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一章
第18話 騎士団の隊長
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「でも、サリヴィアさんにそんなことまでさせられません」
マヤは妙にかしこまってちぢこまった。
「遠慮はいらないと言っているだろう?それにこれは正式な依頼だ」
「でも……」
「家に招いたときも言ったが、私の身分など気にする必要はないぞ」
「身分?」
俺は二人の話に口を挟む。
マヤは困ったような顔をして頷いた。
「そうなんですよコーラルさん。サリヴィアさんは貴族の方なんです。本来なら私なんてお話するどころか近づくことさえ、お目にいれることさえできない方なんですよ。お家に入れてもらいましたけど、なんかもうすごいお屋敷で、メイドさんもいっぱいいて……私とは全然住む世界が違うんですよう!」
「なるほど。だからマヤは妙に申し訳なさそうにしていたのだな」
こちらの世界でも貴族と平民では天と地の差があるらしいな。
サリヴィアはそういう鼻持ちならない感じはおくびにも出していないが。
「ああ、たしかに私は貴族家の娘だが、この通り好き勝手している」
サリヴィアは気楽そうに首肯した。
「父が城付きの役人というだけだ。そのへんの町娘とあつかいなんて変わらなくていい」
「本人がこう言ってるんだからいいんじゃないか?」
遠慮しがちなマヤに言う。
「コーラルさんは気にしなさすぎなんです!」
「しかしサリヴィアなら、礼を欠いたら打ち首とかそういう理不尽なふるまいなんてないだろう?」
「いや、そうでしょうけど……」
魔界にもいたなあ。平民をゴミと同じみたいに思ってるやつが。
「それ以上にマヤは友だ。態度を変えるなど、そんな失礼なことできるわけがない。マヤはそうじゃないのか?」
サリヴィアが言うと、マヤも少し照れ臭そうに笑った。
「そう言ってもらえると、私も気が楽ですけど……」
話していると、ラミナがぴくりと反応し目を開けた。
「おじ」
「どうした?」
「誰か来る」
広場でたむろしている俺たちに、馬に乗った鎧姿の男が護衛の兵と共に近づいてきた。
「――サリヴィアか?」
鎧姿の男が言った。
サリヴィアに良く似た暗いブロンドの髪をした美丈夫だった。腰に長剣を差している。
鎧もよく磨かれており、一目で良いものだとわかる。相当高価なものなのだろう。
「ウォフナー兄様」
と驚いたようにサリヴィアは張りのない声を漏らした。
……兄様?
サリヴィアの兄上――ウォフナーは俺たちを見下すように一瞥すると、サリヴィアに向き直った。
「今日も冒険者の真似事かサリヴィア」
「……兄様こそ、こんな所でどうしたのです」
「空いた時間で軽く町を見回りしていたところだ。すぐに城に戻る」
「騎士団でも千人隊長のあなたがする仕事ではないでしょう」
「ここのところ兵たちの怠惰が目立つ。私が見ていたのはそちらの方だ」
「それも他のものに任せたらよいのでは?」
「任せたものが怠けるかもしれないだろう」
兄上は終始仏頂面というか、表情を引き結んで話していた。
厳格そうな兄上だな。
所領を守る騎士団の千人隊長か……。
騎士団全体の規模はわからんが、隊長でしかも千人規模を束ねているとなると一定以上の地位に違いない。
魔界でいう将軍レベルくらいか。
まあ貴族の息子ならばお飾りの可能性もあるが――ウォフナーの場合はそうではなさそうだ。
その者が強いかどうかはある程度所作や雰囲気に表れる。
器としては、十分大勢の前に立てるだけのものを備えているように見える。
だが……話しているのを聞いているとあまり下の者を信頼しているという感じではないようだな。
「部下を信用するのも上に立つ者のつとめだと思うがな」
俺が横から挨拶がわりに言ったが、見向きもされなかった。
「サリヴィア、例の話、ゆめゆめ忘れるな」
「わかっております。しかし、それまでは……」
