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ねぇ、あなた。私、恋がしてみたいの
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「ねぇ、あなた。私、恋がしてみたいの」
結婚式を終えた夜の部屋で、妻となったばかりのソフィに言われた一言に、アルバートは、一瞬なんと言えばいいのかわからなかった。
男爵家の次女であるソフィと子爵家の次男であるアルバートはソフィが7歳、アルバートが9歳の時から親同士が決めた婚約者である。いわゆる政略結婚だ。
けれど、アルバートはソフィがずっと好きだった。初めての顔合わせで一目惚れをした。少なくとも月一で会いに行き、はにかむような笑みに惹かれ、大人になるにつれ身につけた理性的な考え方に惚れ直した。
大人の目を盗んで手を繋いだことも、一緒になっていたずらをしたことも、アルバートにとっては、甘い、甘い、大切な思い出。アルバートはずっと恋をしていた。いつもは結んでいる艶やかな長い髪を下ろし、ともにベッドに座るソフィに。
9歳のあのときから、10年経った今日。やっと触れられると思ったソフィから出たのはそんな言葉。
「えっと、…誰に、恋をしたいんだい?」
「それが問題よね。アルバート、誰か紹介してくれない?」
『アルバートよ』そう言ってくれることだけを期待して放った言葉に、斜め上の答えが返された。
確かに二人は政略結婚だ。家と家のつながりで、断ることもできなかっただろう。けれど、アルバートは決して嫌われていないはずだ。少なくともアルバートはそう信じている。月一、二回は必ず会いに行った。甘い物好きのソフィのために、新商品のお菓子が出たら必ず一緒に食べに出かけた。ソフィが14歳を超えた頃からは、ドレスや宝飾品、女性が好きそうな贈り物を定期的にしていた。会えば笑い合い、二人の会話は途切れない。二人の関係は政略的なものではあるが、愛し合っていると思っていた。
けれど、愛していたのは、アルバートのみだった。その事実に、アルバートはソフィに伸ばしかけた手を無意識に下ろした。
「紹介?…どうして俺が?」
「あ…。そうね。迷惑をかけてはだめよね」
かすかに含んだ苛立ちは、きちんと伝わったらしい。どうしてそんなに敏感なのに、アルバートの恋心には気づかないのか。落胆しそうな自分を、アルバートはどうにか奮い立たせる。落ち込んでいる場合ではない。一つ息を吸い、大きく吐き出した。
「ソフィ、どうして、急にそんなことを言うの?それも、今になって」
どう考えても初夜に言う話ではないはずだ。
「小説を読んだの」
「…小説?」
「最近流行の恋愛小説よ。王子様がお忍びで訪れた街で働く少女に恋をするの。身分差がある二人だけど、王子様は自分の心に従って、彼女を婚約者にするのよ。…まあ、現実にそんなことがあれば、きっと側室になるのだろうけれど、そこはおとぎ話よね」
「ごめん、ソフィ。その話と君の発言がどうつながるのか俺にはわからないんだけど」
そういうアルバートにソフィは小さく苦笑いを浮かべた。
「その恋愛小説ね、表紙を捲ると一番はじめにこう書かれてあるの。『誰かを好きになったことがありますか?』って。…何もかも投げ出してもいいなんて、言わないわ。私たちには立場がある。でも、…恋をしてみたいと思ったの。ドキドキしたり、苦しくなったり、そんな風に誰かを好きになりたいと思ったの」
照れがあるのか、はにかむように笑うソフィはかわいくて、アルバートは泣きたくなった。今日は、世界一幸せな日になるはずだったのに。思わず唇を噛む。
「…どうしたの?アルバート。そんな風にしたら、血が出るわ」
心配を顔に浮かべ、アルバートの唇に手を伸ばす。そんなソフィの腕をアルバートは強引に払った。
驚きに目を丸くしたソフィがアルバートの瞳に映る。けれど、冷静でいられるはずはなかった。
「ごめん、俺に、触らないで」
「アルバート?」
「…俺を好きじゃないなら、俺に触らないで」
「え?」
「何だよ、恋をしたいって。誰か紹介してくれないって。…誰でもいいなら、俺に恋をすればいいだろ!」
思わず声を荒げていた。けれどしょうがない。大好きな人とやっと迎えた初夜なのだ。それなのに、言われたのは、『恋がしてみたい』『誰か紹介してくれない?』だ。声を荒げるなという方が難しい。
