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第1話婚約破棄1
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王宮の華やかな宴の場でそれは起こった。
「我が王家のために、ひいてはアダマント王国のため、私はこの場でシャイン公爵家の娘であるブリリアントとの婚約破棄を宣言する!ブリリアントは公爵家の令嬢であり次期王太子妃でありながら王都の商人から上納金を受け取り、歓楽街に“馴染みの店”まで持つ始末!!このような不正極まる者を一国の王妃に据えるなど言語道断!!!」
美しいテノールの声が会場中に響き渡る。
紳士淑女たちが賑やかに歓談している最中での暴論。宣言したのが王太子とあって、集まった人々の空気は完全に凍り付いた。
しん、と静まり返る周囲。
音のない世界はそれだけで緊迫した状況を作りだしていた。
「この婚約破棄に異議のある者は今すぐ挙手をせよ!…………どうやら異議申したてをする者はいないようだな」
挙手せよ、とは言うが貴族社会において手を上げる者は稀だ。そもそも王太子の突然の暴挙に唖然となっている周囲は頭の切り替えが遅れて反応できなかったというのが正しいだろう。
そもそも、手を上げて発言する。または、賛同するという行為自体ができない人種だ。平民社会なら兎も角、貴族社会は徹底した階級社会。下の者が上の者に意見する事自体が稀だ。
誰一人反対しなかったと判断した王太子は「やはりな」とポツリと零すと満足気な顔をする。勘違いである。大きな勘違い。それに気付かない王太子。
(この空気の中で堂々と戯言を宣う王太子の図太さに感心してしまうわ)
何とも居心地の悪い思いをしているのが名指しされたブリリアント・シャイン公爵令嬢である。
(このような愚かな行為を止めない者達も王太子と同類かしら?己の主君が過ちを犯そうとするならばそうなる前に諫めるのが側近の務め。彼らには荷が重いのかしら?)
彼女は冷静に王太子の後ろに控える二人の側近を観察しながら内心ため息をつく。
セクス・ランベルト男爵令息とハリソン・アルター伯爵令息。
男爵家といえども建国当時から存在する由緒正しき家柄。しかし領地運営は上手く行っておらず、その上子沢山のためか貧乏貴族に成り下がってしまったランベルト男爵家の六男坊。
かたや新興貴族で財産家のハリソン伯爵家の嫡男。その資産運用によって莫大な財を成した一族であり嫡男の彼は次期当主の座は間違いなしと言われているほど優秀な人物だった。
二人とも王太子直々スカウトされて側近に取り立てられた程の実力者だが、王太子が暴走したときに諌める事が出来ていないという事は彼らでは力不足なのか、あるいはただのイエスマンなのか。判断が分かれることだろう。
どちらにせよ、王太子を止めることさえできない彼らの無能さが今のこの状況を生み出しているという事実に変わりはないのだが。
ブリリアントはそっとため息をつき、そして周囲の貴族たちを眺め見る。未だに現実世界に戻ってこれない人々のなんと多い事か。
(まぁ仕方ありませんわね)
こんな阿呆みたいな事態に遭遇したら現実逃避の一つもしたくもなるというもの。それが正常な人間の反応だ。
そんなことを思っているうちに漸く現実に戻った者が増えたらしい。徐々にざわめきを取り戻していく空間。それを確認したブリリアントは口を開いた。
「ユリウス殿下。突然そのような世迷言を仰られて皆が驚いていますわ。どうなさったのです?」
「世迷言だと?! コチラには貴様が王都で行った不正の証拠が揃っている!貴様の悪事もこれまでだ!」
「殿下、その証拠とは一体何でしょう?」
「しらを切るつもりか。致し方無い。これを見よ!」
そう言うと、王太子は脇に控えていた赤茶色の髪のセクス・ランベルト男爵令息から紙束の一つを受け取ると、高らかに読みあげ始めた。
「ここにある通り、貴様が通いの商人から買い求めた品々が記録されている!更に、こちらにも同じく王都の商店組合より提出された書類があるぞ!首飾り一つで城が買えるほど高価な物をタダ同然で購入した記録もあるではないか!聞けば『いつものように献上させていただいております』と言われた私の気持ちも考えろ!自分の婚約者が賄賂を受け取っていたなどと考えたくもない!!しかも『いつも多大な御贔屓をありがとうございます。これからもよろしくお願いします』とまで言われたのだ。貴様が賄賂を受け取って商人を優遇していた証拠!これだけでも大罪に値する!!」
「まぁ!」
ブリリアントは扇子を広げて口元を隠した。そうでもしないと嘲笑いたくなるのだ。誤魔化すように可愛らしく小首を傾げ、微笑んでみせた。その姿は実に優美であったが、王太子からすると余裕綽々の悪女にしか見えなかった。
「我が王家のために、ひいてはアダマント王国のため、私はこの場でシャイン公爵家の娘であるブリリアントとの婚約破棄を宣言する!ブリリアントは公爵家の令嬢であり次期王太子妃でありながら王都の商人から上納金を受け取り、歓楽街に“馴染みの店”まで持つ始末!!このような不正極まる者を一国の王妃に据えるなど言語道断!!!」
美しいテノールの声が会場中に響き渡る。
紳士淑女たちが賑やかに歓談している最中での暴論。宣言したのが王太子とあって、集まった人々の空気は完全に凍り付いた。
しん、と静まり返る周囲。
音のない世界はそれだけで緊迫した状況を作りだしていた。
「この婚約破棄に異議のある者は今すぐ挙手をせよ!…………どうやら異議申したてをする者はいないようだな」
挙手せよ、とは言うが貴族社会において手を上げる者は稀だ。そもそも王太子の突然の暴挙に唖然となっている周囲は頭の切り替えが遅れて反応できなかったというのが正しいだろう。
そもそも、手を上げて発言する。または、賛同するという行為自体ができない人種だ。平民社会なら兎も角、貴族社会は徹底した階級社会。下の者が上の者に意見する事自体が稀だ。
誰一人反対しなかったと判断した王太子は「やはりな」とポツリと零すと満足気な顔をする。勘違いである。大きな勘違い。それに気付かない王太子。
(この空気の中で堂々と戯言を宣う王太子の図太さに感心してしまうわ)
何とも居心地の悪い思いをしているのが名指しされたブリリアント・シャイン公爵令嬢である。
(このような愚かな行為を止めない者達も王太子と同類かしら?己の主君が過ちを犯そうとするならばそうなる前に諫めるのが側近の務め。彼らには荷が重いのかしら?)
彼女は冷静に王太子の後ろに控える二人の側近を観察しながら内心ため息をつく。
セクス・ランベルト男爵令息とハリソン・アルター伯爵令息。
男爵家といえども建国当時から存在する由緒正しき家柄。しかし領地運営は上手く行っておらず、その上子沢山のためか貧乏貴族に成り下がってしまったランベルト男爵家の六男坊。
かたや新興貴族で財産家のハリソン伯爵家の嫡男。その資産運用によって莫大な財を成した一族であり嫡男の彼は次期当主の座は間違いなしと言われているほど優秀な人物だった。
二人とも王太子直々スカウトされて側近に取り立てられた程の実力者だが、王太子が暴走したときに諌める事が出来ていないという事は彼らでは力不足なのか、あるいはただのイエスマンなのか。判断が分かれることだろう。
どちらにせよ、王太子を止めることさえできない彼らの無能さが今のこの状況を生み出しているという事実に変わりはないのだが。
ブリリアントはそっとため息をつき、そして周囲の貴族たちを眺め見る。未だに現実世界に戻ってこれない人々のなんと多い事か。
(まぁ仕方ありませんわね)
こんな阿呆みたいな事態に遭遇したら現実逃避の一つもしたくもなるというもの。それが正常な人間の反応だ。
そんなことを思っているうちに漸く現実に戻った者が増えたらしい。徐々にざわめきを取り戻していく空間。それを確認したブリリアントは口を開いた。
「ユリウス殿下。突然そのような世迷言を仰られて皆が驚いていますわ。どうなさったのです?」
「世迷言だと?! コチラには貴様が王都で行った不正の証拠が揃っている!貴様の悪事もこれまでだ!」
「殿下、その証拠とは一体何でしょう?」
「しらを切るつもりか。致し方無い。これを見よ!」
そう言うと、王太子は脇に控えていた赤茶色の髪のセクス・ランベルト男爵令息から紙束の一つを受け取ると、高らかに読みあげ始めた。
「ここにある通り、貴様が通いの商人から買い求めた品々が記録されている!更に、こちらにも同じく王都の商店組合より提出された書類があるぞ!首飾り一つで城が買えるほど高価な物をタダ同然で購入した記録もあるではないか!聞けば『いつものように献上させていただいております』と言われた私の気持ちも考えろ!自分の婚約者が賄賂を受け取っていたなどと考えたくもない!!しかも『いつも多大な御贔屓をありがとうございます。これからもよろしくお願いします』とまで言われたのだ。貴様が賄賂を受け取って商人を優遇していた証拠!これだけでも大罪に値する!!」
「まぁ!」
ブリリアントは扇子を広げて口元を隠した。そうでもしないと嘲笑いたくなるのだ。誤魔化すように可愛らしく小首を傾げ、微笑んでみせた。その姿は実に優美であったが、王太子からすると余裕綽々の悪女にしか見えなかった。
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