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第十七話 雪の街での(仮)夫婦の一日 (3)
しおりを挟む今思えば、ツィツィーリアにネグリジェを
勧められた時ガジュが襲ってくるだなんて思っても
みなかった。そして本人が口にした通り彼は襲おうと
思ってリベルタを押し倒した訳では無い。
だが今完全に、ガジュはリベルタに「自分という存在を
男として認識しろ」と言っているのだ。
「そっ、そんなこと分かっていましてよ。
気を害させてしまったのなら謝ります。…からかった
だけのつもりだったのですが。」
「じゃあベルは僕が赤い顔して慌てるのを見たかったが
ためにそんな格好までしちゃうんだ。」
「あ、あの!
そうは言ってもこれは一般的なネグリジェですわ。」
「みたいだね。
でも、僕がその気になったらどうするつもりだったの?
今押し倒してるつもりなんだけど、抵抗だってしてこない。
あんたは女の子なんだから力でねじ伏せようと思えば、
簡単に僕の好きに出来る。」
ガジュがリベルタの肌を、ツーっと指でなぞる。
それに身体がびくりと跳ねた。
「…そんなこと言ったって、私がこの様な格好をしても
手のひとつさえ出そうともしていないじゃないですか。」
ネグリジェで隣に寝たのはガジュをからかうだけのつもり
だった、そしてガジュも自分のことを男として見ろ
だなんていう癖して何もしてこない。
それにムキになって、少し言い返してしまう。
「ふむ。
襲って欲しいなら、そうしようか?」
「えっ!?」
押し倒された姿勢のまま、ガジュがさらに顔を近づけて来る。
それに、ベッドがギシッと音を立てた。
ガジュの表情がいつもと違うことに、心臓が
ドクンと高鳴る。
唇が触れてしまうかと思うぐらいの顔の距離で、
肌に触れられて、このまま止めてと言わなければ、どうなって
しまうのだろうか。
「……ねえ、ちょっと。
止めてって言ってくれないと困るんだけど。」
「ふぁっ!?」
耳元で囁かれて、思わず声が出てしまう。
その恥ずかしさに耐えきれず、口元をものすごい
速さで抑えた。
そうしてガジュの顔を再び見ると、笑いを堪えるみたいな
表情をしていた事にぎょっとする。
「ふはっ、ホントに襲われると思った?」
「なっ!?
私をからかったのですかっ?」
「先に仕掛けてきたあんたがそれを言うかね。
やり返しただけだっての。」
「紛らわしいですわ!!ひどい…。」
「もしかして続きしてほしかった?」
「結構ですわ!!」
顔を赤くしてそっぽを向くと、ガジュは
してやったとでも言うようにくくくと笑っていた。
怒っているかとでも思ったのだが、どうやらからかい返し
をされただけらしい。
「でも僕だってほんとにほんとに男だよ。
正直そういう格好されるとまあまあ困るし、理性だって
飛びそうになる。だから次からそういう格好して
からかおうだなんて思わないこと。次やったら本当に
襲うから。」
「…分かりました。」
「怒ってないよ。」
ガジュは笑うとベッドを降りて、毛布をリベルタに
被せた。
「わぷっ!」
「でも僕も、大切だって言葉だけでごめん。
でも僕はまだベルに話せてないことがあって、それには
整理が必要なんだ。だから、もう少し時間を頂戴。
そしたら、それが話せた時あんたにシルフィーの花束を
渡すから…その時は、僕の言葉に頷いてくれると
嬉しいな。」
そう言ってガジュは、リベルタの手の甲に口付けを落とした。
「はい!もちろんですわ。」
彼が彼なりに、これからのことを考えていてくれたことが
嬉しくて、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう…。
さ、僕の目の毒な格好から着替えて
雪の街、ヨーゼフの観光といこうか。」
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