アルバートはソフィから視線を逸らし、下を見た。二人の素足が視界に映り、やるせなくなる。
「……だって、アルバートには、恋をしちゃいけないんでしょ?」
少しだけ考えたように時間をおき、ソフィはそう答えた。予想外の言葉にアルバートは顔を上げる。
「どういう…こと?」
「アルバートと初めて会った夜に、お母様に言われたの。アルバートに恋をしてはいけないって」
「え…?」
「私とアルバートは何があっても結婚する。だから、好きとか好きじゃないとか考えちゃいけないって。ずっと一緒にいなければいけないんだから、そんな気持ちはいらないって。貴族の結婚とはそういうものだって言われたわ。だから、アルバートに恋をしちゃいけないの」
「…」
貴族の結婚は半分以上が政略的なものだ。結婚後に愛情が生まれる場合もあるが、そうでない場合もある。政略結婚でなく、愛情で結ばれた結婚でも、一緒にいるうちに愛情がなくなることあるだろう。愛情で結ばれた二人は、愛情がなくなれば一緒にいる意味もなくなる。一緒にいることがつらくなる。それが経験者たちの言葉だった。だからこそ、ソフィの母はそう娘に教えたのだろう。愛情で結ばれる関係ではなく、家族として結ぶ関係の方がいいと。貴族の結婚とはそういうものだと教え込ませたのだ。彼女が傷つかないように。そして、小さい頃から何度も言われたソフィには身についてしまったの。『アルバートと恋はしない』それが守らなければいけない約束事のように。
「ソフィ…」
確かにそうかもしれない。恋や愛で結ばれるより、家族として一緒にいた方がずっと一緒にいられるのかもしれない。そうして家を守っていく方が得策なのかもしれない。
けれど、そうしたら、10年間大事に育ててきた自分の気持ちはどうなるのか。こんなにソフィを好きなのに、その気持ちはどうしたらいいのか。ソフィにも同じように愛して欲しい。そう願う自分の気持ちが間違っているとは、アルバートには思えなかった。
アルバートは膝においていた拳を強く握る。
「アルバート、どうしたの?」
「ねぇ、俺たちは今日結婚したよね?」
「ええ」
「それって、新しい家族を作ったってことだ」
「そうね」
「俺ね、小さい頃よく、母さんに言われていたことがあったんだ」
「…?」
突然話題の変わったアルバートにソフィは小さく首を傾げた。けれど、アルバートはそのまま話を続ける。
「よそは、よそ。うちは、うち」
「よそは、よそ。うちは、うち?」
「そう。俺、友達が持っているおもちゃとか本を自分も欲しくて、父さんや母さんにねだる子だったんだ。あの家の子は持っているのに!ってだだをこねる俺に、母さんはいつも言ってたよ。『よそは、よそ。うちは、うち』ってね」
「…」
「ねぇ、ソフィ。俺たちは、もう結婚したんだ。だから、俺たち家族のことは、俺たちが決めればいい。そう思わない?」
「でも、…それじゃあ、ずっと一緒にいられないわ。…私、アルバートとずっと一緒にいたいの」
どこか潤んだ瞳で見つめられ、アルバートは思わず息をのんだ。
「…ソフィは、俺とずっと一緒にいたいの?」
「ええ」
「でも、俺以外と恋をするんだろ?」
「…そう…だけど」
「俺以外と恋をしながら、俺と一緒にいるの?」
「…」
「ねぇ、ソフィ。俺と恋をしても、俺とずっと一緒にいられるよ。だって、俺がソフィのこと大好きなんだから」
そう言いながらアルバートはソフィの手に自分の手を重ねた。そのアルバートの手を今度はソフィが両手で掴む。
「…本当?」
「本当だよ」
「…でも、その気持ちが終わってしまえば、アルバートと一緒にいられなくなるかもしれないでしょう?」
「確かに…絶対にないとは言い切れないよ。でもさ、俺は、あと10年も、20年も、30年も、俺はソフィを好きな自信があるよ。…それじゃあ、だめ?」
「…」
「ソフィ、俺を信じてよ」
「…じゃあ、いいの?私、…アルバートを好きになって」
どこかうかがうような視線を向けられた。のぞき込むように見つめられる。その顔にかすかに赤みが帯びていて、アルバートはソフィに伸びそうになる自分の手を止めるので必死だった。
「なってくれなきゃ困るよ」
「本当に…?」
「言っとくけど、俺は10年前からソフィが好きだからね」
「……ねぇ、アルバート、好きってどういう気持ち?」
小さく首を傾げるのは、やめて欲しい。かわいすぎて理性が飛びそうになるから。そう思いながらも、アルバートは冷静さを装う。
