85 / 930
セカンド・セッション&説明しよう!
しおりを挟む
新しい朝が来た。
希望の朝だ。
なんとなく、転生前に聞いた歌を思い出す。あの歌、題名なんていうんだろうな。
それはともかく。
俺はちょうど魔法学園の校門をくぐったところである。大きなあくびを一つ。
「みっともないですよ。ご主人様」
サラが俺の大あくびを咎めた。別にいいだろこれくらい。
「今日から授業が始まるんですよね?」
「ああ、たぶんな」
「もう……ご主人様? ちゃんと入学のしおり読みました?」
「読んでねぇ」
サラが呆れたように唇をひん曲げた。なんだその顔は。
「ちゃんと読んでください。ご主人様がものぐさなせいで、入学だってギリギリだったじゃないですか。目立ちたくないなら、これからの予定を把握してしっかり対策を練った方がいいんじゃないですか」
ううむ。もっともだ。
「サラ。そうやって俺を戒めてくれるなんて、お前は従者の鑑だな」
「えっへん」
どや顔で天を仰ぐサラ。頭を撫でてやると、サラは幸せそうに頬を緩ませた。
俺は歩きながら入学をしおりを開く。
「午前中はオリエンテーションがあるみたいだ。これからの講義や実技についての説明だな。そんで、午後から早速授業が始まると」
「わくわくしますね」
「まあな」
魔法を学べるのは俺的にも胸が躍る。転生前は魔法なんてお目にかかれなかったからな。それが自分で使えるようになるのは非常に魅力的だ。
俺達はエリートクラス専用の校舎に辿り着く。エリートクラス棟と呼ばれるその建物は、それだけで転生前に通っていた高校くらいの規模があった。クラス一つでこの大きさだもんな。魔法学園ってやっぱりでかい。
ちなみにアイリスは留守番だ。
昨日の今日でアイリスを連れていたら目立つことこの上ない。アイリスはしばらく家でルーチェに家政のいろはを叩きこまれることになったのだ。仕方ないね。
入口にあった張り紙にしたがって、上階の大講義室に向かう。
長椅子が並べられた広い部屋には、すでに数十人のクラスメイト達が集まっていた。俺とサラは適当な席に腰を下ろす。
「あ」
すると、隣で声が聞こえた。
俺が視線をやると、そこにはオリーブ色の髪を短めのツインテールにしたたれ目の女の子がこちらを見ていた。無表情で。
はて、誰だろうか。
怪訝な表情を浮かべる俺を、その子はにこりともせずじっと見つめてくる。
「セレン・オーリス。捨てられた神殿で一緒になった」
「ああ。あの時の」
ヒーモのパーティにいた子か。正直どんなメンバーがいたかまったく記憶にないけど、とりあえず憶えているフリをしとこう。
「俺はロートス・アルバレスだ」
「知ってる。助けてくれた人の名前を忘れるような不義はしない」
「……そうかい」
セレンと名乗った少女は、どこまでも表情がない。顔にもないし、声にもない。あまりにも起伏がないせいで、聞いた五秒後には忘れてしまいそうな声だった。
ただ、人形のように整った顔立ちは、俺の美的感覚を強烈なまでに刺激していた。これまでに出会った子達とはまた違った魅力がある。神秘的というか、非現実的というか。
とはいえ、ツインテールにしているところには親しみを覚える。俺からしたら幼さのある素朴な髪型だからだ。
「セレンは、従者はいないのか?」
周りを見渡しても、クラスメイトはみんな一人以上の従者を連れている。しかし、彼女は一人ぼっちだ。
「従者はいない。お父様が不要と判断した。おかしい?」
「おかしくはないが……珍しくはあるな」
従者を連れてくるのは規則で決まっているわけではない。いわゆる慣習のようなものだ。だから一人でも全く問題はない。
「まぁ、縁あってクラスメイトになったんだ。これからよろしく頼む」
こういう社交辞令は大切だ。
セレンは俺の顔をじっと見つめたまま、こくりと頷いた。何考えているかまったくわからん子だな。
それからしばらくボーっとしていると、教壇側の扉が開いて人影が現れた。部屋が広いせいですぐには分からなかったが、あれってもしかして。
「アデライト先生だ」
サラが呟いた。
