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第12話 サクラ・オリヴァ
しおりを挟む「フォルティアである証のケープだ。フォルティアはこれを着用しているから他のフォルティアに話しかけられるかもな。」
「はぁ……」
青いケープがわたされ、校章がプリントされていた。
「では明日から仕事内容を説明する。帰っていいぞ。」
「では、失礼致します。」
2人で生徒会室を出た。
「…」
ドアがパタンと閉まった瞬間、その場に崩れ落ちてしまった。
……やはり、あんな強引なことをされて怖かったのだろうか。
「シルエ!」
「ダメよアイオライト。会長に聞こえちゃうわ。
あの人には、弱い所を、決して見せてはダメ。」
「……君は本当に強いな」
生徒会は、まとう雰囲気でさえも他の人とは違った。弱い所を見せれば、すぐに殺されそうな、強そうな雰囲気。
アイオライトが私を抱えて歩き出した。
「……あの時、すぐに動けなくてすまなかった。……婚約者失格だ。」
「あなたは会長より爵位が下ですもの。怖くて当たり前ですわ。」
「君が怖い思いをしたことが嫌なんだ。」
「平気ですわ。何をされたというわけでもありませんし。」
「不安なんだ。生徒会に入れば恨みを買うことも少ないくない。どんどん、先に行かれている気がして、いつかシルエが遠くに行ってしまうんじゃ、ないかって、すごく怖い。……ごめんシルエ。こんなに弱い私を、どうか今だけ許してくれ」
アイオライトが、本当に辛そうな顔をしていた。
下唇を噛んでいて、もう少し噛めば、 血が出てしまいそうなほどに。
「……アイオライト。そんなに下唇を噛んでは、血が出てしまいます。」
アイオライトの唇に、自分の唇を重ねた。
「!!」
「夫に守られるだけが妻じゃありませんわ。
あなたを、将来支えるための力をつけるのです。生徒会室に入るのが、危ない橋を渡ることでも、あなたのお役にたてる力がつくなら何でも、どんな危険な橋でも渡ってませますわ。」
「……本当にたくましいな君は。だが、支え合うための力だ。どうか無理はしないでおくれ。」
「ええ。」
と、額を合わせた。
……私、この人の婚約者で良かった。
こんなに大切にされてるんだもん。
……最悪なヒロイン転生も悪くないよね。
「シル……、そのケープ……」
翌朝、カナリアにおはようを言った瞬間から、カナが固まってしまった。
「えっと、フォルティアに選ばれたの。」
「すごいじゃない!」
「そうなのかな…。でも候補だし、他の誰かが選ばれたら私何者でもなくなるし。」
「それでもすごいことなのよ。胸を張って、シル!」
「……ありがとうカナ。」
今日から仕事かぁ……。
何するんだろ。
放課後になり、私は生徒会室へと向かった。
「失礼します」
「あぁ、来たかシルエ。」
「今日から仕事があるということでしたけれど、何をすればいいんでしょう。」
「中庭に行けばわかる。行くぞ」
……中庭?
生徒会室から中庭に向かうと、騒ぎが起きていた。
「やっちまえやっちまえー!!」
「ケンカだぁー!」
え、何、ケンカ!?
「フェミルリナ学園は授業時以外の時も魔法を使うことを禁止とされていない。よって、魔法を使ったケンカや騒動が起こる。……で、それを片付けるのが、生徒会の仕事の1つだ。」
「え……」
「生徒会書記、サクラ・オリヴァ、現着いたしましたぁ~」
「フォルティア、ロディ・ジュリアーネ、現着致しました。」
「!」
いつの間に……!
普通の制服を着た女子と、青いケープを着た女子。
書記とフォルティアと名乗ったってことは、生徒会のメンバー……。
「はいはぁ~い、ケンカやめてもらっていいですか?生徒会で~す」
書記の人がやめるように呼びかけるが、ケンカをしている2人はお互い熱くなって聞こえてないらしい。
「……あ~んまり暴力は振るいたくないんだけどなぁ~。……しょ~がない。ロディ、片付けよっかぁ。」
「はい、師範」
「アル・スフィア」
書記の人が魔法を発動した。
それは、巨大な水の渦。
「うわぁぁっ!!」
「何だコレ!!」
「忠告はしましたよぉ~。ただのギャラリーは即刻に立ち去ることをオススメいたしまぁ~す」
見ていたギャラリーは叫び声をあげながら立ち去った。
だが、ケンカをしていた2人は逃げず、渦に巻き込まれる。
「はい気絶~。ロディ、2人を拘束して。」
「了解です」
……一瞬だった。
ケンカしていた2人は魔法を使っている最中だったのに、それをかき消す程の魔法の威力。
見ているだけで鳥肌がたちそう。
フォルティアが、倒れた2人を拘束しようとしたが、そのうちの1人が、立ち上がり、逃げようとこちらに走ってきた。完璧に気絶できてなかった……!
