邪教団の教祖になろう!

うどんり

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一章

8 聖刻騎士団は襲撃の相談をする

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 片隅の町――皇国領アルトゥーサ。

 その中心部近く。
 一星宗の所有する教会の礼拝堂の中で、白銀色の鎧を身に着けた三人の男たちが膝をついていた。
 三人の男たちの前には銀糸をあしらった垂れ飾りを肩にかけた中年の男がいた。

 銀糸の模様に青い翼の鳥が刺繍された垂れ飾りは、一星宗では第二位階に位置する者――神父の身分にいる者がつけることを許されている。
 首には一星宗のシンボルである正六面体の形をした金属のネックレスを下げていた。

「よくぞ参られました。道中大変だったでしょう」

 神父のナタロンは朗らかに笑うと、男たちに楽な姿勢になるよう促した。

 アルトゥーサは皇国からしたら辺境の土地である。
 ナタロン神父はその三名の長旅をねぎらった。

 皇国に本部を置く一星宗が所有する戦力である《聖刻騎士団》。
 そこからアルトゥーサへ赴任してきた、三名の騎士。

 三人とも若い。
 騎士になりたての者か、騎士になってまだ十年も経っていないような新人しかいなかった。

「騎士様がいれば町は安泰。なにものにも脅かされない。アルトゥーサの人々にとって、そういう安心を支える存在になっていただきたいと、私は願います」

「ええ、もちろんです」

 ナタロン神父の言葉に、硬い口調でうなずいた騎士の一人。

 名をスレムといった。

 肩ほどまで伸びた銀色の髪が、うなずいた拍子に揺れた。
 中肉中背であるが、鎧から覗く手足は丹念に鍛えられて筋肉質だ。
 硬い口調に見合う厳格な表情を崩さない。

「皆が安心して暮らせるようになるには、危険な異端者たちの存在が心配です」

 言いながら、ナタロン神父は落胆するような表情を作る。

「《人形の法具》によって清浄化が進んでいるとはいえ、アルトゥーサの周辺にはまだまだ異端の部族が潜んでいます。やっかいなのは、その部族たちは山や森林の中に潜んで、居場所が知れないことです」

 スレムはじっとナタロン神父の話に耳を傾ける。

「ですが最近、やっとその中の一部族の居場所をつかみました」

 三人の騎士たちを眺めながら、

「唯一神アケアロスのお導きがありました。寝ている私の枕元にお立ちになったのです。アケアロス神は異端者の居場所をお告げになり、こうおっしゃられたのです。『浄化せよ』と」

 ナタロン神父は弁舌に熱を持たせる。

「しかし、《人形の法具》だけで解決しようと威力偵察を行わせていた番犬型フレイバグが、何体も犠牲になってしまいました。彼らは無駄な抵抗を繰り返しています」

「おいたわしく思います」

 スレムは相槌を打ちながら、これから自分たちがやるべきことを理解した。

「こちらに来て早々で申し訳ないのですが、あなたがたのお力を借りたいのです。一人一人が法具を持つことを許された、騎士のあなたがたの力を」

 とナタロン神父は言った。

「第六位階の方々にもしっかりとした管理は必要です。なるべく生かして捕え、われわれが正しい道を教育しなければなりません。一星宗のかかげる、唯一神アケアロスによって統一された争いのない世界を手に入れるために……協力していただけないでしょうか?」

「無論です、神父様」

 スレムは間髪入れずに言った。

「でもよ、神父様」

 騎士の一人が顔を上げて、冷めた目でナタロンを見据える。騎士の一人――アマジスは、

「そいつら殺さなくていいのか? 異端なのによ」

 不服そうに漏らす。

「ええ。神にも慈悲がありますから。よろしいですか」

「まあ、なんでもいいんだけどよ」

 つっけんどんな態度だったがナタロン神父は満足そうにうなずき、

「イレイルもよろしいですか? 不明な点があれば今のうちに聞いておいてください」

 三人の中では一番若く背の低い騎士――イレイルにも確認をとる。

「とくに異論はありません」

 イレイルは、まだ声変わりの途中のような高い声色でうなずいた。

「ありがとうございます。では、作戦を行いましょう。準備を整え、そののちに仕掛けていただきたい」

 騎士たちは膝をついたまま頭を下げる。

「目指すは、山の中の部族であるアギ族――その集落です」
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