おやおや、どうしてアデライト先生がここにいるんだろうか。
嫌な予感。もとい良い予感がするんだが。
「はーい! みなさんおはよーございまーす!」
アデライト先生は元気に挨拶をする。普段は落ち着いた感じだが、こうやって人前に立つとやけにハイテンションになるよな。見られたい願望でもあるのだろうか。
「今日から皆さんの担任をさせて頂きます。アデライトでーす。改めて、よろしくお願いしまーす!」
なんだって。担任だと。一体どういうことだ。
「おかしい」
隣でセレンが呟いた。
「あの人はスペリオルクラスの担任。エリートクラスはモスマン先生のはず」
「ああ……俺もそう聞いてたよ」
俺の予感が的中したようだ。
講義室はにわかにざわつき始める。みんなも同じように不思議がっているのだろう。
「はい、皆さん戸惑っていますね? 実はこのクラスの担任をするはずだったモスマン先生から辞退の願い出があったのです。ですから、急遽私が代役になったというわけなのです」
やりやがったな、あの人。
新入生に賄賂を求めるような先生だからな。絶対なにか裏がある。
「これは僥倖」
やはり表情のない声で、セレンが漏らした。
「僥倖? なにが?」
「あの人はこの学園で最も優秀な教師の一人。だから、僥倖」
「ふぅん」
アデライト先生が優秀なのは結構なことだ。それよりも。
「セレンは、あれなんだな。学びに対するモチベーションが高いんだな」
「それほどでもない」
愛想のない反応だ。これが塩対応ってやつか。
「それでは早速オリエンテーションを始めていきましょうか。皆さん、入学のしおりを開いてください」
アデライト先生の高い声はよく響く。
「本学園の授業は一日に7コマ開かれます。一コマ九十分。合計十時間半ですね」
え、そんなにあるのかよ。ブラック企業も真っ青だな。
俺と同じように思う生徒も多いのか、途端に騒がしくなる。
「ご安心ください。流石に全コマある日はそうそうないでしょう。授業は履修制になりますので、自分が学びたいことに合わせて各曜日の各コマに当てはめられたものを登録してください」
あー、なるほど。俺は転生前を思い出す。要するに大学みたいな感じなのか。
「好きな授業を受けるといいましたが、もちろん必修科目もありますから、忘れず登録をしてくださいね」
横目で見てみると、セレンが無言でアデライト先生を注視していた。真面目な子だなぁ。
「授業の種類は大きく三分されます。一般教養、魔法学、魔法実技です。そこに分類されない特殊なものもありますが、ほとんどはそのどれかに分類されます」
俺はしおりに目を落とす。
一般教養とは、つまるところ普通の学問だ。語学、算術、歴史。馬術や薬草学なんてものもある。この世界では一般的な教養なのだろう。
魔法学は座学。魔法体系や理論を学ぶ。
魔法実技は、その名の通りだ。
そこに分類されないのは、例えば剣術やダンジョン学などの、魔法以外の専門分野だ。イキールの奴はこのあたりを目当てに入学したのかな。
「授業の詳細は今から配布する講義一覧表に書いてありますので、履修を選ぶ際の参考にして下さい」
なるほどなぁ。
「ご主人様はどういう授業を取るんですか?」
「何も考えてないなぁ」
「またですか。そういえばご主人様って、どうして魔法学園に入学したんでしたっけ?」
「親に無理矢理入れさせられたんだよ」
実の親じゃなかったけどな。
「だから、魔法に対してこういうのがやりたいっていうのはあんまり決まってないなぁ。強いていうなら、威力が強いやつがいいかな」
やっぱり魔法と言ったら派手な攻撃魔法だろう。エレノアの使っていたフレイムボルト・テンペストとかかっこよかったしな。
「あなたも攻撃魔法を専攻希望?」
セレンの声が割って入って来る。
「んー……まぁ今のところは。他によさそうなもんがあったらそっちに行くかもだが」
「そう」
そこはかとなく寂しそうに見えるのは俺の目の錯覚だろう。表情は何も変わっていない。
希望の朝だ。
なんとなく、転生前に聞いた歌を思い出す。あの歌、題名なんていうんだろうな。
それはともかく。
俺はちょうど魔法学園の校門をくぐったところである。大きなあくびを一つ。
「みっともないですよ。ご主人様」
サラが俺の大あくびを咎めた。別にいいだろこれくらい。
「今日から授業が始まるんですよね?」
「ああ、たぶんな」
「もう……ご主人様? ちゃんと入学のしおり読みました?」
「読んでねぇ」
サラが呆れたように唇をひん曲げた。なんだその顔は。
「ちゃんと読んでください。ご主人様がものぐさなせいで、入学だってギリギリだったじゃないですか。目立ちたくないなら、これからの予定を把握してしっかり対策を練った方がいいんじゃないですか」
ううむ。もっともだ。
「サラ。そうやって俺を戒めてくれるなんて、お前は従者の鑑だな」
「えっへん」
どや顔で天を仰ぐサラ。頭を撫でてやると、サラは幸せそうに頬を緩ませた。
俺は歩きながら入学をしおりを開く。
「午前中はオリエンテーションがあるみたいだ。これからの講義や実技についての説明だな。そんで、午後から早速授業が始まると」
「わくわくしますね」
「まあな」
魔法を学べるのは俺的にも胸が躍る。転生前は魔法なんてお目にかかれなかったからな。それが自分で使えるようになるのは非常に魅力的だ。
俺達はエリートクラス専用の校舎に辿り着く。エリートクラス棟と呼ばれるその建物は、それだけで転生前に通っていた高校くらいの規模があった。クラス一つでこの大きさだもんな。魔法学園ってやっぱりでかい。
ちなみにアイリスは留守番だ。
昨日の今日でアイリスを連れていたら目立つことこの上ない。アイリスはしばらく家でルーチェに家政のいろはを叩きこまれることになったのだ。仕方ないね。
入口にあった張り紙にしたがって、上階の大講義室に向かう。
長椅子が並べられた広い部屋には、すでに数十人のクラスメイト達が集まっていた。俺とサラは適当な席に腰を下ろす。
「あ」
すると、隣で声が聞こえた。
俺が視線をやると、そこにはオリーブ色の髪を短めのツインテールにしたたれ目の女の子がこちらを見ていた。無表情で。
はて、誰だろうか。
怪訝な表情を浮かべる俺を、その子はにこりともせずじっと見つめてくる。
「セレン・オーリス。捨てられた神殿で一緒になった」
「ああ。あの時の」
ヒーモのパーティにいた子か。正直どんなメンバーがいたかまったく記憶にないけど、とりあえず憶えているフリをしとこう。
「俺はロートス・アルバレスだ」
「知ってる。助けてくれた人の名前を忘れるような不義はしない」
「……そうかい」
セレンと名乗った少女は、どこまでも表情がない。顔にもないし、声にもない。あまりにも起伏がないせいで、聞いた五秒後には忘れてしまいそうな声だった。
ただ、人形のように整った顔立ちは、俺の美的感覚を強烈なまでに刺激していた。これまでに出会った子達とはまた違った魅力がある。神秘的というか、非現実的というか。
とはいえ、ツインテールにしているところには親しみを覚える。俺からしたら幼さのある素朴な髪型だからだ。
「セレンは、従者はいないのか?」
周りを見渡しても、クラスメイトはみんな一人以上の従者を連れている。しかし、彼女は一人ぼっちだ。
「従者はいない。お父様が不要と判断した。おかしい?」
「おかしくはないが……珍しくはあるな」
従者を連れてくるのは規則で決まっているわけではない。いわゆる慣習のようなものだ。だから一人でも全く問題はない。
「まぁ、縁あってクラスメイトになったんだ。これからよろしく頼む」
こういう社交辞令は大切だ。
セレンは俺の顔をじっと見つめたまま、こくりと頷いた。何考えているかまったくわからん子だな。
それからしばらくボーっとしていると、教壇側の扉が開いて人影が現れた。部屋が広いせいですぐには分からなかったが、あれってもしかして。
「アデライト先生だ」
サラが呟いた。
おやおや、どうしてアデライト先生がここにいるんだろうか。
嫌な予感。もとい良い予感がするんだが。
「はーい! みなさんおはよーございまーす!」
アデライト先生は元気に挨拶をする。普段は落ち着いた感じだが、こうやって人前に立つとやけにハイテンションになるよな。見られたい願望でもあるのだろうか。
「今日から皆さんの担任をさせて頂きます。アデライトでーす。改めて、よろしくお願いしまーす!」
なんだって。担任だと。一体どういうことだ。
「おかしい」
隣でセレンが呟いた。
「あの人はスペリオルクラスの担任。エリートクラスはモスマン先生のはず」
「ああ……俺もそう聞いてたよ」
俺の予感が的中したようだ。
講義室はにわかにざわつき始める。みんなも同じように不思議がっているのだろう。
「はい、皆さん戸惑っていますね? 実はこのクラスの担任をするはずだったモスマン先生から辞退の願い出があったのです。ですから、急遽私が代役になったというわけなのです」
やりやがったな、あの人。
新入生に賄賂を求めるような先生だからな。絶対なにか裏がある。
「これは僥倖」
やはり表情のない声で、セレンが漏らした。
「僥倖? なにが?」
「あの人はこの学園で最も優秀な教師の一人。だから、僥倖」
「ふぅん」
アデライト先生が優秀なのは結構なことだ。それよりも。
「セレンは、あれなんだな。学びに対するモチベーションが高いんだな」
「それほどでもない」
愛想のない反応だ。これが塩対応ってやつか。
「それでは早速オリエンテーションを始めていきましょうか。皆さん、入学のしおりを開いてください」
アデライト先生の高い声はよく響く。
「本学園の授業は一日に7コマ開かれます。一コマ九十分。合計十時間半ですね」
え、そんなにあるのかよ。ブラック企業も真っ青だな。
俺と同じように思う生徒も多いのか、途端に騒がしくなる。
「ご安心ください。流石に全コマある日はそうそうないでしょう。授業は履修制になりますので、自分が学びたいことに合わせて各曜日の各コマに当てはめられたものを登録してください」
あー、なるほど。俺は転生前を思い出す。要するに大学みたいな感じなのか。
「好きな授業を受けるといいましたが、もちろん必修科目もありますから、忘れず登録をしてくださいね」
横目で見てみると、セレンが無言でアデライト先生を注視していた。真面目な子だなぁ。
「授業の種類は大きく三分されます。一般教養、魔法学、魔法実技です。そこに分類されない特殊なものもありますが、ほとんどはそのどれかに分類されます」
俺はしおりに目を落とす。
一般教養とは、つまるところ普通の学問だ。語学、算術、歴史。馬術や薬草学なんてものもある。この世界では一般的な教養なのだろう。
魔法学は座学。魔法体系や理論を学ぶ。
魔法実技は、その名の通りだ。
そこに分類されないのは、例えば剣術やダンジョン学などの、魔法以外の専門分野だ。イキールの奴はこのあたりを目当てに入学したのかな。
「授業の詳細は今から配布する講義一覧表に書いてありますので、履修を選ぶ際の参考にして下さい」
なるほどなぁ。
「ご主人様はどういう授業を取るんですか?」
「何も考えてないなぁ」
「またですか。そういえばご主人様って、どうして魔法学園に入学したんでしたっけ?」
「親に無理矢理入れさせられたんだよ」
実の親じゃなかったけどな。
「だから、魔法に対してこういうのがやりたいっていうのはあんまり決まってないなぁ。強いていうなら、威力が強いやつがいいかな」
やっぱり魔法と言ったら派手な攻撃魔法だろう。エレノアの使っていたフレイムボルト・テンペストとかかっこよかったしな。
「あなたも攻撃魔法を専攻希望?」
セレンの声が割って入って来る。
「んー……まぁ今のところは。他によさそうなもんがあったらそっちに行くかもだが」
「そう」
そこはかとなく寂しそうに見えるのは俺の目の錯覚だろう。表情は何も変わっていない。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
1,137
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる