邪教団の教祖になろう!

うどんり

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三章

44 ニクネーヴィンの真意

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「いい具合になってきたじゃあないですか」

 俺とエフィを見下ろすニクネーヴィンは、笑顔で俺に語りかける。

「ですがあなた、薬が効きにくい方なのですね?」

「そ、そのようだな」

 できるだけ平静を保ちながら答える。
 平静を保てていないエフィの息遣いと体温を感じながら。

「しかし申し訳ありません。これ以上は強くできない」

「お前、お前は、自由恋愛とか言いながら、薬を使って行為を強要して、何を目的で――」

「強要などしていませんよ」

「けどアリッサの姉のメルヴィは、正気を保てなくなっていたと聞いたぞ!」

「ふむ……」

 ニクネーヴィンはいい感じになっているメルヴィへ近づいていき、

「メルヴィさん、あなたまた勝手に催淫薬を持ち出して勝手に使っていましたね。あれほどやめろと言っていたのに」

「ひゃい……ごめんなしゃい。エッチなことだいしゅきれす」

 メルヴィはまともにしゃべれていない。

 ニクネーヴィンは戻ってきて、

「たしかに催淫効果を及ぼしますが、ほぼ酒を飲んだときの酩酊状態くらいになるまで調整しています。本来ならそれほど強い効果ではないはずなのです。こうして中毒になってしまう方もいるにはいるので、注意はしていたのですがね」

「個人差で効きやすい効きにくいってのはあるだろ」

「そのようですね。少々甘く見ていました」

 ニクネーヴィンは肩をすくめる。

「でも悪いのは勝手に使用量を守らなかったメルヴィさんですよ。エンさん、こういうの、なんていうかご存知ですか?」

「あいにく教養がないもんでな」

「ノンコズミックというんですよ」

「知らねえよ! お前の作った単語じゃねえか!」

 態度はともかくとして、ニクネーヴィンの様子を見ていると、本当に裏がないように思う。
 マジで金持ちの道楽で自由恋愛の場を提供しているだけのような気がする。手段が邪道なだけで。

「……いや、アリッサは双子の性質が似ているから効きやすいってことでわかるんだが、エフィのこの効き具合はやっぱり異常だろ!」

「この薬が酒と違うのは、恋心を刺激し快楽に変換させるということ。ですが、心が冷めているとなかなか効きません。いい気分になるには、お互い愛し合っていることが前提です。彼女が乱れてしまっているのは、それだけあなたへの思いが強かったのでは?」

「え……?」

 つまりエフィはもともと俺のことが好きだったってことか?

 いや、そんなはずは……こいつは世話焼きなだけで、だから信心深くない俺をどうにかしたくて、布教の一貫で俺に話しかけてくれていたんじゃ……。

「エンさん――私のこと、好きに噛んでください! いろんなところ噛まれたいんです!」

「ちょっとエフィは黙っていてくれ!」

 エフィを止めながら、

「目的は金じゃない、そうなんだな? 誰かを騙して陥れたいわけじゃないんだな?」

 俺はニクネーヴィンに確認する。

 ニクネーヴィンはうなずいた。

「そう。私はもう交易で一生遊んで暮らせるほどの財産を作りました。この屋敷がその証明。そして仕事をやめているわけではありませんから、金などいくらでも増えていく。私はいくらでも生み出せるものに興味はありません」

 羨ましすぎるだろ。くれよその金。

「金でどうにかならないもの――そう、私は、救われない人々を救いたかったのだと、ある日悟ったのです」

「それが、自由恋愛の場の提供だと」

「ええ。しかしそれでも一星宗の教義から外れているという罪の意識が伴う。それを和らげるために、催淫薬を使っているのです。そしてここに来ているカップルたちには、その危険性を説明した上で、承諾してもらっている」

「やっていることはただのわいせつ教団じゃないか!」

「それでも皆は救われている。私は自由恋愛を導く使者。そしてやることはすべて、コズミックが教えてくれるのです」

 むしろコズミックが取ってつけたようになってるじゃねえか。
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