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四章
第103話 戦利品を手に入れたが
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氷の槍が降り注ぐ。
俺は片手で猫を抱きつつ、もう片手で魔法印を展開した。
召喚したのは、同じような氷の槍。
だが魔力の練度を上げて魔法を強化した。室内は一気に、氷点下ほどに寒くなる。
俺が召喚した氷の槍は、迫りくる氷の槍を残らず粉砕し、その勢いのまま男のもとへ。
「ちっ!」
男はとっさに魔力障壁で防御するも、
「無駄だ。そんな防御ではな」
その防御ごと氷の槍が男を襲った。
「何――ぬあああっ!?」
魔法の刃が部屋一帯を男ごと穿ち貫く。
かまどや木机が砕け散り、破片が宙を舞う中、男は倒れた。
急所は外しておいた。が、立ち上がれないほどには負傷させた。
「相手と実力差がある場合は、周囲を凍らせたり床にまいた水を凍らせたりして相手の動きを制限させるのが、氷魔法の有効な利用法だ。ちなみに、この程度の魔力と魔法なら肉体の魔力耐性だけでほとんど防げる。ここにいる奴らなら全員何もしなくても無傷で済むだろう。服破れるのが嫌だから防御してるだけだ」
「な、何者だ、貴様……! こんな魔法の使い手、我が組織にも、精霊教会にも、見たことが……」
「いやいや知っているはずだぞ。お前が魔王の部下だというのなら」
「……は?」
男は、わかっていない様子で眉根を寄せる。
俺は悪い笑顔で首をひねる。
「魔王の部下なら、俺のことを知らんはずはないんだがなあ」
「貴様……何を知っている?いや、何を言っているのだ?」
「本当に知らんのか?」
「知っているはずがなかろうが!」
「いかんなあ。魔王軍は上下関係厳しいから、そんな態度だと幹部のリィサやラミナに殺されるぞ」
男をからかっていると、
「いや、そんなことしませんって」
「父上、遊ぶのもいい加減にしてください」
本物の魔王とその部下から抗議が入った。
仕方ないので、俺は、うめきながら無理に立ち上がろうとする男に問いただす。
「で、お前は《魔王》直属の部下なのか?そもそも《魔王》とは?」
黒猫が俺の手から離れた。
それから、皮袋に入った家族らしき猫の死体を見つけ、近くに座りこんで、鼻を近づけながらじっと見つめた。
「さあな」
「《魔王》の拠点はどこにある?」
「ふん、教えるわけがなかろう」
「…………」
連れ帰って無理やり聞き出してもいいが、治癒の魔法薬がもったいないし、そこまでしても口を割らなさそうだな。
帰り際に衛兵にでも突き出してもいいが……犯罪の証拠がない。
魔法薬を作るのは罪かどうかは微妙だしな。
「ぐあっ」
俺は相手の頭に蹴りを入れて気絶させた。
とりあえずここにいる全員縛っておくか。
「……よし、縛り終えたら、残ってる証拠を回収してずらかるぞ」
とはいっても、証拠は逃げた男たちがあらかた回収してしまっていた。
黒猫の家族の死体は取り戻せたので無駄ではなかったが。
思っていると、リィサは得意げな顔をする。
「そう言うと思って、彼らが逃げる前、《黒影召喚》で魔法薬っぽいのを一つくすねておきました」
「おおっ」
リィサの手には、たしかに魔法薬らしきものが握られていた。いつの間に。
「ふふん、褒めてくれてもいいですよ」
「えらいぞ。えらいが、どうせなら羊皮紙の方を盗んでくれよ」
「とっさのことだったし、そっちは最優先で持ち出されてたんで無理でした……」
「まあいい。あとで飲んでどんなのか確かめてみるか」
「飲むんですか」
「人間界産の魔法薬だぞ。味に期待できる」
「いやいや、得体がしれないものよく飲もうと思いますね!おいしそうって期待感だけで!そもそも魔法薬って薬ですよ!?」
リィサが声を荒げて、ダストがしきりにうなずいている。
いや、俺もこちらに来たばかりのころは得体のしれないものは警戒していたが、もはやその気持ちも薄れてきている。
絶対うまいから。魔法薬だろうと。
「……ん?」
ふと床を見ると、
「それにこれは、魔法石か?」
魔法石らしきものが一つ落ちているのを見つけた。
先ほど黒猫がとびかかったときに、男たちが落としていったもののようだ。
「リィサ、何の魔法石だ?」
「いや、これは、見たことがない魔法印ですね……」
専門家でもあるリィサも首を傾げていた。
「まあ、試しに魔力を流してみればわかるか」
「だからよく試してみる気になりますね。少しは躊躇してください」
俺は気軽な気持ちで、透き通るような空色の魔法石に魔力を流す。
使い方は魔界のものと同じだ。
魔力を流された魔法石が輝きだし、効力を発揮する。
「なっ……!?」
俺は短く声を上げた。
空間に、小さく穴があいた。
はじめは小石程度の穴だったものが、魔力を流していくうち、扉ほどまで広がる。
「――――!」
その光景を見たことのある全員が絶句し、瞬間、俺は魔法石に魔力を流すのをやめていた。
穴が一瞬にして閉じる。
「嘘でしょう……!?」
リィサが震える声で、どうにかそれだけ発した。
「…………」
ラミナも目を丸くしている。
穴の先には、俺とラミナにとっては少し懐かしい光景が広がっていた。
暗雲たちこめる空、乾いた大地に生える歪な樹木でできた森、漂う瘴気と腐臭と死の気配。慣れ親しんだ光景だ。
「……全員が見ていたなら、間違いないですね。それが幻や白昼夢でなければ」
とダストも眉間に指をあてて、悩ましげに目を伏せた。
――《魔王》とその配下たちは、とんでもないものを作っていたようだ。
「マジか……どう見ても魔界の風景だったぞ」
空間に空いた穴は俺たちの故郷である魔界に繋がっていた。
それは世界と世界の境界を開く――世界間転移の魔法と同じ効果を持った魔法石だった。
俺は片手で猫を抱きつつ、もう片手で魔法印を展開した。
召喚したのは、同じような氷の槍。
だが魔力の練度を上げて魔法を強化した。室内は一気に、氷点下ほどに寒くなる。
俺が召喚した氷の槍は、迫りくる氷の槍を残らず粉砕し、その勢いのまま男のもとへ。
「ちっ!」
男はとっさに魔力障壁で防御するも、
「無駄だ。そんな防御ではな」
その防御ごと氷の槍が男を襲った。
「何――ぬあああっ!?」
魔法の刃が部屋一帯を男ごと穿ち貫く。
かまどや木机が砕け散り、破片が宙を舞う中、男は倒れた。
急所は外しておいた。が、立ち上がれないほどには負傷させた。
「相手と実力差がある場合は、周囲を凍らせたり床にまいた水を凍らせたりして相手の動きを制限させるのが、氷魔法の有効な利用法だ。ちなみに、この程度の魔力と魔法なら肉体の魔力耐性だけでほとんど防げる。ここにいる奴らなら全員何もしなくても無傷で済むだろう。服破れるのが嫌だから防御してるだけだ」
「な、何者だ、貴様……! こんな魔法の使い手、我が組織にも、精霊教会にも、見たことが……」
「いやいや知っているはずだぞ。お前が魔王の部下だというのなら」
「……は?」
男は、わかっていない様子で眉根を寄せる。
俺は悪い笑顔で首をひねる。
「魔王の部下なら、俺のことを知らんはずはないんだがなあ」
「貴様……何を知っている?いや、何を言っているのだ?」
「本当に知らんのか?」
「知っているはずがなかろうが!」
「いかんなあ。魔王軍は上下関係厳しいから、そんな態度だと幹部のリィサやラミナに殺されるぞ」
男をからかっていると、
「いや、そんなことしませんって」
「父上、遊ぶのもいい加減にしてください」
本物の魔王とその部下から抗議が入った。
仕方ないので、俺は、うめきながら無理に立ち上がろうとする男に問いただす。
「で、お前は《魔王》直属の部下なのか?そもそも《魔王》とは?」
黒猫が俺の手から離れた。
それから、皮袋に入った家族らしき猫の死体を見つけ、近くに座りこんで、鼻を近づけながらじっと見つめた。
「さあな」
「《魔王》の拠点はどこにある?」
「ふん、教えるわけがなかろう」
「…………」
連れ帰って無理やり聞き出してもいいが、治癒の魔法薬がもったいないし、そこまでしても口を割らなさそうだな。
帰り際に衛兵にでも突き出してもいいが……犯罪の証拠がない。
魔法薬を作るのは罪かどうかは微妙だしな。
「ぐあっ」
俺は相手の頭に蹴りを入れて気絶させた。
とりあえずここにいる全員縛っておくか。
「……よし、縛り終えたら、残ってる証拠を回収してずらかるぞ」
とはいっても、証拠は逃げた男たちがあらかた回収してしまっていた。
黒猫の家族の死体は取り戻せたので無駄ではなかったが。
思っていると、リィサは得意げな顔をする。
「そう言うと思って、彼らが逃げる前、《黒影召喚》で魔法薬っぽいのを一つくすねておきました」
「おおっ」
リィサの手には、たしかに魔法薬らしきものが握られていた。いつの間に。
「ふふん、褒めてくれてもいいですよ」
「えらいぞ。えらいが、どうせなら羊皮紙の方を盗んでくれよ」
「とっさのことだったし、そっちは最優先で持ち出されてたんで無理でした……」
「まあいい。あとで飲んでどんなのか確かめてみるか」
「飲むんですか」
「人間界産の魔法薬だぞ。味に期待できる」
「いやいや、得体がしれないものよく飲もうと思いますね!おいしそうって期待感だけで!そもそも魔法薬って薬ですよ!?」
リィサが声を荒げて、ダストがしきりにうなずいている。
いや、俺もこちらに来たばかりのころは得体のしれないものは警戒していたが、もはやその気持ちも薄れてきている。
絶対うまいから。魔法薬だろうと。
「……ん?」
ふと床を見ると、
「それにこれは、魔法石か?」
魔法石らしきものが一つ落ちているのを見つけた。
先ほど黒猫がとびかかったときに、男たちが落としていったもののようだ。
「リィサ、何の魔法石だ?」
「いや、これは、見たことがない魔法印ですね……」
専門家でもあるリィサも首を傾げていた。
「まあ、試しに魔力を流してみればわかるか」
「だからよく試してみる気になりますね。少しは躊躇してください」
俺は気軽な気持ちで、透き通るような空色の魔法石に魔力を流す。
使い方は魔界のものと同じだ。
魔力を流された魔法石が輝きだし、効力を発揮する。
「なっ……!?」
俺は短く声を上げた。
空間に、小さく穴があいた。
はじめは小石程度の穴だったものが、魔力を流していくうち、扉ほどまで広がる。
「――――!」
その光景を見たことのある全員が絶句し、瞬間、俺は魔法石に魔力を流すのをやめていた。
穴が一瞬にして閉じる。
「嘘でしょう……!?」
リィサが震える声で、どうにかそれだけ発した。
「…………」
ラミナも目を丸くしている。
穴の先には、俺とラミナにとっては少し懐かしい光景が広がっていた。
暗雲たちこめる空、乾いた大地に生える歪な樹木でできた森、漂う瘴気と腐臭と死の気配。慣れ親しんだ光景だ。
「……全員が見ていたなら、間違いないですね。それが幻や白昼夢でなければ」
とダストも眉間に指をあてて、悩ましげに目を伏せた。
――《魔王》とその配下たちは、とんでもないものを作っていたようだ。
「マジか……どう見ても魔界の風景だったぞ」
空間に空いた穴は俺たちの故郷である魔界に繋がっていた。
それは世界と世界の境界を開く――世界間転移の魔法と同じ効果を持った魔法石だった。
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