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変化する間柄
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今回の事件はその日のうちに学院中に広まった。
祭事塔のダンジョン化から始まった、危険指定種のアウトブレイク。先日から立て続けに起こった襲撃事件に、学院中に震撼が走っていた。
なにより下手人がソルであるという事実が大きかった。
「魔王を打倒せんと己を練磨する学院生が、あろうことか魔王の手先となり、学び舎に牙を剥くとはな」
苦々しく口にしたのは、自室の椅子で脚を組むフォルス教官だった。
雨天の深夜。学院への報告やソルの連行などを終え、やっと寝られるというところになって、俺は彼女の部屋に招かれていた。
とりあえず、教官に出してもらった紅茶を口にする。
「すまんなマイヴェッター。疲れているところ、急に呼び出してしまって」
「とんでもありません。フォルス教官こそ、お顔に疲労が滲んでいますよ」
「む。そうか?」
ぺたぺたと顔を触る教官。彼女も俺と同じく、今日の事件でさまざま奔走しただろう。
「ソルの件、それとクレイン達のことですね?」
「察しがよくて助かる。私も探ってはみたが、尻尾を掴めなくてな」
「今回の件はソルの独断ではなく、クレイン達も関与していると?」
「そう考えるなという方が難しいだろう。パーティメンバーはただのチームメイトではない。運命共同体といってもいい存在だ」
教官は何度も息を吹きかけてから、紅茶に口をつける。
「となると、俺にも疑惑があるってことですかね」
「当然だ」
冗談交じりに言ったものの、切れ味鋭い答えが返ってきて些か面食らってしまう。
俺の射貫く深紅の眼光は、紛れもない本心を物語っていた。
「私個人としてはお前を疑ってはいない。リーベルデ様が拾い上げになった神聖騎士でもある。お前を疑うことはリーベルデ様を疑うのと同義だからな。ただ、私情や聖女の威光を理由に被疑者から除外するほど愚かでもないつもりだ」
流石はフォルス教官。まっとうな考えをしてらっしゃる。
「ここにはお前の本心を聞きたくて呼んだのだ。隣にリーベルデ様がおられては気が気でないだろう」
「まぁ」
相手が教官でも気を遣うのは一緒なんだけどな。
とはいえこう言うからには、教官には気を遣うなということなのだろう。
「どうだマイヴェッター。今回の事件、お前の自作自演ではないな?」
「まさか」
「事前にグートマンの動向を知っていて、野放しにしていたりは」
「女神ダーナの名に誓って、ありえません」
「わかった。その言葉を信じよう」
教官は男前な微笑みを浮かべて、小さく頷いた。
自分で言うのも何だが、簡単に信じすぎではないだろうか。普段の行いが良いおかげかもしれない。
「なんだ。意外か?」
どうやら顔に出ていたようだ。
「俺ってそこまで信用されていたのかと」
「少なくとも、私を裏切る度胸はないだろう?」
思わず笑ってしまった。
「間違いないですね」
教官はしたり顔である。
「実はなマイヴェッター。私は人の心が読めるんだ」
この人はいきなり何を言い出すのだろう。
「間抜けな顔をするな。スキルの話だ」
「スキルで人の心が読めるんですか?」
「ごく限定的な範囲でだがな」
「つまり教官は今、俺の心を読んだと」
スキルがあるとはいえ、そんなことが可能なのだろうか。
ほんの少し気まずそうに、教官はカップを傾ける。
「気を悪くしたか?」
「そういうわけでは……」
「いい。私も同じことをされれば腹が立つさ」
本当に何とも思っていないんだけどな。
「私のスキル『トゥルーターム』は、口にした言葉や書いた文字の真実を判別する能力だ」
「嘘を見抜けるってことですか?」
「うむ。しかしこのスキルには制約があってな。嘘を見抜く相手と……なんというか、お互いのことをそれなりに知っておかなければならないんだ」
「それなら、ソルやクレインにも使えるんじゃ」
「いや、ただ知っているだけでは不十分でな。その、なんだ……有体に言えば、信頼関係がないとだめでな」
信頼関係とな。
ああ、なるほど。
「おい……なにをニヤニヤしている」
「いいえ。教官が俺のことをそこまで想ってくれていたのが嬉しいだけです」
「私だけではないぞ。お前だって私のことをそう思っているということだからな」
「もちろんですとも」
頬を染めて顔を背けるフォルス教官。
なんというか。俺はこの人の厳しいところばかり知っているから、余計に思うところがある。