「そうだな…、そばにいるとうれしくて、離れていると気になって、…他の男と話していると、引き剥がしたくなる。そんな気持ちかな」
「それが好き?」
「俺にとっては、だけどね」
「アルバート」
「…何?」
名前を呼ばれてアルバートはソフィの方を見た。そこにはうれしそうに笑う愛しい人の姿。
「ねぇ、あなた。私、もしかしたら、ずっと前から恋をしていたのかもしれないわ」
「…」
「だって、アルバートがそばにいるとうれしくて、会えない日には、アルバートのことばかり考えてたもの。それに、アルバートが他の女の人と話しているのを見るのはいやだったわ。…ねぇ、これが恋かしら?」
「俺は恋だと信じたいよ」
「そうね。…私、恋をしていたのね」
「ねぇ、ソフィ」
「何?アルバート」
「好きだよ。君が、好きだ」
「…まだ正直、よくわかってないの。でも…きっと、…私もあなたが好きよ」
「そっか。じゃあ、ちゃんと俺を好きだってわかってもらえるようにするからさ、だから、ソフィ、…君に触れてもいい?」
その言葉にソフィはやっと今が初夜で、二人してベッドに座っていることを思い出した。ソフィの了解を待たずに、アルバートの手がソフィに伸びる。その長い髪に触れ、頬に触れた。小さく音を立てるキスを数回繰り返す。
「ねぇ、ソフィ。早く、『いいよ』って言って」
アルバートの甘える声にソフィは小さく笑った。
「ええ。いいわ。アルバート。…ねぇ、優しくしてね」
「もちろん。でも、10年間思い続けていたんだ。すぐには…終われないかもしれない」
「うふふ。それでもいいわ。ねぇ、好きって、幸せなのね」
「ごめん、ソフィ。もう、話してる余裕、ないんだ」
焦れたように服に伸びてきた手に、ソフィはもう一度うれしそうに微笑んだ。
結婚式を終えた夜の部屋で、妻となったばかりのソフィに言われた一言に、アルバートは、一瞬なんと言えばいいのかわからなかった。
男爵家の次女であるソフィと子爵家の次男であるアルバートはソフィが7歳、アルバートが9歳の時から親同士が決めた婚約者である。いわゆる政略結婚だ。
けれど、アルバートはソフィがずっと好きだった。初めての顔合わせで一目惚れをした。少なくとも月一で会いに行き、はにかむような笑みに惹かれ、大人になるにつれ身につけた理性的な考え方に惚れ直した。
大人の目を盗んで手を繋いだことも、一緒になっていたずらをしたことも、アルバートにとっては、甘い、甘い、大切な思い出。アルバートはずっと恋をしていた。いつもは結んでいる艶やかな長い髪を下ろし、ともにベッドに座るソフィに。
9歳のあのときから、10年経った今日。やっと触れられると思ったソフィから出たのはそんな言葉。
「えっと、…誰に、恋をしたいんだい?」
「それが問題よね。アルバート、誰か紹介してくれない?」
『アルバートよ』そう言ってくれることだけを期待して放った言葉に、斜め上の答えが返された。
確かに二人は政略結婚だ。家と家のつながりで、断ることもできなかっただろう。けれど、アルバートは決して嫌われていないはずだ。少なくともアルバートはそう信じている。月一、二回は必ず会いに行った。甘い物好きのソフィのために、新商品のお菓子が出たら必ず一緒に食べに出かけた。ソフィが14歳を超えた頃からは、ドレスや宝飾品、女性が好きそうな贈り物を定期的にしていた。会えば笑い合い、二人の会話は途切れない。二人の関係は政略的なものではあるが、愛し合っていると思っていた。
けれど、愛していたのは、アルバートのみだった。その事実に、アルバートはソフィに伸ばしかけた手を無意識に下ろした。
「紹介?…どうして俺が?」
「あ…。そうね。迷惑をかけてはだめよね」
かすかに含んだ苛立ちは、きちんと伝わったらしい。どうしてそんなに敏感なのに、アルバートの恋心には気づかないのか。落胆しそうな自分を、アルバートはどうにか奮い立たせる。落ち込んでいる場合ではない。一つ息を吸い、大きく吐き出した。
「ソフィ、どうして、急にそんなことを言うの?それも、今になって」
どう考えても初夜に言う話ではないはずだ。
「小説を読んだの」
「…小説?」
「最近流行の恋愛小説よ。王子様がお忍びで訪れた街で働く少女に恋をするの。身分差がある二人だけど、王子様は自分の心に従って、彼女を婚約者にするのよ。…まあ、現実にそんなことがあれば、きっと側室になるのだろうけれど、そこはおとぎ話よね」
