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第2章 手帳の紛失と離縁(1)
しおりを挟む「…シウ、俺との離縁を考えて欲しい」
「…はあ?」
(ついに頭イカれたかこの男…)
と思いつつも、それを顔に出しはしなかった。
不味い、思ったより展開が速いことにに焦りを覚えずにはいられなかった。
まず昨日、ユリシアが来たことから予定がずれている。
そして、乙女ゲームの中にはルマンがシウに離縁を言い渡すことはない。
これだけでもかなりのズレだ。
とにかく口にするものはこれから最新の注意を払う必要がありそうだ。
毒見係を申し訳ないが用意しなければいけない。
「…聞いているか。」
ルマンの苛立った声に、
「はい、聞いておりますとも」
と返す。
だがここで断れば、一気に死ぬ危険性があることは確かだ。
一応ここは、「考えておきます」と答えるのが先決だろう。
「…ユリシア様ですか。
まあ殿下が今後私に一切かかわらず、そして私が今後生きていくのに
支障をきたすことがない名家の新しい夫、多額の慰謝料をを用意していただけるのなら、
甘んじて受け入れますわ。」
(おっとつい本音が…。
でもこのくらい要求しても何のばちも当たらないわ。)
貴族間での噂は怖い。
離縁なんていうことになれば、皆皇族の悪口を言うことなど怖くてできず、
離縁の理由は「皇太子妃が皇太子を怒らせたから」…という理由になり、
確実にまともな人生を送れないだろう。
だがルマンが用意した名家の新しい夫、慰謝料が支払われた…となれば
必然的に皇太子妃が何かをやらかした訳ではない…ということにもできるだろう。
それにもう少し言ってもいいだろう。
「それと、私の新たな夫を選ぶ際は、
かならず独身の男性であること。
誰かの第二夫人はごめんですわ。そして、離縁の理由は決して私があなた様に
何かをしたから…という悪い噂が立たないようにして下さいませ」
と、あざ笑うかのようにシウはフッとした笑みを作る。
若干嫌がらせを含めて笑ったのだ。
「…お前がそこまでの要求をしてくるとは驚きだ。
そんなに私と離縁したくないか。」
「勘違いなさらないでくださいませ。
あなたに妻として扱われたことなんてありませんでしてよ。
別れる時だけ夫面なんて反吐が出ますわ。」
…さすがに言い過ぎたかと思ったが、
次の瞬間、シウは目を見開く。
ルマンが席を立ったかと思えば、首筋に触れられ、押し倒されそうになったのだ。
「…!?
やめてくださいませ!!」
シウはドンッとルマンを突き飛ばした。
「…どういうつもりだ」
「それはこちらの台詞ですわ!!
ますます気持ちの悪い…。失礼しますわ!!」
逃げ出すように自分の部屋に帰り、
ドクンドクンと鳴る心臓を抑えるように、ドレスの胸元を抑えた。
「…げろげろなんですけど。」
椅子に座り、手帳を取った。
9月8日
今日はついにルマンに離縁を言い渡された。
おそらくユリシアと結婚したいがためにだろう。
そのうえ正当な条件を要求したのに、押し倒そうとしてくるなんて
ありえない!!
「こんなことになるんだったら、
グロキシニアに嫁いだ方が良かったに決まってるわ…」
そう呟いたところで、部屋がノックされた。
「妃殿下。入ってよろしいでしょうか?」
そのノックにビクリと肩を震わせた。
まさかそんなことを口にしたタイミングで、グロキシニア本人が来るとは思わなかった
のである。
「は、入ってちょうだい!」
「失礼いたします。
…おや、お顔が赤いようですが」
それを言われてもっとシウは赤い顔をしてしまった。
「そ、そんなことないわよ。
で、どうしたのかしら?」
「この前お貸しした本なのですけれど…」
ああ、と頷き、いそいそと本を取った…つもりだった。
「これね!!
はい、じゃあまた今度!!」
と、無理矢理グロキシニアを部屋から追い出してしまう。
ああびっくりした…と息をついた5分後、
シウは顔を青くさせた。
「…手帳が、ない」
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