邪教団の教祖になろう!

うどんり

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三章

45 エン、わいせつ教団を乗っ取りにかかる

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 いや、こいつの中で論理の組み立てがあるからこそ成立しているのだ。

 コズミックとかいうのも、自分の行動に説得力をつけるための材料にしている。

 加えて、こいつのカリスマ性――いや、こいつのカリスマを感じさせる口車が、人をひきつけている。

「コズミックこそ、アケアロス神をも超える大いなる存在! それに従っていれば間違いはないし、幸せに人生を送れるのです! 私はこれからも恋に悩める方々を救っていきます。それがコズミックの導きでもあるのです!」

 納得している自分が嫌だが、認めざるをえない。

 一星宗の導きでは救われない人間たちを、こいつは救っている。

 だが――薬を使うのは、違う。
 アリッサの姉のように、薬に狂ってしまう人間も出てきてしまう。

 ならばどうする。
 アリッサの姉だけ奪い取って行くのは難しくない。
 だがそれでは、これからも被害を受けてしまう人間が出てきてしまうだろう。

 かといってこいつを無力化――あるいは始末してしまえば、こいつに救われた人は、また一星宗の抑圧に耐える生活を強いられてしまう。

 ダッタの武力があれば、こういった場を潰すのはわけない。
 今日は逃げ帰ってダッタが戻って来たタイミングで制圧しに行けばいい。
 達成しようと思えば、勝利条件はすぐに達成できる。

 だがそれでは誰も幸せになれない。

 誰もが救われるなら。

 問題はこれだ。

 誰もが救われるなら――

「それは違うな」

 俺はエフィをどかしながら立ち上がった。

「んああっ」

 その拍子にエフィはなまめかしい声を上げる。

「もっと強く、汚いものを遠ざけるように突き飛ばしてください!」

 欲望に負けるな俺。平常心、平常心……。

 そう、誰もが救われるとするならば――こいつの《コズミック》を超える存在を、この場にいる全員にわからせるしかない。

「違うとは?」

「なぜなら、コズミック、アケアロス……そんなものよりも偉大な存在を知っているからだ」

 今ここで、ニクネーヴィンとこの場にいる全員を説得する!
 誰もが救われるには、こいつらを全員言いくるめるしかない!

「ミナナゴこそ偉大なる神。俺はその使い。いや、ミナナゴの子エンだ」

 ここでなにか言い争いが起こっていることを察したメルヴィ以外のカップルたちが、こちらに注視する。
 たしかに一部のものを除いて、正気を保っているらしい。

 ニクネーヴィンは大仰に手を広げて反論する。

「ミナナゴ神の使い? 意味がわかりませんね! だいたい、ミナナゴとは一星宗の聖典に出てくる七大悪魔の一柱でしょう? 神ではない! 大いなる存在からも遠い存在!」

「証拠を見せよう」

 俺はポケットに入れていたゲッカレイメイで、足元に見えない盾を作った。

 それから盾を操り、俺を乗せながら徐々に上昇させる。

 盾は周囲には見えない。俺が突然宙に浮きだしたように見えているだろう。

 天井に頭がつくくらいにまで上昇すると、

「なんですって……!? 空中に、浮いて……!?」

 ニクネーヴィンは唖然として、見えない盾に持ち上げられている俺を見上げた。

「これぞ神の力だ」

 おお、と周囲から感嘆の声が上がる。

 盛り上がっている一部を除いて、空気が変わった。

「コズミックなどに頼っていては実現できまい」

 冷や汗が垂れる。

 き、きつい。

 人間一人持ち上げるのは、さすがに盾の領分じゃない。
 攻撃扱いになってないから消えないのだけが救いだ。

 ニクネーヴィンは、驚愕に顔を歪めながら取り乱す。

「……どこも光ってはいない。なにかしらの法具を使っているわけではないのか。糸とかで吊るしているわけでもない。では、どうやって……!?」

「法具など使っているはずがない。これが奇跡だ。目の当たりにしている光景がすべて」

「そんな馬鹿な!」

「――ミナナゴ神はこう言っている。自由恋愛はいい。だが催淫薬をよりどころにするくらいなら、ミナナゴを支えにせよ、と。ミナナゴ神なら、お前たちの行為を許してくれるのだ」

 全部呑み込んでやる。

 こいつらの、薬に頼らなければいけないほどの弱い心を、すべて、ミナナゴの信仰で塗りつぶす!

「ま、まさか、嘘だ、なにか仕掛けがあるはずだ。奇跡など、奇跡など作られたトリックに過ぎない……!」

 ニクネーヴィンはかぶりを振る。

 そうだ。いい線いっている。
 限られた情報で真実に辿り着こうとする冷静さと洞察力がある。やはりこいつ頭がいいな。

 だが――。

「なんだったらお前だって浮かせられるぞ、ニクネーヴィン」

 指差して言い放つ。

 見破れはしまい。
 プロヴィデンスという力の存在など。俺だっていまだに信じられないんだからな。

 降りてきた俺は、そのまま同じようにニクネーヴィンを浮かせようと再び見えない盾を作り出した。

 そのとき――

「――ぐっ!?」

 けたたましい音がしたと思ったら、ニクネーヴィンの肩に一本の矢が突き刺さった。

「何だ!?」

 窓だ。
 窓ガラスが割られている。

 おそらくそこから飛来した矢に射られたのだ。

「襲撃だ! 一星宗だ!」

 突然誰かが叫んだと同時に、悲鳴が室内をつんざいた。
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