【完結】転生三回目、俺はもう幸せだけを追わないことにした「ようやく人生を掴んだ俺の話」

なみゆき

文字の大きさ
3 / 10

3

しおりを挟む
 家を出てから、自立するために仕事探しを始めた。 
だが、子爵家の次男という肩書は、現実の前では何の役にも立たなかった。 
職歴もなく、技術もなく、知識もない俺にできたのは、日雇いの仕事だけだった。

工事現場で瓦礫を運び、倉庫で荷物を積み、寒空の下で看板を持って立ち続ける。 
手はひび割れ、指先はかじかみ、靴の底はすり減っていた。 
それでも、いつか人生をやり直せると、信じていた。

――信じていたのだ、本当に。


だが、甘い話に騙されて、全財産を失った。

「これは滅多に出ない話です。正直、他の方にはお勧めできません。ですが…あなたなら、話は別です。」 
「私も最初は不安でした。でも、結果を見れば…今では笑い話ですよ。」


そう言われて、日雇いで稼いだなけなしの金を預けた。 
それは、俺にとって唯一の希望だった。 
だが、翌週には、その金は跡形もなく消えていた。

毎日稼いだ日銭を、せっせと詐欺師に渡し続け、気づけば一週間後には、すべて失っていた。 
残ったのは、空っぽの財布と、どうしようもない自分だけだった。


その後、住む場所も追われ、貧民街で寝床を探すだけの毎日が始まった。 
雨漏りする屋根の下、毛布一枚で震えながら夜を越す。 
壁の隙間から吹き込む風が、骨の芯まで冷やす。 
空腹で目が覚めても、財布には何も残っていない。 空っぽの胃袋が、軋むように痛む。

誰にも頼れず、誰にも必要とされず、ただ、息をして生きているだけの存在。 
声をかけられることもなく、目を合わせてくれる人もいない。 
俺がこの世にいることを、誰も知らないかのようだった。


かつては家族がいて、名前があり、住む屋敷があった。 
今はただ、名前のない影として、街の片隅で朽ちていくだけだった。


 * **

そんなある日だった。 
久しぶりにありつけた日雇い仕事の帰り、やっとのことで、売れ残りのパンを手に入れることができた。 
腐ってもいない、そこまで硬くもないパンを食べた喜びで、うれしくなった俺は、少し浮かれて川沿いを散歩し始めた。


そこで、川で溺れている子供を見つけた。


考えるより先に、身体が動いていた。 
冷たい水の中へ飛び込み――そして、そのまま命を落とした。

誰かに感謝されることもなく、誰かに惜しまれることもなく。 
俺の人生は、静かに終わった。

(ああ……家を出てから、一度も父や母の顔を見に行かなかったな)

(せめて一度くらい、元気でいるかどうかだけでも確かめておけばよかった。 それすらできなかった自分が、今さら後悔しているなんて)


――遅すぎるよな。


意識が薄れていく中、後悔が次々と胸を締めつける。 
過去の記憶が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

――セリーヌに告白したあの日。 
――騎士試験で転倒した瞬間。 
――文官試験の不合格通知を握りしめた夜。 
――兄に「出て行け」と言われた日。 
――母の視線を振り切って屋敷を出たあの日。


どれも、取り返せない選択だった。 
どれも、俺の人生を少しずつ蝕んでいった。


あのとき、ほんの少しだけ勇気があれば。 
あのとき、ほんの少しだけ誰かに頼れていれば。 
あのとき、ほんの少しだけ自分を信じていれば――。




けれど――そこで終わりじゃなかった。


 * **

白い光が視界を包み、意識の奥に眩い輝きが差し込んでくる。 
その光の中から、銀髪の女神が静かに現れた。

「あなたは、本来ここで死ぬはずではありませんでした」

その声は、鈴の音のように澄んでいた。

「もう一度、人生をやり直してみませんか?」


俺は迷わず頷いた。 
もう一度やり直せるなら――どんな代償でも構わない。


だが、女神は静かに言葉を重ねた。

「ただし、戻れるのが貴方の人生のいつかは、あなたにも私にもわかりません」


その瞬間、世界が白く弾けた。

こうして、俺の“二度目の人生”が始まった。 
今度こそ、間違えない。 

……そう、信じていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処理中です...