「ごめん、ソフィ。その話と君の発言がどうつながるのか俺にはわからないんだけど」
そういうアルバートにソフィは小さく苦笑いを浮かべた。
「その恋愛小説ね、表紙を捲ると一番はじめにこう書かれてあるの。『誰かを好きになったことがありますか?』って。…何もかも投げ出してもいいなんて、言わないわ。私たちには立場がある。でも、…恋をしてみたいと思ったの。ドキドキしたり、苦しくなったり、そんな風に誰かを好きになりたいと思ったの」
照れがあるのか、はにかむように笑うソフィはかわいくて、アルバートは泣きたくなった。今日は、世界一幸せな日になるはずだったのに。思わず唇を噛む。
「…どうしたの?アルバート。そんな風にしたら、血が出るわ」
心配を顔に浮かべ、アルバートの唇に手を伸ばす。そんなソフィの腕をアルバートは強引に払った。
驚きに目を丸くしたソフィがアルバートの瞳に映る。けれど、冷静でいられるはずはなかった。
「ごめん、俺に、触らないで」
「アルバート?」
「…俺を好きじゃないなら、俺に触らないで」
「え?」
「何だよ、恋をしたいって。誰か紹介してくれないって。…誰でもいいなら、俺に恋をすればいいだろ!」
思わず声を荒げていた。けれどしょうがない。大好きな人とやっと迎えた初夜なのだ。それなのに、言われたのは、『恋がしてみたい』『誰か紹介してくれない?』だ。声を荒げるなという方が難しい。
アルバートはソフィから視線を逸らし、下を見た。二人の素足が視界に映り、やるせなくなる。
「……だって、アルバートには、恋をしちゃいけないんでしょ?」
少しだけ考えたように時間をおき、ソフィはそう答えた。予想外の言葉にアルバートは顔を上げる。
「どういう…こと?」
「アルバートと初めて会った夜に、お母様に言われたの。アルバートに恋をしてはいけないって」
「え…?」
「私とアルバートは何があっても結婚する。だから、好きとか好きじゃないとか考えちゃいけないって。ずっと一緒にいなければいけないんだから、そんな気持ちはいらないって。貴族の結婚とはそういうものだって言われたわ。だから、アルバートに恋をしちゃいけないの」
「…」
貴族の結婚は半分以上が政略的なものだ。結婚後に愛情が生まれる場合もあるが、そうでない場合もある。政略結婚でなく、愛情で結ばれた結婚でも、一緒にいるうちに愛情がなくなることあるだろう。愛情で結ばれた二人は、愛情がなくなれば一緒にいる意味もなくなる。一緒にいることがつらくなる。それが経験者たちの言葉だった。だからこそ、ソフィの母はそう娘に教えたのだろう。愛情で結ばれる関係ではなく、家族として結ぶ関係の方がいいと。貴族の結婚とはそういうものだと教え込ませたのだ。彼女が傷つかないように。そして、小さい頃から何度も言われたソフィには身についてしまったの。『アルバートと恋はしない』それが守らなければいけない約束事のように。
「ソフィ…」
確かにそうかもしれない。恋や愛で結ばれるより、家族として一緒にいた方がずっと一緒にいられるのかもしれない。そうして家を守っていく方が得策なのかもしれない。
けれど、そうしたら、10年間大事に育ててきた自分の気持ちはどうなるのか。こんなにソフィを好きなのに、その気持ちはどうしたらいいのか。ソフィにも同じように愛して欲しい。そう願う自分の気持ちが間違っているとは、アルバートには思えなかった。
アルバートは膝においていた拳を強く握る。
「アルバート、どうしたの?」
「ねぇ、俺たちは今日結婚したよね?」
「ええ」
「それって、新しい家族を作ったってことだ」
「そうね」
「俺ね、小さい頃よく、母さんに言われていたことがあったんだ」
「…?」
突然話題の変わったアルバートにソフィは小さく首を傾げた。けれど、アルバートはそのまま話を続ける。
「よそは、よそ。うちは、うち」
「よそは、よそ。うちは、うち?」
「そう。俺、友達が持っているおもちゃとか本を自分も欲しくて、父さんや母さんにねだる子だったんだ。あの家の子は持っているのに!ってだだをこねる俺に、母さんはいつも言ってたよ。『よそは、よそ。うちは、うち』ってね」
「…」
「ねぇ、ソフィ。俺たちは、もう結婚したんだ。だから、俺たち家族のことは、俺たちが決めればいい。そう思わない?」
「でも、…それじゃあ、ずっと一緒にいられないわ。…私、アルバートとずっと一緒にいたいの」
どこか潤んだ瞳で見つめられ、アルバートは思わず息をのんだ。
「…ソフィは、俺とずっと一緒にいたいの?」
「ええ」
「でも、俺以外と恋をするんだろ?」
「…そう…だけど」
「俺以外と恋をしながら、俺と一緒にいるの?」
「…」
「ねぇ、ソフィ。俺と恋をしても、俺とずっと一緒にいられるよ。だって、俺がソフィのこと大好きなんだから」
そう言いながらアルバートはソフィの手に自分の手を重ねた。そのアルバートの手を今度はソフィが両手で掴む。
「…本当?」
「本当だよ」
「…でも、その気持ちが終わってしまえば、アルバートと一緒にいられなくなるかもしれないでしょう?」
「確かに…絶対にないとは言い切れないよ。でもさ、俺は、あと10年も、20年も、30年も、俺はソフィを好きな自信があるよ。…それじゃあ、だめ?」
「…」
「ソフィ、俺を信じてよ」
「…じゃあ、いいの?私、…アルバートを好きになって」
どこかうかがうような視線を向けられた。のぞき込むように見つめられる。その顔にかすかに赤みが帯びていて、アルバートはソフィに伸びそうになる自分の手を止めるので必死だった。
「なってくれなきゃ困るよ」
「本当に…?」
「言っとくけど、俺は10年前からソフィが好きだからね」
「……ねぇ、アルバート、好きってどういう気持ち?」
小さく首を傾げるのは、やめて欲しい。かわいすぎて理性が飛びそうになるから。そう思いながらも、アルバートは冷静さを装う。
「そうだな…、そばにいるとうれしくて、離れていると気になって、…他の男と話していると、引き剥がしたくなる。そんな気持ちかな」
「それが好き?」
「俺にとっては、だけどね」
「アルバート」
「…何?」
名前を呼ばれてアルバートはソフィの方を見た。そこにはうれしそうに笑う愛しい人の姿。
「ねぇ、あなた。私、もしかしたら、ずっと前から恋をしていたのかもしれないわ」
「…」
「だって、アルバートがそばにいるとうれしくて、会えない日には、アルバートのことばかり考えてたもの。それに、アルバートが他の女の人と話しているのを見るのはいやだったわ。…ねぇ、これが恋かしら?」
「俺は恋だと信じたいよ」
「そうね。…私、恋をしていたのね」
「ねぇ、ソフィ」
「何?アルバート」
「好きだよ。君が、好きだ」
「…まだ正直、よくわかってないの。でも…きっと、…私もあなたが好きよ」
「そっか。じゃあ、ちゃんと俺を好きだってわかってもらえるようにするからさ、だから、ソフィ、…君に触れてもいい?」
その言葉にソフィはやっと今が初夜で、二人してベッドに座っていることを思い出した。ソフィの了解を待たずに、アルバートの手がソフィに伸びる。その長い髪に触れ、頬に触れた。小さく音を立てるキスを数回繰り返す。
「ねぇ、ソフィ。早く、『いいよ』って言って」
アルバートの甘える声にソフィは小さく笑った。
「ええ。いいわ。アルバート。…ねぇ、優しくしてね」
「もちろん。でも、10年間思い続けていたんだ。すぐには…終われないかもしれない」
「うふふ。それでもいいわ。ねぇ、好きって、幸せなのね」
「ごめん、ソフィ。もう、話してる余裕、ないんだ」
焦れたように服に伸びてきた手に、ソフィはもう一度うれしそうに微笑んだ。
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「よそはよそ、うちはうち」って言葉、大好きです。
可愛くて、スッキリして、誰も嫌な思いにならない素敵な短編でした。ありがとうございました。
こゆきねこさま
読んでいただき、感想までありがとうございます!
すごい優しい言葉で、うれしいです!!
純粋♡無垢♪
確かに、TVやネットがない
本や噂、身近な情報しかない世界なら、
ソフィの考え方は
ある意味正解かも( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
心を守る術を
母が教えるのは(´-`).。oO
でも、幸せで何よりな
ホンワカした気持ちになれる
物語♡面白かったです♪
いつも暖かい感想ありがとうございます!!
本当、こっちは、びくびくせずに出せるので安心です!!
母も愛してるからこそだったんですが、杞憂に終わるはず!!
読んでいただき、感想まで本当にありがとうございます!