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一章
第31話 そしてたどり着いた敵地
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俺たちが戻ってくると、膝立ちで魔物を撫でていたサリヴィアが顔を上げた。
なごんでおるなあ。
「お話長かったですね。何を話されていたのです?」
「サリヴィア、お前は城壁周りを探してくれ」
ウォフナーがサリヴィアの質問に答えずに言った。
「それは、かまいませんが。コーラルどのの魔法でこれから敵の居場所が知れるのでは?」
サリヴィアはきょとんとしている。
なるほど、なるべく遠ざけたい、ということか。
「すまんなサリヴィア。この魔法も確実なものではないのだ。だから結局分散して見回りしたほうが早い、ということになった」
俺はウォフナーに助け船を出す。
「そ、そうなのか?」
「そのかわり、わかったらすぐにラミナに知らせに行かせる」
サリヴィアは、なにか煮えきらない表情。
二つ返事ではうなずけないといった様子だ。
外側の城壁を見やりながら、サリヴィアはつぶやいた。
「しかしここからだと遠いなあ」
「私の馬を使え」
「兄様、しかし――」
なかば無理矢理馬に乗せて、さらにラミナの空間転移でもってサリヴィアを安全そうな城壁付近に行かせた。
「巻き込みたくない、か。妹思いよなあ」
「……無駄な口は利かん。行くぞ」
魔物に命令を与え直す。
走り出す魔物を俺とラミナとウォフナーが追う。
「いちおう魔物に案内させるが、場所は知っておるのだろうな?」
「無論。しかし、他言無用だ」
「心配するな」
「……ひとつコーラルに聞きたい」
「何をだ?」
「魔物の出所だ。なぜ人間がここまでの戦力を用意できる?」
「そこまでは知らなんだか」
「具体的な方法まではな」
ここで知らない振りをしたほうが俺が魔族だと疑われないのだろうが……まあよいわ。
情報は出しあった方がよかろう。
「……これは俺の想像になるが、おそらくあれはもともと魔物ではない」
「魔物では、ない?」
「あれを魔物とするには疑問点が二つある。ひとつはあれだけの魔物をどこから持ってきたのか。もうひとつはなぜ食ったら旨かったのか」
「最後のがよくわからんが、話を聞こう」
「この二点から推察するに、あれはもともと犬や猫、鳥などの獣だったのではないか。そのへんにいる獣を素材にして魔物を作り出したのだ」
飲み屋の客引きも、この周辺の魔物ではないと言っているからな。
魔界から運んできた説はその味からして根本的に否定できる。
否定できる断固として。
「それが、貴様の故郷の技術を使ってできると?魔力のない者でもか?」
「……そういうことだ。魔力の込めてある魔法石を使うとかな。しかしそうなってくると、その道具の入手先が気になるわけだ」
境界戦争時代の遺物だとは思うんだが……
拾ったのか?
それとも密かに流通しているのか?
――もしくは誰かから貰い受けたのか?
「ついたぞ。ここだ」
話していると、ウォフナーが言って立ち止まった。
目の前には庭付きの大きな屋敷があった。
たしかに魔物もそこへ入ろうとしている。
閉まっている格子の門を開けようと前足を出しているが、門は開かない。
「ほう、ここが。やはり貴族の家だったか」
「ああ」
ウォフナーがうなずき、
「そしてここは――」
唇を噛んだ。
「私とサリヴィアが住んでいる家でもある」
「ほう?では――」
なるほど、内密に処理したいわけだ。
「そうだ。騒動の原因は、我が父にある」
――屋敷に入ると、中は静かなものだった。
まるで魔物を中で飼っているとは思えないほどだ。
こないだの魔物による破壊活動の被害がなかったのもあるのだろう。
燭台やシャンデリアにともされた火があるので廊下も明るい。
絨毯も引いてあって瀟洒な印象を受ける。
「おかえりなさい、ウォフナー。……その御仁はどなたなのです?」
屋敷の中を歩いていると、ウォフナーの母親らしい女性と出くわした。
優しげな印象で、サリヴィアに少しにている。
「私が新しく雇い入れた男です、母上。少し屋敷の中を案内していきます」
「まあ、そうでしたの。ずいぶん大柄な方ですのね」
「護衛にちょうどよいかと思いまして」
「では、そちらの女の子は……?」
「この男の娘です。少し事情があって、一緒に連れてきました」
「まあ、そうでしたの」
「ところで父上は帰られていますか? 挨拶をしたいのですが」
「ええ。たぶん部屋にいると思いますよ」
「わかりました。ありがとうございます母上」
俺とラミナの存在をうまくごまかしながら、自然と別れる。
屋敷の中の共用部分はとくに異常はないようだ。
……本命は父上の部屋っぽいな。
父上――ブックメリア卿の部屋の前に着く。
ノックせずにドアを開けようとするが、開かなかった。
中から閂か何かしてあるのだろう。
「開かないな」
「まあ任せろ」
俺は言うとドアノブに手をかける。
「魔法か?……開錠の呪文もあるのか。さすがだな」
「いや……」
俺は力任せにドアを押す。
「ふぬっ!」
みしみしと木製のドアが軋み、ひときわ大きい音がしたあと閂や留め具を破壊した。
「鍵開けは無理矢理いわすに限る」
「そ、そうか……」
眉間にしわが寄って表情がひきつってるみたいだが、なんでそんな引いてるんだ?
なごんでおるなあ。
「お話長かったですね。何を話されていたのです?」
「サリヴィア、お前は城壁周りを探してくれ」
ウォフナーがサリヴィアの質問に答えずに言った。
「それは、かまいませんが。コーラルどのの魔法でこれから敵の居場所が知れるのでは?」
サリヴィアはきょとんとしている。
なるほど、なるべく遠ざけたい、ということか。
「すまんなサリヴィア。この魔法も確実なものではないのだ。だから結局分散して見回りしたほうが早い、ということになった」
俺はウォフナーに助け船を出す。
「そ、そうなのか?」
「そのかわり、わかったらすぐにラミナに知らせに行かせる」
サリヴィアは、なにか煮えきらない表情。
二つ返事ではうなずけないといった様子だ。
外側の城壁を見やりながら、サリヴィアはつぶやいた。
「しかしここからだと遠いなあ」
「私の馬を使え」
「兄様、しかし――」
なかば無理矢理馬に乗せて、さらにラミナの空間転移でもってサリヴィアを安全そうな城壁付近に行かせた。
「巻き込みたくない、か。妹思いよなあ」
「……無駄な口は利かん。行くぞ」
魔物に命令を与え直す。
走り出す魔物を俺とラミナとウォフナーが追う。
「いちおう魔物に案内させるが、場所は知っておるのだろうな?」
「無論。しかし、他言無用だ」
「心配するな」
「……ひとつコーラルに聞きたい」
「何をだ?」
「魔物の出所だ。なぜ人間がここまでの戦力を用意できる?」
「そこまでは知らなんだか」
「具体的な方法まではな」
ここで知らない振りをしたほうが俺が魔族だと疑われないのだろうが……まあよいわ。
情報は出しあった方がよかろう。
「……これは俺の想像になるが、おそらくあれはもともと魔物ではない」
「魔物では、ない?」
「あれを魔物とするには疑問点が二つある。ひとつはあれだけの魔物をどこから持ってきたのか。もうひとつはなぜ食ったら旨かったのか」
「最後のがよくわからんが、話を聞こう」
「この二点から推察するに、あれはもともと犬や猫、鳥などの獣だったのではないか。そのへんにいる獣を素材にして魔物を作り出したのだ」
飲み屋の客引きも、この周辺の魔物ではないと言っているからな。
魔界から運んできた説はその味からして根本的に否定できる。
否定できる断固として。
「それが、貴様の故郷の技術を使ってできると?魔力のない者でもか?」
「……そういうことだ。魔力の込めてある魔法石を使うとかな。しかしそうなってくると、その道具の入手先が気になるわけだ」
境界戦争時代の遺物だとは思うんだが……
拾ったのか?
それとも密かに流通しているのか?
――もしくは誰かから貰い受けたのか?
「ついたぞ。ここだ」
話していると、ウォフナーが言って立ち止まった。
目の前には庭付きの大きな屋敷があった。
たしかに魔物もそこへ入ろうとしている。
閉まっている格子の門を開けようと前足を出しているが、門は開かない。
「ほう、ここが。やはり貴族の家だったか」
「ああ」
ウォフナーがうなずき、
「そしてここは――」
唇を噛んだ。
「私とサリヴィアが住んでいる家でもある」
「ほう?では――」
なるほど、内密に処理したいわけだ。
「そうだ。騒動の原因は、我が父にある」
――屋敷に入ると、中は静かなものだった。
まるで魔物を中で飼っているとは思えないほどだ。
こないだの魔物による破壊活動の被害がなかったのもあるのだろう。
燭台やシャンデリアにともされた火があるので廊下も明るい。
絨毯も引いてあって瀟洒な印象を受ける。
「おかえりなさい、ウォフナー。……その御仁はどなたなのです?」
屋敷の中を歩いていると、ウォフナーの母親らしい女性と出くわした。
優しげな印象で、サリヴィアに少しにている。
「私が新しく雇い入れた男です、母上。少し屋敷の中を案内していきます」
「まあ、そうでしたの。ずいぶん大柄な方ですのね」
「護衛にちょうどよいかと思いまして」
「では、そちらの女の子は……?」
「この男の娘です。少し事情があって、一緒に連れてきました」
「まあ、そうでしたの」
「ところで父上は帰られていますか? 挨拶をしたいのですが」
「ええ。たぶん部屋にいると思いますよ」
「わかりました。ありがとうございます母上」
俺とラミナの存在をうまくごまかしながら、自然と別れる。
屋敷の中の共用部分はとくに異常はないようだ。
……本命は父上の部屋っぽいな。
父上――ブックメリア卿の部屋の前に着く。
ノックせずにドアを開けようとするが、開かなかった。
中から閂か何かしてあるのだろう。
「開かないな」
「まあ任せろ」
俺は言うとドアノブに手をかける。
「魔法か?……開錠の呪文もあるのか。さすがだな」
「いや……」
俺は力任せにドアを押す。
「ふぬっ!」
みしみしと木製のドアが軋み、ひときわ大きい音がしたあと閂や留め具を破壊した。
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「そ、そうか……」
眉間にしわが寄って表情がひきつってるみたいだが、なんでそんな引いてるんだ?
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