「残り少ない時間せいぜい楽しんでおけ」
ウォフナーが去ると、サリヴィアはため息混じりに脱力した。
マヤは妙にかしこまってちぢこまった。
「遠慮はいらないと言っているだろう?それにこれは正式な依頼だ」
「でも……」
「家に招いたときも言ったが、私の身分など気にする必要はないぞ」
「身分?」
俺は二人の話に口を挟む。
マヤは困ったような顔をして頷いた。
「そうなんですよコーラルさん。サリヴィアさんは貴族の方なんです。本来なら私なんてお話するどころか近づくことさえ、お目にいれることさえできない方なんですよ。お家に入れてもらいましたけど、なんかもうすごいお屋敷で、メイドさんもいっぱいいて……私とは全然住む世界が違うんですよう!」
「なるほど。だからマヤは妙に申し訳なさそうにしていたのだな」
こちらの世界でも貴族と平民では天と地の差があるらしいな。
サリヴィアはそういう鼻持ちならない感じはおくびにも出していないが。
「ああ、たしかに私は貴族家の娘だが、この通り好き勝手している」
サリヴィアは気楽そうに首肯した。
「父が城付きの役人というだけだ。そのへんの町娘とあつかいなんて変わらなくていい」
「本人がこう言ってるんだからいいんじゃないか?」
遠慮しがちなマヤに言う。
「コーラルさんは気にしなさすぎなんです!」
「しかしサリヴィアなら、礼を欠いたら打ち首とかそういう理不尽なふるまいなんてないだろう?」
「いや、そうでしょうけど……」
魔界にもいたなあ。平民をゴミと同じみたいに思ってるやつが。
「それ以上にマヤは友だ。態度を変えるなど、そんな失礼なことできるわけがない。マヤはそうじゃないのか?」
サリヴィアが言うと、マヤも少し照れ臭そうに笑った。
「そう言ってもらえると、私も気が楽ですけど……」
話していると、ラミナがぴくりと反応し目を開けた。
「おじ」
「どうした?」
「誰か来る」
広場でたむろしている俺たちに、馬に乗った鎧姿の男が護衛の兵と共に近づいてきた。
「――サリヴィアか?」
鎧姿の男が言った。
サリヴィアに良く似た暗いブロンドの髪をした美丈夫だった。腰に長剣を差している。
鎧もよく磨かれており、一目で良いものだとわかる。相当高価なものなのだろう。
「ウォフナー兄様」
と驚いたようにサリヴィアは張りのない声を漏らした。
……兄様?
サリヴィアの兄上――ウォフナーは俺たちを見下すように一瞥すると、サリヴィアに向き直った。
「今日も冒険者の真似事かサリヴィア」
「……兄様こそ、こんな所でどうしたのです」
「空いた時間で軽く町を見回りしていたところだ。すぐに城に戻る」
「騎士団でも千人隊長のあなたがする仕事ではないでしょう」
「ここのところ兵たちの怠惰が目立つ。私が見ていたのはそちらの方だ」
「それも他のものに任せたらよいのでは?」
「任せたものが怠けるかもしれないだろう」
兄上は終始仏頂面というか、表情を引き結んで話していた。
厳格そうな兄上だな。
所領を守る騎士団の千人隊長か……。
騎士団全体の規模はわからんが、隊長でしかも千人規模を束ねているとなると一定以上の地位に違いない。
魔界でいう将軍レベルくらいか。
まあ貴族の息子ならばお飾りの可能性もあるが――ウォフナーの場合はそうではなさそうだ。
その者が強いかどうかはある程度所作や雰囲気に表れる。
器としては、十分大勢の前に立てるだけのものを備えているように見える。
だが……話しているのを聞いているとあまり下の者を信頼しているという感じではないようだな。
「部下を信用するのも上に立つ者のつとめだと思うがな」
俺が横から挨拶がわりに言ったが、見向きもされなかった。
「サリヴィア、例の話、ゆめゆめ忘れるな」
「わかっております。しかし、それまでは……」
「残り少ない時間せいぜい楽しんでおけ」
ウォフナーが去ると、サリヴィアはため息混じりに脱力した。
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