「どけぇっ!!」
「お止まりなさい」
フォルティアの女子が、逃げ出した1人に蹴りかかった。
「ごめんあそばせ。お眠下さいまし」
と、男子生徒の顔面をおもいっきり殴った。
ひぇえええ……!
女子が男子をおもいっきり蹴った……!?
「ご苦労。サクラ、ロディ」
「あら?会長……、ごきげんよう。」
「会長!お疲れ様です!」
サクラとロディと呼ばれた2人がこちらに駆け寄ってくる。
「あれ、この子が昨日選ばれたフォルティアですか?」
「ああそうだ。ルナリス公爵令嬢に2人とも挨拶しろ。」
「まぁマナの妹様ですか。ごきげんようルナリス公爵令嬢。私生徒会書記3年、オリヴァ侯爵家のサクラ・オリヴァと申します。」
「ごきげんようルナリス公爵令嬢。フォルティア1年、ジュリアーネ伯爵家のロディ・ジュリアーネと申します。」
と、2人が礼をしてくれた。
「ご挨拶ありがとうございます。ルナリス公爵家のシルエ・ルナリスにございます。」
と、こちらも礼をした。
サクラ・オリヴァ先輩に、ロディ・ジュリアーネさんか。どちらとも侯爵、伯爵家の貴族か。
……に、しても先ほどから気になるのは、サクラ・オリヴァ先輩。
この世界では希少な黒髪と黒い瞳。
……名前も"サクラ"だし、見た目がすごい日本人だ。
「……ちょっと、何師範をジロジロ見つめてますの?まさか、師範が黒髪だってことを不気味がってますの?」
「え?」
「よくいらっしゃいますの、そういう方。」
……どうやらロディ・ジュリアーネは性格がキツそうだ。そして師範と呼ぶ先輩にベッタリ。
「……確かに黒髪だということは珍しいと思いましたけれど、不気味だなんて思っていません。とても素敵ですわ」
「あら嬉しい。ダメよロディ~。決めつけるのは悪い癖よ~。」
「うっ……。申し訳ありません。」
「いえ。」
「……あと。これだけは言っておきます。シルエ・ルナリス様。私達は候補生ですから、決してこの立場でいることを威張ったりしないように。このケープは、候補生である印と同時に、まだ未熟者だという証でもあります。」
「未熟者、ですか」
「だってもっと優秀であれば、生徒会の正式な役員に選ばれるはずですもの」
……一理ある。考え方が大人だ。
「威張ることはしないと約束いたしますが、友人に胸を張れといわれましたので、堂々としていることにしますわ。」
「……ご勝手に。」
「そんな考え方が出来るなんて、尊敬いたします。」
「お世辞は結構ですわ」
「まぁ、嘘なんて申しておりません。」
「仲がいいわねぇ~。」
や、どこがっすかね?
「良くはないと思いますけれど……。」
あ、ハッキリ言われた。
「はぁい、じゃあ今日からシルエさんにも仕事に加わって頂きますわね~。基本候補生のフォルティアは生徒会のメンバーの誰かの下について校内パトロールが一日の仕事の基本よ~。」
……てことは、私も誰かの下につくのか。
「あなたのペアは会計のディーク。生徒会唯一の平民出身の成績上位者。時計台の下で待ち合わせって言ってあるから、時計台の下に行ってね~。」
「わかりました。」
「……ねぇ、シルエさん。」
「はい?」
「あなた、私の名前について、何か感じた~?」
え
「な、何でそんなことを……」
「いや、私を見る他の誰とも違う目だったから、そうなのかなぁ~って。サクラって、聞いた事ある名前?」
「……」
直感で、何だかこの先輩には嘘が通じない気がするのだ。こちらを見て、離さないと主張するような大きな瞳に見つめられて、私は正直に答えてしまった。
「……異国の花の名前ですわね、サクラって……。」
と、言った瞬間、この人の顔色、目、雰囲気、すべてひっくり返ったみたいに怖くなった。
「……ねぇ、他にも知ってることがあるなら喋ってくれる?」
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