フォルス教官は、非常にかわいらしい女性だということだ。
祭事塔のダンジョン化から始まった、危険指定種のアウトブレイク。先日から立て続けに起こった襲撃事件に、学院中に震撼が走っていた。
なにより下手人がソルであるという事実が大きかった。
「魔王を打倒せんと己を練磨する学院生が、あろうことか魔王の手先となり、学び舎に牙を剥くとはな」
苦々しく口にしたのは、自室の椅子で脚を組むフォルス教官だった。
雨天の深夜。学院への報告やソルの連行などを終え、やっと寝られるというところになって、俺は彼女の部屋に招かれていた。
とりあえず、教官に出してもらった紅茶を口にする。
「すまんなマイヴェッター。疲れているところ、急に呼び出してしまって」
「とんでもありません。フォルス教官こそ、お顔に疲労が滲んでいますよ」
「む。そうか?」
ぺたぺたと顔を触る教官。彼女も俺と同じく、今日の事件でさまざま奔走しただろう。
「ソルの件、それとクレイン達のことですね?」
「察しがよくて助かる。私も探ってはみたが、尻尾を掴めなくてな」
「今回の件はソルの独断ではなく、クレイン達も関与していると?」
「そう考えるなという方が難しいだろう。パーティメンバーはただのチームメイトではない。運命共同体といってもいい存在だ」
教官は何度も息を吹きかけてから、紅茶に口をつける。
「となると、俺にも疑惑があるってことですかね」
「当然だ」
冗談交じりに言ったものの、切れ味鋭い答えが返ってきて些か面食らってしまう。
俺の射貫く深紅の眼光は、紛れもない本心を物語っていた。
「私個人としてはお前を疑ってはいない。リーベルデ様が拾い上げになった神聖騎士でもある。お前を疑うことはリーベルデ様を疑うのと同義だからな。ただ、私情や聖女の威光を理由に被疑者から除外するほど愚かでもないつもりだ」
流石はフォルス教官。まっとうな考えをしてらっしゃる。
「ここにはお前の本心を聞きたくて呼んだのだ。隣にリーベルデ様がおられては気が気でないだろう」
「まぁ」
相手が教官でも気を遣うのは一緒なんだけどな。
とはいえこう言うからには、教官には気を遣うなということなのだろう。
「どうだマイヴェッター。今回の事件、お前の自作自演ではないな?」
「まさか」
「事前にグートマンの動向を知っていて、野放しにしていたりは」
「女神ダーナの名に誓って、ありえません」
「わかった。その言葉を信じよう」
教官は男前な微笑みを浮かべて、小さく頷いた。
自分で言うのも何だが、簡単に信じすぎではないだろうか。普段の行いが良いおかげかもしれない。
「なんだ。意外か?」
どうやら顔に出ていたようだ。
「俺ってそこまで信用されていたのかと」
「少なくとも、私を裏切る度胸はないだろう?」
思わず笑ってしまった。
「間違いないですね」
教官はしたり顔である。
「実はなマイヴェッター。私は人の心が読めるんだ」
この人はいきなり何を言い出すのだろう。
「間抜けな顔をするな。スキルの話だ」
「スキルで人の心が読めるんですか?」
「ごく限定的な範囲でだがな」
「つまり教官は今、俺の心を読んだと」
スキルがあるとはいえ、そんなことが可能なのだろうか。
ほんの少し気まずそうに、教官はカップを傾ける。
「気を悪くしたか?」
「そういうわけでは……」
「いい。私も同じことをされれば腹が立つさ」
本当に何とも思っていないんだけどな。
「私のスキル『トゥルーターム』は、口にした言葉や書いた文字の真実を判別する能力だ」
「嘘を見抜けるってことですか?」
「うむ。しかしこのスキルには制約があってな。嘘を見抜く相手と……なんというか、お互いのことをそれなりに知っておかなければならないんだ」
「それなら、ソルやクレインにも使えるんじゃ」
「いや、ただ知っているだけでは不十分でな。その、なんだ……有体に言えば、信頼関係がないとだめでな」
信頼関係とな。
ああ、なるほど。
「おい……なにをニヤニヤしている」
「いいえ。教官が俺のことをそこまで想ってくれていたのが嬉しいだけです」
「私だけではないぞ。お前だって私のことをそう思っているということだからな」
「もちろんですとも」
頬を染めて顔を背けるフォルス教官。
なんというか。俺はこの人の厳しいところばかり知っているから、余計に思うところがある。
フォルス教官は、非常にかわいらしい女性だということだ。
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