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大文豪
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家賃数万のボロアパートで私は小説を書く。
誰もが望んだ幸せを手にして
仕事を選び、家族を作り、子を産み育て、孫と遊び
最後は家族友人親戚に囲まれて穏やかに死ぬ。
そんなSFばかり、私は書いてる。
とうとう秘蔵のネタも尽きた私は日の沈みかけた空に気づいて、四角い照明の紐を引っ張った。
「もうそろ切れそうだ」
照明の紐は煙草で黄ばんで先がほつれてる。
フィラメント今にも燃え尽きてしまいそうだ。
そうやってぷつぷつと点滅しそうな照明を眺めてたら、呼び出しベルが鳴った。
我に返った私が戸を開くと、
そこには少しぽっちゃりとした少女がいた。
「ふん…」
小説家の性なのか、少女を躊躇わず眺めて
私なりに考察をした。
縁のない眼鏡、整った童顔、謙虚な立ち姿
そして少女は原稿用紙が入っているであろう
大きめの封筒を脇に抱えていた。
すぐ分かった。この子は私の編集者だ。
「入りたまえ」
少女は驚きつつも、すっと入ってきた。
私のボロアパートは客間がないので、仕事部屋兼寝室へ招いた。
「何か飲むかね?」
少女は緊張してるのか、小さく頷いたように見えた。
隣の部屋の台所の棚を漁ってみると新品の紅茶パックを見つけた。
しかし私は紅茶など入れたことは無かった。
箱の説明を読み、あれこれ試行錯誤して作った紅茶は色も味も匂いも薄かった。
いつ買ったかも分からない紅茶を入れたので
パックには穴が空いていた。
茶柱のように茶葉が無数浮いてきた。
しばらく見つめて入れ直そうと思ったが
待たせるのも悪いと思って、
もうしょうがないから仕方なくこれを出した。
少女はふっと笑い、微かに香る紅茶を一口飲んだ。
ころん、ころん、ころん。
口に合わなかったのか、角砂糖を何個も入れてた。
「あまり美味しくなかったかい?」
「いいえ。とても美味しい」
少女は初めて口を開いた。
「先生、あたしは先生の編集になりたいのです」
唐突に少女は声を張った。
なんと、この子は編集ではなかったのか。
当然、こんな時間に少女を自宅に連れ込むのは良くないなんて事は分かっている。
「君、いくつだね?」
「26です」
驚いた。16、7にしか見えないじゃないか。
「本当かい?大人をからかうんじゃあないよ」
そう言うと少女は免許証を見せつけてきた。
本当に26だった。私と3歳差だ。信じ難い。
他人から見れば私はただの小汚い男なのだが、
一応小説家である。スキャンダル諸々は御免だ。
「日を改めたまえ。パパラッチはどこで見てるか分からないからな。」
言うが、少女は聞く耳を持たない。
少女は目を見開いて私を見てる。
見てる。見ている。ずっと見ている。
何も言わず、ずっと見ている。
少女の熱意に負けた私はしぶしぶ少女を編集者として雇ってしまった。
なぜならもう小説家としてやりたいことも書くことも
無くなったから、いっそ終わらせようと考えたから。
ちょうど、茶葉混じりの薄い紅茶が無くなったので私は新しい紅茶を入れに台所へ向かった。
次はまともに入れようと気合を入れた。今度の紅茶はとても濃くなった。夕暮れみたいに赤く、激しく香る濃い紅茶を少女はちびちびと少しずつ飲んだ。
そうして紅茶を入れるのが上達してきた頃
すっかり朝日が向かいのビルから顔を出してた。
少女は思い出したかのように慌てて
帰り支度を始めた。
「お邪魔しました」
一礼をして少女はボロアパートを出た。
誰もが望んだ幸せを手にして
仕事を選び、家族を作り、子を産み育て、孫と遊び
最後は家族友人親戚に囲まれて穏やかに死ぬ。
そんなSFばかり、私は書いてる。
とうとう秘蔵のネタも尽きた私は日の沈みかけた空に気づいて、四角い照明の紐を引っ張った。
「もうそろ切れそうだ」
照明の紐は煙草で黄ばんで先がほつれてる。
フィラメント今にも燃え尽きてしまいそうだ。
そうやってぷつぷつと点滅しそうな照明を眺めてたら、呼び出しベルが鳴った。
我に返った私が戸を開くと、
そこには少しぽっちゃりとした少女がいた。
「ふん…」
小説家の性なのか、少女を躊躇わず眺めて
私なりに考察をした。
縁のない眼鏡、整った童顔、謙虚な立ち姿
そして少女は原稿用紙が入っているであろう
大きめの封筒を脇に抱えていた。
すぐ分かった。この子は私の編集者だ。
「入りたまえ」
少女は驚きつつも、すっと入ってきた。
私のボロアパートは客間がないので、仕事部屋兼寝室へ招いた。
「何か飲むかね?」
少女は緊張してるのか、小さく頷いたように見えた。
隣の部屋の台所の棚を漁ってみると新品の紅茶パックを見つけた。
しかし私は紅茶など入れたことは無かった。
箱の説明を読み、あれこれ試行錯誤して作った紅茶は色も味も匂いも薄かった。
いつ買ったかも分からない紅茶を入れたので
パックには穴が空いていた。
茶柱のように茶葉が無数浮いてきた。
しばらく見つめて入れ直そうと思ったが
待たせるのも悪いと思って、
もうしょうがないから仕方なくこれを出した。
少女はふっと笑い、微かに香る紅茶を一口飲んだ。
ころん、ころん、ころん。
口に合わなかったのか、角砂糖を何個も入れてた。
「あまり美味しくなかったかい?」
「いいえ。とても美味しい」
少女は初めて口を開いた。
「先生、あたしは先生の編集になりたいのです」
唐突に少女は声を張った。
なんと、この子は編集ではなかったのか。
当然、こんな時間に少女を自宅に連れ込むのは良くないなんて事は分かっている。
「君、いくつだね?」
「26です」
驚いた。16、7にしか見えないじゃないか。
「本当かい?大人をからかうんじゃあないよ」
そう言うと少女は免許証を見せつけてきた。
本当に26だった。私と3歳差だ。信じ難い。
他人から見れば私はただの小汚い男なのだが、
一応小説家である。スキャンダル諸々は御免だ。
「日を改めたまえ。パパラッチはどこで見てるか分からないからな。」
言うが、少女は聞く耳を持たない。
少女は目を見開いて私を見てる。
見てる。見ている。ずっと見ている。
何も言わず、ずっと見ている。
少女の熱意に負けた私はしぶしぶ少女を編集者として雇ってしまった。
なぜならもう小説家としてやりたいことも書くことも
無くなったから、いっそ終わらせようと考えたから。
ちょうど、茶葉混じりの薄い紅茶が無くなったので私は新しい紅茶を入れに台所へ向かった。
次はまともに入れようと気合を入れた。今度の紅茶はとても濃くなった。夕暮れみたいに赤く、激しく香る濃い紅茶を少女はちびちびと少しずつ飲んだ。
そうして紅茶を入れるのが上達してきた頃
すっかり朝日が向かいのビルから顔を出してた。
少女は思い出したかのように慌てて
帰り支度を始めた。
「お邪魔しました」
一礼をして少女はボロアパートを出た。
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