邪教団の教祖になろう!

うどんり

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三章

35 コズミック

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 とにかく助かった。少なくとも、この場は。

 足早にナタロン神父とスレムから離れると、

「いや、危なかったですね。事情は知らないですが」

 俺たちのあとをついてきていた男は胸をなでおろして言った。

「どうして助けてくれたんだ? 俺とあんたは初対面のはずだろ?」

「そうですね。さっきが初対面です」

 なにか、下心があるのだろうか?

 いや、とにかく助かったのは感謝すべきだ。

「とにかく、ありがとう。助かった。賄賂まで。何か礼はできないか? といっても、俺が育てている作物か、医者の薬の融通をきかせるくらいしかできないが」

「いや、礼なんていいですよ」

「なにか、目的があって助けたんじゃないのか?」

 身なりはいい。
 裕福な家なのだろうが、だからって見知らぬ人間を助けるために賄賂を払うか普通。
 感謝はしているが、手放しに信じることは、俺にはまだできないでいる。

「私はニクネーヴィン。苦しい立場にいる人たちを、どうも放っておけないタチでしてね」

 男――ニクネーヴィンは、訝しむ俺とダッタを見据え、告げた。

「きみと――その異端指定されている部族の子などをね」

「!」

 こいつ――ダッタのことを知っているのか!?

「妹というのも嘘でしょう?」

「ハッタリか……?」

「ハッタリではない。教えてくれるのです」

 ニクネーヴィンは胸に手を当てて、瞳を閉じる。

「私の中に感じるコズミックがね」

「へ?」

 穏やかな顔のニクネーヴィン。

「ぶほっ!」

 それを――ダッタは飛び出した勢いで殴りつけた。
 あまりにも早い、すべてを過去にする握りこぶし。

「エンさま、とりあえず殴ったけどどうすればよかった?」

「とりあえず殴るのやめなさい、ダッタ。一応恩人だ」

 それでも意識を、いや命を刈り取ろうとしていないあたり手加減はしてくれたらしい。
 倒れたニクネーヴィンは身体を起こすと、

「怪しむのも無理はありません」

 殴られた頬をさすりながら苦笑いした。

「私の中のコズミックが、あなたたちの事情を教えてくれるのです。今、どう行動したらいいか、考えあぐねて悩んでおられるのでしょう?」

「…………!」

「一星宗が、あなたがたの目指すところの足かせになっているのですよね?」

 コズミック、ってなんだ!?

 なぜそれほど俺たちの状況がわかる?

 教えてくれる、とはどういうことだ?

 立ち上がったニクネーヴィンは、いつでも受け入れるといわんばかりに手を大きく広げた。

「そう、私にはわかっています。だから、恐れないで。安心してください。あなたたちは、解決の糸口を探している。私はそれの力になりたいのです」

「力になりたい――それで俺たちを助けたのか?」

 力になりたい? 他人のために?

 何を言っているんだ。

「そんなことをしてお前に何の得がある?」

「その得というのは、何らかの利益が得られるかどうかということですか?」

「そうだ」

「すでに私はもう一生不自由しないだけの富を持ち合わせています。利益ではなく、私がそうしたいかどうかで行動しているのです」

 ニクネーヴィンの言葉は淀みがなかった。本心から言っているような気がするし、そこには信念があるように思える。

 いや、待て。

 ミナナゴ、アケアロス……ほかにも神がいるってことはないよな?

 もしこいつが俺と同じ目的を――信者を集めるという目的を持っていたとしたら、コズミックというのは……。

「まさか、お前も神に通じているのか?」

 こいつは、コズミックのプロヴィデンスで俺たちを見透かしているんじゃないだろうな。

「神! 神的な存在といっても差し支えないでしょうね」

 けむに巻くような返答をしたあと、

「ですが、あなたも、そしてあなたもコズミックと繋がれるはずです」

 ニクネーヴィンは、俺とダッタを指した。

「なっ……!?」

 こいつ――どこまで見抜いて、いや、知っているんだ?
 そもそも、どうやって知っているんだ。

 つまるところ、コズミックっていったいなんなんだ?

「助けてくれたことには感謝している。だが、ちゃんとした説明がほしい。お前は俺達のことをどこまで知っているんだ?」

「気になるのなら私の家へ来てください。招待状を渡しましょう」

 ニクネーヴィンは自分のサインが書いてある厚めの紙を俺に渡す。
 金箔が散りばめられていてとても豪華な紙だ。

「これが通行手形代わりか?」

 いつもあらかじめ持っているのだろうか。

「そこに書いてある住所にお越しください。入り口でそれをご提示いただければ、いつでも中へ入れます。ただし、私が家にいる夜の間だけではありますが」

 彼の目的が本当にわからない。
 なるべく関わらないようにしたいが――しかし俺自身、このニクネーヴィンという男を気になりだしている。

 いったい何がしたいのか、力になりたいとはどういうことか。
 謎が多すぎる。

「では私はこれで」

「え――」

 まだ聞きたいことがあったのだが、一方的に話を切ったニクネーヴィンは、足早に大通りの雑踏へと消えていく。
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