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1.静かなる憎悪
しおりを挟む「…エスカドール様、ほんとに死んじゃったんでしょうか。」
「スフィア、いつまでもそんな浮かない顔をするものでもないよ、可愛い顔が台無しだ。大体エスカのやつ、生意気だったんだよ女の癖して。スフィアを見習えってんだ。」
「レオノールの言う通りだ。あんな女、死んだって誰も悲しみやしないさ。」
「で、でも殿下は…すごく辛そうなのです。」
大きなホールの二階席、不細工な男二人は一人の美しい少女を慰めていた。自分の恋敵が消えたというのに、スフィアと呼ばれた少女はいつまでも落ち込んだ顔をしている。
「まあ殿下は、唯一エスカのことを好いてた変わり者だったからだよ。きっとすぐにスフィアの方が魅力的だって気がつくよ。」
「エスカドール様は、殿下の婚約者です…。私、殿下を確かに押したい申しあげておりますけれど、あの方に決してつりあいませんわ。」
その泣きそうな声とあざとい顔が演技か素かはさておき、彼女の声を遮るようにしてホール会場が暗くなり、ひとつのオークションが
始まろうとしていた。
「ほらスフィア、今日は君の欲しいものを何でも買ってあげよう。元気をだせ。」
「……。」
「さてさて、お集まりの紳士淑女の皆様!!ようこそいらっしゃいました。このオークションではかなりの良い品が揃っておりますので、是非じっくりとご覧いただき、お求めのものがあれば競り落としで落札が決まります!!ではまずはこちら!あの人気画家、
エルム・レ・セリンセの新作!少女の肖像画をとなっております。何と書き上げられたのは一ヶ月、誰の手にも渡ってこなかった一点物です!」
王都では有名画家である女性の新作、しかも肖像画ということで、会場の金持ち共は「おお」と声を漏らした。
持ち込まれた肖像画にかけられていた、シーツが下げられる。
その肖像画の少女に、会場は一瞬唖然として、騒ぎになるほどの
大声を急に上げ始めた。それは、感動や肖像画の美しさによるものではない。恐怖だ、恐怖を今皆口にしている。肖像画とは、描く対象をじっくりと見なければ描くことが非常に難儀なものだと皆は当然思うだろう。その疑問が、ひとりの夫人を発狂させるまでに持ち込んだ。
「あれは、あれは間違いなくイクリオリリオン公爵令嬢よ!!
かっ、彼女は死んだのではなくって…!?しかも、三ヶ月前にっ!
そんな彼女の肖像画を、誰が一ヶ月前に描いたっていうのよ!!
彼女は元々恐ろしかったもの、殺されて恨みを持っているに違いないわ!!ああっ、あっ…。」
顔を青くした貴婦人が、その場に倒れ落ちたことにより、騒ぎはまた少しだけ大きくなる。騒がれるのも恐怖を与えられるのも、案外気分がいい。何故3ヶ月前に死んだはずの少女が描かれた肖像画が今この場にあるのか。
それを描いたのが公爵令嬢ご本人の私ですからね、というのが全ての答えだ。黒いローブを被った一人の少女はくすくすと笑ってそれを見ていた。
「…姉さんってさ、ほんと性格悪いですよね。」
「先に滅多刺しにしてくるあいつらが悪いと思いません?
まあ殺してやってもよかった気はするのだけど、それじゃつまらないじゃありませんか。じわじわゆっくりと、これから私が悪夢を見せるんです。あの絵が、私を死に追いやった人間を皆不幸にするのです。まさか王都で有名な画家に仕返しされるだなんて、誰も思わないでしょう。」
ほがらかな可愛らしい声で、とんでもない毒を吐く。
その姿を彼女の弟は、あきれつつ見ていた。
「生きた亡霊ね、よくやりますね本当に。」
「褒め言葉ね。さ、ヴィユノーク。あの不細工どもにあれを買わせるよう仕向けて来てくださいね。」
「……我が姉上の仰せのままに。」
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