ここで会ったのも何かの縁なんだし、せっかくの再会を喜びましょう」
シルキィの声は弾んでいた。彼女の記憶にあるアーリマンは、優しく穏やかな兄のような存在であった。
「それにしても雰囲気が変わったわね。言われるまで全然わからなかったわ。背も髪も伸びて、なんだか大人みたい」
「私も二十四になりましたから、もう大の大人ですよ。そう仰るシルキィ様こそ、ご立派に成長されているではありませんか。見違えるほど美しくなられましたな」
「そうかしら?」
澄ましてはいるものの、シルキィは満更でもなさそうだ。セスにはちょっとおもしろくない。
「仕事が忙しいって。あなた、今は何をしているの?」
「ここ一年はダプアに留まっています。剣闘というものに関わっておりまして」
「剣闘?」
その単語を聞いて、シルキィは目を輝かせた。レイヴンズストーリー愛読者のご多分に漏れず、彼女もその手の話に興味津々であった。
「剣闘士レイヴンの名にあやかってこの街を発展させようと、無い知恵を絞っているのです。この大通りをご覧になるだけでも、我々の努力が見て取れるでしょう?」
剣闘士レイヴン誕生の地。演劇レイヴンズストーリー。レイヴンまんじゅう。レイヴン人形。そこかしこにレイヴンの文字が綴られたのぼりや看板が挙げられている。右も左もレイヴン一色。そこかしこに商店ばかりが並び、活気に満ちていた。
「すごいじゃない。ね、ティア」
「はい。陽気で華やかだと思います。サンルーシャとはまた違った趣がありますね」
ティアはアーリマンの功績を賛美することに些か抵抗があるようだったが、そんなことはどこ吹く風、アーリマンは自信ありげに頷く。
「十日後には盛大な祭りが開催されますよ。是非シルキィ様にご覧頂きたいものですが」
「十日かぁ。さすがにそんなに長くは滞在できないわ。新学期が始まっちゃう」
「おや、それは残念。では、もし剣闘に興味がおありなら、いかがでしょう? 私が経営する闘技場にご招待差し上げます。もちろんお連れの方もご一緒に」
アーリマンは人受けのよさそうな笑顔をセスに向けた。
それに対しセスは、胡乱なものを見る眼差しで応える。
「あんた、お嬢に剣闘を見せるつもりか。感心しないな」
「ふむ。いや、これは失礼。確かにシルキィ様には少し刺激が強すぎるかもしれませんね」
「なに? どういうこと?」
小鳥のように首を傾げるシルキィに対して、セスは通りに並ぶ店舗群を指した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる