10 / 31
7歳
09
しおりを挟む
そこは裏通りにあった。
表通りは人があふれていて活気に満ちているのに、一歩道を外れるだけで誰もいない、さびれた通りに出る。
奴隷商は明かりが入らない暗い細い道、入り口も扉があるわけではなく下に続く階段があるだけだった。
「セレナ、行きましょう」
前世でもこんな危なそうな場所は近寄ったこともない。
足がすくみそうになるのを耐えて、勇気を出してセレナの手を握り階段を下りた。
一段、また一段と降りるたびに外に出たくなる。鼻腔に吐き気を催すような悪臭がこみあげてくるからだ。
セレナが察してくれてハンカチを渡してくれるけど、私は首を横に振り断った。
「いらっしゃいませ、珍しいお客様だ。こんなに小さなお嬢さんが何用で」
店の中に入ると私たちを出迎えたのは贅肉を揺らし、厭らしい笑みを浮かべる商人だった。
太い指には金、銀の指輪がいくつもついている。誰も近寄らない隠れた場所に店はあるけれど、私のような貴族が買っていくためか儲かっているのだろう。
ここで怯えていてはいけない!
少しでも子供だからと見下されない令嬢らしく見えるように高飛車に振る舞う。
「今日は私のものになる奴隷を買いに来たの、見せてくださらない?」
「ほほう、お嬢さんが奴隷を買う! これは面白い冗談だ。ここは遊び場ではないのですよ?」
「冗談? 失礼しちゃうわ。客に対する態度とは思えないわね。セレナ、袋の中見せてあげて」
信じない商人には強引に信じさせましょう。そう、金の力でね。
セレナに頼んで持ってきた袋の中身を確認させる。クイナを購入するために一応持ってきた金貨百枚だ。
念のために金貨百枚をセレナに頼んで用意させたけど、その枚数を聞いたとき「そんな大きなお金を持って行ってどうするのですか!? 流石に多すぎますよ!」と注意された。
何を言っているの? クイナなのよ!
そんなに彼が安いわけがない、きっとこれくらいじゃ絶対に足りないはず。
むしろ少なかったら奴隷商に対して怒りたくなるわ!
少しだけ袋の口を開けて奴隷商に見せると、やはり圧倒的多さの金貨には叶わなかったようだ。
先程の舐めたような態度から一転変わり、上客として認めたのか大きな手を擦りながら寄ってきた。
「これはこれは、大変失礼いたしました。本日は当店にお越しいただきありがとうございます。どのような奴隷をお探しですかな」
「そうね……。ここに獣人の奴隷っているかしら。忠実な奴隷を傍に置きたいから……犬の奴隷だと嬉しいんだけど」
「おお、犬の獣人ですか! これはお目が高いですなぁ、ははは。どうぞこちらへ」
奴隷商の後を続くように歩く。
地下いっぱいに店が広がっているのか入り口の狭さとは打って変わって、多数の大きな部屋がありその壁が一面檻になっていて、さらに一つの檻の中に何人も奴隷が入っていた。
大人から子供、男性女性関係なく。
ただ、皆生きようとする気力がないのか、死んだように動かないでただ虚空を見つめていた。
(これは、ひどすぎる……)
こんな酷いところにクイナがいると思うと胸が痛い。彼は無事なんだろうか、怪我はしてないだろうか。
歩き続けているとどうやら獣人奴隷の区画に入ったらしい。
ここは小さな檻に一人ずつ入っていて、犬だけではなく様々な獣人を置いている。
「お待たせしました。この辺りがご希望の獣人になりますが……お好みの奴隷はいますかな」
私は目の前に広がる光景に息をのんだ。多すぎる獣人奴隷の数が予想以上に多かった。
居ても片手くらいだと思ったけど、ここには犬獣人だけでも三十人近くの奴隷がいた。
(この中に、クイナが……)
私は歩いて一つ一つ、檻の中を見つめる。
どの子もボロボロになっていて、中には瀕死なのかまったく動かない子もいた。
その光景をみて彼の命も危ういかもしれないと思うと気持ちがはやる。
(……違う、この子も違う)
白い毛並みの犬の獣人は何人もいた。でも違うのだ。推しだから、ずっと見ていたから彼じゃないとすぐに判別できる。
――でも、見つからない。
全部の檻を目を凝らして探したけど、どれも違う人だった。
(もしかして、この店じゃない? ゲームの中だと買ってきたのは父親だった。どの店で買ってきたかという情報はなかった……。どうしよう……)
このまま彼を連れ帰ることが出来ず、ゲーム通り誕生日まで待つしかないのかと諦めた時だった。
「そういえば……数日前に怪我をした獣人が確か犬だったような気がするな」
思い出したように奴隷商が呟いた。
その言葉を聞いた私は慌てて彼の服を握り、命令する。
「その奴隷はどこにいるの!」
気迫のこもった私を見て、奴隷商はこちらへ……とすぐに案内してくれた。
表通りは人があふれていて活気に満ちているのに、一歩道を外れるだけで誰もいない、さびれた通りに出る。
奴隷商は明かりが入らない暗い細い道、入り口も扉があるわけではなく下に続く階段があるだけだった。
「セレナ、行きましょう」
前世でもこんな危なそうな場所は近寄ったこともない。
足がすくみそうになるのを耐えて、勇気を出してセレナの手を握り階段を下りた。
一段、また一段と降りるたびに外に出たくなる。鼻腔に吐き気を催すような悪臭がこみあげてくるからだ。
セレナが察してくれてハンカチを渡してくれるけど、私は首を横に振り断った。
「いらっしゃいませ、珍しいお客様だ。こんなに小さなお嬢さんが何用で」
店の中に入ると私たちを出迎えたのは贅肉を揺らし、厭らしい笑みを浮かべる商人だった。
太い指には金、銀の指輪がいくつもついている。誰も近寄らない隠れた場所に店はあるけれど、私のような貴族が買っていくためか儲かっているのだろう。
ここで怯えていてはいけない!
少しでも子供だからと見下されない令嬢らしく見えるように高飛車に振る舞う。
「今日は私のものになる奴隷を買いに来たの、見せてくださらない?」
「ほほう、お嬢さんが奴隷を買う! これは面白い冗談だ。ここは遊び場ではないのですよ?」
「冗談? 失礼しちゃうわ。客に対する態度とは思えないわね。セレナ、袋の中見せてあげて」
信じない商人には強引に信じさせましょう。そう、金の力でね。
セレナに頼んで持ってきた袋の中身を確認させる。クイナを購入するために一応持ってきた金貨百枚だ。
念のために金貨百枚をセレナに頼んで用意させたけど、その枚数を聞いたとき「そんな大きなお金を持って行ってどうするのですか!? 流石に多すぎますよ!」と注意された。
何を言っているの? クイナなのよ!
そんなに彼が安いわけがない、きっとこれくらいじゃ絶対に足りないはず。
むしろ少なかったら奴隷商に対して怒りたくなるわ!
少しだけ袋の口を開けて奴隷商に見せると、やはり圧倒的多さの金貨には叶わなかったようだ。
先程の舐めたような態度から一転変わり、上客として認めたのか大きな手を擦りながら寄ってきた。
「これはこれは、大変失礼いたしました。本日は当店にお越しいただきありがとうございます。どのような奴隷をお探しですかな」
「そうね……。ここに獣人の奴隷っているかしら。忠実な奴隷を傍に置きたいから……犬の奴隷だと嬉しいんだけど」
「おお、犬の獣人ですか! これはお目が高いですなぁ、ははは。どうぞこちらへ」
奴隷商の後を続くように歩く。
地下いっぱいに店が広がっているのか入り口の狭さとは打って変わって、多数の大きな部屋がありその壁が一面檻になっていて、さらに一つの檻の中に何人も奴隷が入っていた。
大人から子供、男性女性関係なく。
ただ、皆生きようとする気力がないのか、死んだように動かないでただ虚空を見つめていた。
(これは、ひどすぎる……)
こんな酷いところにクイナがいると思うと胸が痛い。彼は無事なんだろうか、怪我はしてないだろうか。
歩き続けているとどうやら獣人奴隷の区画に入ったらしい。
ここは小さな檻に一人ずつ入っていて、犬だけではなく様々な獣人を置いている。
「お待たせしました。この辺りがご希望の獣人になりますが……お好みの奴隷はいますかな」
私は目の前に広がる光景に息をのんだ。多すぎる獣人奴隷の数が予想以上に多かった。
居ても片手くらいだと思ったけど、ここには犬獣人だけでも三十人近くの奴隷がいた。
(この中に、クイナが……)
私は歩いて一つ一つ、檻の中を見つめる。
どの子もボロボロになっていて、中には瀕死なのかまったく動かない子もいた。
その光景をみて彼の命も危ういかもしれないと思うと気持ちがはやる。
(……違う、この子も違う)
白い毛並みの犬の獣人は何人もいた。でも違うのだ。推しだから、ずっと見ていたから彼じゃないとすぐに判別できる。
――でも、見つからない。
全部の檻を目を凝らして探したけど、どれも違う人だった。
(もしかして、この店じゃない? ゲームの中だと買ってきたのは父親だった。どの店で買ってきたかという情報はなかった……。どうしよう……)
このまま彼を連れ帰ることが出来ず、ゲーム通り誕生日まで待つしかないのかと諦めた時だった。
「そういえば……数日前に怪我をした獣人が確か犬だったような気がするな」
思い出したように奴隷商が呟いた。
その言葉を聞いた私は慌てて彼の服を握り、命令する。
「その奴隷はどこにいるの!」
気迫のこもった私を見て、奴隷商はこちらへ……とすぐに案内してくれた。
1
あなたにおすすめの小説
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ
鏑木 うりこ
恋愛
毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。
圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!
なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??
「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。
*ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。
*ご照覧いただけたら幸いです。
*深く考えないでいただけるともっと幸いです。
*作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。
*あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。
マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)
2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)
恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる